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「そんじゃ1日の終わりって事で、取り合えずお疲れ」
「「お疲れ~」」
すっかり日も沈みこんだ暗闇の中、設置した松明と焚き火に照らされながら一通りの準備を終えた俺達3人は腰を落ち着かせて夕食を取っていた。
食事の内容は黒パン・小角兎の燻製肉・水といった保存性を優先させたメニューである。
ただ、何においても保存性を優先しているためか味は余りによろしくは無い。
「しかし、食べにくいなコレ。初日ぐらいは料理でもよかったか?」
そういいながら燻製肉を千切ろうとかぶりついているヤシャ。思った以上に固かったらしく顔をしかめながらモグモグと口を動かしている。
因みにこれらの食材はヤシャが知り合いの料理スキル持ちから買い集めてきた物である。
中でも燻製肉は最近ようやく調理に成功した物らしく他よりも割高だったらしい。
それでもきちんと確保出来るのだから、ヤシャの顔の広さには時々驚かされる。
「そういう訳にもいかないよ。確かに今日の夕食まで位なら料理も持ったんだろうけど、保存食みたいに纏められないからイベントリを圧迫するし。そうでなくともアイテム欄の空きには余裕なんてないのに」
会話しながら手で黒パンを口に放り込んでいるのはマルクだ。どうやら噛みちぎろうとするのは既に諦めたようでパンを一つ一つ小さく千切っている。
2人とも保存食はそういう物で味はしょうがない事と理解しているようなのだが、いかんせん何時もより口数も少なくもくもくと食事を進めており、いつものように会話が弾む気配がない。
………かくいう俺も不満がある事に変わりは無く、さっきから無言でいる訳だが。
というか、燻製肉はともかくとしても黒パンが固すぎである。ギリギリパンの味がするものの、かじった時の感触がまるですごい固くしたゴムみたいだ。
口の中で何度もかんではいるが今の感触からして噛みきれるとは思えない。
………ええいもういいや、全部水で流し込んでしまえ!
………結局その後も食事を終えるまでの間に大した会話などすることも無く、見張り兼火の番である俺を残して他2人はテントで就寝となった。
このゲームで初日以来、久々に不満の残る食事となってしまった。
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こうして初めての野営での最初の見張り番を任された俺であったが、実際はそれほどやるべき仕事は無かったりする。
それは本来、見張り番の一番重要な仕事である筈の周囲への警戒がプレイヤーが持つ索敵範囲で常に自動で行われているからだ。
それでも武器スキル付属の索敵ならば、野営場所の外周を回ったりする必要も出てくるのだろうが、生憎俺は広い範囲を持つ[盗賊]のスキルを取得している為にただ野営地の中心に座っているだけで大体がカバー出来てしまう。
他のやる事など精々周りに置いた松明が絶えない様に一定時間ごとに交換する程度、それにしたって一時間の間隔が開いている。
ぶっちゃけてしまうならば、今俺は暇過ぎる位暇な訳だ。
SP消費的に考えればそれはそれで晴らしい事なのだが、プレイヤーからしたらゲームでする事もなく動く必要も無い暇な時間など、只の嫌がらせでしかないのである。
「まあ暇なのは一応予想は出来てたんだけどな。だからこそこんな物まで持ってきた訳だし」
そうして俺はアイテムイベントリからいくつかのアイテムをテーブルに並べる。
出したアイテムは以下の通り、
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白紙の書
品質 4
何も書かれていない白紙の本。
本を構成構成する紙が動物の皮紙である
事以外、特筆すべき点は存在しない。
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動物性合成インク
品質 3
通常のインクにモンスターの血液を掛け
合わせて出来たインク。僅かに魔力を
帯びている為か仄かに光を放っている。
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変換の書 ★
E 特別所持機能
※このアイテムは特殊記念アイテムの為、
交換・売却・強奪は行えません。
また所持プレイヤーが死亡した場合でも
ドロップ及びロストは起こりません。
不可思議な力が宿る書物。
異世界の言葉をこの世界の言語に変える事
が出来る力がある。
しかし、この書物の出自は一切が謎である。
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上記3点のアイテムに加えて市販のインク一つと羽ペン二本、それが今から使うアイテム達だ。
これらを使って俺が今からする事、それは魔導書の作成である。
しかもその目的は売るために作成するのでは無く、俺自身が使う為。
そう、俺は未だに自分で魔法の使用を諦めきれずにいたのだ。
そもそもの事のきっかけは、灰狼の血液から魔結晶の取り出しに成功した事だった。
アレがあったお陰でドガロから別の新しい村と魔法関係のアイテムの存在を聞く事が出来たのだが、同時に今の現状での俺の魔法への道は否定されてしまった。
しかし俺はその事に納得しながらも、何処か頭の中で"本当にそうなのだろうか"とも思っていた。
これは別に確信があったとかドガロの事が信用出来ないとかそういったものでは無い。
ただ単純に試した事も無い事を決め付けていいのか?とか考えていただけの話だ。
まあ理由はどうであれ、そんな感じでアイテムの作成を決めたわけだ。
それからはお札を作ったり、スクロールに集めた呪文を書いて読んでみたり、色々と試してもみた。
だが魔法が使えるアイテムなんて都合のいい物だ、そう簡単出来るはずも無く当然の如く失敗ばかり。
しかしその頃には俺も余りに続く失敗に意固地になり始めたのか、諦めようとは考えもしなかった。
今回の旅が決まってからはその準備もしなければならなかったが、それでもその少ない合間を使ってまた思い付いたアイテムを作成したりしては少しずつ研究を重ねていた。
そうして今日までの数日を過ごし、そしてその数日の成果として魔導書の作成に至ったのである。
「さーて、始めますかね」
まあそれはともかく作業開始だ。
今回まず使うのは白紙の書、では無く変換の書となる。
この変換の書はアイテムの説明に書かれた通り、特殊記念アイテムとやらに分類されるアイテムらしい。
で、何でこんな希少そうな物を俺が持っているかと言えば簡単な話で、ぶっちゃけてしまうとこのアイテム、例の世界の名前発見の際に特典として送られてきた物だったりする。
大分前に受け取ってはいたのだが、今まではこいつの使い所がまるで無かった為に宿屋のアイテムボックスの隅で肥やしなっていたのだ。
この本の能力はその名の通り、書き込んだ異なる言語をこの世界の言葉に変換する事。
つまりは、日本語をこのエンティアスの言語に直すアイテムなのである。
1.変換の書に魔法の種類とその呪文を書き込み、この世界の言葉へと翻訳する。
今回書き込む魔法は火属性最初の魔法『ファイアアロー』、詠唱も短めで初期魔法ながらまずまずの威力がある、使い勝手がいいと評判の魔法だ。
これを書き込んで様子をみよう。
2.翻訳された魔法と呪文を白紙の書に書き込んでいく。この際に合成インクを使用する。
呪文を最後まで書き込むとインクの光が変わらないかを確認する。
失敗するとインクの光が消え、書き込んだ文字も次第に消失する事があったためだ。
光が消えない所をみるに成功出来たようだ。
今まではアイテムを作成する際、俺は紙や木の板に魔法やその呪文を刻む事で魔法アイテムを生み出そうとしていたが、そのことごとくが失敗していた。
最初は方法自体が間違っているのかとも考えはしたが、上記の合成インクを使用した際には僅かにだが、光るなどの反応が確認できていた。
つまり方法が間違っている訳じゃない。
ならば間違っている部分を正そうと色々と試行錯誤を繰り返し、何とか使える物を作ろうとした。
刻む対象を札や木の板から本に変更したのもこの時である。
そんな作業の中でふと、俺はボックスの隅に置かれた変換の書の存在を思い出した。
というか、そもそも"この世界の書物に日本語はおかしい"という当たり前の事実に何故今まで気が付かなかったのか、我が事ながら未だに不思議で仕方なかったりする。
書き終えた後も念の為に文字が消えたりしないかを確認する為、そのまま数分間待つ事にする。
数分後、本を確認すると文字はそのままの状態で残っていた。
早速本のステータスを確認する。
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呪文記録書
品質 4
魔法とその呪文が記載された書物。
僅かな魔力を帯びているものの、特別何か
あるという訳でも無い只の一冊の本に過ぎ
ない。
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どうやら、失敗してもいないが今回も成功とはいかなかったようだ。
「うーん、またダメか。まあそれでも変化が会っただけマシか」
最近失敗する事に慣れてしまったのでこの程度で気落ちすることもなくなっていた。
それに今までとは違いアイテムに変化が見られた。一歩前進である。
ただマズイ事にそろそろ手持ちの案も少なくなってきた。
これ以上進めようとするならば、アイテムやらスキルやら色々と足りていないのかもしれない。
今出来る事もないし、今日はここまでにしておくか。
「まあ新しい素材も取りに行くことだし、そっちに期待を掛けますかね」
アイテム製作は難しい。
しみじみそう思いながら、俺は本のイベントリへとしまい込む。
時間を確認する為にメニューを開くとそろそろ松明がきれる時間になっていた。
周りの松明を見ても何となくではあるが火が小さくなっている気もする。
俺は松明の交換の為に席を立とうとする。
俺の感知範囲に新たな気配が入り込んで来たのは、丁度そんな時であった。
自分で何かを作るって大変です。
【木工】Lv33→34 【裁縫】Lv34→36




