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一月中に投稿するつもりがこの体たらく、大変すみませんでした。
取り敢えず一つ上げます。
ドガロの話を聞いてから数日たった今日、出来るだけの準備を終えた俺はマルク・ヤシャの2人と共に町の北門からエントマを出発していた。
北門の周辺は見渡せる範囲の対部分が草原であり、遠目には小山らしき物が見えているかなり見晴らしのいいフィールドだ。
さらに元々ここは他の場所と違ってモンスターの数が少ない状態が保たれている、比較的穏やかな場所でもある。
実際に今俺達の周囲には普通ならば一つくらいは存在する人影やモンスターの姿は見当たらない。
そのせいかゲーム開始直後はここにもそれなりにいたプレイヤー達も、すぐに東の深緑の森や湧き場のある西門・南門に移ってしまっていった。
今現在人がいないのも、新しい町の影響ではなく、やはりここのモンスターの出現率が他に比べて低くなっているのが一番の原因なのだろう。
(ま、今の俺達にとっては都合はいいんだけどな)
口には出さず、心の中で小さく呟く。
現在のゲーム内時間は朝の9時、まだ全員ログインしてから一時間も経っていない筈だ。
ドガロの情報が正しければ目的地の村までにかかる時間は約2日、つまり約48時間が必要となる。
そして現実において1日に連続してプレイできる時間は最大8時間、ゲーム内時間では64時間であり約16時間の差がある。
そのまま数字だけを見るならばかなり余裕があるが、しかし今回俺達が進むのはまだ大した情報もない新しい道だ。
何が起きるか分からない以上、あまり楽観視もしてはいられないだろう。
「しっかし、ようやくゴブリンか。一応人型だっつっても出てくるのにこんなに時間がかかるゲームも珍しいよな」
「まあ他だと大体序盤に出現するザコモンスターって言うのが定番だしね」
「あ、やっぱりそんな扱いなんだなゴブリンって」
そんな話をしつつ、3人で道を進んでいく。
強いモンスターが出るらしいエリアはまだまだ先なので特に緊張する事もなく、気楽そうな会話が先程から続いている。
ただ念の為に俺を先頭にヤシャ、マルクの順で隊列を組んでいるので奇襲される事の無いようにしてはいる。
だから俺を含めた3人とも、余計こんなに気楽そうになってしまっているのだが。
「でもここのゴブリンがザコとは限らないぞ、聞いた話じゃなんか手強いみたいな印象を持ってる感じがあったし」
「個体は弱くっても数が多くいる、みたいな感じなのかな?ゴブリンのイメージ的に」
「あ~なんかありそうだなそれ。このゲームって複数でグループ組んでるモンスター多いし」
「今までは同じモンスターで纏められてたけど、人型モンスターは装備品に因って同種でも結構違うしね」
マルクの指摘に「あ~成る程」と思わず納得する。
そうか、人型は装備がある場合があるんだっけか。
俺自身もゴブリンなんかは棍棒とか剣装備がデフォ、みたいなイメージあるし。
油断は禁物って事か。俺の場合、油断も何もまずゲームでゴブリンを見た事すらない訳なんだけども。
「でもラッキーだったよな」
「ん?」
「地図だよ、地図。NPCが貸してくれただろ」
「………ああ、その事か」
そう言って俺はメニューを操作、マップ画面を呼び出した。
いつもならば真っ黒で覆われている筈のその画面。
だがしかし、今俺が呼び出した画面には黒で覆われてはおらず、升目で区分けされた俺の周囲の地図が表示されている。そうなんと、今までの冒険とは違い今回の遠征には目的地までの地図が用意する事が出来ていた。
なぜ俺がこんな物を持っているかと言えば、なんの事はない。
実はこの地図、道を聞いた俺に対してドガロが渡してきた物なのである。
正直な所、これを渡された時は流石に驚かざるを得なかった。何せ限定的な範囲とは言え、このゲームで初めてみた地図である。少なくとも俺にとっては。
ドガロの話ではこの世界で地図は希少品であるらしく、当然俺達プレイヤーにとってもそれは同様だ。
これから新しい場所に向かおうとしている俺としてもあればかなり助かる物である事は間違いない。
ただ、何でそんな物を俺にあっさりと渡してきた理由がわからなかったので本人に問い質してみた所、ドガロ曰く
「別に親切で貸す訳じゃねえ。俺も道具屋としてそのアイテムには興味があるが、店の事が有る以上ここからは動けん。だから俺の代わりにそいつを取って来てくれると有り難いってだけの話だ。
こいつの借与は、言ってみりゃあそれの手付金みたいなもんだ」
との事で、実はしっかりと見返りを要求されていたりする。
でもまあなんやかんや言ってもこれをクエスト扱いにしてこっちに"義務"を課さない辺り、これもドガロなりの親切心なんだろうな。
何にせよありがたい、というかぶっちゃけ地図だけでも大収穫である。
因みに地図は一度メニューから登録すれば持ち歩く必要も無いので、3人とも登録して今は万が一死亡した時にロストしないよう俺の部屋で保管している。
「ま、地図が有っても敵の位置が分かる訳じゃ無いんだ。あんま油断すんなよ?」
「ったく、俺とマルクに索敵投げてるくせによく言うよ」
「そうそう。それに油断に関してはヤシャも気を付けなよ。ただでさえ向かう先はモンスターのアベレージ自体高くなるんだし、この少ない人数で一人でも欠けたら洒落にならないよ」
「わーってるよ。だから今回は装備だって一新したんだからな。そのお陰で手持ちがもうスッカラカンだぜ」
腰に挿された剣に手をかけながらそうぼやくヤシャ。
彼の手にあるのは以前とは違う先日俺が作成したお手製の剣であるが、ヤシャの言う通り変わったのはそれだけではなく着ている防具も新しい物と変わっている。
今回の遠征に合わせて装備を一新してきたようだ。
「まあヤシャの金欠はともかくとしてさ。それよりどうよ、新しい剣の使い心地は?」
「剣に関していえば悪くないな。攻撃力も以前の剣より上がってるし、それに付いた効果も中々便利だぜ」
「攻撃力はわかるけど効果の方は微妙じゃないか?使用回数に制限あるし」
「回数制限たって回復出来るだろ?なら大して問題にもならないさ」
「そんなもんか?」
作った俺とは違い、ヤシャは思いのほかあの剣を気に入っているらしかった。
確かにあれから色々試したお陰で使用した分のブーストはある程度の時間焼き入れの時の様に血液に浸す事で回復する事が判明していた。
だがそれでも直ぐに回復出来ない以上、一日に使用出来る回数に制限があることに変わりは無い筈だがヤシャ的には特に問題ないらしい。
実際に使っている本人がいうのだから間違いないのだろうが作った俺としてはやや納得がいかない部分も有り、思わず眉がやや歪む。
「そう心配しなくても十二分に生かしながら見事なまでに使い倒してやるさ。そん時はよろしく頼むぜ」
そんな俺の表情が見えたのか、そう言いながらヤシャは俺の横に体を進め肩を叩いてくる。
「......喜んでるなら別にいいけど、あんまり雑には扱うなよ。修理だってただじゃないんだから」
「分かってるって‼ あ~っ、早くモンスター出てこねえかな~」
「話だともう暫くは安全地帯が続くらしいぞ。残念ながらな」
意気込む仲間の様子に苦笑しながらも言葉を返す。
それを聞いたヤシャは不満気な顔をしながら俺の後ろに戻っていった。
そんな会話を交わしながら俺達はさらに草原を進んで行く。
この退屈で平和な時間は、どうやらもうしばらく続きそうだ。
目の前に広がる草原を見ながら、俺はそんな事を考えていた。
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その後は雑談を交わしながらもひたすら道を進み続け、俺達は北門付近の草原やその先の小さな森を抜けた。
予定通りではあるが、結局二回程グレイウルフやミニホーンラビットといったいつもの面子には遭遇したもののその日はなんのイベントも問題も無く時間は過ぎ去り、あっという間に夕暮れを迎える事となった。
問題無いのは結構な事なのだが、少々拍子抜けだな。
「そろそろ日も暮れる。今日はここまでにして野営の準備にかかるか」
地図と周囲のフィールドを見る事で初日の到達予定地点への到着が確認出来た為、俺は2人にそう告げた。
俺達が足を止めたここは、森とその先の山との境に存在する場所で他のプレイヤー達が到達出来た最後のラインでもある。
ドガロの話ではこの山の中間部を超えた辺りからモンスターが強くなっているとの事。
つまりここが安全に野営出来るギリギリのポイントというわけだ。
明日はいよいよ未知のフィールドに突入する事となる。
突入した結果敵が想像以上に強く、万が一撤退しなければならない状況になったとしても、日の高い時間帯に入れば夜を迎える前に安全圏へと脱出が出来る。
そう考えて俺達はここでの野営を相談して決めていた。
俺の声を聞いた二人も返事を返しながら各々準備を始めていく。
(さて、俺も取り掛かりますか)
イベントリを開いて使うアイテムを取り出しながら地面に並べていく。
並んでいるのはテント一式や松明、薪といった今回の旅の為に作ったり集めたりしたアイテム達だ。
今出してはいないが、その他にも組み立て式の簡易テーブルと椅子などもある。
特にテントは何処にも市販されてはいなかったので、ネットで集めた実物の写真と見比べながらなんとか手持ちの素材で製作出来た物を持ち込んでいた。
骨組みには固い木材と柔軟性のある木材その両方を使用、布部分は念の為に大量の大蜥蜴の皮を縫い合わせ加工した物を使い、その形状はよくイベントなどで見るパイプテントを参考にしながら小型化して地面に固定出来るように作成している。
木製の骨組みである為に耐久値に若干不安が残るものの、2日ぐらいならこいつでも問題は無い筈だ。
そんな事を頭の中で考えながらふと2人の事が気になって、少しだけそちらの方へと視線を向けてみた。
(2人は………順調に進んでるな。俺も早くしないと)
見てみるとマルクは薪に火を付けようと市販の火打石と格闘しており、ヤシャは松明を掲げる台を周囲に置いてその周りの草を刈っている最中だ。
それぞれ順調に作業を進める2人を背に俺も早速テントの組み立てに取り掛かった。
とは言え、小型化しているといっても3人が無理なく入れるサイズのこのテントを1人で設置するのは流石に無理だ。
(本格的な設置は3人で行うとして、先に骨組みだけでも組んでおくか)
そう考えて俺は棒状に加工した木材を手に取り、自分の作業を開始した。
もう太陽も半ば程沈んでいた。




