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page 41

今回はかなり駆け足で話が進みます。

血液の蒸発した時に出た赤黒い煙が俺の周囲を覆い尽くす。

その煙と共に凄まじい鉄のような臭いがその場に充満、って


「ゲホッ、ゴホゴホゴホッ!?」


突然の出来事に驚いたのか、俺は充満した煙とその強い臭いを思いっきり吸い込んでしまった。

たまらずにその場で思いっきりむせ込む。

てかヤバい、何だこの臭さ!?息が出来んわ!?

と、とにかくこの煙から一回出よう。このままじゃキツくてたまらん。


そう思い、一度煙の発生源である水桶から急いで離れる。

本当なら部屋から出たい所なのだが、ゲームの性質上一度部屋から出てしまうと次に使うプレイヤーの為に部屋の初期化がされてしまうので、アイテムを放置したままでは部屋からは出られない。

なのでひとまず部屋の隅に避難する事にした。

幸いにも煙は周りには広がらずに留まっており、おかげで俺が隅へ移動する頃には煙からは抜け出す事が出来た。

俺はその場に留まり、煙が収まるのを少し座って待つ事にした。


ま、まさか壊れたりしてないよな?










待つこと数分、ようやく散った煙が部屋の小窓から出て臭いも薄らいできた。

大丈夫そうなのを確認すると、いよいよ桶に近づいてその中を恐る恐る覗き込んでみる。

さて、どうなっているか。


「ん?これは……」


中を覗きこんだ俺の眼にどうにも不可思議な光景が映っていた。

確かに桶の中にはきちんと一本の剣が無事収まっていた、そこまではいい。


ただおかしな事が二つほどあった。

一つ目は何故か大量に投入したはずの血液が、桶の中からきれいさっぱりと消え去っていた事だ。

一滴の血すら残っていない。

二つ目はその血液が無い代わりにか、白い半透明の塊が剣と一緒に中に転がっていた事である。


先に剣の方から見てみよう。

まず出来た剣の以前との差異を探してみる。

………形状に大きな変化はないようだな。剣自体も鉄のままで取り付けた頭骨なども変わっていない。

ただ剣身の部分になにやら赤いラインが縦に一本程入っていた。

たぶん、血液を使った影響なんだろうが……?


次は実際に剣を手に取って性能を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鉄製のロングソード(灰狼装飾+6)


ATK +26


品質 6


E アーツブースト:ある程度の回数アーツ

         の威力を一定値上昇

■■■■■■■■


ロングソードに限界まで装飾を施した物。

その身に流れる狼の血潮が使い手の意志に

応じてその力を与える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「う~ん、これは…………どうなんだ?」


出来た剣を見た時に感じた俺の正直な印象は『微妙』、それに尽きる。


確かに最大まで装飾したから性能はきちんと上がっている。

自分で言うのもなんだが、今出回っている武器と比べても恥ずかしくないレベルだとは思う。


だけど付いた効果エフェクトがなぁ……。

まだ使ってないからこの一定値がどれくらいなのかは知らんけど、回数制限なのが良くない。

制限があると使い時がどうしても限られてくる。

そもそもこれ任意発動なのか、まさか自動とかじゃないだろうな。万が一そうだったらこの剣完全に失敗作何ですけど。

ステータスの説明を読んだ限りじゃたぶん任意だとは思うんだが、少し不安だ。

これで威力まで低かったら目も当てられんな。

………せめて期待はずれでない事を祈ろう。

そんな思いを込めながら出来た剣をしまう。


「次はこっちか……」


そう言って桶の中の何かよくわからない塊を手に取ってみる。

その塊の大きさは大体手で握ればなんとか隠せてしまうくらいサイズで、パッと見だと少し透明感がある小石といった印象を受けた。

俺はまず初めにアイテム名を確認してみたが、そのままでは結晶?としか表示されなかったので【鑑定】を使ってもう一度調べてしてみた所、その塊の名前が判明する。

どうやら魔結晶というアイテムであるらしい。


「魔結晶、ねぇ」


俺の知らないアイテムだな。

たぶんなんかの素材アイテムなんだろうけど、なんでそれがでてきたんだろう?

というかそもそもどういうアイテムなのかよくわからんな。鑑定の結果だとなんか魔力の塊みたいな物らしいが。


「………だめだ、これは俺じゃどうにもならんな」


魔結晶をじっと見つめながらしばらく考え込んでいた俺だったが、やがて諦めるようにそう零した。

なさけない話だが、こんなアイテムを初見でいきなり出されても困るんだよな。

そもそもなんでこれが出来たのかも分かって無いんだし。まず情報が無さすぎる。


これは、だれか知ってそうなやつに聞くしかないか。

自分で調べようにも、どうもこれが正規の入手法だとは思えんし。

もし使い方を間違えて消えられても嫌だしな。


しかし、誰に聞いたものか……?


-------------------------------------------------



「ーーーんで、俺の所に来たって訳か」


「そういうことだ。この町でこんな物取り扱ってそうなのってここぐらいだろ?」


「まあ確かに」


俺からここまでの事情を聞いた店のカウンターにどっしりと座っている男、ドガロは俺が渡した魔結晶をじっと観察しながら顎に手を当てて「フム」ともらした。

装飾や武器関係でダリアやボードンに聞くって手も考えなかったわけでも無いが、ダリアに聞くとなんか貸しとか言われて何かやらされそうだし、ボードンの爺さんはそもそも会ってもくれない可能性もある。

それに比べればドガロは一番聞きやすいし、商品として素材を取り扱っているので魔結晶についても知っている可能性が高かった。


「しかし魔結晶か、そんなに質は高くないようだが見たのは久しぶりだ」


「結局のところ、これってどういうアイテムなんだよ」


「確かにお前さんの予想通り、コイツは町中で採れるような物じゃない。この魔結晶ってのは本来魔力泉みたいな魔力濃度の高い場所で採れるアイテムなんだよ」


「魔力泉?」


「魔力泉はその名の通り、魔力を含んだ水が湧き出る泉のことだ。魔結晶は泉の水に入りきらなかった魔力が中で固まったり、魔力濃度の濃い洞窟なんかで少しずつ堆積したりしてできる魔力の塊なんだよ」


「魔力の塊……」


魔力、つまり俺達で言うところのMPの塊ってことか

水に入りきらなかったって事は……あれか、いわゆる飽和食塩水の溶けてない塩みたいなもんなのか。

だとしたら今回出来た魔結晶の仕組みもなんとなく理解出来なくもない。


俺は剣に焼き入れを行う時、水ではなくグレイウルフの血液を使用した。

ドガロの言う魔力泉に例えるなら、この血液が泉の魔力を含んだ水に当たるのだろう。

そして焼き入れをした後には血液は残っておらず、桶には効果のついた剣と魔結晶が残っていた。

ここで重要なのは剣に付いた効果だ。


付いていたのはアーツブースト、アーツの威力を一定値上昇させる効果で回数制限がある。

武器の性能を表示したステータス画面にはゲージがあり、見た感じでは満タンであった。

俺の予想ではこのアーツブーストの正体は、血液内に宿っていたMPの上乗せなのではないだろうか。

恐らく焼き入れをした際に血液内のMPが剣に宿り、しかし血液中のMPに対して剣の容量では全ては入りきらなかったのだろう。

だからその余ったMPが結果として魔結晶となったのかもしれない。


………正直、自分でもゲームの事で魔力がどうのこうのなんて何言ってるんだと思わなくもない。

だがこのゲームの作り込み具合からみても、ドガロが話してくれた魔力泉の設定や本などに書かれているこの世界の話には設定以上の意味があるように思えてならない。

そうでなければゲームの題名に『もう一つの現実』なんて付けないだろう。

もっと言ってしまえば、こういう設定にこそこのゲームを進める上で重要なヒントとなるのではないだろうか。


………少し話がずれてしまったが、現に魔結晶が出来ている以上俺の考えも大きくはずれてはいない筈だ。

仮にまったく違うものだったとしても、その場合はただ単純にそういう物として覚えて置けばいいだろう。実際に魔結晶はあるんだし。

それで次に肝心なのはこれの使い方だ。

これについては俺には少し思いついた事があった。


「あのさ、もしかしてこれを使えば俺も魔法とか出来ちゃったりしたりする?」


「出来る訳無いだろ。そんな都合のいい話があるか」


「………だよねー」


即答されてしまった。

………イヤ自分でも都合がいいなとは思ってはいたんだけどね、一応聞いてみたかったんだよ。

もしこれで魔法が使えるようになれば戦闘もかなり楽になるしさ。

結局無理だったけど。

でもそうなると後思いつくのはMPポーションぐらいか?なんか水に溶けるっぽいし。


何にせよ、もうドガロから聞ける事は無さそうだな。………そろそろ帰るか。






「……ただし」


「ん?」


俺がもう帰ろうかと考え始めた矢先、ドガロが突然口を開いた。



「ただし、ここから北に二日程歩いた先にある村の近くの山で面白い物が採れると聞いた事がある。興味があるなら行ってみるのもいいんじゃないか?」


「面白い物?」


「何かは知らん、どうやら魔法に関係のある物らしいが」


面白い物、か。今それを言うってことは何かしら関係のあるアイテムなのか?

………あるんだろうな、やっぱり。じゃなきゃこのタイミングでこんな思わせぶりな話を俺に話す意味がわからんし。

にしても山の近くの村まで二日か、遠征するにしてもかなり遠い距離だな。1日内の連続プレイ時間もかなり使う事になる。

「言っとくが北はモンスターもここより凶暴だぞ、最近じゃゴブリンなんかも出るって噂もある」


「ゴブリンって、あのゴブリン?人型モンスターの?」


「ああそうだ。………お前が行くかどうかは知らないけど、一応な」


ドガロはそう言ったのを最後に黙り込んだ。これ以上話す事は無いってことか。

しかしゴブリンかー、こういうゲームじゃ大定番なモンスターだけどまだ見つかって無かった筈だよな。

北にも向かったプレイヤーもいたはずなのに。

それでも未だに見た奴が出てこないって事はつまりまだ誰も行った事の無い、完全に未踏のフィールドな訳だ。


「(未踏のフィールド………いいね、俄然興味が出てきた)」


……決めた、北に行こう。初めてのフィールドなんてドキドキするじゃないか。

ただ俺だけじゃ無理だな、ヤシャ達にも連絡入れないと。二人もこんな面白そうな話は断らないだろう。

後、行くまでに二日はかかるんだし野宿用のアイテムも必要だよな、その間の食糧も。

俺には食糧関係の知り合いはいないから二人の相談するとしても、野宿用の装備はどうするか。


「(……この際だ、それも作っちまうか。一応おぼろげながらも案が無い事もないし)」


前々から遠征について考えて来なかった訳じゃない、というか連続プレイ可能時間の事を知っていたら誰でも一度は想像する筈だ。

必要が無いなら72時間も時間を取らないと思うしな。

今は新しい町が見つかったばかりだからあまり話題には上らないけど、そういう話が上がる時期は確かにあったし。


ま、それはともかくとしてもまずここでやらなきゃいけない事が出来たな。


「なあなあドガロ?」


「……なんだ?」


俺がここでまずやって置かなければならない事。

それはーーー、







「その山まで行きたいんだけど、道を教えてくれないか?」


道ぐらい聞いておかんとね。


【鍛冶】Lv28→31 【装飾術】Lv9→15


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