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なんとか出来たので投稿。
マルク達と池に向かった数日後、俺は借りている宿の一室で装備の作成作業に没頭していた。
今作っているのは鎧や籠手などの防具類だ。
防具を作る事自体は毎度のようにやっているのだが、今回はいつもの販売目的で作る防具ではなく、防御力の強化するための新しい物を作っていた。
そもそも今こんな事をしている理由は最後にした狩りした際に今つけている物の耐久値が限界を迎えていたのが事の始まりだ。
ここ数日、マルク達と一緒に行動していく中で俺は自分の戦闘能力の低さに悩んでいた。
生産者である俺が戦闘系プレイヤーに比べて弱いのは当然であるのだが、しかしそれでも俺は3人と人数の少ないパーティーの一員である。
2人共そこは気にしないでいいと言ってくれてはいるがそういう訳にもいかない。池での狩りで尾けられた時も、それが原因で行動を制限してしまった事を俺はまだまだ忘れてはいないのだ。
しかもこれから遠くない内に新しい町へ行く事になれば出現するモンスターも強くなっていくだろう。
今のままではどうにもならないのは目に見えている。
それに加え、この数日で今まで行っていなかった場所へ行った事で新しい物も含めた必要な素材も狩りなどで十分な数が手に入っていた。
だからこそ今の内に防具並びに武器の強化へとのり出して一番単純な戦力アップを図っているのだ。
「これの後はここにこれを取り付けてっと。よっしゃ、これで全部完成出来たな」
そう言って作っていた物に最後に加工した素材を取り付けると実際に装備して防具の出来具合を確認していく。
今回新しくしたのは、腕、胴体、足、につける防具で、こんな感じの物が出来上がっていた。
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爆走猪の皮鎧
DEF +19
品質 7
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大蜥蜴の革手袋
DEF +10
品質 5
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蜥蜴皮のズボン
DEF +14
品質 6
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蜥蜴皮のブーツ
DEF +11
品質 4
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全体的に池にいたオオトカゲを使った装備が多い構成だ。
最初はトカゲか猪かで素材を揃えようかとも考えたのだが、トカゲ素材でつくると防御力が今までと比べ大きな上昇は見込めず、逆に猪素材で統一しようとすると今度は重量があり過ぎてどうやっても動きが鈍くなってしまう。
どちらにしても戦闘系プレイヤーならば【鎧】のスキルで問題ないか、もしくは補助スキルでどうにか尖らせるなり底上げなりしてどうにか問題無い状態に出来るのだろうが、あいにく俺は生産者で取った能力上昇ができるスキルはMP消費有りの【身体強化】のみ。
武器スキルである【闘金槌】がもう少し上がれば大丈夫なのだろうが今現在のレベルではまだまだ足りず、後取得しているのはほとんど戦闘とは関係無い物ばかりである。
そんな中で防御が低いのも困るが回避ができないのはもっと困る、そんな俺のどっちつかずな考えの元で結果として出たのがこの組み合わせである。
全体としては防御が上昇しているものの、あまりバランスがいいとはいえない状態になってしまっているがこの際それには目を瞑っておくしかない。
そして肝心の装備した感想はというと、やはり胴体部分が少し重いのが気になるな。もう一言加えるなら統一性が無く少し不格好だ。
「(やはりオオトカゲの素材で統一すべきだっただろうか?)」
ふとそんな思考が頭の中をよぎる。
………ま、これは関しては実際使ってみないとどうなるかはまだまだ現段階じゃわからないしな。
それにしっくりこなくてもまた作り直せばいいんだし、今気にする必要もないか。
というかもうそう言う事にしておこう。
「さて、防具も一応出来たしさっさと鍛冶場に行くか」
装備を確認した俺は、道具の片づけもそこそこにしてイベントリに新たな武器の作成に必要なアイテムをつっこんでいく。
今回は装飾も向こうで同時に行うつもりなので、骨やら皮やらと持っていく物の種類もいつもよりもかなり多くなってしまっている。
それらを詰め込み終えると早足で宿部屋から出発した。
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鍛冶場に向かう道中の事である。
「・い、・・・ん・よ!!」
「ん?なんだ」
大通りを進んでいた俺の耳に、ふとそんな声が聞こえてきた。
声のする方へ顔を向けてみれば、既にそこには俺と同じくその声に惹かれたプレイヤー達が声の周囲に集まり始めている。
そのせいか声は聞こえてくるものの、人の壁に視界を塞がれ何が起きているのかまでは確認できない。
少しばかり気になった俺は人だかりに近づいてみた。
人だかりをかき分けながら中心に近づいていくと、先程よりも声がはっきりと聞こえてくる。
先程までは聞こえなかったが、声の主は二人いるようだ。
声の調子からしてどうやら一方がもう一方に対して文句をぶつけているらしい。
「なんだよこの値段!!完全にボッてんじゃねーか!!」
「悪いが今はこれが平均的な値段なんだ、これ以上は下げられねーよ」
ようやく視線が通る位置まで体を進めると今どういう状況なのかを観察してみる。
ここから見る限り、露店を開いてる生産者に対してあるパーティの内の一人が怒鳴りつけているな。
台詞から察するに買い物に来た奴が出されてる商品の値段見てキレてるようだが。
そしてもう一人の当事者である露店の店主だが……ここからじゃよく見ないけどあまり動じてはいる様子は無いな。
「剣一本だぞ!なのにこの値段って、バカにしてんのか!!」
「なんでそうなるんだ。大体、今鉄不足で値段が高騰しているのを知らない訳じゃ無いだろ」
気勢を上げる男に対して、店主の方は嫌に冷静、というよりも慣れた感のある対応をしている。
きっと今までも何人か同じような事言ってきたプレイヤーがいたんだろう、特に高騰し始めの頃は。
しかしなんでこんな事になってんだ?こう言っちゃなんだが鉄製装備が高いなんて今更だし、どこの店でも似たような物だと思うんだが。
ここからだと流石に遠くて商品の値段までは見えないけど、そんなにひどかったのだろうか?
いや、それならそれで買わなきゃいいだけの話だしなぁ。
単なるいやがらせか?
「もういいか、いい加減にして欲しいんだが」
「まだ終わってねえ!!お前テスターなんだろ?掲示板の噂じゃ、そもそもお前らが鉄不足の原因だって話を聞いたぜ!!」
…………ああ、成程ね。それが本音か。
口には出さず、そんな事をふと呟く。
つまりは文句言ってる奴は剣の値段なんて始めからどうでもよくて、今掲示板で出回ってる例の買い占めの話に煽られてきたのか。
最近、掲示板では鉄の買い占めについての話が流れている。
鉄の買い占めが行われているのはAROに関係するどこのサイトでも今更な話題ではあるが、ここ最近になって買い占めの犯人についての情報が出始めたのだ。
色々な情報が出続け様々な憶測が飛び交う中、その中で最近一番よく見かけるのが『βテスターの生産者達が集まって鉄をかき集めている』という情報なのだ。
これに関してはどこの掲示板を見ても多数の書き込みがあり、資金的にも現実性があってかなりの支持を得ている。
実際に的外れでもないし。
だがそのせいか、テスターの生産者に対しての風当たりが強い傾向にありしかも日々強くなっている。
さらに言うなら、買い占めを行っているのがテスターのみに絞られているのも俺としては気になっていた。
ときどき他の奴の事も話題に出されるのだが、なーんかいっつも最後には『違う』みたいな結論になってるんだよな。バカ呼ばわりされたり理由がないとか否定されたりして。
それはともかく。
今目の前で起こっているのもゲーム内で蔓延しているテスター生産者への風当たりってやつなんだろう。
犯人かどうかはではなく、βテスターなら誰でもいいのだ。
店主のプレイヤーもそれがわかっているのか、気だる気に対応している。
「ハア……噂?どんな噂かしらんがそんな物で俺に因縁つけられても困る。それにネットでデマの噂なんてよくある事だろ。俺には関係ないな」
「っっ!!この!!」
「おい、もういいだろ。人が集まってる」
店主の反応が気に入らなかったのか、文句をつけていた奴がさらなる怒声を上げようとした。
しかしそれは周りにいた仲間らしき男に止められる。
ここにきてようやく周囲に集まってきた人だかりに気付いたらしい。
仲間に止められ、怒鳴っていた男も周囲を見渡しながら気まずそうにする。
「チッ!いつまでもデカい面してんじゃねーぞ!」
その男は最後にそんな台詞を残してその場から足早に去って行った。周囲の仲間もそれに続いていく。
残された店主はというと、出されていた露店を片づけ始めていた。
流石にここでこれ以上売るのは無理だと考えたようだ。作業をしながらも溜息が漏れている。
騒ぎが無くなったことで集まっていたプレイヤー達も次第に散り散りとなり、しばらくすれば喧噪などなかったかのようにいつも通りの大通りがここに戻ってくるだろう。
俺ももうここで立ち止まっている意味も無くなったので、また鍛冶場へと向けて歩き出した。
さっきのやり取りを見ていたせいで少々時間を食ってしまった。
今日は生産に一日を費やすつもりではあるが、鍛冶場でやるべき事はたくさんある。
そう思いながら俺は歩くスピードをさらに上げた。
自分で書いておきながらなんなんですが、こんな人実際にいるんですかね?
【裁縫】Lv32→34




