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すいませんが今回は結構短いです。
10/19 加筆修正しました。
「…………………俺達、今だれかに尾行されてないか?」
偉く警戒した様子でそんな事を言うヤシャ。
確かに俺にも感知範囲内に三人程のプレイヤーらしき気配が存在しているのを感じている。
よく見れば彼の手は腰の剣に伸びており柄の部分を弄っている。
それは不安、というよりも若干イラついているといった感がある。
それを聞いた俺達はというと、
「ああ、やっぱりこれ尾けられてるのか」
「僕もそうなんじゃないかなーと思ってはいたんだけど」
特に驚く事もなくそう答えた。
一緒に聞いていたマルクも同じなのか、あははと少し笑いながら俺と大差の無い反応を示している。
そもそも俺達とヤシャの【隠密】のレベルがあまり変わらず、だが感知範囲はヤシャのそれよりもかなり広いのだ。
これで気付かない方がおかしいだろう。
そんな俺達の反応をヤシャも予想できていたのか、ため息をつきながら呆れたような眼つきで見てくる。
「やっぱりお前ら気付いてやがったのか、だったらさきに言ってくれよ。俺だけだと思って不安になるだろうが。
しかもお前らなんでそんな余裕あんの?もっと動揺するなりしろよ」
「別に驚いてない訳じゃないさ」
ヤシャのその言葉に苦笑してしまう。
ヤシャの言う事も分からないでもないが尾行は俺にとっては二度目だからな。
先程言った通り驚いていない訳ではないが、前よりも多少の耐性ぐらいはついているのか初めてだった前回に比べて驚きはやはり少ない。
マルクに関してはよくわからん。あの後に似たような事でもあったのだろうか?
「まあいいや、それで今からどうすんだ?今のまま狩りを続けるには邪魔なのがいるけど」
「うーん、距離的に今すぐ仕掛けてくる感じはないんだけど確かにこのまま続けるのもなぁ」
「池の周囲は大体回ったし、いっその事今日はもう引き上げるかい?わざわざ相手に合わせる必要もないからね」
「でもそれだと帰り道で襲われねえか?人数はこっちと同じみたいだし、だったらこっちから仕掛けた方が」
町への帰還を提案してくるマルクと攻撃案を挙げているヤシャ、二人の意見を聞きつつも頭の中で思考を巡らせる。
二人の考えは今の段階ではどちらでもありっちゃあり、なのか?
ヤシャの案はいささか乱暴に聞こえるが悪くは無い。
言葉そのままの意味でもないだろうしな。
そもそもこのAROにおける対人戦の形式は基本的に二つの種類が存在している。
本当は対戦者の数などでもっと細かく分かれているのだが、基本はこの二つとなる。
一つ目は決闘と呼ばれる方法で、これは一方のプレイヤーがもう一方に向けて挑戦を行い、相手がこれに応じた場合に行われる形式である。
この方式だと両者の同意が得られているので、行うこと自体に特にペナルティーが発生する事は無いと言っていい。
さらに二つ目が決闘と違って特に名前の付いていない、同意の無い状態から一方的に行われる形式だ。
これを行った場合、最初に攻撃をしたプレイヤーにはペナルティーが科せられる事になる。
そしてその肝心の科せられるペナルティーだが----実は現状ではまだよくわかっていない。
ペナルティーがあるにも関わらずその内容が不明というのも変な話だが、本当にわからないのだ。
これに関しては説明書にも記載されておらず、公式ページにペナルティーの存在と二つ目の形式の対人戦を行う事への警告文が書かれていた。
たぶん、新しい町を発見した時の事を考えるに何か条件みたしてから情報が開示される仕組みなのだろう。
因みにこれがその警告文の一部だ。
『上記に書かれている行動を行った場合、このゲーム内での行動に制限がかかる事がありますのでご注意ください』
…………いやに不安を煽る、どう考えても何かしらの予防線にしか見えない一文である。
ともかく以上の事をふまえ、改めてヤシャから出された提案について考えてみる。
ヤシャのこちらから仕掛けるという案はそのまま聞くと二つ目の形式に聞こえるが恐らくはそうじゃない。
ヤシャもペナルティーの事を知っている筈であるし、わざわざ自分でどんな物か試そうなんて酔狂な事も考えていないだろう。
なのでこの場合の『仕掛ける』は相手にこっちから挑戦して決闘にしてしまおうって事なんだろう。
決闘ならば先制攻撃にならない代わりにペナルティーは発生しないし、もしかしたら相手に圧力をかけて追い払えるかもしれない。
まあこれでも乱暴な案である事に変わりはないんだけどさ。
だがマルクの言う通り、どちらの案を選択するにしてもこっちから相手に合わせる必要も待つ必要もないのは確かだ、人を尾行するような奴ら相手ならなおさらに。
問題はこのまま逃げるか戦うかの二択の内、俺はどちらを選択するかなのだが---、どうしたもんかね。
相手との距離は実はそれほど遠くはない、何せヤシャが感知できるくらいだからな。
これが隠密中であることに油断しているか単純に感知範囲が狭いだけなのかは俺達に知る術は無い。
だが今隠れている奴らは俺達が気付いている事を知らない、筈だ。
確実な証拠がある訳ではないが、俺が感づいてから今までの行動にあまり変化が見られない辺りそれほど間違ってもいないだろう。
それを加味すると、
「俺もマルクの意見に賛成かな、こっちから何かする必要は無いと思う」
「……理由は?」
「隠れている奴らは結構な時間俺達を付け回している。なのに一向に近づいて来ようとしないのは戦闘をする気がないか、あるいはこちらが疲弊するのを待っているかのどちらかだと思う。わかってると思うけど」
「襲う気が無いはないだろうこの場合」
「それは僕も同意見だな」
ヤシャ達の意見には俺も同感だ。
マルクみたいな奴がそんなにいっぱいいるとは流石に俺も思ってはいない。
となれば残っているのは奴らが待っている場合だ。
「俺もそう思うよ。だからこそあいつらが手を出してこない今の段階で帰ろうって言ったんだ。今ならまだアイテムも十分残ってるし、SP、HP、MPも問題ないからあいつらも手を出さないかもしれない」
「焦って襲ってきたら?」
「俺達があいつらに気付いた時点でもうあっちにアドバンテージなんて無いんだ。まだ能力上昇のアイテムなんて出回ってないんだし戦闘になっても普通に戦うのと変わらないよ」
「だったらこっちから---」
「おいおい、俺は生産者なんだ。まだ戦闘系プレイヤーと戦える自信なんてないぞ。だからなるべくプレイヤーとの戦闘は避けたいんだよ」
………いやね、本当なら俺だってマルクの時みたく威勢よく行きたいさ。
だけど残念ながら俺は生産職、ゲーム開始時ならともかく今の状態じゃどう考えたって無理がある。
【闘金槌】はもとより、付けている防具も現時点においては大した物じゃない。
武器は当面装飾術で何とかするとしても、何かそこら辺を補助できるアイテムでもあればな~。
PKうんぬんは無しにしても、そろそろ対人戦も真剣に考えなきゃならない時期なのかもな。
今度キーラスや姉ちゃん辺りに相談してみるか、それに防具も新しいのにしないと。
俺の意見を述べた後、その場は最終的には敵は無視する方向で話がまとまる事となった。
少し不満そうにしていたヤシャであったが俺が足手まといになった事を謝罪すると「気にする必要はないさ」と苦笑しながら言ってくれた。
ヤシャ曰く、
「元々戦闘面でゼンが不利なのを承知でパーティーに誘ったんだ。これぐらいで文句言ったりしねーよ。だけどそのままじゃ不味いから三人で対策たてねーとな」
との事である。
俺の方もそう言ってもらえるのは嬉しいが、自分の弱さが行動選択の幅を狭める事になった為、やはりどうしても気が咎めてしまう。
ホントに早くどうにかしないとせっかく誘ってくれた二人に悪い。
話し合いを終えた俺達は決定した通りそのまま町に戻る為に足を進めた。
奴らもそれからしばらくは変わらず俺達を追っていたが、木々が減り草原に出る頃には追跡をやめて姿を消し最後まで襲って来る事は無かった。
結局俺達は追跡者の姿を見る事も無く、無事町へと帰還を果たしたのである。
あ~疲れた………。
【闘金槌】Lv37→38 【身体強化】Lv28→31




