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今回はいわゆる説明回。ただ受け付けない人もいるかもしれません。
「おっ、やっときた。 随分遅かったな。」
俺が教会に着くと、そこには髪の黒い俺と同じくらいの背丈の男とそれより少し低い赤い長髪の女が待っていた。所々変わってはいるが、間違いなく秀樹と姉ちゃんだ。
「ゴメン、俺ファンタジー系のゲーム初めてだから色々目移りしちゃってさ」
「全く、気をつけなさいよ。 あんたは昔から何か集中し出すと周りが見えなくなるんだから」
「悪かったよ。 あ、それとここでの俺はゼンだからよろしく」
「はいはいわかってるわよ。あたしはエミリスになってるから、ちゃんとそう呼びなさいよ」
「了解、ね…エミリス。 秀樹はキーラスで良かったんだっけ?」
「おう、よろしくなゼン」
こんな感じで会話をしていると、秀樹ことキーラスがスキルについて聞いてきた。
「そういえばゼン、結局お前どんなスキルとったんだよ」
「この間決めたやつそのまんま、【鍛冶】【木工】【裁縫】【鑑定】【隠密】【盗賊】【身体強化】【闘金槌】の8つ。変える気起きなかったし」
「うわぁ…マジで【闘金槌】取ったのか…」
「うーん、我が弟ながらチャレンジャーねあんたも」
顔をしかめながら、人を不安にさせるセリフを言ってくる2人。
俺はそんな2人に苦笑しながら、先日に行われたゲームの検討会の事を思い返していた。
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このARO、正しくはanother reality onlineはスキル制のVRゲームである。
ゲームの中でプレイヤーが保持出来るスキル数は、使用スキル7控え6の計13。また別枠で特殊スキルスロットが4存在する。
最初に8つのスキルを選択し、後から取得するにはPPが必要になる。
PPはスキルレベルが10あがる毎に1P加算される。
取得できるスキルは色々存在するが、大まかに考えて4種類に分けられる。
まず1つ目は各武器、各属性魔法、各防具などの直接戦闘に関係する戦闘系スキル。
2つ目は、鍛冶、木工、薬学などの作ったり育てたりする生産系スキル。
3つ目に盗賊、隠密、魔力攻撃強化、物理防御強化などの上2つに分類されないサブ系スキル。
最後にまだ発見されていないが、公式発表でその存在が明らかになっている特殊スキル。
この様に様々なスキルがあるが、基本的に戦闘系スキルと生産系スキルはどちらかしか取れないとされている。
だが例外として、幾つかの生産系スキルにはそれぞれ取れる専用の戦闘系スキルが存在する。料理なら【闘包丁】、テイムなら【調教鞭】、木工なら【樵斧】、鍛冶なら【闘金槌】といった具合である。これらのスキルは1人のプレイヤーに1つしか取得できない。
また戦闘系スキルもLv35で 、各武器スキルならSP消費の【耐久修復】、各魔法スキルならMP消費の【消費アイテム効果増加】が手に入る。
ただ、生産系でも取得できる戦闘系武器スキルには問題点がいくつかあり、βテスターからは「実用性がない」と言われていた。
その問題点は
・同系統(戦斧や戦鎚など)と比べて下位互換でしかない。
・アーツを覚えない(Lv38まで調査済)
・生産系のため、防具に制限がある。
となっている。
このような情報が回っているので、ネット上では「スキル枠を圧迫するいらない子」「ほぼフレーバー要素」というのが共通の認識になっていた。
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「しかし変わったスキル構成だよな。初めてのお前には少しきつくないか?」
キーラスは渋い顔をしながらそんなことを口にした。
「そんなにか?経験者のお前にそう言われると不安になるんだけど」
自分ではそこまで変な選択した気は無いんだがなぁ
。
「そこまで気にする必要ないわよ。見る限り、生産者やるつもりなんでしょう?」
「主軸はそうかな。ただ、フィールドをブラブラしてみたりもしたいから。【闘金槌】は護身用だし」
「【隠密】と【盗賊】を取ったって事は基本的にモンスターは避けるのか」
「まぁそればっかりだと【闘金槌】が上がらないから相手を見て戦ってくよ」
「だなぁ、ちゃんと育てないとどんなスキルも意味ないしな」
「【身体強化】も普段から使っていけばレベルの上がりも早いだろ、さっさと成長させて消費も少なくしたいし」
「そういってMP切れでブッ倒れるんですね、わかります」
「ねーよ」
バッサリと切る俺に、「どうかな~?」とキーラスがニヤけた顔で不安を煽ってくる。
全く、ホントなったらどうすんだよ。
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俺の取った【隠密】【盗賊】【身体強化】【鑑定】の4つはサブ系スキルに分類される。
【隠密】は単純に敵から気配を消すスキルだ。ただ姿を消せるわけじゃないので、視界に入れば発見されるし誰かに視認されていると発動もしない。
【盗賊】は罠の察知や解除が行えるスキルだが、他にもある特徴がある。
このゲームでは、ある理由から各戦闘系スキルにはある程度の気配察知能力が備わっているが、この【盗賊】スキルはそれよりも広い範囲で察知する事ができる。
次の【身体強化】はMPを消費して身体の能力をアップさせるスキルである。
ただこのスキルは、発動している間MPを消費し続ける上、消費も多いので使いづらく、それなら【物理攻撃力上昇】などの消費のない常時発動するスキルで尖らせた方がいい、と言われていたらしい。
キーラスが言った通り、MP切れを起こすとブッ倒れて動けなくなる事もこのスキルが嫌われる一因である。
最後の【鑑定】はアイテム等を鑑定するスキルだ。
この世界では、採取したアイテムは大抵、名前がわからない状態になっている。それをこのスキルで詳細を調べるのである。
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「ホラあんた達、しゃべってるのもいいけどそろそろこれからどうするか決めるわよ」
俺のスキルについてキーラスと話しているとエミリスがそう促した。
あ、そういえば…
「そういえば2人ともそれぞれパーティーを組んでゲームやるっていってただろ。その人達と約束とかないのか?」
2人とも別々で組んでやるといっていたはずだ。そっちはどうしたんだろうか。
「俺のトコのメンバーは用事があってまだ誰も入ってないな。入るとしても2時…つまり明日の8時だな。だからそれまでお前に付き合うよ」
「私も今日はあんたに付き合うつもりだったから別行動中。今頃mob狩りしてるわよ」
2人共問題ないようだ。
「じゃあこれからどうしようか?」
「ゼンはどうするつもりだったの?」
「2人とも予定あると思ってたから、1人で訓練所いってスキル上げようとか思ってた」
訓練所はまだゲームに慣れてない人が武器や魔法の練習をするための施設だ。ただ初日の今日は人で溢れてるだろう。
「私達いるし、せっかくだからフィールドに出てみない?」
「フィールドって草原に?それこそ人で溢れてるだろ。広場で呼び掛けもやってたし、あれじゃモブに触れるかどうかも…」
「そんなの言われなくてもわかってるわよ。草原じゃなくて森に行こうって言ってるの」
「森に?」
彼女の言う森とは、最初の町であるこのエントマの東門の先にある場所で、初心者が行くには少々辛い狩り場だがその分人はいないらしい。
「あそこなら今そんな人いないだろうし、居たとしてもβテスターぐらいよ」
「でもそんな所に俺が行って大丈夫なのか?」
「そんなに深く入らなければ私達が居ればなんとかなるわよ」
「そうだな、たぶん大丈夫だろ」
エミリスの言にキーラスも頷きながら同意する。
う~ん、2人がそういうなら行ってみるのもありか。
どのみち、資材の採取もしなきゃならない。
「それじゃそれでいいか」
「決まりね!じゃあ必要な物買ってとっとと森に向かうわよ!!」
「「おー!!」」
こうして俺達は森に向かう事になり、そしてここから俺にとっての冒険が始まったのだ。