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ある日の朝、俺は町の中央広場のベンチにてヤシャとマルクを待っていた。
ボードンの授業のような物が終わってから数日が経過し、現実時間に於いても日付が経過した今日はチーム結成から丁度4日目。
つまりヤシャとマルク、そして俺がチームとして初めて集合する日なのである。
「おーい、ゼンどこだー!」
近くから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
顔を上げて声が聞こえた方を見ると、広場の人混みの中に見知った顔が見えた。
その数は2つ、当然ヤシャとマルクである。
どうやら2人とも到着したようだな。
俺は人混みの中から2人を発見すると、ベンチから立ち上がると離れて2人のいる場所へと向かった。
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「さて今日はこうしてチームとして3人で集まった訳なんだが、今日これからどうする?」
俺達は広場のベンチに場所を変えて俺が2人のいなかった3日間にあった事を話して情報を共有した後、3人で今日の予定について相談していた。
「どうするってもなぁ……、やっぱり次の町に向かうのか?」
「そうだね、次の町には色々新しい物も多いらしいし。確か近くにダンジョンも見つかったんだってね」
ヤシャの出した議題に俺とマルクが意見を出し合う。
今マルクが言ったように新しく発見された町ではエントマには見られない施設もあり、さらにダンジョンも付近のフィールドに存在するかもしれないという話が掲示板で噂になっている。
そして新しい町の事もそうだが、それよりもダンジョンの事を聞きつけた多くの戦闘系・生産系のプレイヤー達がそれを目指してこのエントマから移動をし始めているらしい。
その影響からか、今俺達が居る広場でもプレイヤーの数がいつもよりか少なくなっているのが見て取れる。
まあこのゲームが始まってから初めてのダンジョンが見つかるかも知れないのだ、注目度が高くなるのも仕方のないことではある。
俺自身、楽しみではあるしな。
「………新しい町に向かうっていう二人の意見はわかるんだけどさ、それよりも今は他の場所に行ってみないか?」
「他の場所?」
「というよりもまだ俺たちが行った事のないこの周辺の場所だな、池とか」
俺とマルクの意見に対して、ヤシャからの反対意見が飛び出た。
どうやらヤシャはまだ次の町に行くには少々消極的らしいな。
しかしヤシャが消極的とは珍しいな、いつもはむしろ積極的な方なのに。
「別に次の町に行くことが嫌な訳じゃない。ただ今すぐ行く必要はなくね?俺だってダンジョンに興味はあるけど、まだダンジョン自体が実際に見つかったんじゃなくてそういう情報があるって段階だろ。だったらそんなに急がずに見つかるまでにここら辺の行ってない所を探索しときたいんだよ」
成程な、確かにヤシャの話ももっともではある。それに掲示板によれば新しい町の周辺のフィールドはここよりもモンスターの強さの平均も上がっているらしいからな。
二人はともかく今の俺じゃ少し辛いかもしれない。
付け加えるなら今俺には準備している作成予定の装飾武器の事もある。
それの事を考えると現時点での移動は得策とは言えないだろう。
先ほどから黙って意見を聞いていたマルクが口を開く。
「………確かに、その意見には一理あるね。ゼンは?」
「俺もたぶんそっちの方がいいかも、俺の場合少し個人的な理由なんだけどさ。まあ町やダンジョンが逃げるわけじゃないしそれでも問題ないんじゃないかなとは思う。そういうマルクは?」
「二人がそういうなら別に反対する理由は特に無いかな。ヤシャの言う通り、急いでる訳じゃないし。僕達は先行組でもないしね」
「なら決まりだな。ダンジョンが見つかるまではエントマ探索に専念って事でいいな」
「「異議なし」」
こうして俺達の方針が決定、まずは行っていない場所を潰していくこととなった。
てか俺って森以外のフィールドに出た事無いんだよね、そういえば。
そういう意味でもこの方針は俺にとってありがたいかもしれんな。
この後の話し合いで俺たちは早速フィールドに出る事となった為、町を南門から出て近くの池に向けて移動を開始した。
俺のチームとしての初めての冒険の始まりである。
メンバーは二人とも顔なじみだが。
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「そういえばゼン、ちょっと気になった事があるんだけど」
「ん?」
湖に向かう道中、突然何かを思いついたようにマルクが俺に向けて話しかけてきた。
「さっき君からこの三日間の話を聞いたじゃないか。その時装飾のイベントが終わったって言ってたけど、今の所どのくらい強化できるんだい?」
「あ、それは俺も気になってたんだ。さっきは終わったとしか聞いてなかったからな。結局鉄って装飾術で強化できんのか?」
マルクに続き、ヤシャがそう質問し始める。
俺は二人の疑問に答えようとした所、質問された事である事を思い出した。
俺は二人に用件が有ったのだ。
イカンイカン、俺じゃ扱えないコレをせっかく持ってきたんだから戦闘前に渡せないと意味がない。
「そうそう、その事についてなんだけどさ。俺二人に用事あったんだわ」
「用事って?」
「まずマルクにはコレだ」
そう言ってマルクに先日ボードンの作業小屋にて作成した弓、見習い狩人の魂弓・灰狼種を手渡した。
その弓を見たマルクは、軽く目を見開きながらもそれを受け取ると見る角度を変えながら観察する。
「これは?」
「俺の三日間の成果の内の一つだな、装飾を重ねたらそうなった」
「これも装飾!?なんか前の物と全然違うんだけど!?それに性能だって大分変わって」
俺がこの弓が装飾した結果だと教えるとマルクは大層驚いたようだった。
まあそれが普通の反応だよな。マルクに前に売った弓が+2だった事を加味してもこの弓は見た目が変化し過ぎてるし、性能だってご同様だ。なんか見た事ない効果もついてるしな。
こんなのいきなり見せられたら誰だって驚くよ。
それはさておいて、驚くマルクを尻目に俺はマルクに頼む用件を切り出した。
「でさ、今回もマルクには弓の使い心地を確かめて、気に入ったら買い取って欲しいんだよ」
「………この場で買い取りじゃなくていいのかい?所持金が足りない!!っていつもあんなに言ってたのに。正直パッと見の性能だ見てもでも今出回ってる弓と比べてこの弓はかなり高いよ?」
マルクが痛い所をグサリとついてくる。
中々に的を射た指摘である。
しかしダリアの時もそうだったが、他人から金のない事実を突き付けられると余計にズキズキとくるな、できれば聞きたくなかったよ。
マルクにそう言ってたのは俺なんだけどさ。
「いやまあそうなんだけどさ、流石にその弓は今まで使ってた物とは形が大分違うから買い取る前に感想が聞きたいんだよ。これ作った手間を考えると安くは出来ないし、高値で買い取ってもらった後に『使いにくかった』ってのは俺も無しにしたいんだよ」
とゆうか、せっかくパーティを組んだのに金銭的なトラブルを起こしたくないんだよな。
さらに言うならば俺も金は必要だが、自分で作った物で他人にイヤな思いはして欲しくはない。
それに使いにくかったら修理してダリアに売り払えばいいだけの話だ。
一度修理した分は値引かれるだろうけどこれぐらいの性能ならそれなりの値段で売れるだろ。
「………君がそれでいいなら僕としては構わないけど」
俺の話を聞いたマルクは少し戸惑い気味ではあったが、なんとか納得してくれたようだ。
「我儘みたいな事言ってスマン」
「それは別にいいさ、要は僕に損にならないようにって事なんだし。………しかしこれは、君もまたつくづく変わった物を作ったね。前の弓といい今回といい」
「そんなに違うの?どれどれ俺にもちょっと、………ってあれ?これって」
マルクの驚いたリアクションに興味を惹かれたのか、マルクを挟んで俺とは反対側を歩いていたヤシャがマルクの持っている魂弓を覗き込んできた。
だがヤシャが弓を見た時の反応は、マルクのときとは少々違って見えた。
一応驚いてはいるようだが、どこか困惑したように眉が歪ませて魂弓を見つめている。
ブツブツと何かを呟いてもいるようだ。
「どうしたんだ、なんかこの弓で気になる事でもあるのか?」
「いや、ちょっとな。………一応聞くけどさ、これって装飾術で作成したんだよな?」
「?そうだけど、なんでまたそんな事を」
ヤシャの変な物言いに思わずそう聞き返す俺。
すると突然ヤシャは俺に向けてこんな事をいい出したのだ。
「俺さ、もしかしたら最近この武器と似たようなヤツを見た事あるかも」




