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page 35

「では溶液作りに入るぞ、まずは……」


「その前に、ちょっと聞いていいか?」

そう言ってボードンは俺に指示を出そうとするが、俺はそれを1度遮った。

その前に聞いておきたい事があったのだ。


「ハァ………なんだ一体」


「この溶液作りってさ、薬作りとは違うのか?俺は薬学の知識なんて持って無いんだが」


ここが少し不思議なんだよな。溶液って聞くとやっぱりコレ【薬学】の範疇じゃね?とかどうしても思っちゃうし。


「………この作業はそんな大層なものじゃないからそんな心配はいらん。これでいいか?」


………なーんかかなり適当な返しだなオイ。

言い方が曖昧で分かりにくくはあるけども、一応大丈夫って事でいいのかね?この場合は。

俺もスキルなしで装飾してたし、それと似たようなもんか。


「う~ん、……たぶん大丈夫?だとは思うが」


「ならとっとと作業に移るぞ。………まあ実際大した事などしないすぐに終わる作業だがな」


そうして始まった溶液作りだが、………ボードンの言う通りかなり短時間で終わってしまった。

その理由は手順を見ればすぐにわかるだろうと思う。

その手順はというと、


1、まずはニム草の根に細かく切れ目を入れていく。


2、深緑の森水(小バケツ)×1と加工する素材のモンスターの血液(この場合は灰狼)(小ビン)×2を混ぜ合わせる。


3、混ぜ合わせた2に切れ目を入れたニム草の根を投入する


以上で完了となってしまっている。

3行程で終了してしまうので、これ以上作業に時間の掛けようがないのだ。作業が単純な事もそれに拍車をかけている。


「これで溶液の完成なのか?」


「いや、これを一週間程熟成させる必要がある」


そんな台詞をボードンは何でもないように言った。

これを聞いた俺は、思わず一瞬呆然となってしまった


「……ちょっと待て、じゃあなにか。まさかこれが熟成されるまで一週間もまた待たなきゃならんのか!?」


流石にそれは是非とも勘弁してほしい所だ。

ヤシャとマルクが戻ってくるまでの時間を考えると今日中には【装飾術】については自分だけでやれるようにしておきたい。


そんな俺の反応を見て呆れたように溜め息を吐くボードン。

てかなんだその反応の仕方は、ムカつくからやめて欲しいんだが。


「そう喚くんじゃない。前回わしはお前に言った筈だぞ、『準備が必要』だとな」


そう言うとボードンは作業台の下から2つの蓋のついた木バケツを引きずり出し、台の上にのせる。


「もう既に熟成された溶液は出来ておるわ。大体前にお前がここに来てから何日経ってると思っている。もう少し考えてから言葉を吐かんか、このアホめが」


「………ス、スイマセンデシタ」


「大体何でワシが態々お前と会う回数を増やさなければならん。そんな事ワシだって願い下げだ」


そんな言葉を肩を竦めながら言われてしまった。


こ、この爺いくら言ってる事が正しいからって他に言い方はないのか。何かにつけて一々毒吐きやがって!

正論過ぎて反論のしようがないのが余計頭にくるわ!……ってあれ?なんかコレと似たような事が前にもあったような?

兎に角、この爺さんの嫌みはスルーだスルー。

出ないとずっと怒りっぱなしでいなきゃいけなくなってしまう。


俺は心の中で葛藤を続けていたが、そんな俺の様子などまるで気にする事なく、そのままの調子でボードンは説明を続ける。


「今目の前にある2つの溶液は作成してからおよそ9日間が経過しているが、この2つには違いがある。見比べてみろ」


俺はボードンの言葉に従い、2つのバケツの中を覗き込んで観察してみる。


まず始めに見た方は、中が半透明の薄紫色の液体で満たされていた。だが入れたであろうニム草の根の形は見えず、底には特に何もない。

ただ溶液のみがバケツの中に満ちていた。


そしてもう片方はというと、こちらも液体がバケツの中に満ちているが、先程の物とは違ってまるで水のように透き通っている。

さらに付け加えるならば、こちらのバケツの底には灰狼の頭骨らしき物が2つ沈められていた。

俺が顔を上げると、ボードンが再度話し始める。


「2つとも見たな。ではお前に質問するが、この2つはどうしてこれ程差異が出たと思う?」


「……灰狼の頭骨が入れてあるからか」


「そうだ。溶液は熟成させると見た通りの薄紫色の液体になり、それに一部の素材を入れて置くと素材に染み込んで水のような透明な液体になる。細かく言うなら頭骨を溶液に入れたのは2日前だな。そうする事によってこれだけの変化が起きた訳だ」


「素材に溶液を染み込ませるとどうなるんだ?」


「この処理を行う事で素材が加工が可能になる。火にくべて鉄のように形を調整したり、金属製の武器に付けたりな。だが調子に乗ってあまり強くは叩くなよ、やり過ぎると壊れる事もあるからな」


成る程、こうする事で金属製の武器にも装飾が可能になるのか。正直、骨が鉄と同じようになるっていうのにはかなり違和感があるが………、まあそこはゲームだし言っても仕方がないだろう。


しっかしこの【装飾術】ってのはやたら手間がかかる上に素材の消費が激しいスキルだな。この頭骨を取り付けると恐らく+5以上になるんだろうが、ここまでくるのに消費したアイテム数もかなり多い。

強いモンスターの素材での装飾は間違いなくハードな作業になるだろうな。

戦闘的にも生産的にも。



「次は装飾に入るがお前は弓と木槌、どちらに付けるつもりだ?」


「……初めだし、俺としてはなるべく簡単な方からがいいんだが」


「ならば弓だな。弓なら少し削るだけで形や大きさを調整する必要が無い。浸けてある頭骨を出せ」


そしていよいよ取り付け作業である。


1、まずは頭骨をどこに付けるかを決める。今回は握る部分に噛み付かせる形でガードのようにして取り付ける


2、頭骨を顎と頭部の2つに分け、弓と接触する部分を弓の形に合わせて削る。弓のしなりをじゃましないように僅かに余裕をとっておく。


3、出来た頭骨を弓に取り付けて固定、やすりをかける。


てな感じで完成である。

早速ステータスの確認をする為に弓を手に取る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


見習い狩人の木弓(灰狼装飾+6)


ATK +17


品質 6


前段階の物よりしなりを強くした弓。

取り付けられた灰狼から力がかなり

流れ込んだ影響で弓自体が変質して

きている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


………と、とうとう弓にまで。

ま、まあそれでもさっき金属武器への取り付け方もわかった訳だし、これで金槌の強化に取り掛かれる事を考えればそんなに落ち込む必要もない、筈だ。


てかよく見たら+6にまで上がってるし。

なんで?……これはひょっとすると、


「………その微妙ににやけた顔を見れば何を考えているか大体想像はつくが、灰狼は装飾素材としてはかなりランクが低いからコレぐらい誰でも出来て当然だからな」


「……さいですか」


………なんでこの爺さんは上向いた気分に一々水を差すのか。

いいじゃないかちょっとぐらい自信持ったって。

ボードンの一言で上がりそうだったテンションが下がり始める。


「何を落ち込んでいるか知らんがさっさと顔を上げろ。まだ作業は終わっとらんぞ」


「……え、まだ何かあんのか?」


「うむ、都合よく+6まで引き上げられたからな。これでお前が取ってきた最後の素材を使う事ができる」


最後の?えーと、あと使ってない素材は………あ、あれか。


「魂石ってここで使うのか。でもどうやって?」


「別に何か特別な事をする必要はない。魂石を取り付けた頭骨の眉間に当ててみろ。条件を満たしていれば、それでこの弓は生まれ変わる」


「生まれ変わるって、そんな大袈裟な……」


ボードンの大袈裟な台詞に少々呆れながらも、言われた通りに灰色をした半透明の石、つまり灰狼の魂石を頭骨の眉間部分に押し当てる。


魂石を当てた途端、目の前に画面が出現した。

内容は単純に魂石をこの武器に使用するかどうかだ。

ここまできてやめる理由もない、当然のように俺は画面からyesを選択した。


すると画面が消えるのと同時に魂石が眉間にめり込み、それに続いて弓全体が強く発光しだした。


「うわっ!?」


その突然の発光現象による眩しさに驚いた俺は、思わず手で光を遮りながら3歩程後ずさる。

弓の発光はあまり続かず一際強く光を放った後は、次第にその輝きも収まっていった。

俺は光が収まるのを待ち、完全に収まるのを見計らうと再び作業台に近付いて出来た弓を見る。


だが弓を見た俺は、そこでまたしても驚かされる羽目になった。


「な、なんだこれ……」


俺の口からそんな台詞が漏れ出てしまったが、それも仕方のない話である。

なんせそこにあったのは、俺が作成した物とは明らかに違う姿をした弓だったんだからな。


形としては俺が作った弓と同じだが、手に取って観察すると変化している部分が幾つかあるのがわかる。

まず見た目の違いだけを簡単に纏めてみても、

 ・弓全体が灰色に変化している

 ・頭骨の形状が灰狼の顔になっている

 ・灰狼の眉間に魂石らしき物が埋まっている

 ・なんか握った感触が木っぽくない

といった風な違いがでているのだ。

またステータスからしてもかなりの変化が出ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


見習い狩人の魂弓・灰狼種


ATK +20


品質 6


SE 灰狼の牙Lv1:敵への攻撃命中時に

        追加ダメージが発生


魂石により灰狼の魂を宿した弓。

それにより材質が変化した為に元と

なった弓よりも性能が上昇している。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


………いやマジでなんだよコレ、完全別物じゃねーか。

見る影もない訳ではないが、逆に言えば影しか類似点が無い感じである。

しかもSEってなんだよ、こんなの見たこと無いんですけど。


「……ふん、まあ大体こんなものか」


作った弓の余りの変貌ぶりに俺が呆然となっていると、突然直ぐ横から声が聞こえた。

横を見るといつの間にかボードンが俺が手に持っている弓をそこから観察していた。


「これも装飾術なのか?」


「前回も言ったと思うが【装飾術】は武器を変化、又は進化させる物だ。これがその一つの結果だ」


「ふ~ん。結果って事は、これで終わりって事か?」


「そうなるな。そしてこれでワシはお前に【装飾術】について一通り教えた事になる。………これでお前への説明は終わりだ。後は自分でなんとかしろ」


「……色々ありすぎてなーんかまだ混乱してる感じだなぁ」


「そんな物は知らん。終わったのならとっとと出てけ、うっとおしい」


「ハイハイ言われなくても片付けたらとっとと帰るよ。……あっそうだ、持ってきた素材はどうすんだ?」


俺が取ってきたアイテムだけど、ボードンに頼まれて持ってきた物だからな。

一応聞いておかないと。


「頭骨2つとさっき作成した溶液はおいていけ、今日の授業料代わりだ。後は好きにすればいい」


ま、今日はボードンのとこの素材を使っての作業だったからな。

それくらいが妥当ではあるか。

魂石は手元に残るから俺としても満足だ。


「了解。さて、じゃあ片付けますかね」


そう言うと俺は出した材料と道具の回収と片付けを開始した。


こうしてボードンによる俺への【装飾術】に関する授業は、これを以て終了となったのである。



【装飾術】Lv8→9

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