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page 34

軽く戦闘を入れるつもりが、いつの間にか文章の半分を占めていた。

どうしてこうなった。

それはある日の夜中。


「ギャウンッ!?」


ある静寂な森の中、一匹の狼の泣き声が響きわたる。

月明かりが照らすその森の中では、狼の泣き声など特段珍しくもない。

狼に限らず、獣とは普段から様々な理由で声を発する生物であるからだ。

当然この森に住む狼もその例から外れる事はない。

だが今響いたその声は普段から発している仲間への呼び声でも、ましてや敵対者への威嚇の為の唸り声でもない。


その泣き声はむしろ、痛みからくる悲鳴に近い声であった。


その声がした方へ目を向ければ、泣き声の主らしき灰色の狼が今現在地面に体を横たえているのが見えるだろう。

少し観察すれば、その体には力が入っておらず動こうとする様子が全く見られないのがはっきりと分かる。


完全なる沈黙ーーー言ってしまえば、その狼は既に息絶えていたのだ。


そしてその狼の近くには武器を手にした一人の青年の姿があった。

恐らく狼を倒したのであろうその青年は、しかし倒した獲物を前にしてもその場から動こうとはしていない。

本来ならばさっさと獲物からアイテムを剥ぎ取るべきなのだが、その青年からはそのような素振りは見えない。

むしろ武器を構えたまま、辺りに視線を配りながら警戒を強めているようだ。


青年の周辺には他の生物の姿は見えていない。

それでも青年は武器を下ろそうとはせず、臨戦態勢のままである。

何故彼はそうしているのだろうか?

そんな時、青年がポツリと呟いた。


「…………囲まれてるな。数は……4匹か?」


ーーーそう、彼は理解していたのだ。

見えていないだけで自分は既に4つの気配に囲まれているという事実に。


その4つの気配は先程まで青年の周囲を円を描くように回っていたが、今ではその動きを止めている。

どうやら様子見の時間はそろそろ終わりのようだ。

それを感じ取った青年も武器である金槌を握る手に力を込め、戦闘に備えて自身を少し腰を落とした体勢に変えている。


そしてその十数秒後、


「グルァァッ!」


そんな叫びとともに均衡は突如として破られた。


青年を囲っていた気配の正体である灰狼達がその叫びを上げ、林や木々の陰から次々と此方目掛けて飛び出して来る。

狼達は狼ならではの俊敏さで青年との距離を一気に詰めると、自らの牙を剥き出しにして彼に対して各々で攻撃を開始した。


まず仕掛けたのは青年の左側からきた狼だ。

その狼は剥き出しにした自らの牙を彼に突き立てようと跳躍ーーー、


ズガァァッ!!


ーーしようとしたその寸前に、その攻撃に反応した青年の金槌によって胴体を真横から打ち抜かれ、そのまま吹っ飛ばされた。

狼は体を浮かせたのち、その勢いがついた状態で地面に体を転がしたあとに停止、そのまま動かなくなる。


青年はその狼の生死を確認する事もなく体を動かしその場から移動する。

彼は狼を攻撃すると狼が向かってきた方へ体をずらして体の向きを反転させ、他の狼達を視界の中に収めた。

左の真横から一匹、右斜め前から二匹がすぐ近くまで迫っている。


それを確認した青年は、迷う事なく右側の二匹に向かって走り出した。


青年が突然自分達に向かってきたのに混乱したのか、攻撃のタイミングを逃した二匹の灰狼はそのまま青年とすれ違おうとそれぞれ進行方向を左右にずらす。

互いに速度を落とさずに進み、二匹と一人が擦れ違った。

その瞬間


ズガァァンッ!!!


その大きな打撃音と同時に一匹の灰狼の体が宙を舞った。

擦れ違い際に青年が金槌で片方の灰狼を攻撃したのだ。

そのカウンターに近い一撃は通常よりも高い威力を生み出し、結果として確認するまでもない致命的なダメージを灰狼に与えた。

ドスッという音を立てて灰狼が地面へと落ちる。

当然動く気配などまるで無かった。


青年の動きはまだ止まらない、まだ存在している敵を倒すべく再び体を反転させて体勢を立て直そうする。


だが反転し、振り返ったその視線の先には残りの二匹の姿は無かった。

彼は一瞬呆然となるも、すぐに我に返ると周囲の気配を探る。

気配を探った結果、どうやら二匹は逃げ出したようでかなり速めの速度で青年の感知範囲から脱出しようとしている。

自分達の不利を感じたらしい。


二匹が感知範囲から脱出するのを確認すると、闘っていた青年ーーーつまり俺ことゼンは気が抜けたように軽く息を吐き出して体の力を抜き、ようやくここで戦闘態勢を解いた。


チーム結成から現実時間で2日目の出来事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そしてその翌日、チーム結成から3日目の朝。

俺はAROにログインすると、すぐさまボードンの小屋へと向かった。

目的は【装飾術】の次の段階を教えて貰う為だ。

その為に昨日1日を使って森でアイテム集めに勤しんでいたのだ。

小屋の前に到着すると前回と同じように小屋の扉を6回程ノックする。

それから少々の間の後、扉が開かれボードンが顔を出した。

相変わらずの不機嫌顔である。


「……お前か、渡したリストのアイテムは集めて来たんだろうな?」


「ああ、少々手間取ったけどなんとか全部集めたぞ」


「ふん、ならばとっとと始めるぞ。中に入って来い」


ボードンはそう言って扉を開けたまま中に戻っていき、俺もそれに続いて中に入っていく。






「ではまずリストのアイテムと武器を出せ」


ボードンの言葉に従い、俺は作業台の上にアイテムと武器を並べる。

まずアイテムだが順に並べると、


深緑の森水(小バケツ)×2、ニム草の根×6、灰狼の血液(小瓶)×6

灰狼の頭骨×2、灰狼の魂石×2


となる。

上記のアイテムは全て深緑の森で取得したアイテムだ。

深緑の森水は深緑の森(深部)にある小さな泉から、ニム草の根はその付近に生えていた物を採集した。


そして灰狼の血液と灰狼の頭骨、灰狼の魂石はグレイウルフから剥ぎ取ったアイテムだ。

これら3つのアイテムは今回初めて手に入れる事が出来た訳だが、今までこれらを剥ぎ取れなかったのはこの3つにはある取得条件が設定されていたからである。

その条件とは血液と頭骨は解体時にナイフを当てる場所、魂石なら時間だ。

どうやら血液は狼の首下、頭骨なら眉間にナイフの先端を当てなければ入手出来ないようになっているらしい。


さらに魂石についてはもっと厳しくなっていて、ある時間帯にランダムで出現する通常より強い強化モンスターを倒す事で入手出来た。

時間帯を指定してしないのは、以前手に入れた爆走猪の魂石と入手した時間帯が異なっているからだ。

恐らくモンスターの種類毎にそれぞれ別の時間帯が設定されているのだろう。

因みにグレイウルフの場合は夜中の0時だった。


いやーしかし、強化されたグレイウルフを一人でってのは中々しんどかったな。

強化グレイウルフはランナーズボアの時と違って行動パターンは変化しなかったけど攻撃力と耐久値がかなり上がってたからな。金槌で攻撃してんのに倒すまでに2・3回のカウンター攻撃が必要だったからな。


しかも出現時間が夜中のせいで視界も悪いし、昨日ほど【盗賊】の感知範囲の広さと精度がありがたく感じた事もなかった。

いや本当に夜狩りは気を付けないと危ないわ。



そして指示されていた武器だが、とりあえず弓と木槌を両方とも新たに作成してきた。

それで出来たのがこの2つだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


駆け出し鍛冶師の長柄木槌(灰狼装飾+4)


ATK +17


品質 5


未熟な鍛冶師が扱う武器。

取り付けられた灰狼の一部から

少量だが力が槌に流れ込んでいる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


見習い狩人の木弓(灰狼装飾+4)


ATK +15


品質 6


前段階の物よりしなりを強くした弓。

取り付けられた灰狼の一部から弓に

力が少量ながら流れ込んでいる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


………何故か木槌が金槌の威力を上回っていた、作り方は全く変えず、少し丁寧に作っただけなのに。

まあ金槌を製作した時は【木工】のスキルが【鍛冶】よりもかなり高かった上、装飾でこれは【装飾術】で強化されてるからこんなのもあり得るっちゃあり得るんだろうけど。

それでもなぁ………実際に目にすると複雑な気分なるんだよな、金槌が出来るまで大変だったから余計に。


作業台に並べた武器を見て微妙な表情になっている俺の事など気にもせずにボードンは話を始める。


「………一応一通り集めてきたようだな」


「だからさっき言っただろ。それよりこれをどうすればいいんだ?」


「そう急かすんじゃない。……まずは溶液作りから始めるぞ」


「……溶液?」

装飾で溶液なんて何につかうんだよ?


「次は頭骨を武器に取り付けるが、これは武器毎に形や大きさをある程度調整する必要がある。溶液はその為の物だ。

………さあ始めるぞ、お前もボケッとしとらんでさっさと準備しろ」





【装飾術】Lv5→8【隠密】Lv27→28

【闘金槌】Lv29→37【身体強化】Lv24→28

生産者の癖に何故か戦闘技能ばかり伸びていく……。

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