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キーラスと会った日から現実時間での次の日、結局俺はギルドに向かう事にした。
西の大通りを少し歩いてから横道に入り、さらにそこから進んだ場所に今日の目的地であるギルドは存在している。
ギルドの建物は町の中では中々の大きさをもった建築物であり、利用者も多いせいか大通りから外れているにも関わらず、そこは多くの人で賑わっていてその周辺はかなり目立っていた。
俺は多くの人に習い、流れに沿いながらギルドに向かって進んで行く。
よく見ればギルドに向かっているプレイヤー達が着ている装備にもかなりのバリエーションがある事がわかる。
戦闘系と生産系の違いは当然として、戦闘系だけにしぼってもそれぞれのプレイスタイルの差が装備に現れている。
ただその中でも鉄装備の物は数が少なく、防具の多くは皮鎧や軽鎧が占めているようだ。
それらとかわって生産系はというと……正直余り違いが見られない。
村人の服では無いようだが、皆似たような服を着ているプレイヤーが多いな。どうやら鎧などでは無さそうだが……。
そういえば防具屋であんな装備を見た事があるような気もするな。かなり朧気にしか覚えてないけど。
俺は装備に関しては基本自分で作った物を使っているので、売る事はあっても余り防具屋で買い物をした事がない。
精々参考用に幾つか安い鎧を買った位だ。
作業中もいつかの武器破裂事件が有ってからは鎧を着けて作業するようになったからな。
原因が判明した今でもそれは変わっていない。
きっとあれが本来の生産系の基本装備見たいな物なのだろう。
俺は着ないけど、というかあんな薄いの着て作業なんて今の俺には怖くてとてもじゃないけど出来ません。
そしてやはりというか何というか、俺と同じ武器を持っているプレイヤーを見る事は無かった。
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人の流れに逆らわずに歩いて、俺もギルドの中へと入っていく。
ギルド内には人が多く、外以上の賑わいを見せていた。
内装は町の他の建物と同じく木製のようだが、他と違ってかなりのスペースが確保されていて、この人の多さでも狭さは全く感じられない。
軽く周囲を見回すとプレイヤー達が所々で集まって立ち話などをしている姿も見かけられた。
俺は中に入ると、まずは歩きながら建物の中を観察して回ってみる事にした。
人の流れを見るに、どうやらギルドに入ったプレイヤーは大まかに分けて2ヶ所にバラけているようだ。
まず最初に一番人が多く集まっているのは、俺が入ってきた入り口の向かいにある受付らしきカウンターだ。
その受付はいくつも数が設置されており、そこではプレイヤー達がそれぞれに座っているNPC相手に何かの手続きらしき事をしている。
たぶんここでクエストに関しての作業が行われているのだろう。
ここには生産系、戦闘系区別なくプレイヤーが集まっているのが一目でわかる。
次は入り口の真横にある掲示板。
掲示板には大小様々な紙らしきものが貼り付けられていて、そこにプレイヤー達がたむろしている。
ただ掲示板の前にいるプレイヤー達は戦闘系ばかりで生産系はいないようだ。
紙の内容は、どうやら即席のパーティーメンバーの募集らしく必要なプレイヤーのスキル等が書かれている。
掲示板の近くにはテーブルと椅子が並べられていて、それぞれパーティーらしき集団が各自で座りながら話をしていた。
ああしてメンバーが集まるのを待っているのだろう。
ある程度ギルド内を見て回った俺は、本日の目的であるギルドクエストを受ける為、カウンターの受付へと足を進めた。
俺が受付の椅子に座ると、目の前の女性NPCが話しかけてくる。
「ギルドへようこそ。本日のご用件はなんでしょうか?」
「ここでクエストを受けられると聞いてきたんだが」
「クエストですね、わかりました。ではこちらを書いて貰えますか?」
そう言いながら、受付の女性は俺の前にアンケートのような用紙を差し出した。
用紙に触れると画面が出現、用紙の内容らしき文章が示された。
「なんか、このいきなり出てくる画面にも馴れてきたな……」
そんな事を呟きながら画面の文章を読んでいく。
内容は自分の取得スキルを選択してから、どんなスキルを使うクエストがしたいのかを選べ、という事らしい。
なのでさっさと自分の名前を画面に書いてから取得スキルとそのレベル、そしてクエストに使うスキル(今回は鍛冶)を選択して、表示された画面を閉じる。
閉じた後、用紙を改めて見てみると先程まで書かれて無かった文字がいつの間にか用紙に記入されているのに気が付いた。
軽く驚いた俺がそれを確認しーーー、
「はい、ご記入ありがとうございます。確認しますので少々お待ちください」
ーーようとした所で、女性に回収されてしまった。
回収した用紙を女性が一つ一つチェックをいれながら確認作業を行っていく。
「……どうやら不備は無いようですね。では受けるクエストの選択に移らせてもらいますがよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ではクエストの選択を行いますが、その前にクエスト受注に関しての注意事項を一つ述べさせてもらいます」
「注意事項?」
「はい。ここで受注したクエストは1度受けた以上、いかなる理由があろうとも失敗若しくは中断された場合には違約金を支払う、という事になっていますのでそれをご了承頂きます」
「……それだけか?」
「実際には他にも幾つかありますが、他の項目についてはクエストや状況によって色々変わってきますのでその都度こちらからご説明を、という事になっております。今の注意事項は原則みたいなものです」
原則ねぇ……。
なーんか怪しさが滲み出てる言い方するな。
てかそれだとクエストが妨害がある事前提みたいに聞こえるのは俺の気のせいか?
「何らかの妨害があった場合は?」
「そちらもその都度こちらで対応、となっております」
「………わかった」
実際にはまだまだ納得などしていない。が、これ以上は聞いても目の前の女性は答えないだろう。
そう判断した俺はそれ以上の追及をすることをしなかった。
「問題無いようなのでクエストの選択に移ります。これが本日受けられるクエストの一覧となっておりますので、この中からお選び下さい」
そう言って女性から再び書類が差し出された。
今度のは先程と違って数枚組のようだ。
書類に触れると出てくる画面を捲りながら、出されたクエストを一つずつ確認していく。
出されたクエストは3つ、それぞれのクエスト名と必要とされているスキル、そしてその必要日数を並べると
・鍵屋の手伝い (鍛冶、盗賊) 1日
・大工屋でのアルバイト (鍛冶、装飾術) 5日
・武器屋からの依頼 (鍛冶) 1日
となっている。
………3つ目はまず無しだな。
だってこの武器屋ってダリアの所だろ。なんでわざわざ頻繁に顔を会わせているダリアの所にいかなきゃならんのか。
目新しさが全くと言っていい程に無いのでこのクエストは却下である。
とすると残ったのは鍵屋と大工屋の2つなわけなんだが……う~ん、これはどっちにするべきか?
正直な話、俺としてはどちらもやりたいというのが本音だ。
鍵屋ならば、未だに全く育っていない【盗賊】がようやく育てる事が出来るかもしれない。
対して大工屋は日数が長いので、その分【鍛冶】を大幅に上げられるだろう。
ただ【装飾術】で何をさせられるのか予想できないので少々不安な部分もある。
「………この鍵屋と大工屋のクエストは同時には受注出来ないのか?」
「この2つは………無理ですね。物によっては出来る場合もありますが、この2つは両方の依頼者から『なるべく早く』と条件が付けられていますので」
やはり同時には無理か……。
まあ仕方ない、今回はすぱっと諦めてこの大工屋のクエストに絞ろう。【盗賊】のレベルアップはかなり惜しいが、今は【鍛冶】を上げる事の方が優先順位が高い。
【盗賊】を使う機会も暫くは無さそうだしな。
「それじゃあこの『大工屋でのアルバイト』で頼む」
「わかりました。少々お待ちください」
女性はそう言いながらカウンターから別の用紙を取り出すと、その用紙に何かを記入していく。
「……………はい、ではこの用紙に拇印を押せば手続きは完了となります」
俺は女性の指示に従って、用紙の隣に並べられた朱肉を使って書類の角に拇印を押した。
「……確認しました。これで手続きはすべて完了です。ではこの依頼者の住所が書かれた地図とこの書類を渡しますので、これを使って依頼者の所へ向かって下さい」
「わかった。どうもありがとう」
「いえ、ご利用ありがとうございました」
俺は女性にお礼を言うと、席を立って受付を歩いて離れる。
そしてそのままギルドから出ると、貰った地図を取り出して目的地を確認する
「え~っと、地図によると大工屋があるのは………町の南東部分か。あそこら辺に行くのは初めてだな」
そんな事を言いつつ、地図に書かれた大工屋のある場所に向けて移動を開始した。
わかりにくいので、現在の主人公の取得したスキルとレベルを書いておきます。
【鍛冶】Lv12【木工】Lv33【裁縫】Lv32
【隠密】Lv27【盗賊】Lv1【鑑定】Lv18
【身体強化】Lv24【闘金槌】Lv29【言語】Lv15
【装飾術】Lv5




