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パーティーを組んだ俺達3人は、パーティー申請の通るその翌日から早速パーティーとして行動ーーーという訳にはいかなかった。
何でも2人にはこれから用事があって忙しいらしく、3日間はログイン出来ない状態になるんだとか。
だがそれも仕方がない、生活している以上それぞれ個人的な用事位誰にだってあるだろう。
という訳で、町の喧騒を余所に本日もいつもの通りに俺は町中を1人で歩いていた。
やることはあるにはあるが、今日は何となく気分がのらなかったので今日は休息も兼ねてダラダラと散策する予定である。
まあここ最近はイベント続きだったのだ、こんな日が有ってもいいだろう。
そんな感じで、俺は今現在北の大通りをブラブラとしていた。
歩きながら町の様子を眺めていると、プレイヤー達が各々で様々な行動をとっているのがわかる。
フィールドへ向かう人、立ち話に興じている人、ベンチ等に座って食事をとっている人、それぞれがそれぞれの方法でこのゲームを楽しんでいる。
……………なんか一部しかめっ面でテーブルを挟んで険悪な雰囲気を出しているパーティーがいたが、そこは気にしないでおこう。
ともかくここ最近はプレイヤー達もこの世界に馴染んできたようで、戦闘したり生産したりする人だけでなく、今の俺の様に町中をブラブラしたりする等の行動をする人が増えてきた気がする。
ただNPCに関しては時たま話しているプレイヤーを見かける事があるくらいで、こちらはまだまだ数が少ない。
やはりまだNPCへの認識は余り変化していないようだ。
そんな風に俺が人の流れを見ながら散歩を楽しんでいると、
「あっ、ゼンじゃん」
「………なんだキーラスか」
「反応冷たくない!?」
こんな感じで、久しぶりにキーラスと再会した。
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ゲーム内で久々に会った俺達は、お互いの近況を食事をしながら話していた。
「ふーむつまり、ゼンを含めたその3人で固定パーティーを組んだのか、成る程」
「まあな。実際に活動するのは2人が戻ってきてからになるんだけどな。そういうキーラスの方はどうなんだよ、新しい町は見つかったのか?」
「いや、だけどそろそろ見つかると思うぞ。確かどっかのパーティーが道っぽいのを見つけたって話だからな」
「おおっ!やっとか!しかし随分時間がかかったな」
「仕方無いさ、漸く見つけた道もあるのがこの町から西に半日以上歩いた所らしいからな。道理で見付からない筈だよ、まさか2つ目の町がそんな遠くにあるなんて思わないだろ普通」
そんな事をぼやきつつ、キーラスが自分で頼んだ肉団子を咀嚼しながらパンを手に取る。
料理人のスキルも上がっているお蔭か、最近では出される料理も種類が増えてきている。
ちなみに俺が今食べているのは煮込みハンバーグだ。
両親不在の今の家ではハンバーグなんて面倒臭くて作らないので久々である。うまうま。
ただ一つ文句を言うならば、やはりパンではなく米が欲しい所だな。見つかっていない今はしょうがないが、この部分は今後に期待だ。
「ん?町が見つかりそうなんだよな?なんでお前ここにいんの?とうとうパーティーから見限られたのか?」
「久しぶりだってのに酷いなお前!? ったく、今日はただみんな都合がつかないだけだよ」
呆れたような表情を見せるキーラス。
俺はその反応を笑いながらも少しだけ懐かしさを感じていた。
コイツと直接会ったのは現実時間で一週間ぶりだが、このゲームのなかでは普通に過ごしていると1日の間に4~5日は過ごせる為、大体1ヶ月は会っていない計算になる。
コイツとこんな長期間会わなかったのはいつ以来、というか今まで無かった気がする。
しかも俺がこのAROで知り合った(NPC含む)のって、どいつもコイツも癖のある奴ばっかだからこういう反応は本当に久しぶりだ。
ドガロとかにそんな事言おうものなら酷い皮肉が返ってくるからな。
いや本当に懐かしい。
「しかしお前はどうすんだ?」
「なにが?」
「3日間、このゲームで言うなら半月位か。その間何かする事あるのかって話だよ」
「そうだな……。やることはあるっちゃあるんだが」
「?」
キーラスのその言葉を受けてこれからの予定について少し思考を頭に巡らせる。
思えば今までのこのゲームでの俺の行動は、一部を除いて『武器の鉄製への移行』という目標に向けての行動だったと言える。
もちろんスキル上げの意味も有ったが、やはり一番の理由はそれだろう。
そしてそう考えた場合、今の俺が目指すべき『目標』とはなんなのだろう。
前にも有ったが、このAROにおいては目標、とまではいかずともある程度の指針を持つ事は大事な事だ。じゃないとマジで色々迷うからな。
パーティーとしての指針はみんなで決めるとしても、俺個人としての指針も何か考えといた方がいいのかもしれない。
それにウチのパーティーは元々ソロでやってた連中が集まって出来ているから、常に一緒に行動って訳でもないだろうし。
「まあなんだ、やることに迷うんだったらいっそのことギルドで仕事探しってのも有りだと思うぞ?あそこなら色々とあるだろうしさ」
「ギルドかぁ……、あそこって生産系のクエストもあるんだっけ?」
「確か有った筈だぞ、詳しい内容は俺も知らんけど」
「なんだ、お前も行った事は無いのか?」
「そうじゃない、あそこで紹介されるクエストってのはどんなスキルを持ってるかで中身が変わるんだよ。だから戦闘系の俺じゃ生産系についてはわからない様になってんの」
「なるほどねぇ。てかクエストかぁ……どうするかな」
「まだ行った事も無いみたいだし一回見てみたらどうだ?ま、結局どうするか決めるのはお前だけどさ」
そう言ってキーラスはいつの間にか止めていた食事を再開する。
う~んしかしギルドか、それもありっちゃありだが。
本当はボードンに言われたアイテムの収集もしなくちゃいけないけど、そっちは後でもいいか。
渡されたメモによればアイテムは深緑の森で全部揃うみたいだし、生産系クエストにも興味がある。
もしかしたら鍛冶スキルも上げれるかもしれないしな。
「じゃあそれも一応考えとくわ、あんがとなキーラス」
「どーいたしまして。そんじゃま、そろそろ俺も行きますかね」
「そっか、なんか用事でも有ったら遠慮なく言ってくれ」
「そっちもな、それじゃあまたな」
そうしてキーラスはその場を去って行った。
さて、キーラスとも別れた事だし次はどこに行こうか。
少し悩んだ後、行く宛てもないので結局また図書館へ向かう事にした俺は別の露店で串焼きを数本購入、それを食べながら大通りを再び移動し始めた。




