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このゲームにおいてパーティーは二種類が存在する。
一つ目は即席で簡単な登録で編成出来る"簡易パーティー"。
町で声掛けをしてパーティーを作る時はこちらが使われる。
これはどこでも編成する事が出来、メンバーを失ったパーティー同士がフィールドで合流する事もできる。
二つ目は町でしか編成出来ない"固定パーティー"。
こちらは"チーム"とも呼ばれる事もあるパーティーで、長い間パーティーを組み続ける時に編成される。
また、これを組むとパーティーボックスが支給される等、パーティー内での様々な物の共有・保管が楽に行えるようになるので、ある意味小さなギルドと言ってもいいかもしれない。
その分編成と解除には一日程時間がかかるので即応性はない。新規メンバーの加入の場合もそれは同様だ。
つまり簡易とは違い、固定はそう安易に決めるものではない、ということである。
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「ゼン、お前俺達と3人で固定パーティーを組む気はないか?」
「固定パーティー?」
ヤシャが口にした言葉を聞いて、俺は思わず驚きながらそう返した。
何故俺がヤシャの言葉に驚いたのか。
確かに固定パーティーを組むというのはそう簡単に決めるものではないが、たいして驚く程の事でもない。
そもそもこのゲームはあえてプレイヤーに制限を加えてチームを組むようなシステムになっている。
現時点で固定パーティーになっているプレイヤーもかなりの数がおり、寧ろ俺達のようなソロのプレイヤーの方が少ない。
言ってしまえばチームを組んでいる事が自然なのだ。
では何故俺は驚いたりしたのだろうか。
それは、
「一つ聞くんだけどさ、………なんで俺なんだ?」
そう、これが驚いてしまった大きな理由だったりする。
自分で言うのもなんだが、俺はかなり中途半端なプレイヤーだ。
取得したスキルも"色々やりたい"なんて考えながらとったせいで、戦闘をするにしても生産をするにしてもどっち付かずな構成となっていて、効率もよくない。
それに唯一の戦闘系スキルである【闘金槌】も、アーツが発見されていないのでいざという時の攻撃力に欠けるスキルであるし、防具にしてもスキルを取得出来ない為、着れて皮鎧が精々だ。
以上の事を考えても、パーティーを組むにはどうしてもキツいスキル構成と言わざるをえないのだ。
そんな俺と組んで2人に益があるとは俺には思えなかった。
俺としては、2人とチームを組む事に対して何か不満がある訳ではないが、組んだ結果で仲良くなれた2人に迷惑をかけるような事はしたくなかった。
俺はその事を2人に伝え、それでも俺と組みたいかを聞いてみた。
それに対して2人は互いに顔を見合わせると、肩をすくめて呆れたように苦笑する。
まるで2人して「やれやれ、しょうがない奴だな」と言わんばかりの仕草である。
…………2人のその仕草に少しだけイラッときたのは俺だけの秘密である。
「あのなぁ、お前の不安も分かるけどな。こっちはそれを考慮した上でお前に声をかけたんだよ」
そうヤシャは言った。
続けてマルクも口を開く。
「それに言うほど君は悪くないよ。少なくとも一緒にやってきた僕達はそう思ってる。ゼンだってソロのまま続けていくのはキツくなっているだろう?今のままじゃ中々先に進めない、僕達もそう思ったからゼンに声をかけたんだ」
確かにマルクの言う事は正しい。
俺もそろそろもっと遠出をしたいと考えていたが、俺一人では心許なく中々探索範囲を広げられずにいる状態だ。
「それにな、やっぱりチームの中に生産者がいると助かるんだよ、ゼンは隠密以外にもサブ系スキルがあるからさ。俺達は鎧やら戦闘補助やらのスキルも取ってるからスキル枠もきつくて簡単にはその手のスキル取れないし。………あとやっぱり、チームを組むならやってて楽しい奴等と組みたいしな」
ヤシャはそう言って言葉を切った。
俺は今の考えを纏める為、少々黙り込んだ。
ヤシャの言う「組むならやってて楽しい奴等と組みたい」という言葉。
俺もその言葉には大いに賛成だ。
俺達が今やっているこれはゲームだ。
どんなにゲームを上手く進めていたとしても楽しくなければ意味が無い。
要はどんなに進行が遅くても、ゲームを楽しめればそれが一番なのだ。
互いに必要な物があって、一緒に遊んでいて楽しいと感じている。そこに多少の不便が有っても、楽しめてさえいればそれでいい。
それならばこの誘いを断る理由も無いのかもしれない。
というか、こっちからお願いしたい位の話だ。
わざわざ誘ってくれた2人には感謝しなきゃな。
「どうするゼン?」
考え込んでいた俺の耳に、マルクのその問いかけが聞こえてきた。そちらに顔を向けると、マルクとヤシャがこちらを見ながら俺の返事を待っている。
その2人に対して俺は、
「わかった、一緒に固定パーティーを組もう。………これからよろしく!」
そう返事を返すのだった。
俺のその返事を聞いた2人は、途端に息を吐き出しながら力を抜くように椅子の背もたれに体を預けた。
「あ~~、よかったぁ~。断られたらどうしようかと思ったわ」
「僕は別に断られるとは思って無かったけど、やっぱりこういう時ってどうしても緊張するよ」
どうやら俺が見てとった以上に、2人とも緊張していたらしい。口からはそんなぼやきのような台詞が零れ出てきた。
肩に入っていた力は抜け、腕をブラブラさせながら背もたれに寄りかかっている。
実にだらけた体勢を取る2人。
俺はそんな2人の様子とさっきまでのギャップがどこか可笑しくて、思わず笑ってしまった。
それを見た2人も、そんな俺の様子が何かのつぼに入ったらしくいつしか笑い始めていた。
まるで変な物を見るような周囲の視線が俺達に向けられていたが、それでも俺達はしばらくの間3人で意味もなく笑い続けていた。
…………結局その後、笑いが止まって俺達に正気が戻るとあまりの恥ずかしさに3人でその場から逃げ出すハメになったが。




