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俺が【装飾術】スキルを取得した日の数日後、AROを始めてから現実時間で丁度1週間を回った日の朝、俺はヤシャに相談があると呼び出され、町中央の広場に来ていた。
そして、そこには俺とヤシャだけでなくマルクの姿もあり、3人で出店で用意されていたテーブルを飲み物片手に囲っている。
実はこの3人で集まる事自体は、最近では別段珍しい事でもない。
初めて一緒に狩りを行ったあの日以来、3人で狩りをしたり情報交換の為に集まったりしていたのだ。
特に3人で行う狩りはスキル上げとアイテム収集の効率がよく、一人では行きにくい場所行けるので、あれから既に4・5回は行われていた。
ヤシャ曰く、他で組むよりスキルを全体的に上げやすい、と言う事らしい。
「悪かったな、急に呼び出しちまって」
「それは別にいいよ、急ぎの用事が有った訳でもないからさ。それより相談って何だ?マルクもいるって事は、マルクにも関係ある事なんだろ?」
謝るヤシャに対して、俺は斜め向かいに座るマルクをチラリと見ながら、今日集まった本題を話すように促した。
しかし、なんか2人ともいつもより真面目っぽい顔をしてるのが気になるな。
まあ別にガチガチな訳じゃなく、あくまでいつもより真面目っぽいなあ、ってレベルの話でしかないのだが。
「まあな。俺達3人全員に関係ある話だ。だがその前に話しておきたい事がある。……ゼン、お前が前に言ってた鉄を買い占めてる2グループな、あれ誰かわかったぞ」
「……本当か、俺も調べたけど全然わからなかったのに」
例の鉄買い占めの2グループについては、あれから俺も調べていたのだがあまりまともな情報は未だに見付けられずにいた。
掲示板を巡ってみても鉄不足で困っているプレイヤーの声は書かれていても、奴等が何なのかに関しての詳しい情報は見つけられなかったのだ。
買い占めにくるプレイヤーの顔ぶれがいつも違う事も分かり難くしているのだろうが、それにしたって出てくる情報の少なさには俺も不思議に思っていた所だ。
「これに関しての情報は掲示板でも殆ど見つかってないのに、一体どうやって調べたんだよ。」
「知り合いのプレイヤーから教えてもらったんだよ。これでも一応βテスターだからな、それ相応に知り合いくらいはいるさ」
「あ~、そういやそうだったな」
ヤシャの台詞を聞いて俺は成る程と納得した。
俺がヤシャがβテスターである事を知ったのは、割りと最近の話だ。
実はヤシャはβの時に生産者としてこのゲームをプレイしていたのだが、どうも町に籠ってアイテムを作り続ける作業が肌に合わず、正式サービスになるのを期に戦闘系にスキルを変更したらしい。
これはヤシャに限った話ではなく、テスターの特典で資金の引き継ぎが出来る為に変更するプレイヤーもかなりの数がいたらしい。
今回ヤシャが情報を取れたのも、元生産者としてのつてがあるからだろう。
基本、鉄みたいな素材を扱うのは生産者だけであるし、確かドガロも片方は生産者のみのグループだって言っていたからな。
「んで、結局アイツらはどういう集団なんだよ?」
「アイツらの正体はテスター組の生産者達と"もどき"の連中だ。どうも奴等は互いにクランを作ろうとしているらしい。鉄集めはその一環なんだとさ」
ヤシャの話によると、そもそもの事の発端はβテスター組の生産者達によるクラン設立の動きから始まる。
生産には金がかかる。それがこのゲームでの常識だ。
俺みたいな奴は例外として、基本的に生産者は何かを作る為の素材を調達する為に買い取りを行う。
買い取った素材を元にアイテムを作成してそれを売って資金を得、それを元手にまた素材を買い取る。
そうして資金を貯めつつスキルを上げるのが普通であるが、買い取りを行っている以上この方法では金が貯まるのにかなりの時間がかかってしまう。
そしてクランを設立する条件には、ある程度の人数と大量の資金が必要になる。
テスター組としては早めにクランを設立して、他プレイヤー達よりも先んじて有利な状況を作っておきたいが、その為の資金が足りない。
そんな状況の中、彼らの内の一人がある方法を思い付いた。
それが数に限りがある鉄素材の買い占めによる独占である。
鉄素材を独占出来ればそれを高値で転売して資金も得られる上、素材の価格が上昇によって鉄装備の価格も全体的に上がり、装備の値上げもできる。
それによって今よりも早く資金を集める事が出来るようになるのである。
βテスターである彼らには引き継いだ資金が十分に有ったため、決して不可能ではない方法だ。
もし完全に独占出来なくても、出回るのが少量なら自然と鉄装備の稀少性が上がるので同じ結果を得る事が出来る。
彼らの話し合いによりこの案は即座に採用、実行に移される事となった。
こうしてテスター達による鉄素材の買い占めは始まったのである。
「そのまま順調に行けば奴等の一人勝ちだったんだがな。しかし残念な事にそうはならなかった。不運な事に奴等が買い占めを始めた時、"もどき"達も似たような事を考えてたって訳だ」
「結果としてその2つは衝突、鉄素材を奪い合いながら現在に至るって訳か。……だけどそんな情報なんで今まで伝わって来なかったんだ?普通そういうのってこういうゲームだとすぐに話が広まったりするものじゃないのか」
「普通はな。だがアイツら両方とも目立つとマズイ事は理解していたみたいで、あんまり大事にならないように行動していたらしい。だからお互い常に少人数で動いていたんだと」
それを聞いた俺は思わず関心してしまった。
奴等がどんな方法を取っていたにせよ、実際に1ヶ月足らずの期間を隠し通した訳だ。
しかも鉄素材を買っていた面子が毎回違うという事は、両者とも既に相当の数のメンバーが集まっているという事だ。
まだ転売は始めていないようだが、やれば資金も貯まり、俺達が思うよりも早くギルドが出来るのではないだろうか。
"もどき"達が買った鉄を放出すれば話は別だが、奴等に関する話を聞く限りじゃそれをやるような奴等では無いだろう。
「なんにせよ、奴等のギルドはそう遠くない内に設立されるんだろうな」
俺のその言葉に頷くヤシャ・マルクの両名。
その意見には2人とも同感であるらしい。
そんな感じにこの話の結論が纏まると、今まで黙って話を聞いていたマルクが口を開いた。
「ヤシャ、話にも一区切り着いたんだしそろそろ本題に入らないか?」
「ん?……あ、ああそうだな。いかんいかん、危うく忘れる所だったわ」
「ったく、だろうと思ったよ。真面目な話何だからちゃんとしてくれ」
悪い悪い、とあまり反省している様子のないヤシャを見て溜め息を吐くマルク。
その姿はいつもに比べて不自然ではないが何となくどこか固い、そんな感じだ。
俺はそんな2人の様子を眺めながら、話を切り出してくるのを待つ。
少しの間の後、改めてこちらを向いたヤシャが真面目な顔をして話し始めた。
「さてここからが今日の本題、お前を呼んだ理由だ」
「それって今の話と関係はあるか?」
「はっきり言ってないな。今までのはちょっとしたおまけみたいなもんだ」
そうしてヤシャは今日の本題について話し出した。
そしてその内容は、俺からしたらとても意外なものであった。
「遠回しに言ってもしょうがないから率直に言うぞ。
…………ゼン、お前俺達と3人で固定パーティーを組む気はないか?」




