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page 27

「今回の報酬、それは純粋な金銭での支払いか、またはお 前が『装飾』と呼んでいるものについての技術をワシから 学ぶか、そのどちらかを選んでもらう」


目の前の老人から飛び出したその言葉に、俺は一瞬呆然となった。


「ち、ちょっと待ってくれ。なんで今装飾の話が出てくるんだ、分かるように説明してくれ」


「説明?ふん、する必要がどこにある。今お前に求められているのは『装飾』についてワシから学ぶ気概があるかどうかだけだ。それとここまでの過程とになんの関係性があるのだ?どうしても知りたいなら後でダリアにでも聞けばよかろう。さぁとっとと選ぶがいい」


説明を求めた俺の意見は、老人の冷たい言葉によってとりつく島もなく無情に切って捨てられた。

どうやらこの老人には俺に何かを説明しようという気が全くと言っていい程に存在していないらしい。

というか、俺にこの話をしている事自体、気に入らないようだ。

さっきから表情にも「なんでワシが貴様何ぞに」という不満がありありと浮かんでいる。


しかし、そんな不満爆発状態であるのに俺にこんな話をするって事は、これが老人のこの町での役目みたいなものなのかもしれない。

ドガロ達と話していてわかった事だが、この町のNPCは表に出ないだけで嫌いな奴には本当に敵対的になる場合が多い。

この間のドガロからの仕事がそのいい例だろう。


だがこの老人は嫌々ながらも俺に指導を行うと言っているのだ。これがこの老人の仕事、もしくはそれに近いものである可能性は高いだろう。

それかダリアに弱みでも握られているか。


まあどちらにしても、今の俺には意味の無い情報だ。


はっきり言ってかなりムカつく爺さんだが、言っている事には一理ある。

今俺がすべきなのは選択すること、それにはこうなった理由の説明なんていらないし、その必要も無い。

そう、正に爺さんの言った通りだ。

そもそも俺の答えはこの選択を問われた時から決まっているしな。


「(それに)」


ちらり、と俺は先程から前に出てきていた画面を見た。


『         注意


 装飾職人の指導を受けるためには【装飾術】

  を取得する必要があります。

  取得しますか? Yes / No

                      』

【装飾術】、俺がまだ見た事の無い、そしてまだあまり知られていないであろう新しいスキルだ。

これを取れば少ないスキル枠をさらに圧迫する事になるだろう。まだ始まってからあまり時間が経過していないこの段階で空きスキル枠を2つも埋めるのはあまりいい事だとは決して言えない。


だがそれでも、新しい事への挑戦というのはやはりどうしようもなくワクワクしてしまうものだ。

たとえスキル枠が少し苦しくなろうとも、俺の選択に変更はない。


「俺に装飾術を教えてくれ。金銭を受け取るよりも、今の俺にはそちらの方が重要だからな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺がそう言った側で、俺の言葉に反応してか画面のyesが選択され、チュートリアルクエストが書かれた画面が出現した。

内容をまとめると「装飾職人から教えを受けろ」というものだった。



「ふん、まあいい。そう選択したのなら一先ずこちらへ来い。甚だ不本意ではあるが、未熟なお前に装飾術に関する指導を行うとしよう」


俺が画面を消した直後、爺さんはそう言うと作業台の方を向き、俺が届けた木箱を開け始めた。

俺も作業台に近づいて、木箱の中を覗き込んだ。


「ってこれ俺が作った武器じゃないか」


箱の中に入っていたのは俺が作った木槌と弓であった。

しかもこれ、俺の記憶が正しければ先程ダリアの店で売った筈の物である。

なんでこれが入ってんだ?

そんな俺の疑問を余所に、爺さんは俺に向けて質問する。


「指導をするにあたってまず聞いておくが、お前は【装飾術】とはどんな技術だと認識している?」


「………武器にモンスターから取れた素材を飾って強化する技術、って感じかな」


俺のその答えを聞いた途端、老人からとても大きな溜め息が吐き出された。

その様子はまだ何もしていないくせに、とても疲れている感じである。

まったく、一々嫌みったらしい爺さんだな。


「全く、本当に何も知らんようだな。いいか、【装飾術】とは名前の通りに飾りつける技術などではない。これは武器等にモンスターから取れた素材を正しく取り付け、元になった物とは別の物に作り替える技術なのだ」


「作り替える?」


「そうだ。進化させると言ってもいいかもしれん。お前の武器を見てみろ」


すると爺さんは、箱から出した木槌と弓を作業台の上に並べた。


「小僧、この2つの武器の装飾には共通点がある。作ったお前ならわかるな?」


「一つの武器に対して使う素材のモンスターは一種類なのと、対称になるように装飾してる所だろ。自分で作ったんだからそれくらい知ってる」


「知ってて当たり前だ。話を続けるぞ。それでこの共通する2点だが、これが装飾術に於いての基本となる。これさえ守っていれば、この武器のように最低限の装飾は施す事ができる。お前のような未熟な腕の者でもな」


爺さんの嫌みはとりあえずスルーしながら言っている事には同意しながら話を聞く。

そう、確かに弓も木槌も素材の数の差はあったものの、この2点さえ守っていれば装飾がついていた。


「では何故この2点は守らねばならないのか?それはな、そうしなければ武器の中の"力"のバランスがとれないからだ」


「"力"のバランス?」


「お前に限らず、この世界で人々が普段扱っているモンスターから取れた素材には、大小の差はあるが一つ一つに"力"が内包されている。【装飾術】に於いての装飾とは、素材を武器などにつけて内包された"力"を注ぐ作業の事を言う」


「…………つまり、武器の威力が上がるのは"力"が注がれて武器が強化、または変質したからか?使う素材のモンスターの種類を揃えるのもバランスの為?」


「その通りだ。外見は変わらずとも中身は確実に変化している。だがそれもバランスがとれてこその話だ。でなければ中で"力"の均衡が崩れ、元となった武器は壊れてしまう。下手をすれば中で"力"が暴走して破裂する事もある。………その様子じゃ、既になにかやらかしたようだな」


爺さんの放ったその言葉に一瞬ドキリとした。

爺さんの指摘した通り、俺には爺さんが言ったような失敗に身に覚えがあったからだ。

どうやら顔に出てしまっていて、バレバレだったしい。

爺さんの嫌みはムカつくが、これに関しては反論出来んな。

しかしなるほどね、だから武器の癖にあんな爆発をおこしたのか。

あの時の出来事は衝撃的過ぎたが、まさかそんな理由があったとはな。今度から作業は常に鎧を着て行う事にしよう。


「今まで話したのが【装飾術】の基本だ。次は大体の作り方についての説明、と言いたい所だが今日はここまでだ。一先ず帰るがいい」


「なんでだよ?時間ならまだあるだろ」


「馬鹿め、時間が有っても準備が出来とらんわ。お前も、ワシもな。今話した以上の事はこの場で教えても意味がない」


急に帰れと言われ、驚きながら爺さんを見てみると作業台の上で紙に何かを書き込んでいる。

そしてそれを書き終えるとその紙を手に取り、何かが書かれた紙をそのまま俺に押し付けてきた。


「これは?」


「次に来る時はこれに書かれている素材を揃えてからこい。それと弓と木槌、どちらでもいいから装飾の段階を4まで上げておけ。但し、使う素材の数は変更する必要はない。+2の時と同じ数で充分だ」


そう言うと爺さんは話は終わりだとでも言うように俺に背を向け、作業台の武器をさっさと片付け始めた。

その様子を見て、仕方なくそに合わせて俺も小屋から出ようと唯一の出入口である扉に向かい、ノブに手をかけた。


あ、そういえば、


「そういや、爺さんの名前って聞いてないよな。俺はゼンっていうんだけど、爺さんはなんて言うんだっけ?」


「……ボードン、職人のボードンだ」


背を向けたまま、爺さんことボードンは相変わらずの不機嫌そうな声でそう答えた。


「そうか。それじゃあボードン、今日はもう帰るけど次もよろしく頼む」


「………さっさと帰れ」


そうして俺は、今度こそボードンの小屋から出ていった。


今回の話は少し早足で書き過ぎたかも知れません。

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