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これはドガロの依頼から数日経過したある日の事。
「背中の武器を見せな」
武器屋で何時も通りに作った武器を売った後、いきなり店主であるダリアにそんな事をいわれた。
思わず呆然となる。
「……なんだよ急に、武器見せろだなんて」
「いいから見せな、別に取りゃしないよ。ただちょっとした確認をするだけさ」
そう言われ、いぶかしみながらも背中の金槌をダリアに渡す。
ダリアは金槌を受け取ると、それをあちこち何かを確かめるように観察していく。
別に特別よくできた武器って訳じゃないあの金槌、あれの何を調べてるんだろうか?
「……ふん、なるほどね。こっちは正直まだまだだが、これくらいならギリギリ大丈夫かね」
調べ終わったのか、そんなよくわからない事を言いながら俺に金槌を返してくる。
本当に訳が分からん、なんなんだ一体。
そしてそのまま、俺が何か言い出すのを防ぐ様にこんな話を切り出してきた。
「そう言えばゼン、聞いた所によるとあんたドガロの奴からクエストを直接受けたらしいじゃないか」
「ああ、一応やったけど。でもなんでそんな事を?」
「いやなに、あたしにも今ちょっと用事があってね。なんならそれをあんたに頼もうかと思ったのさ」
「用事?」
「大した事じゃない、こいつをある場所に届けるだけの簡単な仕事さ」
そう言ってダリアが出したのは、手紙らしき封筒と大きめの長方形の木箱だった。手紙と一緒に地図らしき紙が添えられている。
「頼まれてくれるかい?」
「………まあ、別に構わないけどさ」
今の俺にこの依頼を断る理由はないので、受けるのも吝かではない。
何か急ぎの用事がある訳でもないしな。
だがしかし、
「(な~んか腑に落ちないんだよな、ダリアの様子見てると)」
俺がそう思える程度には、今のダリアの様子は怪しかった。
さっきからの言動一つとっても不自然な感じであるし、この依頼にしたって突然すぎてどこか釈然としないものがある。
もしかして、さっき金槌を見てたのと関係あるのか?
「……なんか色々不自然だな、何考えてるんだよ?」
「あらま失礼な奴だね。あたしはただどこぞの金欠の小僧に仕事をあげてるだけだっていうのに、その善意を疑われるなんて」
「ぐっ……!」
言うに事欠いて何が善意だこのばあさん、いけしゃあしゃあと。
大体本当に善意だけなら、相手を見ながらニヤニヤ笑ってんじゃねえ!!
大体なんで俺が今金欠だって知ってんだよ!!
そんな文句が頭を巡る。
しかしダリアの言う通り、今現在の俺が金欠なのもまた事実である。楽に稼げるなら俺としても嬉しい話だ。
それに個人からのクエストはギルドクエストと違って貰える報酬が少し変わった物である事が多いらしい。
この前のドガロから貰った絵本とか、後マルクからもそんな事を聞いた憶えがある。
それを考えると確かにダリアからの依頼は、此方としても有り難い事に変わりはない。
変わりは、ないんだがなぁ……。
「結局どうするんだい?受けるのか、受けないのか?」
うだうだと悩んでいる俺に向けて、ダリアがそう言い放った。
ダリアの決断を迫るその問いかけに俺は、
「……はぁ、わかったよ。有り難くお受けします」
溜め息をつきながらも、最後にはそう答えるのだった。
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地図を元に町を歩いて行くと、いつの間にか裏通りと呼んで差し支えないような場所に入っていた。
紹介して貰ったラーメン屋があったのも裏通りだったが、今日のここは別の、町の北西に位置する所にある。
地図によると、目的地はこの裏通りを少し進んだ所にあるらしい。
そしてそのまま歩いて行くと、
「えっ…と、ここ…でいいんだよな?」
目的地である、一件の小屋の前で足を止めた。
その小屋は町中でもよく見かけるものとほぼ一緒の形をした建物だった。
だが裏通りにあったラーメン屋と同じく、カーテンは閉めきり部屋は真っ暗、人の気配なんてまるで感じられない状態である。
裏通りの建物はみんなこれが普通なのか、廻りの家々も似たりよったりの状態だ。
そのせいか、まだ日の高い日中だというのにこの裏通りだけは何故か薄暗く感じてしまう。
そんな怪しい空気が漂う中、俺は目の前の小屋の扉をノックする。
ノックする回数は6回、ダリアによるとこうしなければ出てこないらしい。
ノックをした後、そのまま扉の前で開くのを待つ。
その十数秒後、鍵を開ける音の後に扉が開いた。
「……………誰だ」
中から顔を出したのは、目付きの悪い眼鏡をかけた老人だった。
その目は俺を疑いの眼差しで鋭く射ぬいている。
正直かなり怖いが、とりあえずダリアの依頼を果たさなければ。
「ダリアからの物を届けにきたんだ。ほら、この手紙と木箱の2つだ」
そう言って持っていた木箱と手紙を目の前の老人に渡した。
老人は2つを受け取ると木箱を足下に下ろし手紙を開けようとする。
あ、そういやこんな事も言われてたな。
「それと報酬はここで貰えって言われてるんだが、大丈夫か?」
「何だと?」
それを聞いた瞬間、老人の只でさえキツい目付きがより細くなり鋭さを増した。
それにより俺にかかるプレッシャーもますます大きくなる。
いや俺が言ったんじゃないんだから、そんな怖い目で睨みつけないでくれよ。
文句ならダリアに言って下さい。
「な、なんか手紙を渡せば伝わるって言ってたから、その中に書いてあるんじゃないのか?」
その鋭すぎる眼光を真正面から受けつつも、何とかダリアから言われた言葉を老人へ伝える。
老人はそれを聞くと、俺を一睨みした後開けた封筒から取り出した手紙に目を落とした。
老人が放つ眼光とプレッシャーからようやく解放された俺は、相手にバレないようにしながら軽く息を吐いていた。
全く、なんで届け物渡すだけでこんなに疲れなくちゃいけないのか?
てか、ダリアもダリアだ。こんなキツいじいさんが相手なら始めから言ってくれりゃあいいのに。
まあ悪戯でわざと言わなかった可能性もあるがな。
今朝の様子からして、むしろそっちの方が正解かもしれん。
「おい小僧」
「っ!!な、なんだもう読み終わったのか」
突然の声にびっくりして慌てる俺。
どうやら老人は既に手紙は読み終えたようだ。
老人の表情は先程よりは心なしか緩んでいる気がするが、やはりまだかなり不機嫌そうだ。
「で、報酬はどうするんだ?」
「……それについて、話がある。中に入って来い」
老人はそう言うと、木箱を持って小屋の中に戻っていってしまった。
いきなりの台詞に一瞬呆けてしまったが、俺も慌てて老人に続いて小屋へと入っていった。
小屋の中に入って俺が見たのは、まさしく『作業場』と呼ばれる空間だった。
それほど広くはない室内にある大きな作業台の上には多様な工具が無造作にあり、それとは別の工具箱も幾つか床に置かれている。
そして棚にもモンスターから取れる毛皮や骨の様なアイテム達や何か薬品が入っているであろうビンが並べられていた。
壁際には武器まで立て掛けられているようだ。
老人は奥の作業台に抱えていた木箱を置くと、こちらに振り向いて話始めた。
「………さて、さっきも言ったが話とは今回の報酬についてだ。小僧、お前には二通りの褒美が用意されている」
「二通りって事はどちらか一つって事か?」
「そうだ、どちらを選ぶかはお前が決めていい」
選択式とは変わった報酬だな。
まあでも、プレイヤーが欲しい方を選べるのは嬉しい配慮だ。
そんな事を考えつつ、老人に報酬の内容について質問した。
「………内容は?」
その質問に対して、目の前の老人はいかにも不機嫌そうな顔で俺に向けてこういい放った。
「今回の報酬、それは純粋な金銭での支払いか、またはお前が『装飾』と呼んでいるものについての技術をワシから学ぶか、そのどちらかを選んでもらう」
……………え?装飾?




