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なんか思ったよりも早く書けましたので上げました。
共同鍛冶場を出た後、俺はSP回復に必要な最低限の量の食料を買い込むとそのまま宿へと戻っていた。
「ご馳走様でした」
買って来た食事を食べ終えると、作業台の椅子から宿の部屋に備え付けられているベットに座る場所を移す。
しかし今までは余り気にしなかったが、そろそろこの部屋での生活も不便に感じてきたな。
そもそもこの部屋は生活するには色々物が足りていない。
あるのは作業台とその椅子、ベット、アイテムボックスのみ、作業と睡眠だけならこれでも充分事足りるだろうが最近になって不満が出てきたのだ。
食事をとる時もこの部屋にはテーブルがないので作業台を使っているのだが、やはり何か落ち着かない。
じゃあ何か適当に木でテーブルでも作ればいいのでは?というとそうでもない。
実はこの部屋には元から設置してある物以外の家具は置けない様になっているのだ。
理由はここはあくまで『宿屋』、つまり一時的な宿泊施設であり、プレイヤーが購入した物ではないからである。
この宿屋の主人によると、自分の部屋が欲しければ土地を買うか部屋を借りるかしなければならないらしい。
ただ主人にはそれ以上の事は分からず、どうすればいいかまでは知らないと言っていた。
どちらにしても、今以上に金がかかる事に違いは無い。
今の金欠の俺には縁遠い話だ、不満があろうと無かろうとどうしようもないのでしばらくは今の生活を続けるしかないのだろう。
閉話休題
俺はベットに腰かけるとイベントリからあるアイテムを取り出した。
そのアイテムはドガロからボーナスとして貰った絵本『せかいのはじまり その2』、俺が図書館で読んだ本の続編である。
まさかドガロの所から出てくるとは思わなかった。
本の表紙には題名と3つの円を頂点とした逆三角が書かれていて、上2つの円は各々男と女なの横顔が、下の円には狼とも獅子とも言えそうな獣の横顔がその中に描かれていた。
たぶんこれは絵本に書かれていた3つの神だろう。
そして三角の中心には島のような物が書かれている。この島は前回の本で言う"はじまりのせかい"だな。
しかし何故逆三角なんだ?
そんな軽い疑問を抱きつつ、俺は本を開いてページを捲り始めた。
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昔々 まだ世界が生まれて間もない程に昔
"はじまりのせかい"の周りには 3つの神々がいました
"せかい"を生み出した神々は それを眺めて 時を過ごしていました
神々に見守られながら "はじまりのせかい"は どんどん変わっていきました
木々は伸び 地面には小山ができ 水が沸きだし 生き物達はその数を増やしていきました
その"せかい"の変化は 変わる事のない 3つの神々にとってとても興味深いものだったのです
特に 獣の神は 自分が作った"せかい"に 夢中になっていました
獣の神にとって "せかい"は初めて出来た 子供の様なもので "せかい"が成長していくのが 嬉しくて 仕方がなかったのです
そうして 順調に成長を続けていた"せかい"ですが ある問題が 出てきました
順調に 数を増やしていた生き物達でしたが 数を増やし過ぎて 大地から溢れ 落ち始めてしまったのです
大地の上の生き物達は 恐怖から悲鳴を上げ 大地の上で互いを押し合い 苦しさからうめき声を上げました
それを見た神々は 驚き 慌てて 新しい大地を作って "せかい"に 張り付けていきました
大地は少しずつ 広くなっていきましたが それでもまだまだ 足りてはいませんでした
そうしている内に "せかい"である事が 起きていました
押し合いをしていた ある生き物の爪が 別の生き物の体を 傷つけてしまい それが元で 争い始めたのです
その争いは すぐに周りにも広がり 大きな争いとなりました
沢山の生き物達が 互いに殺し合い 大地に多くの血が流れました
争いが大きくなる度に "せかい"に響く悲鳴も 大きくなっていったのです
そんな"せかい"を見て 神々は 嘆きながら 途方にくれていました
特に獣の神は 大きく涙を流して 泣き叫びました
「死んでいく!! 私の作った"せかい"が 私の子供達が死んでいく!!」
そう悲鳴を上げて 叫びました
様々な悲鳴が響き渡る そんな中 遂に"せかい"に 限界がきました。
増えた生き物達 始まった大きな争い "せかい"を覆う嘆き それらに大地が耐えきれず 崩れ始めたのです
地面には皹が入り 山は割れ 割れ目から溶岩が吹き出し 次々と生き物達を飲み込んでいく
それを見た獣の神は 遂にある事を決め こう言いました
「私が子供達の大地になろう 今の大地が狭すぎると言うのなら 今の大地が脆すぎると言うのなら 私と大地を一つにして 私が"せかい"を支えよう」
それを聞いた2つの神は 慌てて獣の神を止めました
まだやってない事がある筈だと 他にも方法がある筈だと
しかし獣の神は 全く聞く耳を持ちませんでした
「私はもう我慢出来ない これ以上の悲鳴に耐えられない」
そうして獣の神は 自らの体を巨大な球体に変えて 大地と融合を果たしました
獣の神と融合した大地はとても大きな物になりました
大地の崩壊は止まり それにより争いも止まり 生き物達はそれぞれ 広がった大地に散っていきました
それから"せかい"には 悲鳴が響く事は ありませんでした
それを見た2つの神々は 喜びながらも 悲しみました
ずっと共に時を過ごした神々にとって 一つの神の不在は 身が引き裂かれた様な悲しみでした
その悲しみから神々は涙を流し その涙は"せかい"へと 延々と降り注ぎました
降り注いだ涙は雨となり "せかい"を流れ 川となり 湖となり 海となりました
一頻り泣いた後 残された神々は ある事を決めました
女の神は こう言いました
「"せかい"と一つになりましょう これ以上 子供達が零れ落ちる事が無いように」
男の神は こう言いました
「"せかい"と一つになろう 獣神が孤独にならないように 一つで寂しくないように」
そう言って 神々はそれぞれ その姿を変化させました
女の神は 闇となって"せかい"を包み 男の神は 輝く太陽となって"せかい"を照らしました
2つの神々によって 明るい所と暗い所 昼と夜 光と闇が"せかい"に出来ました
こうして"はじまりのせかい"と3つの神々が融合した今の世界
"エンティアス"が出来たのです
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………この本を読み終わって思わず一言、
「これ絶対子供用の本じゃねぇ」
そう言わざるをえない内容だった。
文章だけならまだ良かった。直接的な表現は少なかったからな、まだ子供の読んでいい範疇だったよ。
だが一緒に書かれてる絵がヤバい、かなり直接的に書かれてる。
特に争いのシーンなんかかなりのグロだった。
色々な獣とか人が互いに殺し合ってるし、千切られた腕とか頭とか目玉とか色々なものが絵に書かれてる。
こんなの子供が読んだら絶対泣くわ。
まあそれでも悪くない内容だった、と思う。
面白いかどうかはわからないが、何があったのかは十分理解出来た。
この本で得られた新しい情報は、
・この世界は"はじまりのせかい"ではない
・3つの神々は世界と一つになっている
・この世界の名前は"エンティアス"である
この三点ぐらいかな。
俺がそんな事を考えていると、突然俺の前に画面が表示された。
内容はこんなだった。
『
おめでとうございます!!
貴方はこの世界"エンティアス"の名前にたどり着いた
初めてのプレイヤーとなりました。
その特典としてアイテムを後日送らせていただきます。
どうぞこれからもこのゲームをお楽しみ下さい
』
「特典ねぇ、どんなアイテムなんだろ?」
俺としては、やはり本がいい。
消費型のアイテムは使ったら無くなるし、かといって武器なんか貰ってもいまいち嬉しくない。
やはり装備品は自分で作った方が楽しいしな。
本ならコレクションにもなるし、面白ければ何度も読み返せるからいいんだよな。
まあアイテムが何であれ損にはならないだろうし、送られて来るのを楽しみにして待ちますかね。
そうして俺は読み終わった本をアイテムボックスへと仕舞った。
【言語】Lv12
絵本の絵はプレイヤーの年齢によって変化します。




