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page 22

また大幅に遅れてしまいました。

一旦止まるとまた始めるのって大変です。


ドガロからのクエストを受けた次の日の朝、依頼を達成すべく俺は草原をエントマから北に向かって進んでいた。


草原にはそれなりにプレイヤーがいるが、ゲーム開始当初のような騒々しさはなく穏やかな空気が流れている。

もちろんモンスターは出てくる事もあるが、小角兎……ミニホーンラビットをはじめ、ここのモンスターは大体がノンアクティブなので此方が手を出さなければ戦闘になる事は余りない……一時ユニークによる虐殺があった気がするが、あれは例外だ。

そのお蔭で何度か戦闘はあったものの、草原では特に何のハプニングも起こる事も無く俺は目的地の森へと到着した。


俺は森の中へと入って行くと、早速目的の物を探し始めた。

調べた限りじゃここは深緑の森よりも遥かに小さい森なので、見つけるのにそう時間もかからない筈、等と考えている間に、


「っと、早速見つかったな。これがニム草ってやつか」


俺がまず発見したのはニム草だった。

ニム草は先端に黄色い実をつけた稲のような姿の植物だ。

黄色い実と葉の部分は食用のアイテムとして使われるらしいが、今回はその2つには用はない。

今俺が欲しいのはその下にある根っこの方だ。


俺はニム草のすぐ近くで地面に膝をつくと、アイテムのイベントリからあるアイテム……木製のシャベルを取り出した。

このシャベルはニム草を採取する為、昨日の内に自分で製作した物である。

どうもニム草の根は上の部分と比べてかなりデリケートなようで、少し傷付けただけでも使い物にならなくなってしまう。

なので採取する時は他のアイテムのように引っこ抜かずにこうしてシャベル等で土ごと掘り出してやる必要があるのだ。


因みに、この情報も昨日の内に図書館にあった子供用の植物図鑑で調べた物である。

絵付きで植物の特徴を簡単にまとめて書かれていたので、内容はとても理解しやすかった。

ただいかんせん子供用な為か、残念ながら利用法については何かの薬に使う事位しか載っていなかった。



取り出したシャベルで根っこを傷付けないように、ニム草の根元から少しずらした所から堀り始めた。

木製のシャベルなので若干掘りにくいが、そこはしょうがないので余り気にしないでおく。

土ごと根を掘り出した後は、慎重についている土を払い落としてからイベントリに収納する。

これで一つの根の採取が完了となる。


終わるまでに少々時間はかかるが、作業自体はそれほど難しいものでも無い。

時間にも余裕あるし、この調子ならかなりの数の採集が期待出来るだろう。


「(イガグルミの採集はかなり簡単だし、先にこっちをある程度集めた方が効率的だな)」


普段の俺なら効率などは余り考えたりしないのだが、今回はボーナス分の事もある。

鉄素材購入後の金欠が予想出来るだけに、その前になるべく貰える物は貰っておきたい、というのが俺の本音だ。

しかもボーナスは出来高、その分張り合いも出るというものだ。


「(さて、この調子で取れる分はどんどん採っていきますかね)」


俺はさらに森の奥へと足を進める。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……ふぅ、かなり集まったし、大体こんなもんでいいか」


森のモンスターと闘いながらもニム草を集めること数時間、

20以上の数が採集出来た。

書かれた数は越えてるし、これだけ集められれば十分だろう。

そこで俺はニム草集めを一旦止め、今度はイガグルミ集めへと移った。


イガグルミは名前の通り胡桃であり、食用アイテムとして使われる。

その外見は『栗の棘を殻に張り付けた胡桃』といった感じで棘だらけだが、味は普通の胡桃であるらしい。

このイガグルミは特定の木の高い場所についているが、先程言った通り、採集方法は案外単純である。





「えっと、確かこの木でいいんだよな?」


辺りを探す事約数十分、俺はようやくイガグルミがある木を発見した。

俺はあっさり見つかると思っていたのだが、森の中では他との違いが非常にわかりにくく、予想以上に時間がかかってしまった。


しかし前から感じてたが、この探索ってのは思ったよりもかなり疲れる作業だな。

VRだから体力は全然平気なんだが、精神的な疲れが溜まってくる。モンスターもいきなり飛び出してきたりするから常にある程度気を張ってないといけない、というより意識してなくても自然と張ったままの状態になってしまっている。

俺は【盗賊】のおかげで少し離れた位置からモンスターを察知出来るからいいが、感知範囲の狭い他のプレイヤー達はどうしてるんだろうか。

やはりこういうのは慣れしかないんだろうな。


そんな事を考えつつ、イガグルミ採取するために背中に背負っていた木槌を構えた。

なんで木槌を使うかと言えば、別にこの木は実はモンスターである、なんて訳ではなく単純に木を叩いてイガグルミを落とす為に使うのだ。

木の高い所にあるイガグルミを取る為には、 木に登るか木から落とすかのどちらかしか無いのだが『登る』という行為は専用のスキルが必要なため、今の俺ではする事は出来ない。


なので必然的に木から落とす方法になるわけだが、この場合でも別に武器を使わずとも体当たりや木を揺すったりすればイガグルミを取る事は出来る。

そうしない理由は……まぁ、すぐにわかる事なのでとにかく始めよう。


「………ふんっ!!」


そんな掛け声と共に木槌を振り回し、木の幹に叩きつけた。


余り力を入れ過ぎると木が折れてアイテムを取れなくなる事があるので一応込める力は加減している。

今の俺にそんな攻撃が出来るとは思えないけどな。


攻撃による衝撃でガサガサと木が大きく揺れ始めたのを確認した俺は、急いでその木の側から離脱する。

俺がその場から離れた途端に木の枝からボタボタと何かが次々と落下、インクを垂らすように地面に黒い点を増やしていった。


木から少し離れた場所から木の揺れと落下が停止するのを待ち、木の揺れが収まったのを確認してから落下物を見に近くへと寄る。


近くに寄った俺の目に入ってきたのは地面の上の大量の黒い物体、毛虫達の蠢く姿だった。


「うっ…これは中々に凄い光景だな」


その気持ち悪さから思わずそんな台詞が口から漏れ出る。

別に俺自身は特に虫嫌いという訳ではないが、今目の前に広がる光景を前にしては流石に気持ち悪いと言わざるをえない。

どう見たって10匹以上は確実にいるぞあの毛虫。


それはそうと、今俺の目の前にいる大量の毛虫達、実はれっきとしたモンスターである。

この毛虫達はサイズは小さく普段は姿も見せないのだが、こうして木を大きく揺らしたりすると枝から大量落ちてくる。

幸い攻撃能力を持っていない為に直接的にダメージを受ける事はないのだが、厄介な事にコイツは毒を持っていて体に触れるとランダムで毒と麻痺の状態異常にかかってしまうのだ。

すでにコイツの毒の被害にあったプレイヤーもかなり居て、運の悪い奴は麻痺と毒の両方にかかり何も出来ないで死ぬ、なんて事態も起きていたりする。


「って虫はどうでもいいんだ、イガグルミイガグルミっと」


一先ず毛虫の事は横に置いといて、目を凝らして地面の上の落ちてきた毛虫以外の物を探し出す。

木から落ちてきたのは大半が毛虫だったが、よく見てみればその中に全く動いていないものがいくつかあるのが見えた。


毒にならないように木槌で地面の毛虫達を潰しながら、動いていない落下物の所までの道を作りながら進み、回収していった。

………因みに、この毛虫達を倒してもアイテムは得られる事はない。本当にひたすら面倒くさいだけの虫である。

アイテム名は鑑定しないと分からないが、恐らくすべてイガグルミで間違いないだろう。

図鑑に載っていた通りの見た目だ。

回収出来たのは全部で3つ、図鑑によると一本の木に対して取れるイガグルミの数は1~3らしいので中々に大量だ。


俺はイガグルミ3つをすべてイベントリに突っ込むとその場を離れ、新しいイガグルミの木を探し始めるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「しかし両方とも大量に取れたな。こんだけ取ればドガロも文句ないだろ、そしてボーナスも……いやー、こりゃ結果が楽しみだな」


あれから2~3時間後、目的の品を集め終わった俺は浮かれ気分で無事エントマへの帰途に着いていた。

先程言った通り両方とも大量に取れて浮かれているせいか、足取りもどこか軽いように感じる。

ニム草の根もイガグルミも取れた数が20個以上、この収穫では気分も浮かれるというものである。



こうして俺は森の中をどんどん突き進んでいた。

特に問題なく順調に森を進んでいた俺であったが、進むにつれて何か違和感を感じ始めていた。

始めは浮かれていて特に気にも止めなかったが、次第にそれは俺の中でその存在感を大きくしていき、もうそろそろ森から出られるという時になって初めてその違和感の原因に気が付いた。


「……そうだ、モンスターの気配が感じられないんだ。ここに来た時は2~3体ぐらいは感知に引っ掛かっていたのに、さっきから全く気配が感じられない」


その事実を自覚した途端、周りの空気の温度が下がった気がした。

俺がモンスターの気配を感じなくなって既に15分は過ぎているが、ここより広い東の深緑の森ですら15分の間モンスターの気配を感じなかった事なんて無かったというのに、さらに小さいこの森でモンスターの気配が全く感じられないなんてある筈が無いのだ。


「(何か変だ)」


俺の中で言い知れぬ不安が募っていく。

周りの異常を明確に感じ始めた俺は早く森から立ち去ろうと、走り出す為に足に力を込めた。











だがその対応を行うには、俺は余りにも遅かったようだ。










それは突然の出来事であった。


ザワッとした感覚が俺を襲った。


「な、なんだ!」


その気配に驚いた俺は思わずその場からで足を止めた。

別に気配を突然感知した事に驚いて足を止めた訳ではない。今更そんな事で一々足を止める程驚いたりは流石の俺でもしない。

俺が驚いたのは、普段感じるモンスターの気配に比べて異様だったからだ。

まず気配自体が今まで感じた事の無いくらいデカイ。今までで一番気配の大きかったあのランナーズボアよりも圧迫感を強く感じる。

何よりおかしいのは、その気配の出所が俺には分からない事だ。

どんなモンスターも察知範囲に入ればどちらの方角から来たのか分かるのだが、コイツに関してはそれが全く分からない。

確かに近くにいる筈なのに何処に居るかが感知出来ないのである。

まるで回りを囲まれている、というより包まれている感覚だ。

気味悪いぞまったく。


「くそっ、何なんだよこれは!?」


この突然の異常事態に不安と焦燥感をさらに高めながら、背中の木槌を構えて戦闘に備える。

しかしこのデカイ気配を前にして、この手に握る木槌のなんと頼りない事か。

【闘金槌】のスキルレベルの上昇で最近軽く感じていた重量もそれを助長させた。


俺の不安が増したところで状況に変化が訪れた。

敵の気配が明確になり、俺の真横に出現したのだ。


「っ!?!!」


俺は慌ててその場から飛び退き、体勢を整えながらその方向に視線を向けた。


そこにいたのは、今まで見た事の無い、異様としか言い表せない姿をした四足の獣だった。

その獣はには体毛らしき物は見当たらず、その代わりをするように周囲に青と黒の煙のような物が混じり合いながら立ち上ぼらせており、その体に纏わせている。

その姿は狼に似ているようで、だが明らかに違う大きな爪と長過ぎる舌を備えた、化け物としか言い様がない姿だ。


「……………」


俺はその獣を前にして、茫然としながらただただ驚くばかりだった。

敵を目の前にしながら、武器を構えていても攻撃することもなく、目を見開いて敵の異様な姿を見つめ続けている。


そんな時間は長く続く事はなかった。

獣は茫然としている俺の様子などお構い無しにその場で跳躍、俺目掛けてその大きな爪を振りかぶった。


「っ!?」


敵の突然の攻撃、それに対して俺は驚く暇もなく体を捻りながら横に飛び退いてなんとか回避を試みる。

獣と俺の体が空中ですれ違い、そして、


ズシャッ!!


その鋭い音と共に、獣の爪が俺の腕を切り裂いた。

無理やり横に回避した俺は、体勢を崩したまま地面へと倒れ込んだ。

切り裂かれた腕に痛みを感じながらも体を動かそうとした。

その時、自分の体の異常に気が付いた。


「(か、体が動かない!?もしかして麻痺ってんのか!?)」


どうやら先程の爪攻撃には麻痺効果があったらしく、全く体が動かなくなっていた。

俺は半ばパニックになりながらも体に力を込めるが体はそれに答える事は無く、ピクリともしない。

俺がもがいてる間にも、獣は此方に近づいてくる。


そして、とうとう獣が俺の近くにまで寄ってきた。

奴は、体の動かない俺に舌をチロチロさせながらその頭を寄せると、


ドスッ!!


俺の体にその舌を突き刺した。体に痛みが走る。

奴は行動はそれでは終わらず、その舌を脈動させて俺の体からナニカを吸い始めた。


「(ヤベ……、意識が……)」


獣にナニカを吸われる度にどんどん意識が遠のいていくのを感じた。

意識の遠のきと共に次第に体に込めていた力も無くなっていく。


そして、奴が吸うのを止めて舌を引き抜く。

それと同時に、俺の視界は完全に真っ暗になった。

本当は探索で終わらせる予定でしたが、なんか物足りなかったので、少し要素を加えてみました。

続きはなるべく早く上げます。

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