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page 19

区切りがわからず、いつもより長くなってしまいました。それにしても戦闘シーンは難しくて疲れます。




「よしヤシャ、ここら辺でいいだろう。マルクの合図を待つぞ」


「りょーかい」


小さく抑えられた声で話したその言葉を最後に、俺達は武器を構えたままの状態で黙ってその場に身を屈めた。


現在、俺とヤシャはマルクが考えた奇襲作戦の為に目標であるランナーズボアの斜め後ろ、マルクがいる場所から向かいの林に身を潜めていた。

予定ではマルクが俺達が止まったのを確認したら、弓で攻撃する前にメールで合図を送る事になっている。

俺達が攻撃するのは、ランナーズボアが攻撃したマルクを見つけてからだ。

こちらから連絡しないのは、音などで敵に気付かれるリスクを減らすためだ。



合図の前に敵の姿を確認するため、林から目標の様子を伺って見る。

俺の視線の先には、グレイウルフよりも一回り大きい全身茶色の毛に赤いたてがみを生やした猪がいた。

そいつは体型としては一般的な猪を大きくした姿であったが、口の両端から牙が前方向に突き出ておりどこか攻撃的な見た目をしている。


(あれがランナーズボアか。想像してたのより少し大きいな)

口には出さずに、心の中で呟く。


ランナーズボアは木の根元に鼻先を突っ込んでゴソゴソと動かしていた。目を凝らして見てみると口が動いているのが分かる。

どうやら何か食べているみたいだな。

あの様子なら大きな音でも立てない限り、こちらには気付く事はないだろう。


しかしコハリドリの姿が見当たらんな。

確かにここにいるのは分かるんだが、姿を確認する事ができない。

すると、俺のそんな様子に気づいたヤシャが俺の肩を叩いてある場所を指差した。

ヤシャが指差した先、ランナーズの頭上の木の枝に三羽の鳥がとまっていた。

残念ながら枝葉に隠れて全体像は確認できないが、赤茶色の羽が緑色の葉の隙間からちらちらと覗いているのが見えている。

少しだが頭部も確認できた。

聞いていた通り、嘴が体の大きさに比べて大分長くなっている。あれがコハリドリで間違い無さそうだな。


「(てかあれのどこを見たらコハリなんて名前がつくんだよ。

十分過ぎるくらいに長いっつーの)」


そんな事を考えていると、頭の中で電子音がなった。

ヤシャに顔を向けると、向こうも此方を見て頷いている。

どうやらマルクからの合図で間違い無さそうだ。

その事を意識した為か、急に息苦しくなったように感じた。

緊張のせいだろうか、思わず武器を握る手にも力が入る。

ランナーズボアを見つめながら、昂った呼吸を鎮める様に深呼吸して気を落ち着ける。

そして、武器を構えて身体強化を使用して開始を待った。








その数秒後、ヒュッ、という音がした。

そして次の瞬間、ドスッという音と共に俺の視線の先にいたランナーズボアの胴体に棒状のものが突き立った。


マルクの放った矢だ。


「ブビィィ!?」


痛みからか、そんな鳴き声を上げながらランナーズボアが体をよろめかせる。

しかし2・3歩よろめいた後、体勢を建て直して矢が飛んできた方角、つまりマルクがいる方に正面を向けた。

体の向きを変えた途端、ランナーズボアが毛を逆立て前傾姿勢を取る。

どう見てもダッシュしようとしてる姿勢だ。

それは自分を攻撃した者への反撃の準備であり、又はーー





(ーーーそれはつまり、俺達の攻撃開始のタイミングだって事だ!)



その姿を見たヤシャが林から飛び出した。

俺もそれに続く形で飛び出してランナーズボアに接近を開始する。

標的の背景にコハリドリ達がマルクに飛んでいくのが一瞬見えたがそれは敢えて無視、脇目もふらずに森を走り抜けていく。


俺達は約10m程の距離を瞬く間に走り抜け、潰していく。

そして、とうとうヤシャがランナーズボアを攻撃範囲に捉えた。

ヤシャが走りながら構えていた剣を標的の背後目掛けて降り下ろす!



ザシュッ!!

何かを斬り裂く音が聞こえ、次の瞬間、


「ブギィィィ!!?」


さっきよりも大きな悲鳴が森に響いた。


再び体をよろめかせるランナーズボア。

そんなランナーズボアから急いで離れるヤシャ。

それと入れ替わる様に、俺も標的に接近して相手を攻撃範囲に捉える。


ランナーズボアの背後で足を止め、しかし手に持った木槌の勢いを殺す事なく、相手目掛けて思いっきり振り抜く。

まだ体勢を崩したままのランナーズボアに攻撃を避ける術はなく、その木槌の一撃は難なく胴体の横を直撃した。



ズガッ!!という音と共に武器を持つ手に確かな感触が伝わってくる。

これは間違いなく不意打ち入ったな。



俺の一撃を受けたランナーズボアはバランスを崩していた所に攻撃された為か、衝撃で体が横方向に転がって行き、2回転程して停止した。


ランナーズボアは少々動きを止めていたが、直ぐ様足をバタつかせて体勢の立て直しを図ろうとする。


「(まあそうだよな。流石にあれぐらいじゃまだ仕留められないか。マルクもかなりタフだって言ってたからな)」


その様子を見た俺は深追いする事なく、後ろに下がってヤシャと同じくランナーズボアから距離をとった。

今突っ込んでも仕留めきれるかわからないし、出来なかった場合至近距離から奴の体当りを食らうからな。

グレイウルフと比べてもコイツの攻撃の威力はかなり高いって話だし。


俺が下がりきって構えると同時に、ランナーズボアも体勢を立て直し終えていた。

向かい合っている俺と奴の視線が一瞬重なる。

奴は俺とヤシャを見比べる様に確認すると数秒程その動きを止めた。


静寂が俺達がいる空間を支配する。


そして、ーーー



「ブギィィィィィ!!!」


その静寂をランナーズボアの雄叫びが引き裂いた。

俺とヤシャの間に緊張が走る。

俺達は緊張しながらランナーズボアの次の行動に備え、武器を持つ手に力を込める。

すると奴は次の瞬間、





くるりと方向回転して、林の中へとその姿を消した。






「……………逃げた、のか?」

相手の突然の行動に追撃をかける事も忘れて茫然となる俺とヤシャ。

モンスターって逃げるものなのか?

遠ざかっていく気配を確かめながら、取り敢えずヤシャに聞いてみる。


「なぁ、モンスターって戦闘中に逃げる事ってよくある事なのか?」


「い、いや俺もそんな話聞いたことがないんだが」


ヤシャも混乱気味なのか、今の状況に戸惑いを隠せていないようである。

とにかく、敵が逃げてしまったので一旦身体強化を解除、構えていた武器を下ろす。

しかし、てっきり飛び掛かって来るものだとばかり思っていたので拍子抜けしてしまった。



「(これからどうするかな、一先ずマルクの所へ戻った方がいいか。)」


そう考えた俺はマルクの気配を辿るべく意識を集中して、ーーー






ーーー感じ取っていた気配に微妙な違和感を覚えた。


今俺が感知している気配は二つ、森の道にいるマルクとさっきこの場を去ったランナーズボアである。

マルクは別に何の問題もない。

元々この作戦ではマルクには動かないでいてもらう予定だった。

そうすれば、俺とヤシャが道から外れて行動しても俺がマルクの気配を捉えている限り、俺達は道に戻る事が出来る。

いわば目印のアンテナ役だ。寧ろ動かれてはこちらが困ってしまう。


問題はランナーズボアの方だ。

まずおかしいのは俺が感知しているコイツの状態である。

俺が感知した感触からいって、さっきまで逃げていたはずのコイツは今、全く動かずに動きを停止させている。

そもそも今コイツを俺が感知している事自体がおかしいのだ。

何で逃げ出した筈のコイツがまだ俺の感知範囲内に留まっているのだろうか?



そうこう考えている内に状況がさらに変化する。


どうやらランナーズボアが再び動き始めたようだ。

しかし先程とは進行方向を逆に進んでいる。

進行方向が逆、それはつまりこちらに戻ってきているという事だ。

俺はこの事をヤシャに伝えた。


「おい、さっきの猪がこっちに戻って来るぞ」


「え、マジで?」


会話をしてる間にもランナーズボアはどんどん此方に近づいて来ている。

というか近づいて来るスピードが思ったよりも速い。


「(…まさかアイツ、加速しているのかっ!!)」


寧ろそうとしか考えられなかった。

たがだとすれば俺達から逃げたのにも納得がいく。

あれは逃げたんじゃなく、加速の為に一旦離れただけだったのか。


「(だが一体何の為に加速してーーーーって、そうか!!)」



ここで俺はようやく思い出した。

奴の唯一の()()()()の事を。


俺は急いで身体強化を使用、下ろしていた武器を構え直してヤシャに向かって叫んだ。


「まずいぞヤシャ、あの猪猛スピードに加速してそのまま俺達に突っ込んでくる気だ!!」


「ちょっと待て、今コッチでも感知してーーってうわ!?何だコイツ、マジかよ!!?」


ヤシャも感知範囲に入ってきたランナーズボアのスピードに気づいたようで、手に持っていた剣を気配のする方へと構える。

いつの間にか、辺りに何かの走る足音と何かを突き破る様な音が聞こえてきていた。

こころなしか、周囲の空気が張り詰めてきたようにかんじる。

ゴクリ、と息を呑む音が聞こえた。



やがてーーー



バァン!!


そんな音を立てながら俺達の目の前の林が弾け、そこから飛び出した茶色の巨体が凄い速さで俺目掛けて突進してきた。


そのスピードに驚きながらも、何とか攻撃を避けようと体を捻りながらの回避を試みる。

だが、俺の出だしが遅かったせいか、それとも相手が速すぎたのか、完全に避ける事は出来ずに相手の巨体が俺の左肩に当たった。


ガッ、という音と共に凄い衝撃が左肩から伝わってくる。

俺はその衝撃の重さに耐えられず、体を浮かせながら後ろに倒れ込んだ。


「ゼン大丈夫か!?」


派手に倒れた俺を見て、慌てたヤシャが俺に近づいて来た。

体を起こしながら、何とか返事を返す。


「あ、ああ何とかな。ギリギリ直撃は避けられたから。それより奴は」


「お前を吹っ飛ばしてそのまま走り抜けて行ったよ。気配も俺の感知範囲外でわからん。ほら手ぇ貸すから早く立て、どうせまたくるぞ」


差し出された手を取って立ち上がると、直ぐ様敵の気配を探る。

………どうやらそれほど離れてはいないようだな。

移動速度と動きを見るに、少々スピードを落としながらも回り込んで、別角度からまた突っ込んでくる気だな。

細かい量はわからんが、体感でも分かるくらいさっきのダメージが意外にでかい。

敵の気配を意識しつつ、さっき削られたHP回復の為の簡易ポーション取り出して一気に呑む。

はっきり言って不味いがそうも言ってられない、ここは我慢だ。

そんな俺に武器を構えたままのヤシャが提案をしてきた。


「で、どうする?マルクと合流して3人で対処するか?」


「いや、あのスピードじゃ合流前に追い付かれて轢き殺される。それに奴に一人でいるマルクの所へ向かわれるのもマズイ」


「じゃあどうするんだよ?」


「俺が何とか奴の動きを少しの間止める。その間にダメージを与えて奴を倒してくれ。マルクにも知らせる」


「止めるって、出来んのかよ?」


「多分だけどな。ただ恐らく俺もダメージ受けるから攻撃は2人でしてくれ」


「…わかった。マルクへの連絡は俺が送っておくから、ゼンは奴に集中してくれ」


ヤシャはそう言うと、俺から離れてメニューを出して素早く操作する。

戦闘中は音声チャットは出来ない仕組みになっているのでメールでの連絡だろうな。

肝心のランナーズボアは……気配の動きからして、もう突っ込んでくるな。


俺は突っ込んでくるランナーズボアを向かえうつため、気配のする方へ武器を構えた。

俺が行うのはランナーズボアへのカウンターでの攻撃だ。

今までの経験で、カウンターが成功すると相手モンスターは再び行動するまでの時間が長くなるのがわかっている。

今回はそれを狙っていく。


「ゼン、こっちはOKだ!!」


「わかった、奴ももうくるぞ!!」


奴の攻撃をカウントダウンするかのように、前回突撃時に聞こえた音が耳に入ってくる。


「(クソ猪め、次はお前を吹っ飛ばしてやる!!)」


心の中でそう呟き、ビビらない様に自分自身に気合をいれた。



その数秒後、回りに響く音が最高潮に達し、





バァン!!



その音と共に、再び奴の巨体が姿を表し、俺に突っ込んできた!!

その巨大な茶色の砲弾は凄い高速で、がしかしーーー先程よりもスピードが落ちていた。



「(初撃よりも遅い!!いけるっ!!)」


そう確信しながら、迷いなく相手目掛けて構えた木槌を凪ぎ払った。

その一撃は間違いなく相手の猪を捉えていた。


ズガッ!!!!と音を立てながら、俺の木槌と奴の体が激突する。


お互いの攻撃が当たったその瞬間、力の拮抗によりお互いの体が完全に停止、時間が止まったかのようにその動きを止めた。


しかし、その次の瞬間ーーー





俺の体は、真後ろへと弾き飛ばされていた。


俺は、浮遊する感覚を味わいながら後ろに吹き飛ばされ、その進路上にある木に体を勢い良く叩きつけられた。


「ーーーカハッ!!?」


背中に衝撃が走り、口から息が無理矢理排出される。

俺は、その衝撃に意識が混乱しながらも、何とか体に力を込めて体勢の立て直そうとした。

俺は木に寄りかかりながら、今がまだ戦闘中である事を思い出し、咄嗟にある事を確認しようとした。


「(そうだ、アイツはどうなったんだ!?)」


俺は慌てて、自分が吹き飛ばされてきた方へと視線を向ける。

するとそこには、俺と同じように体を起こそうとするランナーズボアの姿があった。

どうやら、俺のカウンター攻撃は一応成功していたようだな。

ただ、相手の攻撃力が高過ぎて俺もぶっ飛んでしまったが。

奴はもがきながら何とか体勢を立て直そうとしているが、ダメージのせいか体がふらついていて上手くいっていないようだった。


今なら倒せる。

そう思った時、ランナーズボアに急速に接近する人影があった。

ヤシャである。

ヤシャは、手に持った剣を光らせながら走って敵に急接近する。

そして、自分の攻撃範囲まで近づくとその剣をランナーズボアに降り下ろした。


「ピギィィ!?」


攻撃を受けて鳴き声を上げるランナーズボア、しかしあの攻撃して受けてもまだ立ち上がろうとしている。


どんだけタフなんだよ、あの猪。しぶとすぎるだろ。

その耐久力に、驚くを通り越して少々呆れてしまう。

ヤシャが未だにもがいているランナーズボアに更に攻撃を加えようとして、



ヒュッ、ドスッ。


そんな音を立てて、ランナーズボアの顔面に矢が一本突きたった。

その一撃を食らったランナーズボアは、その瞬間に全身を震わせると体を横に倒れ込ませ、完全に沈黙した。


俺はその光景を見て、その場に座り込むと安心からホッと息を吐いた。




こうして、ランナーズボアと俺達の戦闘は漸く終わりを告げたのだった。



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