page 18
また遅くなってすみません。
徐々に元の投稿スピード戻していきたいと思います。
敵の気配を察知した俺達はその気配の元に向かっていた。
俺達は敵の気配を辿りながら森の道に沿って進んで行く。すると先頭のマルクが足を止め、俺達にその場で静止して頭を低くするように促してきた。
後ろに着いていたヤシャと俺は、黙ってその指示に従いその場でしゃがみこむ。
「見つけたのか。相手はなんだ?」
「赤いたてがみのある猪一匹と嘴が長めの小さな鳥3匹が見えるね」
質問するヤシャに対して、マルクは顔を林に向けたまま動かさずに答えた。
「赤いって事はランナーズボアか、鳥は……なんだっけ?」
「コハリドリだよ。しかしランナーズがいるとなると少し面倒だな」
「ああ、あいつがいると片方だけ釣るって訳にもいかないからな」
「でもこの人数ならやりようはあるよ。近くにいるのもコハリドリだけだからね」
「………あの、どっちかでいいんで、今の状況を俺に説明してもらってもいいですか?」
二人がわかってるのはいいんだけど、初心者の俺には今の会話はなにがなんだかさっぱりである。
森の奥に入るなんて今日初めて聞いたから、なんの前調べもしてないんだよね。
せめてどういうモンスターかくらいは教えてくれ。
二人は俺の言葉を聞いてハッとすると、軽く謝りながらモンスターについて簡単に説明してくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二人の説明によれば、赤いたてがみの猪はランナーズボア、鳥の方はコハリドリというらしい。
大きさはランナーズボアは普通の猪よりも少し大きく、コハリドリは少々長い嘴を除けば鳩くらいのサイズしかない。
この二種の内、コハリドリは大した事の無いモンスターだ。
コイツはノンアクティブで、こちらから仕掛けない限り俺達に攻撃してくる事は無い危険度の低いモンスターだ。
攻撃方法も単純で、目標に向かって嘴を向けて突撃するだけであり、その上一回攻撃するとまた上昇するのに十秒前後時間がかかる為、その間に簡単に倒せるのだとか。
二人が先程から問題にしているのはもう片方、ランナーズボアの存在だ。
このモンスターは、どうやら"ランナーボア"というモンスターの亜種らしく、背に生える赤いたてがみが特長らしい。
但し亜種と言っても少々攻撃力が高いぐらいで、能力的には大差無く、外見も赤いたてがみ以外の違いは無い。
攻撃方法もただひたすらに此方に突進するの一択で特に注意すべき点も無い。
では一体何が問題なのかと言えば、どうもこの猪は回りにいる他のモンスターに強制的にリンクするモンスターらしいのだ。
俺は知らなかったのだが、モンスター達には種別毎に"リンク範囲"なるものが設定されていて、その範囲内の他のモンスターが攻撃を受けるとリンクするシステムになっている。
このリンク範囲はモンスター毎に違いはあるがどれもそれ程大きくは無いが、このランナーズボアは他のモンスターと比べて格段に範囲が広いようなのだ。
しかもコイツにはもう一つ面倒な特長がある。
どのモンスターも自分が相手のリンク範囲に入っていても、自分の範囲に入ってなければリンクする事はまず無いのだが、コイツの場合だと相手の範囲関係無く、自分の範囲に入っているモンスター全てに勝手にリンクする。
つまり、ランナーズボアの範囲内にいるモンスターは常にリンクした状態にあるという事になる。
迂闊に攻撃するとリンクした全てのモンスターを一度に相手にしなければならなくなる為、手が出しにくい敵なのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「成る程。大体はわかったけど、じゃあ結局どうするんだ?」
二人に説明を受けた俺が次の行動について聞くと、マルクがこう返してきた。
「勿論狩るよ。ただ一気に来られるのは面倒だからちょっと工夫するけど」
「工夫?」
「うん。まあ、そんな大した事じゃないけどね。先ずはゼンとヤシャでモンスターを中心にグルッとここの反対に回ってくれ。あとランナーズに気付かれない程度に近付いて、そこで待機しといて。それから僕が攻撃するから、それに合わせてランナーズを攻撃してくれ」
「コハリドリはどうするんだ?」
「僕がランナーズに攻撃した時点であいつらのヘイトも僕に集まるはずだから、そっちは気にしなくていいと思う」
「え、でもそれだとマルクが危なくならないか?」
「それは大丈夫。ランナーズは突進する前に少し溜めがあるからコハリドリとは攻撃はバラける。コハリドリは初撃を避ければ後は僕一人でも何とかなるから。だけどあの猪が走り出す前にちゃんと攻撃してくれないと僕がかなりヤバくなるから気をつけてくれよ」
ランナーズボアまで来られたら流石に無理だからね、と苦笑するマルク。
すると、作戦を聞いたヤシャがマルクに対してある疑問を投げかけた。
「なぁ、別に二手に別れなくてもいいんじゃないか?人数も3人いるし、態々そんな危なくなるような方法を取るよりも、固まっていったほうが無難だと思うんだが」
確かにヤシャの意見にも一理あった。
この作戦だと俺達とマルクとで距離があるため、失敗した時にお互いのフォローが出来ない状態での戦闘しなければならなくなる。
しかも間にモンスターを挟んでいるため、戦闘中にお互いに近づくのも難しい。
そうなったら俺達はともかく、一人のマルクはキツいのではないだろうか?
自分でもヤバくなるって言ってる事だし。
ならば最初から固まって敵に対処した方がいいというヤシャの意見は至極尤もである。
態々危険な橋を渡る必要もないわけだしな。
その意見を聞いたマルクはそれに対して、
「ま、ヤシャの意見も尤もなんだよね。僕も普段ならそうすると思うし」
と、ヤシャの意見の正しさを素直に認めた。
しかしそこではマルクの話は終わらずに、更に続いていく。
「ただ、今日はこんな風なやり方でいこうと思うんだ。元々それが今日の目的でもあるし」
マルクのその言葉に怪訝な表現を浮かべるヤシャ。
「今日の目的?それって隠密の検証だろ、この作戦とどう繋がるんだよ?」
「うん、この作戦では同じモンスターに不意打ちを複数回行えるかを試したいんだ。……二人とも、不意打ちの条件って何だか分かる?」
マルクに問われて少し考え込む。
今までの戦闘で不意打ちを行ってきたが何となく感覚でやっていたので余り深く考えた事無かったな。
今までの事を思い出しながら、一つずつ話していく。
「え~と、まず相手に見られていない事だな。じゃなきゃ隠密使えないし。それから気配を察知されないで攻撃すると、不意打ちになったな」
「でも、気配がばれても不意打ちになった事もあったぞ。ゼンには無かったのか?」
「……あったな。でもならなかった時もあったんだよなぁ。………一体何が条件なんだ?」
う~む、不確定な情報しか持っていない俺ではハッキリしたことは言えないな。
ヤシャの方を見ても俺と同じ状態らしく、眉を寄せたまま首をひねっている。
ダメだなこりゃ、素直にマルクに聞いた方がよさそうだ。
「スマン、わからないんで教えてくれるか」
「ああ。とはいっても僕も自分でモンスター相手に調べた事しかわからないんだけど。簡単に言ってしまうと、相手に気配を気づかれても数秒以内に、視界に入らずに攻撃できれば不意打ちになるんだ」
「その数秒ってのはモンスター毎にバラバラなのか?」
「それに関しては多分そうだとしか言えないね。僕もそこまで多種類のモンスターと戦った訳じゃないから。それに数秒とは言ったけど実際に数えたんじゃなくて感覚で"それぐらいだった"程度の物だよ。ただそういう時間がある事を覚えとけばいいから」
ふむ、マルクの言が本当なら俺がさっき言った事の辻妻も合うな。
俺が納得していると、マルクが話を続ける。
「ちょっと話がずれたね。話を戻すけど、僕がなんでこんな方法を試そうとしたかって言えば、ここにいる3人全員が持っている隠密の使い方を増やしたいと思ったからさ。只でさえ、このAROは僕達みたいなソロにはしんどい仕様になってるんだ。自分のやれる事は序盤の今の内に試しておきたいと思ったんだよ。だから今日集めたメンバーもソロでやってる人を集めたんだ。これなら今日で得られた情報も誰にとっても損にならないからね。それに、ーーー」
「それに?」
俺が台詞を繰り返すと、マルクが肩をすくめながら、
「ーーー折角のゲームで遊んでるんだ。色々やった方が楽しいじゃないか」
などと、笑いながら軽い調子でいい放った。
俺はそのマルクのしぐさを見て、
「………プッ」
思わず我慢出来ずに吹いてしまった。
しかしマルクの言う通りだな。
このAROを始めて色々なものがかなりリアルだったから忘れていたが、確かにこれはゲームだ。
色々やって楽しんだ方がいいに決まってる。
二人はどうか知らないが、攻略を急ぐ理由も俺にはないからな。
「俺はマルクの色々試したいっていうのに賛成だな。確かにその方が楽しそうだ。ヤシャはどうだ?」
俺が自分の意見を述べてからヤシャに聞いてみると、ヤシャが返事を返した。
「いや、俺も賛成だ。そこまで考えてるんだったら俺にも文句はないよ。悪かったなマルク」
「ヤシャは悪くないよ。最初に詳しく話しておかなかった僕のミスだ、気にしなくていい。それよりも早くあの猪を狩ってしまおう。今日はまだ始まったばかりなんだから」
「そうだな、さっさと片付けるか」
こうして俺達はランナーズボア達を狩る準備を始めた。




