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page 15




受付から進み、本棚のある場所まで来た俺は、改めて回りを見回してみた。


図書館の中には何人かの人が椅子に座り本を読んでいる。

中には立って本棚を整理している人もいるが、彼らはNPCだ。

VRゲームではNPCとプレイヤーの判別が一目でわかるようになっている。

これは他のゲームでも同様であり、なかなか便利な機能だ。


彼らは受付の女性と同じ服を着て作業しているので、この図書館の職員なのだろう。


本を読んでいるプレイヤー達は、それぞれ違った物を着ているが大半がローブを着ていた。

何か理由が有るのだろうか?



まあいいや、そこらへんは今の俺には分からないし、ひとまず置いておこう。

俺はそこで回りの観察を止め、本棚に近づいていく。

本棚の前に行き、適当に本を一冊選んで手に取る。

まずは題名を確認しようと表紙を見るが………、


「何だコレ、何語?」


表紙に書かれていたのは、題名と思わしき見たこともない文字の羅列だった。

当然、こんな見たこともない文字が俺に読める訳もない。


「っておい、まさか」


この本の表紙にイヤな予感を感じ、本を開いて中を確認する。

するとそこには案の定、表紙と同じものと思われる読めない文字がズラリと並んでおり、文章を構成していた。


「…………………」


それを見ながら思わず呆然となる俺。

まさか、お金払って入った図書館で本が読めないなんて事があるとは思ってなかったのだ。


本を開いたまま"どうすんだコレ"と、そんな風に考えていると唐突に、


ピッ


そんな音と共に俺の目の前にウィンドウが開かれた。

俺は突然目の前に現れたウィンドウに驚きながらも、気を何とか落ち着けて内容を確認する。

見るとこんな内容であった。



『         注意       

 書物を解読するためには【言語】を取得する

  必要があります。

  取得しますか? Yes / No

  ※【言語】は図書館でしか取得できません。 

                      』



「う~~ん、これは……まあいいか」


少々悩みはしたが、俺は結局【言語】を取得する事にした。

クエストの事を抜きにしても、このスキルはこの世界を楽しむのに必要だとおもったからだ。

わざわざこんなファンタジー世界にいるのに、その中の話が分からないのはもったいない。

スキル数が少し厳しいが、何とかなるだろう。


ウィンドウのYesを選択する。

するとウィンドウが消え、また新しいものが表示された。

題名にはチュートリアルクエストと書かれている。

どうやら初期に選択出来るスキル以外の物には、チュートリアルがあるらしい。


チュートリアルの題名は「絵本を読破せよ」だ。

説明文によると【言語】を取った事で文字を読み解く力が備わったが、まだまだ未熟なので絵本を読んで力を育てろ、ということらしい。



俺は持っていた本を元に戻し、近くにいる職員のNPCに絵本のある棚へ案内してもらった。


案内された棚は他の棚よりも小さいが、絵本が何十冊も並べられていた。

場所は図書館内の隅にあり、近くに読書用の机と椅子も置かれていて一つの専用スペースになっていた。

子供用として作られたスペースなんだろうな。


俺は並べられた本から端の一冊を手に取り、題名を見る。

題名は「せかいのはじまり」

題名が読めた事で一安心した俺は、その本を持って設置された椅子に座る。

そして、机に本を置いてそれを開いて読み始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



昔々 まだ世界が生まれてもいない程に昔


今の世界があるところに 3つの神々がいました


男の姿をした神 女の姿をした神 獣の姿をした神


彼等はそれぞれ 違った力を持っていました


男の神は"光"の力 女の神は"闇"の力 獣の神はどちらとも違う"無"の力


それぞれ違う けどとても大きな力でした


彼等は 長い時間を共にに過ごしていましたが ある時 獣の神がこう言い出しました


「とても退屈だ、何か楽しい事はないだろうか?」


男の神はこう返しました


「ならば、何かを作ってみてはどうだ?」


それを聞いた獣の神は 試しに幾らかの自分の毛を使い それを捏ねて塊を作りました。


獣の神も 最初はそれを楽しんでいましたが 次第に飽きてしまいました


そんな様子を見ていた女の神は こう言いました


「私達の髪も 使ってみたらどうかしら」


そう言って 自分たちの髪を 幾らか渡してきました


獣の神は 貰った髪を指先の爪で刻み 今度は捏ねずにそのまま捏ねた塊に蒔きました


蒔かれた髪は 塊に次々と突き刺さっていきました


すると 刺さった髪は 塊とつながり 草木へとその姿を変え 塊を覆いました


それを見た獣の神は とても喜びました


そして こんどはこう言い始めました


「私達の"血"と"力"をいれて どう変わるのか見てみよう」


彼等は その言葉に賛成して それぞれの"血"と"力"を少し 塊に垂らしました


それらは塊の中で混ざったり 別れたりしながら 形を変えていきました


"血"と"力"が混ざったものは 水と溶岩に姿を変え


塊と"力"が混ざったものは 土と岩に変わり


3つ全てが混ざったものからは 様々な生き物たちが生まれました


こうして"始まりの世界"が出来ていったのです



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は本を読み終わると、本を閉じながら椅子の背もたれに寄りかかった。

それと同時にウィンドウ画面が開かれ、そこにはチュートリアルクエストクリアの文字が出ている。

それを確認して画面を消すと、今読んだ本について考えた。


本の内容を鑑みるにこれはこの世界の設定だ。

それを神話として、この絵本にしたのだろう。


このAROは公式でのストーリーの説明が全くと言っていいほどない。

あったのは初期に取れるスキルとゲームのPV、あとは煽り文句くらいか。

因みに煽り文句は"もう一つの現実を、もう一人の自分で旅せよ!!"だった。


しかし、ネットでは情報を公開せずに、ゲーム内で本にしておくとは手が込んでるな。

しかも、こんな話まで【言語】取らないと分からない様にしてあるとか。

この分じゃ、重要な情報はどんな所に隠されてるか分かったもんじゃない。

それとも、それも含めての"旅せよ!!"って事なのか?


「ハァ……。まったく、前途多難だな。」


思わず、そんなぼやきが口から出る。

まあそれでも、この絵本を読んだ事で得られた情報もある。


それは、5属性以外の魔法属性が存在する可能性があるということである。

具体的に言うなら光と闇の属性だな。

獣の神の無属性ってのもあったが、これは多分身体強化の事じゃないだろうか。

あれもMP消費のスキルだったし。

これがサブ系なのも、本の中にあった"どちらとも違う"って部分と重なる。

もしかしたら、他にも無属性の魔法があるのかも知れないな。


あと、恐らくこの本は完全なものじゃないな。

物語として一応区切りがついてはいるけど、魔法の5属性について何の記述も書かれていない。

読んだ感想としても、まだまだ序盤って感じがする。

てか、これで話が終わるとまだこの世界は外からその"3つの神々"とやらに覗かれ続けてる事になってしまう。

例えゲームの話だとしても、そう考えると個人的に怖すぎるので勘弁してほしいところだ。


きっと続編か何かあるはずだ、というかあってほしい。

そう思った俺はまず本棚を確認したが、それらしい本は見つからなかった。

職員に聞いてみたら、どうも現在この図書館にはなく、本の所在も分からないらしい。

ただ、確かにこの本には続編がある事だけは分かったので、自分で探すしかないようだ。

ま、ゲームでの楽しみが増えたと思えばいいか。


俺はそれで一先ず続編探しを諦めて、絵本の棚に戻る。

棚から適当に本を何冊か選ぶと、さっきまで座っていた椅子に腰掛けて本を開いた。

内容は色々だったが、中には現実で読んだ事のある古い本もあったりした。

久々に読む絵本はなかなか楽しく、つい懐かしみながら読み耽ってしまい、気がついたらすっかり日が暮れてしまっていた。


日光が入らなくなった図書館内には各所にランプが灯され、本が読めるくらいの灯りが確保されている。

昼間の図書館も好きだが、今のランプの優しい灯りに照らされてる夜の図書館も中々いいな。

昼間にはない落ち着いた優しい雰囲気が出ていて、なんか癒される空気に満ちている様に感じる。

出来れば、ずっとここで本を読んでいたくなる。


とは言えそろそろ閉館になりそうな時間だ。

持ってきた本を棚に戻すと、そのまま入り口から外へ出た。


その足で宿屋に戻ると受付で追加で3日分のお金を払い、部屋に入ってベットでログアウト、今日のAROでの1日を終了した。



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