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page 8




「うらぁっ!!」


ドゴッ!


森の中に声と打撃音が響く。

その声の元は灰色の防具を着た青年がおり、その手にはサイズの大きい木槌が握られている。

その場に居るのはその青年だけではなく、彼の目の前には大きい蜘蛛がいた。

だがその大蜘蛛はピクリともせず、生命活動を完全に停止させていた。


彼はそんな蜘蛛の様子を確認すると、安心した様子で大きく息を吐き出して肩の力を抜いた。

そのまま大きく伸びしながら呟いた。


「あ~、やっぱ蜘蛛は色々きついな~」


そんな彼の呟きは誰に聞かれるでもなく、森の風音の中に消えていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



森に来た俺は、慎重に動きながらも確実に狩りを進めていた。

ここまでの収穫はグレイウルフ9匹、ブラックスパイダー5匹、それに薬草、毒草、麻痺毒草の三種類を少々、といったところだ。

木材も採取しようと思ったが、今現在宿のボックスに使い道のない大量の木材がある事を思い出したのでやめた。


スキルも順調に上がり、鑑定Lv10、闘金槌Lv22、身体強化Lv18、隠密Lv13までになっていた。


俺は蜘蛛の剥ぎ取りを終えると移動を開始した。

俺が狙っているのは、基本的に一匹で行動しているモブだ。

流石に今のおれでは複数の敵を同時に相手にするのは無理だ

どうもこの辺りのグレイウルフは、蜘蛛と違って大抵一匹で行動しているらしく、俺一人でもなんとか倒せるので非常にありがたい。

まあそれでも倒すにはカウンターの成功が絶対条件なので、かなり大変ではあるのだが。

もっと奥にいけばグレイウルフの群れもいるらしいが俺には関係ない。


そうして警戒しながら歩いているが、俺には今モブよりも気になっている事があった。


それは、ーー



「……なんで俺、つけられてんだろ………?」



ーーーそう、なぜか誰かにつけられているようなのである。


少し前からどうも俺の気配察知に引っ掛かっている奴がいるのだ。そいつは俺の察知範囲を出たり入ったりしているのか、気配がついたり消えたりしている。


これは俺の予想でしかないが、多分コイツはプレイヤーだ。

まず動きがモンスターっぽくないし、俺との距離を常に一定に保っている。

こんな動きをするモンスターはこの森にはいなかったはずだ。

しかも、気配に妙な違和感を感じるんだよな。

人とモンスターでは気配に違いが出るのだが、それに加えて小さいというか薄いというか、兎に角気配を感じ難い。

もしかしたら、隠密かそれに類似するスキルを持っているのかもしれない。



(しかし、いつまでもこのままって訳にもいかないよな)


口には出さず、心の中でそうで呟く。

もうそろそろ日も沈む時間だし、このまま知らんぷりを続けて町に帰るっていう手もあるにはある。

穏便に済ますならこれが一番だ。

今の距離なら奴がどんな行動に出ても対応できる。

でも相手の好きにさせ続けるっていうのも、なんか嫌なんだよな。なんというか、相手に負けた気分になる。


それに、自分をつけている相手の事が何もわからないのも問題だ。何か少しでも情報が欲しいな。せめてどんな意思を持って俺をつけてるのか知りたい。


よし、ここは思い切ってーーーー



「おい!そこに居るのはわかってる!!隠れてないで出てこい!!」


そう、気配のする方へ叫んだ。

これで出てくれば良し、じゃなけりゃ悪意有りって事でこっちから顔を拝みに行ってやる。

自分から顔を見せないのは、どこかやましさがある証拠だ。俺はそう判断する。



「さて、どういう反応をするかな…」


木槌を両手で握りしめ、相手の反応を待つ。






幾らかの間の後、相手の気配がはっきりと感じられるようになった。どうやらスキルは解いたらしい。


気配の元は徐々にこちらに近づいて来る。





「悪いが武器に収めてくれないか?そう構えてられると落ち着いて話も出来ない」


そう言いながら茂みから現れたのは、両手を上げた状態の俺より年上そうな青年だった。

彼は背中に弓を背負っており、腰に剣を差している。

俺はそのまま話を続ける。



「なんで俺をつけていた?」


「特に理由があった訳じゃないんだ。ただキミが持ってる武器と狩りの仕方が面白くて、つい」


「普通に話しかければいいだろう」


「いたずら心がつい出てしまって。隠密のスキル上げにもちょうど良かったし。別に驚かそうとか襲ってやろうとか、そんな事を考えてたわけじゃないんだ。

不快な思いをさせて本当にすまなかった」


頭を下げて謝罪する男の姿は嘘をついてるようには見えなかった。

その真剣な姿を見た俺は、ここで漸く警戒心を解き、手に持っていた木槌をしまった。




「……わかった、アンタの言うことを信じるよ。だから顔を上げてくれ」


「ありがとう。僕はマルクというんだ、よかったらキミの名前も教えてくれないか?」


「俺はゼンだ」


名乗る俺に対し、マルクはホッとした笑顔を浮かべている。まあ、武器を構えている奴の前に両手を上げて出るのはなかなか度胸がいる。

ゲームの中と言ってもこのAROじゃ痛みもあるから現実と対して変わらないし、その分怖くもあるからな。



「ゼン、何かお詫びをさせてくれないか」


「お詫び?別にいいよ、真面目に謝ってくれたみたいだし」


「いや、今回僕はつい出来心で君に迷惑をかけてしまった。謝って終わりでは悪い」


う~ん、おれは終わりでいいんだけどな。まあ、それでこの人の気が晴れるならいいか。



「わかった。でもあまり過ぎたお詫びは俺も困るぞ」


「そこは僕も理解してるよ。この時間だし君も町に戻るんだろう?」


「ああ、そのつもりだけど。それが?」


「何か奢るよ、それくらいならいいだろう?」


「…まあ、それくらいならいいか」


「面白い店があるからそこへ案内するよ」


そうしてマルクは町に向かい、俺は後ろを着いていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



町に戻った俺はマルクの言う"面白い店"に案内されていた。



「さあ着いた、ここがそうだよ」


マルクは立ち止まり俺にそう告げる。しかしーーー


「……俺には、ただの裏路地にしか見えないんだが」


マルクに案内された場所は、東門に続く大通りから少し外れた小道を奥に進んだ所から入れる細い裏道。そこをさらに奥に進んだ所だった。

そこは建物の隙間に出来た道で特に店らしきものはなく、建物によくある裏口のような扉がいくつかあるだけの場所だった。


マルクはいくつかある扉の内の一つの前に進み、そのノブに手をかける。


「ここが入口になってるんだ」


そう言いながら扉を開けて中に入って行き、俺もそれに続いて行く。

扉の中に入ると、暗い裏路地からは見えなかった明かりに照らされたカウンター席があった。

マルクはすでに席に座っており、奥の調理場と思われる場所にいる料理人らしき人に注文していた。



「すみません!いつもの奴2つ大盛でお願いします!」


「………………あいよ」


「ゼンもほら、いつまでも立ってないで座りなよ」


「あ、ああ」


店の中を見回していた俺は、マルクにいわれてカウンターの椅子に座る。

俺は少々混乱しながらもマルクにこの店について質問した。



「おいマルク、なんだよこの店。看板もなかったぞ」


「だから言っただろう?面白い店だって。ででくる料理もAROの中じゃ変わっているしね」


「料理?何の料理だよ?」


「それは出てくるまでは秘密だよ。ネタバレすると待つ楽しさが半減しちゃうからね」


マルクのその言葉を聞いて、俺は質問するのをやめた。確かにそのとおりだからだ。



「この店はある人から教えてもらってね、人の紹介がないと入れないのさ」


「俺、入れたんだけど」


「それは、僕といっしょに来たからさ。これも紹介方法の一つだよ」


成る程、つまりこの店は自分だけで探しても絶対に見つからない店なんだな。

そう思うとなんだか楽しくなってくる。

やっぱりこういう"隠し要素"的なものがちりばめられていると思うと嬉しいものである。



「じゃあ、俺が誰かにこの店を紹介できるのか?」


「一人だけね。二人以上にすると自分が入れなくなるから気をつけてくれ。この店の店主は気難しい人なんだ」


マルクのその台詞を聞いて、違和感を感じた。

そして、ある考えが頭をよぎった。

声を小さくしてマルクにだけ聞こえるようにたずねる。


「…その言い方からするとマルクに店を紹介したのってNPCなのか?」


少し驚いたように目を見開くマルク。



「……なんで、そんな風に思うんだい?」


「だって今、店主の事を"気難しい人"って言っただろ。 つまりそれって店主と"ちゃんと"会話した事があるって事だろ」


「つまり、君もこの町の住民と会話した事があるのか?」


マルクの質問に俺は「ああ」と返事を返した。


そんな会話をしながら、俺達はこの町についてあった事をお互いに話し始めた。






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