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想い出の中で君は。  作者: 舘山 悠
悠馬の日々
1/1

*長い一日*


 いつもの様に山手線の朝の混雑は人の波を忙しなく生み出していた。会社へは、最寄の武蔵小杉から乗り継いで40分程かけて向かう。今日は遅めの出勤だった。

 ふと、かき分ける人混みの中ですれ違いざまに肩がぶつかる。

 「すみません」

 軽く会釈をした二十代半ばらしき女性は早々と立ち去った。慌てているようだった。朝帰りだろうか。と、また記憶の断片がふと頭を過ぎった。

 彼女との出会いも……。


 朝の電車は通勤ラッシュで押しつ押されつの鮨詰め状態だ。小さくため息を吐くと、最後尾の車両へ向かった。割と空いているようだ。それでも立っている事しか出来ず、隣の乗客とは肩が擦れる程の距離だ。そのまま普段と同じだけの時間、小さな箱の中で揺られ、目的の駅へ着いた。

 ここから更に数分歩いた場所に職場がある。


 鞄からIDカードを取り出す。写真と名前、所属部署が記されている。

 鈴村 悠馬。今年で26になる。結婚はしていないし、しばらくはする気も無い。つい最近まで同居していた彼女とは、理由があって別れたばかりなのだ。

 所属部署はセキュリティ部門。そこでネットワークエンジニア兼プログラマとして働いている。

 見慣れたコンビニやビルを過ぎると、目当ての建物が姿を現した。地下が社員駐車場、一階が受付と警備室、二階にカフェテリアや食堂があり、3階から上の階は全て全面ガラス張りになっている。

 自動ドアをくぐると、IDカードを受付嬢に見える角度で揚げた。

 「おはようございます」

 営業スマイルというやつだ。この手の笑顔に大抵の男は頬の筋肉が緩むが、今の悠馬はそんな気分じゃなかった。

 清々しいまでの朝を過ごすには一番大事なものが欠けていたからだ。


 内心、全く心配していないだとか、吹っ切っただとかいう気持ちは無かった。

 これから先、最早体の半分程の大きさだった大事なものが欠落した状態で、一人で生きて行けるのだろうか。あれから数週間、何度も何度も自分に言い聞かせた言葉をまた繰り返した。

 最初は一人だったんだ。

 元に戻るだけなんだ。

 なんて事は無いはずだ。

 生きて行けるんだ。




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