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第十二章 避けられぬ終焉




一.



「なあ、保憲やすのりひずみを、本当に行かせても良かったのか」

 晴明せいめいが問うと、前方を歩く保憲の肩が微かに揺れた。

 晴明達は今、みかどを連れて清涼殿せいりょうでんへと向かっていた。

 今、大内裏だいだいりの中では数多あまたあやかし達が貴族を襲っている。陰陽寮おんみょうりょうの者達が応戦をしているが、何度滅却をしても妖達の数が一向に減らないのだ。

 そんな中に、帝を置いておくのは非常に危険である。

 増してや平安京を滅ぼすことが目的の道満にとって、帝は邪魔な存在だ。じゅを掛けていた保憲に、帝を殺せと命令していたのだ。

 こうなることを予期して、忠行は結界を張った牛車ぎっしゃの中に帝を閉じ込め、晴明を見張りにつけていたのだろう。

 だが、その牛車も今は木っ端微塵こっぱみじんに破壊されている。

 故に、まだ妖達の手がおよんでいないであろう清涼殿へと帝を移動させているのであった。

「――」

 保憲は何を考え込んでいるのか、口をつぐみ、視線を移ろわせた。

 やがて、晴明をちらと見て、再び前方に顔を向けた。

「……さあな」

 保憲が呟くと、「――何じゃそりゃ」と晴明の隣を走る帝が呆れ混じりにため息を吐いた。

「――だが、歪のかように真剣なを見るのはあの日以来初めてだった。故に、奴にけてみようと思ったのだ」

 ――あの日……?

 保憲の言葉に、晴明は内心首をかしげた。

 保憲が、言葉を続ける。

「奴は元々強い力を持った妖だ。幾ら相手が道満だとはいえ、上手く太刀打ちできるやもしれぬ」

「――でも、その道満って野郎はあの忠行ですらかなわねえ程強いんだろ? なんでそんな自信が持てるんだよ」

 帝が矢継やつばやに問うと、保憲はぴたりと足を止め、振り向いた。

 鋭い瞳は、歪が去った方角を見つめている。

 釣られて、晴明と帝もその場で立ち止まった。

 一瞬の、沈黙。

 その直後。

 保憲は再度、「さあな」と呟いた。

「おーい!」

 すかさず、帝がつっこみを入れる。

 だが、遠くを見遣みやる保憲の瞳には、迷いが微塵も感じられなかった。

 晴明はふっ、と頬を緩め、口を開いた。

「――信頼、という奴か」

「はあ!?」

 帝は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げて晴明を見た。

「何だよ、信頼って。言っちゃあ悪いけどな、保憲の野郎は人とれ合うような奴には見えねえぜ?」

 帝は「勿論もちろん、てめえは別だがな」と付け加えた。

「ふふ、確かにそうやもしれませぬな」

 晴明はくすくすと笑い声を零しつつ、言った。

式神しきがみ陰陽師おんみょうじは本来、契約をわして主従しゅじゅう関係を成立させております。元々妖であった者を式にするのは、よほどに強い信頼関係を築かねばなりませぬ。故に、その絆も自然と強くなるものなのです。それに、歪はああ見えて保憲のことを誰よりも気に掛けておりますから」

「晴明。気持ちの悪いことを言うな」

 保憲は心底不快だとでもいうように顔をしかめ、眉間に皺を寄せた。

「なれど、本当のことであろう」

「……ふん」

 保憲はこれ以上何も言わず、前を向いて再び足を進めた。

 だが、晴明は彼の耳がほんのりと赤く染まっていたのを見逃さなかった。

 ――相変わらず、素直でないのだな。

 晴明は口元を緩め、保憲に習って再度走り始めた。

「――それにしても」

 帝が、口を開いた。

「まさか歪が式神だったとはな。あまりにもはっきり見えるもんだから、人間かと思っていたぜ」

「俺は、帝がかような霊力ちからを持っていることに驚きましたよ」

「……まあな。小さい頃から見鬼けんきの才があったんだよ、俺」

 そう呟く帝の顔は、何処か悲しげであった。

 ――無理も無い。

 晴明は小さく嘆息たんそくした。

 ……見鬼の才。

 文字通り、鬼などの人ならぬ者が見える能力のことである。晴明のような陰陽道を志す者にとっては無くてはならぬものだ。

しかし恐らく帝にとっては、その特異とくいな外見に加えて、人から白い目を向けられるまわしき能力でしかないのだ。

 幼い頃、その強すぎる霊力ちからの恐ろしさを実感し、迫害はくがいを受けた晴明には、帝の辛さが良くわかった。

 晴明はふっと目を伏せ、唇を引き結んだ。

 ふと、前方をけていた保憲の足が止まった。

「保憲? どうかしたのか?」

 不思議に思って呼びかけたが、保憲は何の反応も示さない。ただ呆然ぼうぜんと立ち尽くしているだけである。

「保憲?」

 もう一度名を呼び、駆け寄った。

「――来るな、晴明!」

 咄嗟とっさに、保憲の鋭い声が晴明を制した。

 その声は、何時ものそれとは違う雰囲気ふんいきまとっている。

 禍々《まがまが》しい。

 そう思った。

「ぐ……っ」

 保憲は小さく呻き声を上げ、胸を押さえて地面にうずくまった。

「保憲!」

 たまれなくなり、保憲の身体を抱きしめる。

 腕の中で苦しむ彼の狩衣かりぎぬは、大量の冷や汗でしっとりと湿っていた。

「保憲! しっかりしろ、保憲!」

「う、ぐう……っ、あああぁああっ!」

 必死に呼びかけるが、保憲には最早もはや聞こえていないらしい。胸をきむしり、ひたすらだえ苦しんでいる。

 見ると、保憲の指の間から何かが見えた。

 それは、赤い華のつぼみであった。

 くきが皮膚を突き破ったらしく、赤い染みが狩衣に広がっている。袖から覗く腕には、植物の根のようなものが浮き出ていた。

「な、何だよ……これ」

 晴明の背後から覗き込んだ帝も、目の前の惨状さんじょうに大きく息を呑《の

》んだ。

 その時。

 蕾が開き、血のごとく紅い華が咲いた。

 固く閉じられていた、保憲のまぶたが開く。

 何時もは栗色である双眸そうぼうは白目の部分までもが黒く染まっている。彼の視線は、うつろに空中を彷徨さまよっていた。

「保、憲……?」

 不気味に思い、名を呼んだ。

 すると、保憲の瞳が此方こちらに向けられた。

  薄い唇が、曲線を描く。

 伸びてきた手に、左肩を掴まれた。

 そして。

 ばきり、と。

 何かが折れる音が、耳をつらぬいた。

「ああああぁあああっ!」

 意識が遠ざかりそうになる程の痛みに、大きな悲鳴が唇を割った。

 反射的に保憲から手を離し、後ろへ後退あとずさる。

「はあ、はあ、はあ……っ!」

 荒い息を吐きながら、保憲を見据みすえた。

 保憲は低く唸り声を上げ、頭を両手で押さえていた。苦悶くもんに歪む唇の隙間からは、二本の長い牙が覗いている。

 やがて保憲は烏帽子えぼし髪紐かみひもを強引に頭から引き剥がし、地面に叩きつけた。

 黄金の糸が、空中に舞う。

 下ろされた髪の間から二本の角が伸びているのが見えた。

「やすの、り……何なのだ、それは」

力なく、呟く。

 臓腑ぞうふに、水が落ちる感覚がした。

 それは、深い絶望となって満ちてゆく。

「まるで……鬼ではないか」

 目の前にいる黄金の鬼は、にぃっと口端を歪ませ、咆哮ほうこうを上げた。

 醜悪しゅうあくな笑い声のように、晴明には聞こえた。



二.



 天をあおいだ保憲の瞳が、晴明に向けられる。

 ――来る!

 眼差しから並々ならぬ殺意を感じ、晴明は片手で刀を構えた。

 先程折られた左肩の影響で、左手は全く動かせない。

 ――只でさえ保憲は武芸に優れておるのだ。片手で俺が敵うかどうか……。それに、保憲と刃を再び交わらせることが、こんなにも辛いとは。

 柄を強く握り締め、震えるまぶたを、閉じる。

莫迦ばか野郎、何余所見よそみしてやがんだ! 来るぞ!」

 背後から聞こえた帝の声で、はっと我に返る。

 開いた瞳に、保憲のてのひらが映った。

「ぐはっ!」

 強い力で弾き飛ばされ、地面に背中を打ち付けた。

 起き上がる間もなく、保憲に片手で前方から頭を掴まれる。

 足がふらりと宙に浮かび、頼りなく揺れていた。

「晴明!」

 視界の隅で、帝が駆け寄って来るのが見えた。

「来ないでください、帝!」

 力を振り絞り、叫ぶ。

 肉を切り裂く音と共に、紅が頬に飛び散った。

 振り向く。

 どどう、と帝が音を立てて倒れた。

「帝!」

 悲鳴に近い叫び声を上げる晴明を、保憲はうるさいとでもいうように地面に叩きつけた。

「ぐっ!」

 痛みをこらえ、保憲をにらみ付けた。

 晴明を見下ろす眼差しは、果てしなく冷たい。

 すっと手が伸ばされ、束帯そくたいえりを掴まれる。

「……っ! 貴様、何を――!」

 そこで、晴明は言葉を飲み込んだ。

 保憲の手が、布を引き千切ったのだ。

 肌が寒気かんきさらされ、鳥肌とりはだがたつ。

 抵抗する間もなく、保憲が馬乗りになり、両腕を拘束こうそくした。

「やっ、やめろ!」

 必死に手足をばたつかせるが、保憲はびくともしない。

 それどころか、楽しげな表情を浮かべて晴明を見ていた。

 侮蔑ぶべつあざけりが交じり合った、視線。

 今までに自分に迫ってきた男達と目の前の男が、重なる。

いやだ……」

 これまでは、護ってくれる者がいた。

 保憲が、護ってくれていた。

 女をめとった彼が遠く離れた存在になった今でも、心の何処どこかでそれを信じている自分がた。

「厭だ、保憲……」

 だが、今は。

 護ってくれる唯一無二ゆいいつむにの存在である男に、傷付けられようとしている。

 護られるはずの男に、傷付けられようとしている。

 その信じがたき現実が、晴明の理性を崩壊ほうかいさせた。

「厭だ……、厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だぁっ!」

 保憲に対する不信感と恐怖が、心を真っ黒に埋め尽くす。

 くつくつとわらいながら顔を近づけてゆく鬼の唇から、真っ赤な舌が覗くのが見えた。

「あぁ……っ、ああああああぁあああぁっ!」

 恐怖が頂点に達し、絶叫ぜっきょうする。

 一筋の涙が、頬を流れた。

 ……刹那せつな

 後ろから飛んできた群青ぐんじょう閃光せんこうが、保憲を直撃した。

「ぎゃあっ!」

 保憲が悲鳴を上げながら、後退あとずさる。

 晴明は身体を起こしながら、呆然ぼうぜんとそれを見つめた。

「――大丈夫か、姫さん」

 背後から声が聞こえ、振り向く。

 保憲に向かって右手を構えた歪が、其処そこにいた。

 何時もは肩につくかつかないかの長さの髪が膝の辺りまで伸び、背中には白い両翼りょうよくが生えていた。

 全身は血にまみれ、紅く染まっている。

 彼の唇からせわしなく漏れる荒い息が、彼が負った傷の大きさを物語っていた。

「歪……、貴様こそけがは平気なのか?」

 訊ねると、歪は苦笑して晴明の頬を撫ぜた。

「姫さんよりはな。涙なんて流して、よっぽど酷い目にうたんやな。辛かったやろ?」

「……歪」

 優しい言葉が、胸に染み込む。

 自然と、涙が出た。

「……でも、もう大丈夫や。わてが、やっすんを止めたるから。姫さんは――おっちゃん達を頼む」

 歪の視線が、晴明から移動する。

 その先には、地面にぐったりと身を横たえた忠行ただゆき寿朗としろうがいた。

「忠行殿、寿朗!」

 慌てて駆け寄って身体を揺さぶるが、二人が目を覚ますけはいは一向にない。

「心配せんでも、ただ、気を失っとるだけや。せやけど、酷いけがやから早く薬師くすしに治療してもらわんとな」

 歪は一旦言葉を切り、保憲をめつけた。

「やっすんを、止めた後で」



三.



「よお、色男。どないしたんや、そないに怖い顔して。せっかくの男前が台無しやで」

 歪が、不敵な笑みを浮かべて保憲に向かって歩き始めた。

 一方保憲は、低く唸り声を上げながら、歪を睨み付けていた。

 それに構わず、歪は言葉を続けた。

「懐かしいやろ、わてのこの格好。わてが自分の式になる前の、妖だった頃の姿やで。って、鬼になってもうた自分には、もう分かる訳あらへんよ、なあっ!」

 歪が抜刀ばっとうし、保憲に飛び掛る。

 振り下ろされた刀は片手で易々《やすやす》と受け止められ、真っ二つに折れた。

「な……っ!」

 驚愕した歪に出来た、一瞬のすき

 保憲はそれを、見逃さなかった。

「うおおおおおぉっ!」

 雄叫おたけびを上げ、右拳を突き出す。

「ぐあっ!」

 歪の身体が吹き飛び、宙に浮いた。

「歪!」

 晴明が、反射的に受け止める。

「大丈夫か、歪……!」

 晴明の言葉に返事をせず、歪は愕然がくぜんと保憲を見つめていた。

「――よお、姫さん。あれはほんまに、やっすんなんか……?」

 ぎりっと唇を噛み締め、眉根を寄せる。

 その瞳は、恐怖に染まり、歯ががちがちと音を鳴らしている。

「歪……」

 今まで見たこともない表情に、晴明は大きく目を見開いた。

 歪はごくりとつばを飲み、震える声で言葉を紡いだ。

「あんなん……、ばけもんやないか……っ!」

「うああああぁぁあっ!」

 咆哮ほうこうが、響く。

 瞬間。

 歪の身体が宙を舞った。

「うわああぁっ!?」

 まるで目に見えぬ糸で保憲に引き寄せられるかのように。

「歪!」

 必死に叫び、立ち上がろうとするが、身体が動かない。

 余りにもけがを負い過ぎた彼女の身体は、最早もはや限界であった。

 その間にも、歪は保憲に近づいてゆく。

 上を見上げる保憲の瞳が、すうっと細められた。

 ぶわりと、強い霊気れいきが辺りを覆い尽くす。

 保憲の霊気が触手しょくしゅのように全身を伝い、心臓に風穴を開ける。

 そう錯覚する程に強く、禍々しいものであった。

「う、ぐ……おえぇっ!」

 片手を付き、嘔吐おうとする。

 ――歪。

 息を切らし、身体を震わせながら、視線を上げる。

 視界に飛び込んできたのは、両手で首を締め付けられている歪の姿だった。

 浮き上がった両足は力なくだらりと下がっている。

「ぐ、うう……っ」

 ひゅうひゅうと音を発てて息が零す唇から、血が伝う。

「歪!」

 思わず、叫ぶ。

 保憲の黒くにごった瞳が、ちらりと流し目で此方を見た。

 にぃ、と口端が持ち上がり、ゆがんだ笑みが浮かんだ。

 ばきん、と。

 何かが破損はそんする音が、聞こえた。

 同時に、歪の首が仰向あおむけに下がった。

「ひ……ずみ……?」

 晴明の目に、歪の顔が映る。

 何時も明るい輝きを放っていた瞳からは、光が消えていた。

 ただただ見開かれたそれは、最早何も映してはいなかった。

 保憲は小さく肩を揺らしてわらい、歪を地面に落とした。

 衝撃で、砂塵さじんが舞う。

 倒れた歪の身体は、ぴくりとも動かなかった。

 鋭い瞳が、晴明へと向けられる。

「……ひっ!」

 恐怖で息を呑み、小さい悲鳴が唇を割る。

 直後、視界から保憲の姿が消えた。

 ぐちゃっ、と歯が何かを噛む音が耳朶じだを打つ。

 途端とたんに、生暖かい液体が肩を伝った。

「っ!」

 あまりの痛さに、晴明は息を詰めた。

 保憲が、晴明の肩に喰い付いていた。

「どうだ、仲間に殺されていく心地は?」

 道満の声が、聞こえた。

 保憲の身体越しに、道満の姿を見る。

 その顔には、醜悪な微笑みが浮かんでいた。

「道満殿、保憲をかような姿にしたのは……貴方ですか」

 晴明の問いかけに、道満は「いな」と首を横に振った。

「私はただきっかけを与えたに過ぎん。保憲には前からそのようながあった。――全ての原因は、お前さんだよ。晴明」

「え……」

 晴明は未だに肩に噛み付いている保憲を見つめた。

 痛みはすで麻痺まひし、肩から下の感覚がなくなっている。

「保憲はお前さんを想うあまり、鬼になってしまったのだ。義兄弟であるお前さんを恋慕れんぼしてしまったという自責じせきの念、苦しみ、苛立いらだち。それが八年前から続いていたのだ。鬼に成り果てても無理はない。……鬼になった者は、初めに愛する者を喰らう。お前さんは保憲に喰われ、此処ここで死んでゆくのだ。そして、保憲の発散する霊力れいりょくによって、平安京へいあんきょうほろび、私のものとなる。くく、さぞ悔しいだろう。陰陽寮に勤める者が化生けしょうに殺されるのだからな」

「――構わぬ」

 嘲笑ちょうしょうする道満の言葉を、晴明がさえぎった。

「保憲になら俺は喰らわれても構わぬ」

 保憲の頭を抱くように両手で包み込む。

 牙が肉に食い込み、血が流れた。

「保憲は、俺の所為で鬼に成り果てたのだ。俺が今まで保憲を苦しめていたのだ。その苦しみから保憲を解放出来るのならば、俺は喜んで喰らわれるぞ。その牙が我が心の臓を貫こうとも、手足を引きちぎろうとも、保憲の気持ちが晴れるのならばそれでも良い!」

頭上から、道満の冷笑が聞こえた。

「はっ、せぬな。何故なぜお前さんはそうまでして保憲の為に命をすのだ。たかだか高々一人の人間ではないか。代わりに出来る者なぞいくらでもいる。それに、喰らわれれば貴様の命も無くなるのだぞ」

「それでも、構わぬ」

 晴明は保憲から道満に視線を移した。

「保憲は俺に居場所を与えてくれた。闇に包まれた俺の世界を変えてくれた。故に、この命を賭けることが出来るのだ。保憲の代わりなぞ、他には誰一人としていやしない!」

 晴明はそこで言葉を切り、目を伏せた。

「……なれど、保憲がこれ以上仲間を傷付ける姿は、見たくない」

 保憲を見下ろし、髪を優しく撫ぜる。

「お願いだ、保憲……。これからは俺が貴様の心の闇を埋め尽くすから……、貴様を俺が護るから……、だから!」

 手の甲にぽつりと一滴ひとしずく、涙が落ちた。

「……元の貴様に、戻ってくれ……」



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