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ここはなにかが欠けている

術師が杖を使う訳

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/07

「ねえねえ、魔術師とか治癒術師って」


マイセルが話しかけてきた。彼女は仲間のドワーフだ。


「杖を持ってる人と、ルーソラみたく持ってない人がいるよね?

 魔術って使う時、あの杖要るの?要らないの?」


「あー…要らないって訳じゃないんだけどね。

 ああいう杖は、魔術の出力を安定させるために使ってるのよ」


わたし、治癒術師のルーソラは質問に答える。

今わたし達四人「暮明くらがりの茨」は乗合馬車の護衛を請け負っている。

休憩時間で馬車を停めて馬達の食事と給水時間だ。


「魔術自体は、杖がなくても発動は出来るのよ。


 ただ、体内魔素の消費が多くなったり、効果が甘くなったり、

 あるいは威力が落ちたりと、調子の浮き沈みが出てくるの。

 で、ああいった杖に体内魔素を流し込むよう意識を持つと、

 その浮き沈みが減るのよね。


 わたしも見習いの時は使っていたわ」


「ほうほう」


マイセルが相槌を打つ。


「あの杖、特に難しい加工とかしている訳じゃなくて、

 元々魔術と親和性が高い木材みたい。通りが良いというか。

 わたしが使っていたのはクスノキの枝だったかな?

 他にもいい木材は何種類もあるらしいけれど」


「クスノキかぁ…アタシにも杖って作れるかな?」


マイセルは木工職人の娘だ。彼女自身もかなり腕が良い。


「うん、多分作れるんじゃないかな。

 クスノキの枝を手に入れたら、そのうちお願いしていい?」


「いいよー。喜んで!」


「なになに、何の話?」


話に入ってきたのはフンケ。マイセルの従姉妹だ。


「いやね、ルーソラの魔術使う時の杖、アタシ作るよーって」


そうマイセルが答えると、フンケは、


「ん?あの鋼鉄製の金棒じゃまずいの?」


と聞いてくる。


「あはは、あれは魔術用じゃなくて、近接戦闘用だから。

 最近戦闘してないから、宝の持ち腐れだけど」


そうなのだ。わたしは元神官戦士。

神聖魔術が使えない時も活動が出来るよう、戦闘訓練も積んだ。

一応は徒手空拳でもある程度戦えるが、棒術のほうが得意。

打撃武器としても杖としても使えるなら便利だけど…


「感覚的にだけど、金棒だと魔素は通らないんじゃないかな?

 一度もやってみたことないけど」


それを聞いたフンケが首をひねる。


「あれ?そうすると…魔剣とかってどうなるんだろ?

 使う時は魔素通ってるよね、あれって」


言われてみればそうだ。だから特殊な効果が発現するのだろうし。

まあ、魔剣を使っているような恵まれた剣士は少数だけど。

わたしも片手で数えられるほどしか見たことがない。


「そうね…。

 でも魔術師でも金属製を使っている人見たことないなぁ」


気になったので、立てかけてあった金棒を握って試してみる。

…やはり体内魔素は通っていかない。妙な抵抗がある。


「うーん、ダメみたいね。魔素は通っていかないわ」


「ああいった魔剣は、知り合いで作れる人いないんだよねぇ。

 うちの父さんたちも知ってる限り作ってないはず」


フンケの実家は鍛冶屋で、武器も防具も扱っている。

彼女が知らないのなら、作れないのじゃなかろうか。

今ある魔剣って、遺跡とか迷宮で出てきたものばかりと聞くし。


「あー、でもなんか騎士団の人達は剣に魔術かけてたよ?

 結構前に魔獣退治してるの観たけど」


クズリが会話に参加してきた。彼女は猫耳獣人だ。

馬達は彼女の調合した牧草を気に入り、夢中で食べていた。

彼女が来たなら、そろそろ休憩時間も終わりのようだ。


「あれは付与魔術とか言うらしいわ。

 魔素は剣の中を通すのでなく、外を覆っているみたいね」


実際に魔剣の研究している人がいれば詳しい話も聞けるのだけど。

そんな人とご縁があればねぇ。

魔剣などの魔術付与武器は、魔鉄とか霊銀とか、通常武器と材質が異なってます。

この世界では、杖は術の安定に、指輪や耳飾りなどのアクセサリは術の出力に効果あり。

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