術師が杖を使う訳
「ねえねえ、魔術師とか治癒術師って」
マイセルが話しかけてきた。彼女は仲間のドワーフだ。
「杖を持ってる人と、ルーソラみたく持ってない人がいるよね?
魔術って使う時、あの杖要るの?要らないの?」
「あー…要らないって訳じゃないんだけどね。
ああいう杖は、魔術の出力を安定させるために使ってるのよ」
わたし、治癒術師のルーソラは質問に答える。
今わたし達四人「暮明の茨」は乗合馬車の護衛を請け負っている。
休憩時間で馬車を停めて馬達の食事と給水時間だ。
「魔術自体は、杖がなくても発動は出来るのよ。
ただ、体内魔素の消費が多くなったり、効果が甘くなったり、
あるいは威力が落ちたりと、調子の浮き沈みが出てくるの。
で、ああいった杖に体内魔素を流し込むよう意識を持つと、
その浮き沈みが減るのよね。
わたしも見習いの時は使っていたわ」
「ほうほう」
マイセルが相槌を打つ。
「あの杖、特に難しい加工とかしている訳じゃなくて、
元々魔術と親和性が高い木材みたい。通りが良いというか。
わたしが使っていたのはクスノキの枝だったかな?
他にもいい木材は何種類もあるらしいけれど」
「クスノキかぁ…アタシにも杖って作れるかな?」
マイセルは木工職人の娘だ。彼女自身もかなり腕が良い。
「うん、多分作れるんじゃないかな。
クスノキの枝を手に入れたら、そのうちお願いしていい?」
「いいよー。喜んで!」
「なになに、何の話?」
話に入ってきたのはフンケ。マイセルの従姉妹だ。
「いやね、ルーソラの魔術使う時の杖、アタシ作るよーって」
そうマイセルが答えると、フンケは、
「ん?あの鋼鉄製の金棒じゃまずいの?」
と聞いてくる。
「あはは、あれは魔術用じゃなくて、近接戦闘用だから。
最近戦闘してないから、宝の持ち腐れだけど」
そうなのだ。わたしは元神官戦士。
神聖魔術が使えない時も活動が出来るよう、戦闘訓練も積んだ。
一応は徒手空拳でもある程度戦えるが、棒術のほうが得意。
打撃武器としても杖としても使えるなら便利だけど…
「感覚的にだけど、金棒だと魔素は通らないんじゃないかな?
一度もやってみたことないけど」
それを聞いたフンケが首をひねる。
「あれ?そうすると…魔剣とかってどうなるんだろ?
使う時は魔素通ってるよね、あれって」
言われてみればそうだ。だから特殊な効果が発現するのだろうし。
まあ、魔剣を使っているような恵まれた剣士は少数だけど。
わたしも片手で数えられるほどしか見たことがない。
「そうね…。
でも魔術師でも金属製を使っている人見たことないなぁ」
気になったので、立てかけてあった金棒を握って試してみる。
…やはり体内魔素は通っていかない。妙な抵抗がある。
「うーん、ダメみたいね。魔素は通っていかないわ」
「ああいった魔剣は、知り合いで作れる人いないんだよねぇ。
うちの父さんたちも知ってる限り作ってないはず」
フンケの実家は鍛冶屋で、武器も防具も扱っている。
彼女が知らないのなら、作れないのじゃなかろうか。
今ある魔剣って、遺跡とか迷宮で出てきたものばかりと聞くし。
「あー、でもなんか騎士団の人達は剣に魔術かけてたよ?
結構前に魔獣退治してるの観たけど」
クズリが会話に参加してきた。彼女は猫耳獣人だ。
馬達は彼女の調合した牧草を気に入り、夢中で食べていた。
彼女が来たなら、そろそろ休憩時間も終わりのようだ。
「あれは付与魔術とか言うらしいわ。
魔素は剣の中を通すのでなく、外を覆っているみたいね」
実際に魔剣の研究している人がいれば詳しい話も聞けるのだけど。
そんな人とご縁があればねぇ。
魔剣などの魔術付与武器は、魔鉄とか霊銀とか、通常武器と材質が異なってます。
この世界では、杖は術の安定に、指輪や耳飾りなどのアクセサリは術の出力に効果あり。




