術師が杖を使う訳
8/11後日の話を追加。
「ねえねえ、魔術師とか治癒術師って」
マイセルが話しかけてきた。彼女は仲間のドワーフだ。
「杖を持ってる人と、ルーソラみたく持ってない人がいるよね?
魔術って使う時、あの杖要るの?要らないの?」
「あー…要らないって訳じゃないんだけどね。
ああいう杖は、魔術の出力を安定させるために使ってるのよ」
わたし、治癒術師のルーソラは質問に答える。
今わたし達四人「暮明の茨」は乗合馬車の護衛を請け負っている。
休憩時間で馬車を停めて馬達の食事と給水時間だ。
「魔術自体は、杖がなくても発動は出来るのよ。
ただ、体内魔素の消費が多くなったり、効果が甘くなったり、
あるいは威力が落ちたりと、調子の浮き沈みが出てくるの。
で、ああいった杖に体内魔素を流し込むよう意識を持つと、
その浮き沈みが減るのよね。
わたしも見習いの時は使っていたわ」
「ほうほう」
マイセルが相槌を打つ。
「あの杖、特に難しい加工とかしている訳じゃなくて、
元々魔術と親和性が高い木材みたい。通りが良いというか。
わたしが使っていたのはクスノキの枝だったかな?
他にもいい木材は何種類もあるらしいけれど」
「クスノキかぁ…アタシにも杖って作れるかな?」
マイセルは木工職人の娘だ。彼女自身もかなり腕が良い。
「うん、多分作れるんじゃないかな。
クスノキの枝を手に入れたら、そのうちお願いしていい?」
「いいよー。喜んで!」
「なになに、何の話?」
話に入ってきたのはフンケ。マイセルの従姉妹だ。
「いやね、ルーソラの魔術使う時の杖、アタシ作るよーって」
そうマイセルが答えると、フンケは、
「ん?あの鋼鉄製の金棒じゃまずいの?」
と聞いてくる。
「あはは、あれは魔術用じゃなくて、近接戦闘用だから。
最近戦闘してないから、宝の持ち腐れだけど」
そうなのだ。わたしは元神官戦士。
神聖魔術が使えない時も活動が出来るよう、戦闘訓練も積んだ。
一応は徒手空拳でもある程度戦えるが、棒術のほうが得意。
打撃武器としても杖としても使えるなら便利だけど…
「感覚的にだけど、金棒だと魔素は通らないんじゃないかな?
一度もやってみたことないけど」
それを聞いたフンケが首をひねる。
「あれ?そうすると…魔剣とかってどうなるんだろ?
使う時は魔素通ってるよね、あれって」
言われてみればそうだ。だから特殊な効果が発現するのだろうし。
まあ、魔剣を使っているような恵まれた剣士は少数だけど。
わたしも片手で数えられるほどしか見たことがない。
「そうね…。
でも魔術師でも金属製を使っている人見たことないなぁ」
気になったので、立てかけてあった金棒を握って試してみる。
…やはり体内魔素は通っていかない。妙な抵抗がある。
「うーん、ダメみたいね。魔素は通っていかないわ」
「ああいった魔剣は、知り合いで作れる人いないんだよねぇ。
うちの父さんたちも知ってる限り作ってないはず」
フンケの実家は鍛冶屋で、武器も防具も扱っている。
彼女が知らないのなら、作れないのじゃなかろうか。
今ある魔剣って、遺跡とか迷宮で出てきたものばかりと聞くし。
「あー、でもなんか騎士団の人達は剣に魔術かけてたよ?
結構前に魔獣退治してるの観たけど」
クズリが会話に参加してきた。彼女は猫耳獣人だ。
馬達は彼女の調合した牧草を気に入り、夢中で食べていた。
彼女が来たなら、そろそろ休憩時間も終わりのようだ。
「あれは付与魔術とか言うらしいわ。
魔素は剣の中を通すのでなく、外を覆っているみたいね」
実際に魔剣の研究している人がいれば詳しい話も聞けるのだけど。
そんな人とご縁があればねぇ。
◆
後日、本拠地へ戻ってから数日後。
今、ルーソラの目の前に、杖とも棍ともつかぬものが置かれている。
得意げな表情で差し出したのは、フンケとマイセルの二人。
「えーっと、これは?」
ルーソラが訪ねると、
「これ、フンケとアタシの合作。まだ試作品だけどねー」
とマイセルから回答がある。
材質は多分、鋼鉄と…クスノキだろうか。
長さは普段使う金棒とほぼ同じだが、土台部分となる鋼鉄には溝があり、
溝に添わせてクスノキが鋼鉄の周りに何本も埋め込まれている。
棍中央の握りはクスノキで、端に向かって添わせたクスノキが繋がる。
外観は鋼鉄とクスノキの縞模様である。これなら魔素も通りそうだ。
「鋼鉄の土台にクスノキを埋め込んじゃえば、兼用できるかなーって。
ちょっと使ってみて?感想聞いてマイセルと調整するんで」
フンケが興味津々でルーソラへ渡してくる。
実用性が出るまで、しばらくはこの兼用武器の研究が続きそうである。
魔剣などの魔術付与武器は、魔鉄とか霊銀とか、通常武器と材質が異なってます。
この世界では、杖は術の安定に、指輪や耳飾りなどのアクセサリは術の出力に効果あり。




