↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢はきっと全部青春でできている  作者: 聖音ユニア
それしかないって叫ぶんだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/38

私を見つけてくれて、ありがとう

 会場は、大きく盛り上がった。緊張感と熱気が、私の頭の中をぐるぐる駆け巡る。

 オフライン大会でもかなり大きな規模の格ゲー大会。多くの観客が見守るステージの中心で、私はただただ、狂おしいほどの本気を目の当たりにしていた。


『ここで画面端! 既にタイムは残り20秒! 時間を気にしてか最後の猛攻を、和選手が得意の攻めを押し付けていく!』


 ガタガタとボタンを叩く音がヘッドホン越しに聞こえてくる。相手の選手と違って私はアドバイスをするわけでもない。ていうかできない。何も、話せない。

 画面の奥で動くキャラクターの一挙手一投足から目が離せない。


『続く猛攻、リーサルが、見えていた! 鮮やかな勝利で決勝へと駒を進めました、和選手! さあ両者握手にて健闘を称え、次の試合への準備に移ります。さあ、ここで負ければ試合は終わりですが、このゲームも大会もまだまだ続きます。今は嘆くより、新たな勝者の誕生を喜びましょう』

『ですね。和選手は今回本戦初参戦ですが、元々ランクや、今年の春先頃から対戦動画を出して人気を博しているとか。いやあ、すごいですね。女子高生ですが実力は本物』

『今大会でこれはちょっと見逃せないチームもあるんじゃないですか?』


 和は手早く片づけを済ませ、次の試合が始まるまで袖の方で汗を拭いていた。

 私がスポドリを投げ渡すと、さんきゅ、と短く受けとってごくごく飲み干した。


「どした? 借りてきた猫みたいで」

「いや……怖いっしょそりゃ。レベル高くて吐きそう」

「なんっで、桜夏が緊張してんのさ」

「何であんたは緊張してないの!」

「したよ。夜、寝れなくて桜夏に電話しようとして、止めた」

「なんだよそれ……ああもう、次、勝ったらガチで、優勝?」

「それは止めて。緊張する。言わないで、桜夏は私だけ見て、応援してて」

「分かった」


 マジで本人よりもドキドキしながら、私は席に着いた。もう、ヘッドホンを早めにつけた。

 何も聞きたくない。MCが上手いから逆に緊張してしまう。

 え? 次勝ったら優勝で、この大会に勝ったら、和は自分の夢に近づいて、下手すればそのままどこかのチームからスカウトが?

 自分のことみたいにうれしい。けど、自分のことみたいに緊張もしてしまう。

 あれ? ていうか、優勝して、どこかのチームに入ったら、私の夢は叶うけど、私ってもう、いらないよね。

 大学に行って、編集チームがいるとか、ディレクターになるとかって話を聞いた。

 私もう、和の動画、作れないのかな。

 不安や緊張と違うけど似通った何かが胸を突く。痛いのか気持ち悪いのか分からない。寂しいっていうのが一番近いのかもしれない。

 私はいらない……でもそれが、和の夢のためになるなら。


「頑張れ……」

「ん? ごめ、マイク今付けたわ」

「頑張れ」

「おっけー、任せろ相棒」


 試合が、始まる。MCの人がそれぞれの紹介を始めた。相手はかなり古参の配信者。この日のためにプロをコーチに付けた実力者。

 対する和はこの日のためにずっとゲームをやって来ただけのただの女子高生。

 会場の雰囲気はどっちかというと相手側。だけど、ここまで和は無敗で来た。

 負けてもいい理由より、勝ちたいっていう理由の方が今は多い。

 別にどんな陰口叩かれてもコメント欄で叩かれてもどうだっていい。私はいつだって、あんたの横にいる。

 頑張れって、言い続ける。


「頑張れよ、和!」

『それでは、大一番! 泣いても笑っても次で優勝者が決まります! 絶拳乱舞トーナメント、開始です!』


 合図に合わせて、画面側でも試合開始の文字がフェードアウトしていく。

 先に動いたのは和。

 前ステップで距離を詰めて果敢に攻めていく。

 和の攻めっ気に対して、相手は一度様子見のガード。そんな弱気を見て取ってか、和は投げに転じて一気に倒し、勢いを加速。

 上から攻める。

 これは対空って言って、上方向への攻撃をもらって落とされる。

 しかも悪いことに、下段を食らってしまいコンボに繋げられた。

 格闘ゲームは中段っていう上側の攻撃と下段があり、ガードもそれぞれ中と下がある。

 中段は中段ガードで受けないといけない。

 つまり、相手のガードをどう崩すかの読み合いの試合だ。。

 さすがに相手はその辺りの経験値は和より多く、第一ラウンドは和の敗北だった。

 あと、2ラウンド負けたら、こっちの負け。


「和、大丈夫。勢いは良いからそのまま」

「おっけ」


 続いて2ラウンド目。前のラウンドで勢いをつけ、和の強さを把握した相手選手の猛攻が来る。

 このゲームヤバいのが、一度流れに乗られると一気に敗北に向けてHPがゴリゴリ削れる。

 第2ラウンドはもう、目も当てられない。なんと、パーフェクトで負けた。

 完全に、流れを失ってしまった和の背中が小さく見える。

 どうし、よう。ラウンド間の時間はもうあまりない。このままだと、何か言ってあげないと……。

 終わる……和の夢。そうなったら、また、元の生活に戻って、ゲーム練習して、来年もゲームして、バンドやって、卒業して……あ、れ?

 私は、気付いたら和の背中をぶん殴ってた。


「かっは……な、ごほ、に?」

「負けてもええから笑え! 私らには、まだ先がある! ここで負けても終わらんから!」

「……ありがと。桜夏がいるから、私は戦える」


 運命の3ラウンド目。

 和はあまりに静かに待ちの姿勢をとった。

 強くたたきすぎたかと心配になったが、全ての攻撃を防いで避けて、カウンターをねじ込む。

 こうなると相手は崩しを要求されるが、調子を取り戻した和はめくりといって、ガードの後ろからくる攻撃すら捌き切った。

 全く寄せ付けない圧倒的な防御力。ここまで極端なものは私も初めて見た。

 ラウンドを獲得。

 勝負は1-2、相手は相変わらずリーチだが、次のラウンドで和は完璧なカウンター戦術を展開。

 緩急つけた戦い方で攻撃を凌ぎ続け、会場が湧いた。

 さっきと違ってまるで刺すような猛攻。緩急と読み合いに勝ち続けて翻弄する。

 時間いっぱい使わせるような戦い方で相手の焦りを敏感に感じ取り、中段を刺す――

 ヒット。心の中でガッツポーズ。こうなったら和は止まらない。

 この大舞台、緊張もあるだろうに長く複雑なコンボを披露。このキャラはコンボ完走後のダメージがトップクラスで減る。これを当てればもう、負けはない。

 一フレームの思いを、叩き込む。


「しゃあっ!」


 和が叫ぶ。呼応して、観客席が盛り上がった。

 2-2という、大場所での快挙。もう既に、和は参加者の一人じゃなかった。

 この舞台の主役だ。

 それにこいつ、まるで楽しんでいる。

 この大舞台、大場所で戦えるってことに、自分がやったことないこと、やれそうなことを全部ぶつけてるんだ。

 ドラムの時もそうだったけど、どんな精神性でそんな勝負に出られるのかわからない。

 私のヒーローの背中が、どんどん遠のいていく。

 そういや、言ってなかったかもしれない。だから、ちょいちょい不安にさせてしまったかもしれない。

 でもさ、私は不器用で、言葉にするのも苦手で、ていうか話すのが苦手。

 だらかこんな時にしか言えないかもしれない。でも、今言いたくて仕方がなかった。

 もし今、言わなかったら――二度という機会がないのかも、しれないから。

 私はヘッドセットを外した。聞こえないように。

 でも、確かに言ったと自分に言い訳できるように。


「私を見つけてくれて、ありがとう、和」


 画面の向こう。最後の最後で相手の跳びに対して対空を決め、和はこの大会全体の、勝者となった。


「っしゃああ!」


 勝った後、ヘッドセットを取って和は私に抱き着いた。

 こんなに大喜びするんだな、お前は。まったく、最高だな、本当に。


「桜夏!」

「うん、おめでとう!」

「こちらこそ、ありがとう!」


 拳を打ち付け合う。

 会場のライトがチカチカ光り、スモークが噴出され、全ての賛辞が優勝者に注がれた。

 MCの方が対戦相手のストリーマーにインタビュー。

 悔しさと、和を称える言葉を残して号泣する真似のパフォーマンスに笑いが起こった。

 続いて、マイクは和の元へ向かった。


「何度か大会に参加しているのは見かけていましたが、今回は初勝利、初優勝おめでとうございます! 今、誰かに伝えたいことはありますか?」

「そ、うですね。ここまで一人で育ててくれたお母さん、ですかね。ケーキ屋さんしてて。あと、私、バンドやってて。そのメンバー、一生の親友に、伝えたいです」


 インタビューに答えた瞬間、和の目から涙が零れ落ちる。

 本人も何故泣いたか、全く分からないように流れた涙を慌ててすくった。

 MCの人はいいですね、と言いながら、最後両者に大きな拍手で! とまとめた。

 握手を交わして舞台袖に退いていく和を追いかけ、買ってておいたスポドリを渡した。


「お疲れ」

「嬉しいのに、なんで、泣いちゃうんだろうな。わかんない」


 震える声で今度は遠慮せずに泣く和の横に私も座ってスポドリを飲んだ。ずっと乾いていた喉と心が、潤うような気がした。


「それは和がやっと、自分で自分の夢を好きだって思えたからじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。