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作者転生~なんか設定と違うんですけど!~  作者: 膝関節の痛み
第2章 悪役令嬢について

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9/11

拉致るヤツ

 引き受けたのはいいが、私が何かを教えるわけではない。

 侯爵様の言う「時々会う」の中身を決めればよかった。


 それについて、一点私が侯爵様にお願いしたのは、パトリツィアと私の付き合いをできるだけ目立たぬようにしてほしいということだ。


 ゲームストーリー外の王都の事情はよく知らないが、常識的に考えて、自分の子供が侯爵家のご令嬢と懇意にするのを望む貴族は多いだろう。

 しかし、侯爵家の方針では、パトリツィアを家同士の関係に巻き込むつもりはない。

 そんな中で、どこの馬の骨とも分からない下級貴族の娘がしゃしゃり出てくれば周りは当然面白くないはずだ。


 私の身に危険が及ぶ危険性もゼロではないが、それよりも円滑な学園生活に向けてのガイド役的な私の存在が、「侯爵家のご令嬢は身分の低いものを優遇する変わり者」というような風評につながる可能性の方が高いように思う。

 それでは本末転倒である。


 話を聞いて侯爵様が出した答えは、私が名目上パトリツィアの侍女になることだった。

 週二回勤務のお付きのバイトである。

 具体的な内容は当日までに考えるとのことだったが、なるほど、それなら何をするにしても便利だ。

 屋敷の中はもちろん、どこかに外出する時も違和感がない。


 学園に入る前に侍女を辞めれば侯爵家とのつながりも切れるわけだから、傍観者を目指す私の事情においても好都合だ。


 さらには、侍女なら侍女の給金を出さなければ、と侯爵様が言い出したので、そちらはありがたくいただくことにした。

 マジ助かります。

 侍女としてお給金をもらうのだから、お茶を淹れたり、髪の手入れをしたり、どしどし侍女しようと思う。


 というわけで、侯爵様の来訪から六日後。

 今日がその初出勤日だ。


 侯爵家の人たちとは今日が初顔合わせになる。

 第一印象を良くしておかなければ今後に支障が出る。

 学生時代一度痛い目に合っている

 バイト初日大事。


 事前に受け取った地図を手に昨日歩いてみたところ、侯爵家までは徒歩で20分ほどかかった。

 今日の約束は10時。

 念のため1時間前には家を出て早めに侯爵様にご挨拶をと思っていたらさ、迎えの馬車が来たのよ。

 2時間前に。


 早えよ!

 従僕さん曰く、「お嬢様のご命令で」とのこと。

 パトリツィア!

 あんたは、出社拒否のプログラマの家に早朝車で乗り付け、会社まで拉致ってくるどこぞの部長か?

 黙ってでも、2時間後にはちゃんと行くってば!


 言われてきただけの、実直そうな従僕さんに文句を言うわけにもいかず、急いで支度を終わらせ、大人しく馬車に乗り込んだ。

 ごねる意味もないし、私が時間を間違えている可能性も微レ存だし。


 馬車はそんなに大きくはなかったが、作りが違った。

 シートは柔らかいし、内装は派手さはないもの手が込んでいた。窓枠の彫刻とか。


 カーテンは閉じられている。

 従僕さんは御者をしているので、人目を気にする必要はない。

 時々カーテンをずらしして外の様子を確認しつつ、ひとりでシートの手触りを満喫していると、長い塀をぐるっと回りこんだ先で、一旦馬車は停まった。

 門扉が開かれる重い音が聞こえ、馬車は侯爵家の敷地に入ったようだ。

 さっき表門らしき前を通り過ぎたから、裏門だな。

 そうか、従業員だから出入りはこっちからか。

 よかった。正面から突撃するところだったよ。


 御者さんから引き継いだ例のクールビューティーな青髪メイドさんの後について裏庭脇の通用口から邸内に入り、私は業者控室みたいな簡素な部屋に通される。


「ここでお待ちください」

「あ、はい」


 ザ・事務的。

 目を合わせようともしない。

 まあ従業員だからそれでいいだけどね。

 でも、なんかこう、侯爵様とお嬢様の依頼によって来たわけだからさ、もうちょっと暖かく迎えてくれてもいいと思うんだ。


 あ! あのふたりとも、実は嫌われていたりして。

 ブラック?ここブラック侯爵家?


 パトリツィアが愛されているというのは、若干ニュアンスは違うけど設定の範囲内。

 でも、それは家族の話だ。使用人がどう思っているかは不明。

 まずったなあ。職場としての侯爵家なんて一行も書かなかった。

 ここで働くって分かってたら、死ぬ前に「超ホワイト」って書き足しておいたのに。


 ボーっとそんなことを考えていると、ノックの音がした。

 パトリツィア様お出ましか。

 なんだよー、この冷たい仕打ちはよー。

 って機嫌悪い声を出しそうになるのをこらえて、面接用の声で返事をする。

 ドアが開き、入ってきたのはワゴンを押した女の子だった。

 ふざけないでよかった。


「お待たせして申し訳ありません。

 お嬢様は間もなくおいでになるかと思います」


 前世的に言えば、小学校中学年くらいの美少女である。

 さっきのメイドさんといい、レベル高えな。

 縁者の行儀見習いってところかな。

 真剣にお茶を淹れている。

 ちょっと不慣れな感じが誠によろしい。


「どうぞ」


 テーブルに2つのティーカップが置かれる。

 一つは私の前、もう一つはその向かい、パトリツィアの席。


 小学生メイドはそのままワゴンを押して壁際に待機した。

 お茶係するのね。がんばれ。


 こういう場合は、先に手を付けても良かったんだっけ?

 まいっか。

 パトリツィアは手づかみでから揚げ食うような子だから、私が先にお茶を飲んでも気にするはずがないな。


 お茶は淡い色で、前世で友達からもらった台湾の青茶みたいな味がした。

 染みわたるぜ。


 刺激を受けたからか、お腹空いてきた。

 朝イチで拉致られたから、朝ご飯食べてないんだよ。

 このタイミングで出てきたら最高なんだけどな。

 アジアンなお茶だから、パンだとちょっと違うか。

 でも肉まんとかじゃない。

 おにぎりだな。


「ナンチャーラ領の名産は米!」と決めたおかげで、実家の食卓にはごはんも出た。

 さすがに和食というわけにはいかなかったけれど、それでもだいぶ助かった。

 そうだ、新米を送ってもらおう。

 おにぎりも作ろう。


「お代わりはいかがですか?」


 びっくりして顔を向けると、お茶係の女の子が微笑んでいた。

 部屋の隅からお茶の減りを確認していたのだろう。

 出来た子だ。ウチにも欲しい。


「ありがとうございます。いただきます。

 お茶、とても美味しいです」

「ありがとうございます」


 彼女は新しいお茶を注ぎ、テーブルを回り込み、私の前に着席した。


 え?

 何?


 固まる私に、すまし顔で少女は言った。


「初めまして。パンツィーリ侯爵家次女、アンネッタ・パンツィーリと申します。

 以後お見知りおきを。

 そうそう、間もなく来るお嬢様とは私のことで、お姉さまもお爺様も来ません」


 妹? 来ない?

 どゆこと?

 いきなりそんな言われても。

 っとその前に!


 私はなんとか自分が末端貴族であることを思い出し、立ち上がって慌てて挨拶を返した。

 順番が逆だけど、あと噛んだけど、どうしようもない。

 妹ちゃんはアワアワする私に大喜びだ。

 パトリツィアの設定に「妹が一人」と書いてあるだけで、本編には一切登場しないのキャラなのに、ドヤ顔も可愛いじゃねーかチクショー!


「ああ、可笑しかった!

 ビアンカ様は面白い方ですのね」


 目じりの涙をぬぐって、アンネッタちゃん、いやオーラ的にアンネッタさんはにっこりと笑った。

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