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作者転生~なんか設定と違うんですけど!~  作者: 膝関節の痛み
第2章 悪役令嬢について

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頼まれるヤツ

 え?

 思い出話が終わって帰る流れじゃないの?

 せっかくほっこりしたんだから、ここでお開きにするってわけにはいきませんかね旦那?

 だが、私にできる返事はひとつしかない。


「はい。伺います」


 公爵様はちょっと困ったような顔をした。


「君にひとつ頼みたいことがあってな」


 嫌な予感がする。

 やんわりと断わろう。


「はい。私にできることでしたら」


 大貴族を前に、さっきから口が言うことをきかない。


「こうやってカルロ殿のひ孫に会えたのも何かの縁だ。

 孫も君を大層気に入ったようだ」

「もちろんです、お爺様!

 ビアンカは私の親友です!」


 パトリツィアが食い気味に肯定した。

 親友はえーよ! 昨日会ったばかりなのに。

 侯爵様も苦笑していらっしゃるじゃないか。


「そうだ。井戸をお借りしてもよいかな?」

「もちろん」

「ありがとう。パティ、馬に水をやってきてくれないか?」


 ほらぁ、追い払われた。

 パトリツィアはそれに気づくこともなく、いいお返事をして庭に向かった。

 サシで頼まれごととか、もう断れないヤツじゃん。


「まあ、孫はあの通りでな」


 孫娘が出て行った玄関の方に目をやって、侯爵様はさらに苦笑した。


「君も分かったかもしれないが、田舎で自由に育ったせいか、あの子はどうにも落ち着きがないというか、その場の勢いで突っ走ってしまうところがあってな。

 私もあの子の両親も、そういう屈託のなさは可愛いし、あの子の美点だと思っておる」

「はい、分かります。

 ほんとにまっすぐですものね」

「うむ。

 だがな、パンツィーリ家の娘としては、そうも言ってはおられぬのだ。

 私は国王陛下から内務卿を仰せつかっていて、いくつかの貴族の代表のようなこともしている」

「はい、存じております」

「そうか、ならば話が早い。

 この立場上、パンツィーリ家の動きは否応なく政治的な意味合いを持ってしまうのだ。

 残念ながら、私を敵視するものも少なからず存在する。

 昨日、パトリツィアが自分で話したそうだが、王弟陛下の一件などは、一つ間違えば大事になるところだった」


 そうでしょうとも。私は深く頷く。


「婚姻ひとつとっても、我が家の人間が嫁ぎ先で好き勝手しているわけにはいかない。

 妻としての役目だけではなく、領民の声を聞き、他派閥や他国の動向に気を遣いながら、この国の安寧を担う一人となることが求められる。

 君はパトリツィアにそれが務まると思うかね?」

「それは……、失礼を承知で言わせていただければ、厳しいかも知れませんね」


 そもそも、なにその結婚。

 特に設定していなかったけど、そんなことになってたのか。

 パトリツィアにできるかとか以前に、そんなスーパーなヤツほとんどいないと思う。


「幸い、あの子の妹はそういう面の素質がありそうでな。

 王都で貴族社会にもまれてきたせいか、まだ10歳なのになかなか頭が回る。

 ふふっ。嫁いだら、その家を牛耳りそうだ」


 設定外キャラになんか怖いの居たよ。

 さすが名家は違うな。


「……ならば一安心ですね」

「うむ。確かにな。

 パトリツィアも少し安心したらしい。

 それで何を思ったか、剣の道に進むと言い出してな。

 だが、アレには剣の才能はそれほどないのだ」

「そうなのですか?

 あんなに一所懸命練習していたのに……」

「残念ながらな。最初につけた剣の教師の見立てだ。

 全く使えないわけではないが、どう頑張っても凡人に毛の生えた程度だそうだ。

 腕そのものより、駆け引きのできない性格が剣には向かぬのだ。

 だからな、あの子はそういったしがらみや荒事とは関係のないところで幸せになってほしい」


 なるほど。

 貴族としての資質には欠けるけど、そんなことよりも孫娘の幸せが大事って。

 いいお爺様じゃないか。

 本編設定の溺愛よりずっといい。


「お水あげて来ました!」


 ちょうどパトリツィアが戻ってきた。

 侯爵様はさっきのディスりのような会話を聞かせたくなかったんだな。

 何度も同じお説教を聞くのは辛いからね。


「お爺様、ビアンカにあのお話はしたのですか?」


 凹みを無事回避したパトリツィアが、目をキラキラさせて尋ねる。


「いや、ちょうどこれから話すところだ。

 ビアンカ君」

「はい」

「君が孫に新しい道を示してくれたこと、感謝する。

 君は王都に染まっていないし、カルロ殿の血を引くだけあって聡い。

 同い年の君の言葉は、孫も理解しやすいのだろう」

「はい!目が啓かれた思いでした!」


 パトリツィアの誇張表現を「そうか」と軽く流して、侯爵様は続ける。


「来年、この子は学園に入園する。

 侯爵家なので入園に支障はないが、その後うまく馴染めるかどうか心配なのだ。

 学園は小さな貴族社会だからな。パトリツィアに向いているとは言えない。

 視野を広く持てればいいのだろうが、領内で自由にさせたせいか、考えが及ばない点も多い」


 確かに、「学問がダメなら剣」というような短絡さでは、思惑や悪意に満ちた貴族社会を乗り切ることは難しいだろう。

 私の納得した顔を見て、侯爵様は続ける。


「そこで君には、入園までの間、この子に多少なりとも貴族らしさを教えて欲しいのだ。

 将来はこの子の自由にしてくれていいが、成人するまではしがらみは拭えぬからな」

「お言葉ですが、私は田舎男爵の娘です。

 侯爵家らしい振る舞いなど存じません」

「いや、そんな大仰に考えなくていい。

 パトリツィアが見分を広げる手伝いをしてくれればいい。 

 その中で、侯爵家ではなく、貴族としてさすがにこれはまずいだろうというところを本人に気付かせてやって欲しいのだ。

 君を見本に、多少の落ち着きを身につけてくれればありがたい」


 うん。言わんとすることは分かる。

 こちとら前世と合わせれば成人二回分以上生きてるんだから。

 嬉しくないけど、13歳の小娘よりは落ち着きがなかったらさすがにまずいでしょ。

 でも。


「失礼ですが、それはご家庭でなさることかと存じます」

「いや、家では問題がないのだ。

 ただな、他のことに気を取られたり気が緩んだりすると、この娘は忘れるのだ。

 私たちの目が届かぬ時間、そういったときに思い出させてくれればいい」

「ビアンカ、よろしく頼む!」


 パトリツィアがまた土下座しそうな勢いなので止める。

 でもまあ、本人がここまでその気なんだから、私がやる気スイッチを切るわけにもいかない。

 確かに、本編どおりとはいかなくても、表面上は貴族のご令嬢になっとかなきゃ色々マズそうだし、「正しいお嬢様」の姿は作者である私の頭の中にある。

 入園前に矯正できれば、観客としての私が喜ぶ。


「分かりました。

 出来る範囲でということでよろしければ、お受けさせていただきます」

「そうか。ありがとう。

 礼は何でも希望を言ってくれ」

「いえ、お気持ちだけいただいておきます。

 何か頂戴してしまったら、完全なお仕事になってしまいます。

 お仕事としてお受けする自信は、正直ありません」

「うーん、確かになあ……。

 ま、それはおいおい考えよう」


 侯爵様は隣のパトリツィアを見て苦笑した。

 そのパトリツィアは、ビスケットの最後の一枚をじっと見つめていた。


 うん、そういうとこから直そうね。

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