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作者転生~なんか設定と違うんですけど!~  作者: 膝関節の痛み
第2章 悪役令嬢について

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野生児なヤツ

 今さらどうしようもないけど、現状は一応確認しておこう。


「でも、森に連れ出したのはあなたでしょ?

 よく怒られなかったわね」

「いや、お父様にものすごく叱られた。

 アドルフォ様は私を見ると逃げるようになったわ。

 その後すぐ、婚約者候補からも外されたのよ。

 あ、アドルフォ様は、世間ではビビリ王子って呼ばれているわ。あははは!」


 野生児のおかげで順調におヘタレにお育ちのご様子。


「笑い事じゃないでしょ……」

「でもね、そのおかげで、私は貴族として何ができるかを考えて、弱い者を守るために剣を修めようと思えたのよ。

 その時はお爺様もお父様も賛成してくれていたんだけどな……」

「また何かやらかしたの?」

「すごい!よく分かるわね!!」


 そりゃ分かるでしょ。


「何か剣を禁止されるようなことしたのね」

「うん。今となっては笑い話だけど、王弟陛下に棒で殴り掛かった」

「はあっ⁉」

「近くに木の棒しかなかったからね。

 ほんとは剣なんだけど、王都では帯剣には許可がいるから仕方なかったのよ」


 仕方なくねーよ!

 何やってんの⁉

 犬Pのコンプラ設定生きてて良かったよ。


「王弟陛下は、近衛軍の長をやっておいでで、顔が怖いのよね」

「まさか、そんな理由で殴り掛かったの?」

「もちろんそんなわけはないわよ。

 領内にも何度か国王陛下の遠征でいらしたけど、アーマー姿の印象しかないし、その日は休日で、平民のような格好だったからわからなかったのよ。

 顔は怖いけど、とてもやさしい人でね、転んだ子供を抱き起したところだったみたい。

 そこをたまたま私が見かけて、誘拐犯と間違えて殴り掛かったわけね。

 何せ顔が怖いから、誘拐犯にしか見えないでしょ?ね?」


 同意を求められても、王弟陛下の顔が怖いとか知らんし。

 ゲーム中にちらっと登場はしてるけど、フルアーマーの中身の顔は見た記憶がない。

 あと、全世界のこわもてに謝れ。


 不敬話ばっかだけど、とりあえず話を進めよう。


「それでどうなったの? 王族に殴り掛かるって重罪よね?」

「大丈夫だったわ。結局、棒は素手で簡単に受け止められて、陛下は私の顔を見て、『パティ、危ないことはやめなさい』とため息をつかれた。

 とっくに私だと分かっていたらしい。さすがは陛下ね」

「知り合いでよかったね」

「うん。お父様のご友人だからね。

 でも、陛下はそれをお父様に知らせたんだよ!」

「そりゃ言うでしょう。いきなり襲われたんだから」

「それはそうだとは思う。陛下には失礼なことをしたと思っている。

 でも、私は子供を助けようと思っただけなのよ。

 なのに、なぜか剣を禁止された。

 おかしいじゃない!」

「うん。おかしくないわね」

「何故⁉」


 そっか、野生児にはちょっと難しかったね。

 お姉さんが分かりやすく説明してあげよう。


「あのね、パトリツィア。

 王弟陛下はあなたになんて言った?」

「えとね、危ないことはやめなさいって」

「でしょ。それ、お父様や侯爵様にも言われなかった?」

「……そういえば……」

「それが理由よ。

 王弟陛下もあなたのご家族も、あなたに危ないことをしてほしくないの」

「危ないことなんかしていない」

「してるでしょ?

 考えてみて。もし、王弟陛下じゃなくて本物の誘拐犯だっらどうなっていたと思う?

 その時のあなたに子供は助けられた?助けたとして、あなたは無事で済んだ?」

「それは……、多分難しかった……」


 ようやくその危うさに気付いたのか、パトリツィアはがっくりと肩を落とした。


「ね?

 森のこともそう。

 襲ってきたのがスライムじゃなかったら、あなたもアドルフォ殿下も無事では済まなかったかもしれない。

 侯爵様たちは意地悪しているんじゃなく、あなたに危ない目にあってほしくないだけだと思うな」


「そうか……。やっぱり私は馬鹿だな。

 ビアンカ、じゃあ私は何をすればいい?

 剣もダメ、魔法も使えないでは、ただの使い物にならないお荷物じゃない」


 すがるような目に、私は出かかったフォローの言葉を飲み込んだ。

 コメディー設定のパトリツィアは、確かに剣を振り回す脳筋キャラだったけど、剣禁止の世界では如何ともし難い。


 私が見たかった本編の悪役令嬢とは違うし、犬Pのむちゃブリのおかげで生まれたボツキャラかもしれないけど、それでも、目の前にいるのは一人のまっすぐな少女だ。

 作者ならば、いや作者かどうかなんて無関係に、なんとかしてあげたい。


「ねえ、ちょっと失礼なこと言ってもいい?」

「う、うん。もちろん」


 私は、実家では短剣術を習っていた。

 護衛など雇える身分じゃないから、最低限の護身術は身に着けておいた方がいいと思ったからだ。

 剣とは扱い方が違うにしても、パトリツィアの素振りは、剣に振られているように見えた。


「私ね、さっきあなたの素振りを見てて、向いてないんじゃないかと思った」

「そう……」

「落ち込まないで続きを聞いて。

 将来は分からないけど、今はまだ体も小さくて、あの木剣は大きすぎると思ったのよ。

 剣の重さに負けてしまって、足元の石畳を叩いたりしてる」

「ご、ごめんなさい……」

「いや、だから責めてるわけじゃないんだってば。

 ちゃんとした師匠がいればいいのかもしれないけど、それも難しい。

 ならば、今は剣はひとまず置いておいて、何か別のものを探してみてはどうかしら」

「別のもの……?」


 それはわかんないよ。

 まだ出会って間もないし、そもそも私が決めるようなことではない。


「わかんない。でも、探せばいいじゃない。

 例えば、あなたが食べた串焼きだって、誰かが発明したんだよ。

 そういう美味しいものを考えるのだって、世の中のためになることだよね」

「うん。串焼きは素晴らしい!」

「パトリツィアは何歳?」

「13歳よ。来年から学園に入る」


 うん。設定どおり同級生。


「そっか。じゃあ、時間はいっぱいあるね。

 学園で何か見つかるかもしれないし、学園の外でピンとくるものに出会うかもしれない。

 ともかく色々見聞きして、経験して、ゆっくり自分の道を決めればいいと思うよ」


 パトリツィアはしばらく考え込んだ後、顔を上げた。


「うん。そうだね。

 私は学ばなきゃならない。

 何もできないくせに学ばないのでは、益々馬鹿になってしまう」

「大丈夫!

 そんな風に思えるのは、パトリツィアがバカじゃない証拠だよ!」

「そうなの⁉」

「うん。せっかく侯爵家に生まれたのだから、お家の人に色々聞いてみるといいよ。

 きっと色々知らないことを教えてくれるから」

「そうよね!

 ありがとう、ビアンカ。早速相談してみる!」

「うん。そうれがいいと思う」


 あ、でも私がそそのかした形になったのを侯爵様に知られるのはちょっと勘弁だから、一応釘を刺しておこう。

 上級貴族怖いもんね。


「でも、今日のことはお家の人には内緒ね。パトリツィアも買い食いしてたなんてバレるのは嫌でしょ?

 ふたりだけの秘密ってことで」

「うん!ふたりだけの秘密か。いいね、そうしよう!

 では、今日はこれで失礼する」


 パトリツィアは急に剣士モードに戻って一礼し、玄関へと向かった。


「また会おう。

 ビアンカは私一人で見つけた初めての友だ。

 これからもよろしく頼むでござる!」

「こちらこそ!

 びっくりしたけど今日は楽しかった」


 私はパトリツィアが差し出した華奢な手を握り返す。

 素振りを続けた、少し硬い手のひらだった。

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