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作者転生~なんか設定と違うんですけど!~  作者: 膝関節の痛み
第2章 悪役令嬢について

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5/12

ボツ企画なヤツ

 (らち)が明かないので場所を室内に移した。

 さすがにもう土下座はしていない。


 無駄に大きいテーブルの長辺に向かい合って、私は、とりあえずパトリツィアに事情を聞くことにした。

 彼女の前には冷めきった串焼きの残りが置かれている。


「わたくしは、剣の道で生きてゆくと決めているのでござる。

 でも家族は皆、私が剣を持つことに反対しておるでござる。

 庭で素振りをすることさえ許してもらえぬのでござる」


 悔しそうにパトリツィアはうつむいた。


「なるほど。それでパンツィーリ様はここで隠れてお稽古をされていたのですね。

 でも、どうしてここ?」

「うむ。それは、たまたま間違えて入り込んだ道の先に、廃屋があったからでござる!」


 だから廃屋じゃねーよ。

 あと、なんだよそのバカっぽい笑顔。設定と違う。


「誰にも見つからずに修行が出来て、おまけに市場にも近い。これは神のお導きかと思ったのでござる。

 まさかナンチャーラ様がいらっしゃるとは思ってもみず、本当に申し訳ござらん」


 立ち上がり、また深々と頭を下げる令嬢を慌てて止める。


「頭をお上げください。それはもう結構ですってば。ご事情は分かりましたから」


 だめだ、お貴族様同士の会話スタイルのせいで調子が出ない。

 あと、呼ばれてみて思ったんだけど、やっぱナンチャーラは失敗だった。

 私は思い切って切り出す。


「あの、ひとつお願いがあるのですが」

「何でござるか?」

「私は田舎の男爵家の出で、こうしてパンツィーリ様と向かい合ってお話しさせていただくような身分ではございません。せめてビアンカと呼び捨てにしていただけませんでしょうか?」

「おお」


 パトリツィアは目を輝かせた。


「ではビアンカ、わたくしのこともパトリツィアと呼んでくださるか?

 侯爵家は関係ないでござる。爵位をかざすのは下品だといつも言われておる。

 それに、ご迷惑をおかけしたのはわたくしの方ではないでござるか」


 即座にビアンカ呼び。はえーな、おい。

 でも、なんだろう。言葉遣いはともかくちゃんとしてる。悪役令嬢と設定が違う。

 ゲームの悪役令嬢は、テンプレ通りの高慢縦ロールで、こんな謙虚なことを言うキャラじゃないのに。


「あ」


 私はひとつの可能性に気付いた。もしかしてアレ?


「すみません。ちょっと横を向いていただけますか?」

「はあ」


 ああ……。おくれ毛がうっすら縦ロールしてはる。

 残念ながらアレだ。

 ボツ設定のひとつ、考えなしの行動でヒロインの行動を結果的に妨害しまくる残念令嬢の特徴だわ。

 犬Pの指示ででっち上げたコメディータッチのやつ。

 ってことは、ここってボツネタ世界?

 クソ! あの駄犬、この世界でも嫌がらせかよ。


「あ、あの……、ダメでござるか?」


 ごめん、放置してた。


「あ、すみません。

 そうおっしゃるのなら、そのようにさせていただきます、パトリツィア様」

「様は不要でござる」

「それはどうかと思いま」

「様は要らぬ!」

「あ、はい」


 侯爵ご令嬢にタメ口はNGだけど、勢いに押されてうなずいてしまった。

 ついでに、せっかくだからもう一つ修正。


「ではパトリツィア。

 その言葉遣い、やめません? 言いにくいでしょ?

 私も使い慣れていないので話しにくいです」

「それは……」


 ちょっと逡巡した後、フッとパトリツィアの肩の力が抜ける。


「助かったー。

 実は、剣士の言葉は難しいのよ」

「なんでまたそんな話し方を?」

「お爺様から、来年には学園に入るのだからもっと貴族らしく話すように言われて、本に出てくる剣士のような言葉遣いをマネしてみたの。

 知ってる? 『エドガーの世直し旅行記』?」

「ああ、あれかあ」


 この世界では有名な冒険小説だ。

 日本刀を持った侍貴族が主人公で、パトリツィアはそれをマネしてたわけだ。


「でも、別にエドガーじゃなくても良くない?

 女性キャラもいたでしょ?」

「うん。ほんと隠密のカスミが好きだったんだけど、カスミは変身魔法で外見も話し方も変えるでしょ? それはマネできないかなって。変身魔法使えないし」

「まあ、それはそうか」


 RPGシナリオでも変身魔法はなかった。シェイプシフターという魔物はいたけど。


「貴族みたいな話し方なんか性に合わないしドレスも動きにくいから、がんばって剣士の作法を身に着けたいんだけど、剣も話し方も全然上達しないのよ」

「貴族ダメなの?」

「うん、慣れないのよ。王都に来る前、領では貴族なんてほんの少ししかいなかったからね。遊ぶのも平民の子供たちと一緒だったの。

 だから気を抜くと平民の話し方になる。貴族の言葉は背中がムズムズするわ」


 そう言って、パトリツィアは苦笑した。

 想定していた本編の高飛車お嬢様言葉とはかなり違うが、話しやすさはこっちの方が断然上だ。


「そういうわけだから、ビアンカも遠慮なく話してくれると助かる。

 ――それはそれとして、串焼きを食べてもいい? さっきから視界の隅で匂いがうるさいのよ」

「……どうぞ」


 残念が解禁されたようだ。

 何だよ匂いがうるさいって。分かるけど。


 私はお茶を淹れ直し、自分用に買ってきたボアのから揚げも並べた。

 串焼きとから揚げ。貴族令嬢のお茶会にあるまじきアイテムである。

 他に人もいないし、相手はお笑いキャラだし、この場は私もため口でかせてもらうことにした。

 おつまみ、いやおやつを食べながら、私たちは話を続けた。


 パトリツィアの祖父、ランドルフォ・パンツィーリ侯爵は内務卿という設定だ。

 上級貴族として王を支える立場にある。

 侯爵家は王都の西に領地を持つが、今は領地経営を息子のシルヴィオ伯爵に任せている。


 本編では、ゲームの攻略対象の第二王子に溺愛する孫娘を嫁がせるために、ヒロインに裏で嫌がらせをする人物という位置づけだった。

 バッドエンドの断罪シーンで、ヒロインの王都追放を王に進言する悪役ジジイである。


 ただ、ボツパターンのサブキャラについては全く設定をしていなかったので、この世界の内務卿の性格は分からない。

 だが話を聞く限り、侯爵家がパトリツィアを甘やかしている感じはない。


「私はね、頭が悪いのよ」


 文官トップの孫がなぜ剣士なんか目指すのと尋ねたら、パトリツィアはから揚げを手でつまみながら、なぜか自信たっぷりに言った。

 いや、そんなことはない。高スペックでアホっていう設定だから地頭はいいんだよ。

 あと、ドレスで指を拭くな。


「私は魔力が高いんだけど、魔法が使えないの。

 それもあって剣士を目指したんだけど、お爺様がおっしゃるには、私は目先のことしか見えていないんだって。

 確かにそうかも知れない。

 今までも、その場の勢いで色々ご迷惑をおかけしたことがあるしね」

「何があったの?」

「これでもね、幼い頃はアドルフォ王子の婚約者に名前が挙がったこともあるの。

 でもね、アドルフォ王子を誘ってふたりだけで森に入ったことがあって、その時、スライムに襲われてアドルフォ様を傷つけてしまったの。

 私は拾った木の枝でスライムを討伐したんだけど、気がついたらアドルフォ様はっ、い、衣服を全て別のスライムに溶かされてブフォ!」


 噴いた。反省してねーだろお前。

 王子の婚約者を狙うという本編の設定を、自分の手で破壊しちゃったのね。


「失礼。

 もちろん、アドルフォ様に張り付いていたスライムも倒したよ?

 でも、お姿があまりにも可笑しくて。つい大笑いしちゃった。

 全裸で、真ん丸で、涙目で、顔を真っ赤にして、スライムみたいにプルプル震えておられた!あははは!」


 笑うなよ、かわいそうに。そりゃトラウマにもなるわ。

 王子、攻略対象のキラキラ系なんだけど。


 まあ、お笑い版ではヘタレ設定にしたはずだから、合ってるっちゃ合ってるのか。あんまし見たくないけど。

 ヘタレた原因は決めてなかったけど、どうやら野生令嬢がそれっぽい。


 つうかこの世界。頼んでもいないのに勝手に設定膨らませてんじゃねーよ!

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