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第7話:まだです





昼休み、購買。

昼飯を買いに行った先では、目的の商品を買おうとする生徒でごった返し、複数の列ができていた。

俺もその内の一つの最後尾につく。


順番が進むにつれ、俺も一歩だけ詰める。


《今日は混んでるね》

《何かあった日?》

(ただの昼休みだろ)


列の横では、別のグループが騒いでいる。

笑い声と、何を言ってるか分からない会話。

購買の列とは関係なかった。


前の人が、棚を指差す。

店員が頷いたのが見えた。


《限定商品?》

《もう無いかも》

(見えてないだろ)


また一歩、前に出る。

気づいたら、レジはもうすぐそこ。


一人、また一人と会計が終わる。

レジ前で、動きが止まった。前の人が店員に何か言っている。


《システムトラブル?》

《伝説のフリーズ?》

(勝手に盛るな)


店員が首を傾げて、レジの画面を見た。

前の人が、もう一度何か言う。


《クレーム?》

《修羅場?》

(もっとひどくなった…)


列の後ろが少し詰まった。

背後の生徒と距離がなくなる。


《圧が来たよ》

《期待が集まってるんだ》

(何の期待だよ…)


前の人が財布を出した。

小銭を探しているように見える。


《長引くね》

《これは長期戦かも》

(何と戦ってんの?)


順番が近いので、俺も財布を出す。中身を再度確認した。よし、お金はちゃんとある。


レジの横で、別の店員が商品を補充した。

棚からパンが一つ減って、また補充されていく。


前の人が、ようやくレジに何かを置いた。

店員がバーコードを通す音。


ピッ。


《来た!》

《動いた!》

(騒ぐな騒ぐな)


すぐに別の音が鳴る。

ピッ、じゃなくて、これは。


《エラー音?》

《不吉の前触れ!?》

(ただの操作ミスだろ)


前の人と店員がもう一度何か話している。

聞こえないが、何かあったのか?


《聞き耳立てる?》

《自然に前屈みで》

(いや怪しすぎるって)


会計が終わったらしく、前の人がようやく袋を受け取った。


《次だよ次》

《覚悟を決めて》

(ただの買い物なのに重すぎる…)


レジの正面に立つ。

店員がこちらを見る。


その瞬間、


(……あれ?)


ヤバいことになった。

どれを選んでたのか、忘れた。


《……え》

《嘘でしょ?》

(いや、マジでヤバい)


財布は手にあるし、中身もある。

けど問題はそこじゃない。手が震え始める。

まさかだろ。


——俺、何を注文しようとしてた?


ドクンと急に心臓の鼓動を感じた。

背中が妙に近い。

距離、というより。数。


《後ろさ…》

《増えてない?》

(やめろやめろ、プレッシャーをかけるな)


ますます手が震えてくだろうが。

同時に迫られてると感じると余計に何を考えてたのかを忘れていく。


棚を見て、必死に探す。どれに決めた!?

種類は変わっていないのに。

何を頼もうとしていたのかを思い出すだけなのに。


《あれだよ、あれ!》

《それだよ、それ!》

(どれだよ!!?)


天使と悪魔が騒ぎ立てる。あれ、それ、しか言わない。具体的な名前も言わない。せめて商品名言って!?


「——お決まりですか?」

「あ、えと」


幸いなことに、やっと商品名を思い出した。

店員に伝え、「はい」と返答が来る。

一安心、と思いきや。


「——でさぁ」

「——です」


声がした。たぶん、金額。


《今言ったよ》

《聞いた?》

(へ?)


まさか背後の生徒の声と丸かぶりして、金額を聞き逃す。うそだろ。


「——円です。お支払い、どうされますか?」


今度はちゃんと聞き取れた。良かった。


《後ろ見てるよ!》

《早く終わらせて!》

(焦らせんな!!)


震えた手から小銭がこぼれ落ちる。

すぐに拾ってトレーへ。残りの小銭を出す。

ようやく支払いが終わって、袋が差し出された。

………ただ購買でパンを買うってだけで、こんなに疲れるもの???


《終わった?》

《終わったね?》

(……多分)


一歩下がって、列を外れる。深い深いため息が出た。

パンは買えた。けど。

——結局、精神は確実に削れた。









人の流れに押されるようにその場を離れる。

購買前の熱気から一歩外れただけで、空気が少し澄んだ気がした。


袋の中身を確認する。

大丈夫、ちゃんとある。


《確認しとこ》

《消えてない?》

(手品じゃねーんだから)


通路を歩く。

向かう先は、食堂。


——の、はずだった。


《混んでるね》

《今日って何かあった?》

(さっきも聞いたぞ、それ)


視線を動かす。

空いている席を探す、というより「座っても問題なさそうな場所」を探す感じ。


《あそこ》

《いや、こっち》

(決めさせて?)


一つ空いている席を見つける。

……が、机の上にカバンが置いてあった。


《場所取りだ》

《見えない所有権使ってる》

(ちゃんと見えてるから)


次。

今度は椅子だけ引いてある。


《行ける行ける》

《いや、危険だ》

(どっちだよ)


結局少し端の席に落ち着く。

机を引いて、椅子に座った。


袋を机の上に置いて、袋を開けて、パンを取り出す。


——そのとき。


《お箸は?》

《ないね》

(いや、パンだぞ?)


何でパンにお箸なんだよ。


《焦りすぎだよ》

《余韻抜けてないね》

(……誰のせいだと)

《食べる?》

《今?》

(今だろ)


むしろ今食べないでいつ食べるんだ。

手を伸ばして、止まる。


背中に、まださっきの圧が残っている気がする。誰も見ていないのに。


パンを持って、食べようとした、その瞬間。


《あ》

《飲み物》

(今言う!?)


机の上にはパンだけ。

飲み物はない。しまった買い忘れてた。

こいつらに邪魔されたからだ。


《喉詰まるよ〜》

《絶対詰まるね》

(食べさせろ!!)


俺は、パンを持ったまま固まった。


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