第二話 賭場へ
「ワバリ、カードで大事なことってなんだかわかるか?」
シゲムが言う。
「大事な事かい? ゲームによるけど、手札の質か?」
「それもあるけど、一番は人心の把握だ。『今あいつはどんな手札で、どうやって勝ちたいか』というのを、考えられる限りの全パターン想定し、現状の最適解を選ぶ。すると、カードというのは勝つ」
「ほー……プロフェッショナルって感じでなんかめっちゃ良い感じだなぁ! 憧れちゃうな……」
シゲムがはにかむのを見てから、カードで負けた。
其処は俺の家だった。俺の家の周囲には時期になると黄金色の原ができる。つまり、米だ。別の大陸からやってきた米が、ここらへんの気候にマッチして、毎年大量の米ができる。
近所の農家から「酒蔵の事業」を持ち掛けられているものの、この前までは俺は一人で、農家れんじゅうもそういう酒蔵となるとずぶの素人。となるとまともに稼ぎは期待できない。「失敗」した時の穴埋めもまともにできやしないから、大人しく米を売るから、どうしても酒を作りたいなら他の蔵に頼むしかない。
ただ、どうやら其処まで本気でないらしく、「お前が無理ならいいや」という感じで、毎年ありがたいことに米が差し向けられる際、「酒蔵」という言葉を出さなくなった。
「そういえば、お前ギルドに入っていろんな人間を見たことあるだろうけど、知ってるか? この世界には人の心を読めたり、少し未来を見たり、目の届かない所で起こってることを認識できたり……つまり、感知能力とか認識能力が他人より優れた『ショッカー』ってのがいるらしいんだ」
「ン? 知らんなぁ」
感知能力・認識能力が他人より優れてる奴ってのはあまり知らない。俺もたまに撃った弾が当たるか当たらないか分かる時があるけど、それとは違うのだろうか?
目を潰された時、目を潰されたまま銃を撃つことになって、普通なら分からんのに「ここだ!」って撃つタイミングと方向が分かったことがある。あれとは違うのかね?
「そんな奴いたらさ、気持ち悪いと思わないか?」
「なんで〜? なんかめっちゃ良い感じじゃん!」
「一方的に嘘つけなくなるんだぜ。俺なら耐えられない。プライバシーってかっていうやつの侵害だろ?」
「俺は、言いたい事を言えない時があるからな。もどかしい。でも、察してくれるってのはなんかめっちゃ良い感じだねっ!」
「フゥン、お前ってそういうタイプの奴なのか」
夜になると、アラスとシゲムの兄弟と一緒に賭場へ。
彼らは大いに稼いだ。一晩で二十万ベル。これはとても大いなる躍進であると思えますよ〜。
しかし、あんまり目立ちすぎたのだろうか、その賭場を仕切っていた少し性の悪いギルドの構成員が出てきてしまった。
「イカサマの可能性があるため……」
だとかなんとか言いながら、そいつは兄弟から金を巻き上げようという寸法らしい。しかしなぁ、俺から見てもこの二人は一度たりともイカサマなんかしていなかったように見えるけれどなぁ。
もし先程の荒稼ぎで目立ちすぎたのだとしたら、それはあんまり神経質になりすぎているんだと言える。俺が懐にしまっていたハジキを出そうとしていると、アラスに目で制される。
「俺たちはイカサマなんかしちゃいないさ。調べてもらえればすぐに分かる。どうかな、おわかりいただけないか?」
「純然たる技術で稼いだ金を言い掛かりで巻き上げられたんじゃこっちとしてもな、賭博師として食ってるわけだからいたずらに『はいそうですか』って尻尾巻き巻きするのも出来やしない」
「そうですか」
構成員はあっさりと俺たちを解放した。
賭場を出る際に、俺はアラスの方に拳銃を渡しておいた。
街灯がポツポツあるだけの道に来ると、先程の賭場にいた野郎どもが襲ってくる。発砲が確認されたので、弾丸がこちらに向かってくる時特有の肌に風が駆け上るのを感じるやいなや、俺はアラスの方に弾を向けた。
俺が放った弾丸はチンピラが放った弾丸にぶつかり、弾けた。
「あ……ありがとう……」
「構わんサ。それより気をつけなよ。奴等はおバカさんだ」
「おうっ」
襲ってきたチンピラは三人。その三人のチンピラを伸ばしてから身分証を確認。うへぇ、こいつら誰一人として銃砲刀剣類取扱免許持ってねぇぜ! つまり違法所持ということになる。これはなんかめっちゃ悪い感じだぜ。
「決めたぜ」
「ン?」
「こいつらのギルド解体する」
「は?」
「君たちに手を上げた罰サ。君たち兄弟は今現在『ジョニー・ワバリのギルドの構成員』だからね。君たちを護るのも俺のお仕事だろ。ボスの前で構成員に手ェだして、なんかめっちゃ良い感じに話がつくと思われては、後々こちらの評判にも傷がつく。困るんだよな。舐められちゃ……。俺は『舐められるため』には生きていない。『そういう用途』ではない方に使われては、俺のこだわりに反する」
「意外と黒いな……」
「生まれた時から金風児なんてね」
ギルドなんてのは元々裏社会が表で何かやってる──みたいなものだ。冒険者なんてのもそういう色の強い職。好き勝手に暴れる金風児はもともと意外と黒いくらいが当たり前なのよね。
「時には過剰反応も必要なのサ。デヒヒヒ」
「笑い方ァ」
金色の風が美味いっすよ