第二章五十三話 「報告」
<視点 イ・エヴェン>
「報告を」
「はーい。こちらルーディナ・デウエクス。『星姫の後追い』をちゃんと皆んな確保しました!」
「……なんだその組織名は」
「あー……まあ、いろいろあったんですよ」
苦笑、というより疲労と評した方が適切なような顔色と声色で答えたのは、ルーディナだ。
「では引き続き、報告を」
「はい。こちらメリア・ユウニコーン。インフィルさん、ルリナリンさん、そしてルリナリンさんの友達のフィファラさん、最後にクラティックさんと友達になりました」
「……友達になったのか?」
「はい。皆さん快く引き受けてくれたんです!」
ルーディナとは打って変わって、微笑みながら嬉しそうに答えのはメリアだ。
「では残りも、報告を」
「ああ。こちらディウ・ゴウメンション。予定通り、『英雄五傑』らを仲間に引き入れたぞ」
「何か問題はなかったか?」
「ああ」
潔く、だがどこか満足そうに腕を組みながら答えたのはディウだ。
「それで、フェウザとアークゼウスは?」
「んーと、確か視察に行ってくるって言ってました」
「視察?」
「はい。なんだっけな、知らないままじゃ作戦の立てようがないからどうのこうの」
「……ふむ。まあ、なんとなく事情は察した」
ルーディナの解答から、イ・エヴェンは彼らがどんな状況にあるのか、ざっくりとだが把握した。
おそらくは情報収集や情報提供の時間や場所などの作戦会議をしていたのだろうが、そもそも大元の国王の私生活を知らぬ故にとりあえず視察しに行った、という感じだろう。
真面目に取り組んでくれていることに感謝しながらも、今日一日の成果報告はまた帰ったら聞こう、とイ・エヴェンは考えた。
そのまま彼女は席を立ち――
「よし、では解散だ」
――単刀直入に、そう告げた。
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――自分たちがやろうとしていることはとても壮大だ、とイ・エヴェンは考える。
「前代未聞の話だからな。次代国王が、今代国王の処刑を企てることなど」
「だからこそ血が滾るってものじゃない? ボクはこういうの、楽しむ派だからさ」
「……貴殿は貴殿で、もう少し緊張感を持ってほしいがな」
「同感です」
己の思考に補助として入れた独り言に、自分の後ろに立っている赤髪の少女――ペアレッツォが無邪気な笑みを見せながら答える。
そしてそれに苦笑するイ・エヴェンに同感するのは、銀髪少女のエレサロンだ。彼女はその後、はぁ、とため息を吐き――
「いいかペアレッツォ。この作戦は、成功すれば世の中に多大な影響を及ぼすだろうが、失敗すれば我らが追い詰められるのだぞ?」
「んー? だからこそ、楽しいんじゃないの? 別に追い詰められるとかどうとか、ボクは慣れてるしね」
「――――」
――ペアレッツォに若干の説教のようなものを話すが、彼女に効果はなさそうだ。
そのままペアレッツォは無邪気な笑顔のまま話していき――刹那、その顔が真剣なものに変わる。
「まあ、あたしだってそのぐらいのことはわかってるよ。っていうか、成功させるために皆んな頑張ってるわけだし」
「うむ、そういうことだ。わかってくれて我は嬉しいぞー。ほーらよしよし」
「えへへ〜」
そのままどこか大人びた顔と口調で語るペアレッツォに、エレサロンが嬉しそうに彼女の頭を撫でる。ペアレッツォも満更ではなさそうだ。
「――――」
イ・エヴェンは机に肘をつきながら、彼女らの行動を見て、考える。
――先程見た通り、ペアレッツォは一人称があたしとボクで二通りある。
正確に言えば一人称があたしのときは大人しく、一人称がボクのときは無邪気である。――つまり彼女は二重人格なのだ。
ペアレッツォの過去に何があったか、イ・エヴェンは知らない。ペアレッツォ自身が話したがらないためだ。
無理矢理に聞くのも罪悪感があるから、彼女が話すそのときまで待っているのだが――ここ数年、彼女は一向に話す気配を見せない。
「――――」
だが、イ・エヴェンはペアレッツォの感情なんて、喜んでいるか怒っているか楽しんでいるか悲しんでいるか程度しかわからない。
故に、待つしかないのだ。――だが今の優先すべきことはそこではないので、イ・エヴェンは一度、長いため息を吐く。
「……さて、気を取り戻すか」
その後、イ・エヴェンは自分のやるべきことに取り掛かる。
エレサロンとペアレッツォは先程の状況から話がどう進んだのか、なぜか部屋でかくれんぼをしている。
それを見て微笑ましい気持ちになりながらも、とりあえずは今後の予定を確認する。
「――――」
まず、準備期間三日のうちの一日目が終了した。
基本誰もが作戦会議での作戦は達成しており、明日からは、より良い方向へと進めるための方針へと移動するだろう。
ルーディナやメリアたちは己が集めた仲間たちに作戦のことを詳しく話すだろうし、ディウは『英雄五傑』たちに万が一のときの対策の話をするだろう。
フェウザとアークゼウスは国王の私生活を観察し、そこから見つけた悪きところを王国へと噂として流し始めるはずだ。
「……さて」
負けられないな、と思いつつ、イ・エヴェンはとりあえず、エレサロンとペアレッツォのかくれんぼをやめさせた。




