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―――王でも神でも魔王でもなく、勇者である  作者: 超越世界 作者
第一章 「光の裏には闇があり、闇の裏には光がある」
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第一章三話 「必要なのは、前向きだけでなく後ろ向きも」




―――約一ヶ月前に『十魔星』の一角、『灼熱の魔王』の二つ名を持つブレイノード・ノア・フェニックスと相対して、その強さと圧倒的なステータスを見たことがあるからこそ、今の『勇者パーティ』の諸々の絶望は大きかった。


「これ、なんでS+ランクの依頼なんだ?Aランクの依頼持ってくるって、そう言ってたよな?」


―――若干、現実逃避気味にこの依頼を持ってきた理由を、ディウとアークゼウスに説明してほしいと遠回しに言うのは、青髪の美青年のフェウザである。

そのフェウザの問いかけに、この依頼を持ってきた張本人であるディウとアークゼウスは、少し気まずそうにしながらも、口を開く。


「いや、なんだ。行ったときには残ってる依頼がこれしかなく、それで受付嬢が『勇者パーティ』ならこの依頼を受けてくださいますよねと、笑顔で言ってくるものだから……」

「それに、周りの冒険者連中共も、『勇者パーティ』なら行けるという期待に満ちていたからな。断るにも断れなかったのだ」


―――つまり、依頼を受け取りに行ったタイミングと、周りの観衆からの期待のせいで、この依頼を受け取ることになったということだ。


「そっか、それなら仕方ないっちゃ仕方ないけど……」

「……受けたからには、達成しなきゃいけないですよね」


―――その先を言いたくなくて言葉が痞えていた(つっかえていた)ルーディナに変わって、メリアも言いたくなさそうにしながらも、そう言う。

その依頼の内容が、受けた側にとって難易度が高すぎる場合、返却は可能だが――如何せん、こちらは名の売れている『勇者パーティ』なのだ。

周りからの期待も大きく、受けた依頼を返却しようとするものなら――確実に、ブーイングの嵐になるだろう。

そして、それが世界中に広まろうものなら、根性なしとか、臆病者とか、そう言ったブーイングがさらに広まる。

そしていつか、魔界王討伐の依頼を続けるどころか、世界という場所から居場所がなくなる。

―――それだけは、必ずとも避けたいのだ。


「申し訳ない。こればっかりは、俺とアークゼウスの失態だ。すまん」

「余も謝罪する。すまなかった」


―――場を見計らってか、ディウとアークゼウスが、他の『勇者パーティ』三人に向かって謝罪をしてくる。

『勇者パーティ』の中ではプライドが高い二人であるが――そんな二人でも、迷惑をかけたときに謝罪するということぐらい、できるのだ。


「これはディウとアークゼウスは悪くないよ。まあ悪いっちゃ悪いかもしんないけど……でも、こうなっちゃったのって私たちが『勇者パーティ』で、名が売れてるからでしょ?だったら、私たち『勇者パーティ』全員の責任だよ。だから、大丈夫だって」


―――今、現在も、三人に向かって頭を下げているディウとアークゼウスに、ルーディナが慰めるように言葉を放つ。

その言葉を聞いてか――二人の表情が、少しだけ柔らかくなった。


「それで、場の雰囲気を壊すみたいで申し訳ねえんだが……この依頼、どうすんだ?」


―――そこに申し訳なさそうに割り込んで話に入ってきたのは、フェウザである。

ルーディナがディウとアークゼウスを慰めて、その場の雰囲気は軽くはなったが――肝心の依頼をどうするのかがまだ、決まっていない。

だからこそ、彼はそんな質問を投げかけてきたのだ。


「そうだね、どうしようか……」

「はい、意見いいですか?」

「お、じゃあメリアちゃん」


―――フェウザの質問に、どうしようかと話題を吹きかけるルーディナだが――そこまでほとんど話に入っていなかったメリアが、意見があると手を挙げた。


「これは、『十魔星』の情報を正直に話すのがいいと思います」

「つまり?」

「私たちは『十魔星』の一人である、ブレイノード・ノア・フェニックスと約一ヶ月前、会ったことがあります。彼の合計ステータスは1000億越えで、私たち『勇者パーティ』ですら、歯が立たなかったのですと、正直に言うと、多分周りの人たちも受付の人も、納得してくれると思います」

「なるほど」


―――そのメリアが出した意見は――メリアが純粋な心を持っていて、正直者だからこそ、考えられる意見であるとルーディナは考える。

だから彼女のその気持ちを大切にして、ルーディナは―――


「よし、じゃあそれで行こっか」


―――メリアの提案に乗っかると、そう決めた。


              △▼△▼△▼△▼△


―――メリアの提案に乗っかると決めたは決めたものの、やはりいろんな人の前で依頼を断る、そしてその理由を語るというものはーー初めてが故、どうしても緊張する。

緊張から体が強張っているルーディナの肩に――ポンと、誰かの手が乗せられた。


「……メリアちゃん?」


―――ルーディナは後ろを振り向いて、肩に手を置いてきた人物――メリアに、どういうことなのかと問う。

そしてメリアは、微笑みながらルーディナに向かって、こう言った。


「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ」

「え……」

「緊張してるのは私たち全員が多分そうです。今まで依頼を断ったことなんてないですからね。だから緊張するのも当然ですけど、そこまで強張らなくても大丈夫ですよ」

「メリアちゃん……」


―――メリアの言う通り、『勇者パーティ』全員が今は、緊張しているに違いない。

『勇者パーティ』の諸々は、全員が力強く、頼もしくて、戦闘面でも頭脳面でも役に立って、今までギルドの依頼を一度も断ったことがないぐらい、強い。

だが――それでも、全員が人間なのだ。

初めてのことには緊張するし、周りからの目だって気にする。

だから緊張するのも当たり前のことだが――メリアは、だからと言ってそこまで体を強張らせなくていいと、そう言った。

自分の状態に気づいてくれて、声をかけてくれたメリアに感謝しながら、ルーディナは決意する。


「……さて、ついたぞ」


―――ルーディナが決意をした直後、アークゼウスから目的地に着いた報告が入った。


「メリアちゃん、ありがとね」

「どういたしまして」


―――メリアに一言、感謝の言葉を告げてから、ルーディナはギルドの受付まで歩いていく。


「……あれ、あなたは確か……」


―――ルーディナが受付に近づいてくると、受付嬢の黒髪に白い受付服を着た人が、こちらに話しかけてきた。

一応、念のため、ルーディナは観察(スキャン)を使う。


              △▼△▼△▼△▼△


クローディナ・バークアディス

性別:女性

属性:闇

ステータス

威力:4410

魔力:52万4156

体力:30万4471

敏捷:1万0024

感覚:51万6552

合計:135万9613


              △▼△▼△▼△▼△


「―――」


―――やはり、ルーディナの勘は正しかった。

『十魔星』の一人、ブレイノード・ノア・フェニックスとは比べものにならないぐらい低いが――それでも、ルーディナの三倍ほどはある、合計100万超えのステータス。


「ええと、確か……ギルドの受付をしてる人に、元Sランク並みの冒険者がいる、って噂があったはず」


―――ルーディナが言ったそれは、飽くまで噂話なので、真実か虚偽かは判断しづらかったが――どうやら、真実だったらしい。

そして、この確認が一体なんのためにあるのかと言うと――それは、話の伝わりやすさである。


「Sランク並みなら、私たちと同じだから強さとか、後はステータス関連とか……そう言うのにいろいろと詳しい、よね多分。……よし」


―――ルーディナが言ったように、元々Sランク並みの冒険者ならば、話が通じる部分が多いはずだ。

ルーディナは、自分はやはり運がいいと、そう思いなが、受付嬢に話しかける。


「えーと、受付のクローディナさんですよね?」

「はい、そうですよ。……観察(スキャン)を使うなんて、念入りですね」

「っ……」


―――そして話しかけて、思った。

なぜ、ディウとアークゼウスがこの受付嬢を話題に出さなかったのかが気になるぐらい――彼女の黒い瞳は、闇に満ちている。

あっさりと観察(スキャン)を使ったのがバレたし、やはり、凄腕の元冒険者なのだと一瞬で理解した。


「は、話があって来ました」

「なるほど……依頼の話でしょうか?」

「は、はい」


―――彼女の一つ一つの声を聞くたび――自分の生存本能というものが、危機反応を示している。

やはり自分は運が悪いかも、と――どこか現実逃避気味な発想をしながら、ルーディナは続ける。


「受けた依頼なんですけど、S+ランクの『十魔星』一人を討伐っていうやつで……」

「高ランクで難易度が高いから、返却したいんですか?」

「そ、そうなんです」

「理由をお聞きしても?」


―――理由なら、彼女がたった今発言した内容なのだが――と、ルーディナは心の中で突っ込みを入れるが、これを口にしたら後が怖いので、とりあえず心の中で留めておく。

そしてルーディナは、決意を持って口を開いた。


「じ、実は私たち『勇者パーティ』は、約一ヶ月、『十魔星』の一人に会ったことがあるんです。」

「ふむ」

「ひっ……」


―――怖い、本当に怖い。

心の中の語彙力がなくなっていることを実感するが、本当に怖いから仕方がない。

彼女の瞳も声も反応も、しっかりとした人間味はあるのだが――どこか、冷めている。

まるで死神の鎌を常に首に当てられている状態かのように、本当に怖いが――ルーディナは、負けない。


「そ、それで、私が使った観察(スキャン)で、合計ステータスが1000億越えで……」

「ふむふむ」

「ひぃ……だ、だから、私たちでも流石にきついので、この依頼を返却したいと思って……」

「わかりました、手続きをしますね」

「は、はい……え?」


―――ルーディナは覚悟と決意をして、言い切った。

そのルーディナに対し、クローディナは、1000億越えなんてどんな法螺(ほら)だとか、そんな程度でやめるなんて『勇者パーティ』失格だなとか、そう言った罵りを言うと、ルーディナは思っていた。

しかし、とてもあっさりと、返却の手続きをすると、クローディナは言った。


「え、ええと、いいんですか?」

「はい、いいですよ」

「ステータス1000億越えですよ?あり得なくないですか?」

「あり得ますよ、そのくらい。当職も、会ったことがありますから」

「え……?」

「会ったことがあるんですよ。―――『十魔星』の一人、『暗黒の魔王』と」


―――前向きに、ポジティブだけに進み、全てを上手く行かせ成功させるのも大事だが――後ろ向きに、たまには立ち止まって考えるのも、勇気だと感じられた。

やはり、ルーディナは運が良いのかもしれない。




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― 新着の感想 ―
受付嬢までつよつよなんですね……! サービス開始から10年くらい経ったMMO並みのインフレーションを感じます! 続き気になるので読みます!
勇者の名に縛られる重圧が丁寧で刺さります。メリアの支えが温かい。受付嬢の正体判明で緊張感が跳ね上がり、返却の決断を勇気として描くのも好印象です。十魔星の脅威が現実味を帯びて面白いです。
RT企画のご参加、ありがとうございます! 3話まで読みましたが、王道ファンタジーでありながら、「勇者の苦悩と重圧」「日常とのギャップ」「裏切りの可能性」といった現代的なテーマを盛り込んだ、先が気になる…
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