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第二章十四話 「午後」




「ーーーそうか。」


ーーー作戦会議の後、ザシャーノンが帰り、別れを告げだ後。

ルーディナから事の顛末を聞いたアークゼウスは、腕を組みながら、何か考えるような表情をしながら、そう、言葉を溢した。


「そう。だから、これからノヴァディース向かって出発進行。で、エヴェン様と上手いこと話して、ついでに騎士団長とかもさらっと味方にして、国王ばーんってやって、それでそっから、またなんかその人たちと話して、わーって感じ。」

「なるほどな・・・」


ーーールーディナの少々長くも、重要な部分が詰められた説明に、アークゼウスは感嘆の声を上げた。

作戦会議中では、このような少々長い説明を、ルーディナは何回かした。

そのときは重要な部分が抜けていたり、伝わりにくい語句で話してしまったりと、そういう失敗を犯していたのでーーそれが改良されたことに、やはり人は失敗して生きていく生き物なのだなと、そう思う。

だが、自分自身の成長に感心してばかりでも、ダメである。

ルーディナとて、まだ十六歳だ。

これからもまだ成長していくであろうし、今のうちに欠点を見つけ、それを見つめ、直し、さらに成長していくのが、人として、いい生き方ではないかとーーそう、考えたところで。


「・・・そういえば、アークゼウスってさ・・・その、信じるの?」

「・・・何をだ?」

「ザシャノンのこと。」

「ーーー。」


ーーーアークゼウスは、各種族幹部の誰かにやられ、あそこまで自信をなくし、ルーディナの受け入れによって泣き喚き、寝たと、ルーディナはそう思い出す。

だからこそ、ルーディナの質問ーー同じく各種族幹部である、ザシャーノンが深く関わっているルーディナの説明を、そんな容易く信じるのか、という質問は至極真っ当なものである。

アークゼウスはその質問に対し、少しだけ俯き、眉を寄せ、暗い表情になりーーと、思ったが、すぐに顔の表情を戻した。


「ザシャーノン、という人物とは余は会っていないから、どういう人物なのかはわからん。だが、ルーディナがそこまで言うのなら、ルーディナが信じているのなら・・・余も、信じよう。」

「・・・そっか、ありがとね。」

「どういたしましてだ。」


ーーー『勇者パーティ』からのルーディナへの評価は、非常に高い。

アークゼウスもそうなので、ルーディナが信じたら信じる、もしくは、ザシャーノンは信じれなくてもルーディナが言ったことだから信じる、などの考えも持ったのだろう。

期待や信頼してくれるのは嬉しいし、自分のいうことを聞いてくれるとなんとなく可愛いし、全然オールオッケー、そのままの態度でおじいちゃんおばあちゃんになっても接してほしいものだ。


「・・・でも、ちょっと気恥ずかしいな。」


ーーーまあ、そこまで信じてくれるとなると、少しこそばゆいものだが。


             △▼△▼△▼△▼△


ーーーアークゼウスへの会議内容の受け渡し完了、メリア、ディウ、フェウザへの念のための内容確認も完了、ついでに、メリア、ディウ、フェウザ、アークゼウスたちは荷物の準備をしてくると、先に王街を出て行った。

そして、残ったのはーーー


「じゃあ、擬音語もそろそろばたばた帰っちゃうね。」


ーーーそう、場を見計らって言葉を発した、レンプレイソンとの別れである。


「ええと・・・レンプちゃんは、結局なんのためにいたの?」

「おお、それずかずか土足で踏み込んじゃう?じゃうじゃう?」

「言いたくないならいいけど・・・」

「むぅー、ノリが悪いなー?擬音語、ぷんすか怒るよー?」


ーーーレンプレイソンは、会議中、終始カメラマンの真似でも何かをして、ずっとカメラで写真を撮るようなポーズをしていた。

魔界王配下各種族幹部、『擬音魔族』代表にして、『音楽の美女』の二つ名を持つレンプレイソンだが、カメラと音楽では、ほとんどと言っていいほど関連性はない。

故に、発想力抜群なルーディナも、考えられる可能性は絞られるのだ。


「・・・録音してたのかな?」

「ぴんぽんぴんぽーん!大正解、ご褒美何が欲しい!?」

「じゃあほっぺにキスしていい?」

「おお、それはもちろ・・・ええっ!?」

「冗談冗談、その録音何に使うのか教えてよ。」


ーーーご褒美に何が欲しいのかと自分から聞いてきて、体を求められる可能性を考えていないのだろうかこの美少女は。

決してルーディナはガールズなラブではないが、ザシャーノンやメリアのように、仲良くなった美少女は自分のものにしたい、という独占欲ぐらいはあるのだ。

だが、こうも頬を真っ赤に染めて、表情を驚愕に染め、初心な反応をされると、その独占欲にも罪悪感が湧いてくるので、褒美の内容を変えるに至ったが。


「あ、この録音はね、この後魔界王様にぱぱっと渡して、びびっと聞かせるんだよ。」

「・・・聞かせてどうすんの?」

「魔界王様が、本当にこいつらわかってんのかーってぽちっと確認するの。」

「なるほど・・・」


ーーーおそらく、ザシャーノンやレンプレイソンからの報告もあるだろうが、実際に己の目で見て本当かどうか確かめるため、ということだろう。

否、録音なので、己の耳で聞いて確かめる、の方が正当か。

なんであれ、確かにザシャーノンやレンプレイソンのような、どこか天然が混じったドジっ子風な少女たちは、間違えることなどよくあるはずなので、真の確認手段を取るということは、賢明な判断であろう。


「魔界王様って人、賢いんだね?」

「そうだよそうだよ。まだ十五歳でスカートとかよく捲れててきゃぴっと可愛いけど、びしばし賢明なお方だからねー。」


ーーー前言撤回、魔界王様も天然なドジっ子であった。

十五歳、スカートがよく捲れていて、可愛い少女ーーなんというか、とても魔界王な雰囲気ではない。


「じゃ、擬音語はぱぱっとさらばするね!」


ーーーと、そんなことを考えているうちに、レンプレイソンがこちらの反応も待たずに、ウインクし手を振りながら飛んでいった、ということは言っておこう。


             △▼△▼△▼△▼△


ーーーレンプレイソンとの別れを済ませた後、今いた広場から足を運び、他の『勇者パーティ』の諸々が先に行って、王街を出る準備をしているであろう門の外を目指して、ルーディナは歩いていた。


「ーーー。」


ーーーそして、歩いている途中でルーディナが考えるのは、この街の風景についてであった。


「ーーー。」


ーーー数時間前まで賑わっていたはずの王街には、ルーディナの足音しか響かず、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

人の話し声や歩く音などはもちろん、鳥の鳴き声や小動物の動く音、虫の飛ぶ音、それどころか物同士が擦れたり、風で靡いたり(なびいたり)するような音すら、聞こえない。

静寂と殺風景が広がる王街はーーもはや、街と呼んでいいのかも、わからない。


「ーーー。」


ーーーただ一つだけ、感じることと言えば、街に広がる血肉である。

肉が、内臓が、血が、一つの塊や水溜まりとなり広がっていて、未だに蠢いているものや、独特な不快な匂いを放つものと、様々な種類がある。

そして場所も、店の見せ物の上に被されていたり、家の屋根の上に広がっていたり、通路や路地裏の道端に置いてあったりと、様々な場所に血肉が広がっている。

ーーーだからと言って、興味が湧くものではないが。


「ーーー。」


ーーー街の景色への感想は、それしかない。

考えることも特になく、感想も特に思い浮かばず、匂いも不快なだけで特に気にならず、歩くことに面白さも特に感じない。

ただただ、目的地へと歩く。

ーーー本当にここは、街だったのだろうか。


「ーーー。」


ーーーそうして歩いて歩いて歩いていくと、一つの大きな門が見えた。

それは、この王街を外からの魔物の侵入や、盗賊や泥棒などの不届なものから守るための、言わば関門である。

普通、門には門番二人が左右それぞれに陣取っていて、王街へ入るもの、出るものの点検や確認、そう言ったものをして、善悪の区別をして判断するはずなのだがーーー


「ーーー。」


ーーーやはり、誰もいない。

無様で無惨な、門番二人であったのだろう血肉が、広がっているだけだ。

その面白みも何もない、ただの門をくぐりーーー


「・・・あ、ルーディナさん。」


ーーー広場から出て初めて見た、生きている生物を発見した。

桃色の髪に可愛い顔、聖女のような神聖さを感じさせる服に、白色のどことなく神聖さを感じる杖。

更に出ているところは出ていて、出ていないところは出ていない、妖艶な体つき。

そして、聞くもの全てがもう一度聞きたいと、そう言うであろう、透き通るようなソプラノの声。


「・・・あの?」

「ーーー。」


ーーーそして更には、その抱き心地も抜群だ。

顔も体も声も、髪も服も杖も、爪の先から髪の一本、更には抱き心地や疑問符を浮かべている顔までもの全てが、一流どころかその上の零流にでも到達しそうな、『慈愛の女神』。

そう、それはーーー


「ーーーメリア・ユウニコーン。私の可愛い可愛いペット。」

「え?ルーディナさん?」

「なんて麗しいんだ、この姿は。私はこんなに麗しい姿を見たことがない・・・」

「ちょっと?ルーディナさーん?」

「透き通るような、美しい声。柔らかくて抱き心地も良い、妖艶な体つき。見るもの全てが崇むような、整った顔。そして、極上な匂いに、髪の感触。こんなペット、一生飼えるチャンスなんてないはず・・・」

「・・・ルーディナさん、そんな風に私のこと見てるんですか?」


ーーーと、メリアの素晴らしい点を淡々と述べていたら、メリアから少し不機嫌なような目つきで見られ、むっとした声で声をかけられーールーディナは、自分の行いの罪悪さに気づいた。

ルーディナは急いでメリアから体を離し、地面に正座をした。


「っ、わ、私は、なんてことを・・・」

「ふぇ?あの、ちょっと、いつまで茶番やってるんですか?」

「こんな可愛いペット・・・いや、天使?違う、女神!女神をペット扱いするなんて、なんたる罪な女・・・」

「罪な女の意味違いますよね?」

「わ、私を、どうか、お許しくださ・・・痛っ!」


ーーー女神、いや、それ以上の尊き存在をペット扱いした自分への罰として、己の行動の罪悪を語っていたら、メリアから頭にチョップを喰らった。

痛いとは言ったが、力が全く入っておらず、痛いというより可愛い一撃であった。


「・・・はぁ、いつまで茶番をやってるんですか。」


ーーーそして、許されない醜き行いをーーと、茶番もそこまでにしよう。

メリアの声がした反動で、顔を上げたルーディナの前に映ったのはーー頬を膨らませ、少しだけ不機嫌そうに、ルーディナから目を逸らした、可愛いメリアの姿であった。


「ーーー。」

「ぷんぷんですよ。ルーディナさんの帰りを、今の今かと待ち侘びていたのに・・・あ、そういえばレンプレイソンさんはどうしました?姿が見当たらないですけひゃあ!?」


ーーーメリアはたった今、自白したが、どうやらルーディナの帰りを、今の今かと待ち侘びていたらしい。

これはもう、我慢ができないーーいや、我慢する方が馬鹿である。

そう思い、ルーディナは、メリアに飛びつくように抱きついた。


「ちょ、ちょっとルーディナさん!?いきなりなんですか!?」

「これが天国か・・・」

「ひゃっ・・・変なことを言わないで、一旦落ち着いてください。後、胸を揉むのやめてください。」

「ええ?」

「んあっ・・・ええじゃありません。私、案外こういうの厳しいんですよ?それと、胸の先端を摘むのもやめてください。」

「・・・むぅ。」

「ふぁっ・・・可愛い声出してもダメです。いいからやめてください。そして良い加減、胸の先端を刺激するのもやめてください。」

「・・・はーい。」


ーーールーディナはふざけたつもりであったが、メリアの厳しいお怒りに怯え、手と体をメリアから離したーーというわけではない。

実際、メリアは説教風に声を出していたが、声がしっかりと震えていたし、なんなら可愛い声まで出していた。

これ以上やってしまったら、ルーディナの変なモノが目覚めてしまいそうなので、ルーディナはメリアから手と体を離したーーそれが、正しい解釈である。


「・・・で、レンプレイソンさんはどうしたんですか?」

「ああ・・・なんか、録音したのを魔界王様に聞かせるって言って、帰ったよ。」

「そうですか・・・私も別れの挨拶したかったです。」


ーーー先程の痴態を揶揄われたくないのか、メリアは、ルーディナと体が離れた直後に、別の話題へと話を変換し、レンプレイソンの居場所を聞いた。

ただ、彼女は十五歳で思春期真っ盛りの、スカートがよく捲れるらしい、魔界王雰囲気が全くない魔界王へと、録音を聞かせるだの言って、激突に帰って行った。

まあ、居場所というなら『魔界王支配地域』であろうが、そんな遠回しに言っても意味がないため、素直に帰ったと告げたがーーメリアも、レンプレイソンとの別れの挨拶はしたかったらしい。


「・・・でも、別れっぽい別れもしなかったけど。」


ーーーただ、ルーディナとレンプレイソンの別れは、別れの挨拶というより、一つの漫才に近かったが。




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