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第二章三話 「伏線」




―――ルーディナは、ディウのことを心配して無事かを確認したが、案外、平気そうな声が返ってきた。

だが、ルーディナは、そんなことお構いなしに―――


「ディウ!」


―――ルーディナの二倍はあるのではないか、と思うほどの巨体を、精一杯、抱きしめた。


「良かった、無事で……」

「言っただろう、特になんともないと。」


―――そう言いながら、ディウは抱きついてくるルーディナの頭を、その大きな手で撫でる。

ディウも、そのルーディナの抱きつきが、恋愛的や性的な意味を持つことではないと理解しているのだろうが――ルーディナが甘えたり心配したりで抱きつくと、必ずと言っていいほど、ディウはルーディナの頭を撫でてくる。


「……えへへ。」


―――もちろんルーディナも、その抱きつきに、恋愛的や性的な意味は持たせていない。

だが、ディウに頭を撫でられると、どうも、自分の父親かのように感じられ、甘えたくなるのだ。


「……む。」

「あ、ちょ?」


―――そう、ディウに甘えていると、どういう意図があってか知らないが、少しだけ頬を膨らませたメリアが、無言でディウからルーディナを掻っ攫っていった。

その意図がわからない行動に、ルーディナは疑問の声を上げるが、メリアは聞こえなかったふりをして、ルーディナを深く後ろから抱きしめた。


「ん、メリアちゃん?」

「……ふぅ。」

「ん……」


―――ルーディナを深く後ろから抱きしめたメリアが、落ち着いたような、安心したような息を吐く。

それがルーディナの首筋にあたり、ルーディナは、少しだけこそばゆくなった。


「メリアちゃん、急にどうしたの?」

「……ルーディナさんがディウさんに抱きつくのなら、私がルーディナさんに抱きついても、特におかしなことはありません。」

「……ええと?」

「とりあえず、私のされるがままにされててください。」

「は、はあ?」


―――メリアの意図がわからない行動の真意をルーディナが問うが、返ってきた返答は、更に意味のわからない内容であった。

メリアの発言一つ一つの真意がわからず、ルーディナは更にまた問うような仕草を見せるが、メリアの一言で、文字通りされるがまま状態になった。

ルーディナに頬擦りを続けているメリアの吐息が、なんとも言えないこそばゆさである。


「ま、いいや。それよりもディウ、いろいろと話したいことがあるの。」

「ああ、なんでも言え。」


―――メリアの行動は一旦置いておき、ここに来た理由や話したいことなどを、ディウに話すため、ルーディナはディウへ話したいことがあると、そう話す。

そのルーディナへ、なんでも言えと寛大な器で返答をしてくれるディウに、ルーディナは頼もしさを感じながら―――


「まず、あの二人は何?」


―――ディウの近くにいる、鬼族の証拠である角が頭にある、二人の子供へと話題を向けた。


「ああ、あいつらか。あの子供らは―――」

「―――お、来たかな来たかな?僕たちの出番がとうとう来たかな?」

「お、来るね来るね。明らかに話題をこっちに持ってきたような顔してるよ、二人共。」

「確かに確かに。そういうところにすぐ気づくって、流石お兄ちゃん、洞察力鋭い!!」

「だよねだよね。でも僕の指摘だけで些細な変化に気づくってのも、流石弟、理解力高い!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


―――そして、ルーディナへの問いに答えるのはディウではなく、問われた子供二人本人であった。

その漫才のようなノリに、ルーディナとメリアは少し困惑の顔を見せながら、ディウとザシャーノンは慣れているのか、少しだけ苦笑いしながら―――


「僕たちは魔界王様配下各種族幹部『鬼魔族』赤い方の代表王であり兄、バルガロン・ノア・キングダム。」

「同じく、魔界王様配下各種族幹部『鬼魔族』青い方の代表王であり弟、ブルガロン・ノア・キングダム。」

「「二人合わせて、『奈落の双子』って呼ばれてるのさ!!わーはっはっはっ!!」」


―――自慢げに、そして高笑いしながらしている鬼双子の自己紹介に、耳を傾けた。


              △▼△▼△▼△▼△


―――ザシャーノンが鮫魔族の代表王なら、他の魔族の代表王もいるだろうと、ルーディナは勝手に思っていたが――やはり、その考えは合っていたらしい。


「鬼族……じゃなくて、鬼魔族?」

「そうそう。僕たち鬼魔族ってよく鬼族鬼族言われるけど、実際は鬼魔族だから間違えないようにしてね。」

「そうだねそうだね。人間の世界って、なんらかの『伝説』やらなんやらで鬼族ってのが出てきたらしいから、鬼族で呼び方が固定されてるらしいんだけど、鬼魔族だからね、鬼魔族。」

「そっかそっか。そんな理由があったんだね。流石お兄ちゃん、歴史も良く知ってて頭いい!!」

「そうでしょそうでしょ。そしてそれを一瞬で把握できるなんて流石弟、把握力高い!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


―――もはや、毎話恒例とも言えるその鬼双子の漫才のようなノリを聞きながら、ルーディナは、鬼双子が一瞬だけ話題にしたワード――『伝説』という言葉に、少しだけの、嫌悪感を感じた。


「『伝説』、か……」

「―――。」


―――そして、そのワードはルーディナだけでなく、ディウとメリアにも嫌悪を感じさせる――と思うが、少々、詳細が違う。

ルーディナは単なる嫌悪感だが、ディウやメリア、フェウザやアークゼウスと言った他の『勇者パーティ』の諸々は――何か引っ掛かりのあるような、そんな顔をするのだ。

もちろん、その意味も意図も詳細も、ルーディナが知ることはない。


「あれれあれれ?なんか勇者さんたち、暗い顔してない?」

「本当だ本当だ。どしたの急に……あー、『伝説』ってのに反応しちゃった系かな?」

「そういうことかそういうことか。それなら確かにわかるね。」

「そうだねそうだね。そしてそこは少し気をつけないとね。」

「「わーはっはっはっ!!」」


―――どんな話題だろうが、最後を大笑いで閉じる、その鬼双子の変わらない雰囲気に感謝しながらも、ルーディナは、その『伝説』のことを少しだけ、考える。

と言っても、少しだけだ。

―――『伝説』のことを深く考えるなど、気味が悪いし、吐き気がする。


「―――。」


―――『伝説』と聞けば、何も知らない一般庶民が思いつくのは、英雄伝だ。

魔王を討ち滅ぼしたり、世界を良い方向に変えたり、黒幕を排除したりと、どれも規格外、そして崇められるような、そんな英雄伝が『伝説』のイメージ。

だが――千年前に起こった、その四つの『伝説』は、どれも気味が悪く、吐き気がし、触れたいものですらない。


「―――。」


―――奇跡とも言わんばかりの研究を成し遂げ、その力で世界を救おうとした賢帝を、自分の独自の判断だけで殺した者――『世界革命を独善的な判断で否定した悪役王』。

―――永遠、永久とも言えるほど長く、そしてお互いを支えにしながら生きてきた相棒にも関わらず、無惨に、残酷に、そして地獄に堕とすほど哀れな死を実現させた――『善なる龍の神を地獄に堕とした醜い殺戮者』。

―――疾風迅雷の虐殺という二つ名を持つ謎のものに、家族も仲間も味方も何もかもが殺され、それを見るだけで、力足らずで止めようともしなかった――『力が足りなく何も救えなかった愚かな男』。

―――平凡の村で、平凡の生活をして、平凡な関係を築き、平凡な幸せを感じていたはずなのに、その村のもの全てを快楽だけで虐殺した――『町も村も国も全てを快楽だけで滅ぼした邪神』。

この四つが、千年前に起きたと言われる、醜き『伝説』――世間では、『邪伝説』と呼ばれる。


「……気持ち悪い。」


―――その『邪伝説』は、心が広く、優しくて可愛いルーディナですらも、嫌悪感を感じずにはいられないものなのだ。

そして、その『邪伝説』の一番嫌いなところは――『勇者パーティ』の諸々に、意味深な顔をさせることである。


「―――。」


―――その『邪伝説』は、この世の誰もが知っているはずの常識。

だが、アークゼウスは眉を顰めて考え、ディウは顎に手を当てて考え、フェウザは空を見上げて考え、メリアは可愛く首を傾げて考える。

知っているはずの常識なのに、何をそんなに考える意味があるというのか。

そう、『勇者パーティ』の諸々に意味深な顔をさせる、『邪伝説』が――ルーディナは、大嫌いだ。


「―――。」

「ルナっち、そんな皺を寄せた顔するとせっかくの可愛い顔が台無しですよ?ほら、スマイルスマイル。」

「……ザシャノン。」


―――ルーディナがそんなことを考えていると、ザシャーノンがそれを指摘――もとい、話を逸らしてくれる。

そして、その可愛い顔の頬を自分で摘み、無理矢理に口角を上げている可愛いザシャーノンの気遣いに感謝しながらも、ルーディナは、そのザシャーノンに抱きつきたいという欲求が出てくる。

しかし―――


「む……。」

「―――。」


―――可愛く首を傾げながら考えている仕草をする、現在進行形で後ろから抱かれている、メリアの感触も離れがたい。

はっきり言って、メリアの胸もなかなか豊満ではあるが、やはりザシャーノンには劣る。

だがそれでも、メリアの胸の感触にはどうも、暖かさがあり、離れたくないような安心感があるのだ。

しかし、空を飛んでいたときに堪能した、ザシャーノンの胸の感触も恋しい。

あと、匂いもまたいろいろと違うのだ。

メリアは花のような、暖かく包んでくれるような匂いに対し、ザシャーノンは海のような、爽やかでスッキリとするような匂い。

そしてルーディナの本当の意見を言うと、二人の感触と匂いを同時に堪能したいのだが、それはそれで傲慢がすぎるだろう。


「……って、私は何考えてんだか。」


―――同性なのをいいことに、メリアとザシャーノンを少し性的な目で見てしまったのは、ルーディナからして後悔の部類に入る。

だが、逆に同性だから抱きついてきたり、頬擦りしてきたりなどの、感触や匂いを堪能できるものは、ルーディナから見るとご褒美ーーではなく、信頼されている証のような気がして、普通に嬉しい。

それに、同性のルーディナですら、メリアとザシャーノンは、魅力的に見えるのだ。

だから、仕方がない仕方がない。


「……よし、完璧。」


―――いったい、何が完璧なのかは知らないが、ルーディナは一旦性的な考えを区切る。

そして少しだけ後ろに後退り、メリアと更に体を密着させてから、ふと、前を見る。


「お?」


―――と、目に入ってきたのは、鬼双子がディウと楽し気に話している様子である。

メリアの甘い吐息ばっかり聞こえているルーディナの耳の状態では、残念ながら話の内容は聞こえないが、本当に楽しそうに会話をしている。

その鬼双子とディウの関係を見て、ルーディナは思う。


「やっぱ、魔族の方が信頼できるじゃん。」


―――と。





なんかさ、『邪伝説』あるやん、今回出てきた。

あれ別に内容までは覚えなくていいけど、そんなのがあるんだなー程度には記憶してて欲しいなって。

はい、以上。

ということで、今回も読んでくれてありがとうございました!

またね〜。



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