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―――王でも神でも魔王でもなく、勇者である  作者: 超越世界 作者
第一章 「光の裏には闇があり、闇の裏には光がある」
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第一章十話 「その賢者、自己嫌悪につき」




<視点 アークゼウス>


―――唖然、呆然、もしくは驚愕、恐怖。

アークゼウス・ヴェルゼウは、今、目の前にいるその茨のような髪の毛と、どこにでもありそうな黒の服を着た男――ルガイド・ノア・アスパラガストの攻撃を、ステータスを見て、表情が、感情が、心情が、自然とそうなってしまった。


              △▼△▼△▼△▼△


ルガイド・ノア・アスパラガスト

性別:男

属性:茨

ステータス

筋力:茨並み

魔力:茨以上

体力:茨以上

敏捷:茨並み

感覚:茨以下

合計:茨× ∞


              △▼△▼△▼△▼△


―――アークゼウスが持つ、ルーディナの観察(スキャン)に似せた偽物のような能力――擬似的観察(イマジナリー・スキャン)

ルーディナの持つ勇者の特権である観察(スキャン)よりも劣っているし、衰えているし、偽物ではあるが――その的確さは信頼ができる品物に、アークゼウスは作り上げたはず。

そして、その的確さが信頼できる品物が、そう映し取っているということは―――


「……やつは、ステータスの偽装ができるというのか……?」


―――偽装がされている。

ステータスというのは、飽くまで零を基準とした、己の数値が映されるもの。

文字が映されることなど、万や億などの数字単位、筋力や魔力などの、どの対象の数値なのかを表す単語以外、あるはずもない。

そして、映されることなどない文字が映されている――それは、偽装をしているということだ。


「っ……」


―――アークゼウスは、自分でそう考えながら、その規格外さに思わず息が詰まる。

ステータスの偽装――それは、世界ではできないであろうと諦められている事象のうちの一つだ。

ステータスが存在することや、ステータスが映し出されるということは、世界の法則が関わっているとされている。

そして、それを偽装するということは――世界の法則に関わるか、拗らせるか、捻れさせるか、はたまた自分を世界の法則からの対象として外すかなど、とりあえず、規格外なことしかない。

つまり、それをやっているということは――そのやっている当事者も、規格外ということ。


「―――。」


―――考えれば考えるほど、考察すれば考察するほど、深掘りすれば深掘りするほど、アークゼウスはルガイドへの規格外さを認識する。

世界の法則へのなんらかの干渉や、何本あるか、未だにわからない無数の茨――正直に言って、勝ち筋というのが見えない。


「ならば、どうする?逃げというのは、『勇者パーティ』の名に恥じる。それに、他の諸々も余と同じように、各種族幹部と戦っているのなら、余だけが逃げるなど―――」

「―――んだよ、さっきからいろいろ考えやがって。こっちのことは無視かっての。」

「っ……!?」


―――勝ち筋が見えないからと言って、のこのこと逃げて、自分の安全を優先するというのは――『勇者パーティ』の一員としての誇りとしてなっていないし、今、アークゼウスと同じくらいの強敵と戦っているであろう、他の『勇者パーティ』の諸々に対して失礼だと、そう思い、議論を述べた直後。

無視を続けられていたルガイドの怒りか嫉妬か、はたまたそれ以外の感情か――アークゼウスの周りが、大量の茨で包まれた。


「くっ……絶対防壁(アブソリュート・バリア)!!」


―――周りの大量の茨が、アークゼウスの身体を貫かんと向かってきたところで、アークゼウスはその貫かんと向かってくる茨を跳ね返す、高度な防壁――絶対防壁(アブソリュート・バリア)を発動する。

その防壁のおかげで、茨に体が貫かれるのは免れたが――防壁自体は、役目を果たしたように、窓が割れるような音を立てて、粉々になっていった。


絶対防壁(アブソリュート・バリア)で守ってこの程度か……!」

「こんなもんで追い詰められてんじゃねえぞ?俺と俺の相棒が持ってる茨ってのは、これぐらいじゃねえからな。」


―――名前に絶対と防御の防と壁がついているところから、絶対防壁(アブソリュート・バリア)は、絶対に壁で防御する技かと思われたが、無惨にも粉々に割れていった。

そのことを嘆くように、アークゼウスは悔やみながら言うが――その直後、ルガイドの言葉が合図であったかのように、ルガイドの発言の後、先程の大量の茨をさらに超えるような超大量の茨が、アークゼウスへと迫ってくる。


「あの量を軽々と超えるか……!」


―――今も尚、アークゼウスを貫かんと、突き刺さんと、突き抜けんと迫ってくる超大量の茨――どころか、もはや茨という一つの生き物の群れのようなその軍隊は、アークゼウス目掛けて、獲物を捕らえるかのように迫ってくる。

先程の大量であった茨の数を軽々と超えていることも、その一つの群れと化した茨の大群が一つの遅れも出さずに迫ってきていることも、そんな量の茨を出しても何一つ表情が変わっていないルガイドのことも――全てが、規格外と感じるに得ない圧倒的さだ。

アークゼウスは、その茨の群れを見て―――


「―――(レゾナンス)との(・オブ)共鳴(・ライトニング)!!」


―――世界の最速とも言える速さを持つ、光と共鳴――即ち、同一化することにより、光速の速さを出せる技、(レゾナンス)との(・オブ)共鳴(・ライトニング)を放つ。

その技が放たれたことにより、アークゼウスは光速とまでは行かないかもしれないが――光速より少し遅いぐらいの速さで、走ることが可能になる。


「これなら……」

「んなことしたって、逃さねえよ。」

「っ……!?」


―――光速より少し遅いぐらいの速さと言えど、その速さはこの星の、世界の中では、最上位ほどには分類されるほどの速さを持つはず。

それほどまでの速さを持ってしても――その茨の群れとは、同格ほどの速さだ。

しかし、アークゼウスの魔法は自己永久型、茨の群れはルガイドの他人操作型――つまり、アークゼウスの方が自身で上手く操作できて、持久力が高いということ。

ならば、長距離戦に持ち込めばルガイドの隙を作ることができると、そう思った――直後。

―――アークゼウスの前に、これまた大量の茨が出現する。


「っ、あれほど茨を出しているというのに、まだ数が残っているのか!?」

「俺と俺の相棒が持ってる茨の量はこれぐらいじゃねえって言っただろ?相手をあんまり低く見ないほうがいいぜ?」


―――後ろからは茨の群れが、そして前からは、最初にアークゼウスに襲いかかってきた大量の茨よりも少し多いぐらいの、大量の茨。

その万とも、億とも、兆とも、京とも、垓とも、穣とも、溝とも、澗とも、正とも、載とも、極とも、恒河沙とも、阿僧祇とも、那由多とも、不可思議とも言える、無量大数に近い茨の数々。

一体、どれほどの茨をルガイドはまだ手持ちに余しているのか、その茨の量をどこに保管しているのか、それほどの茨を出して体力や魔力は使わないのかなど、気になることや疑問点はかなりあるが――今、アークゼウスに、その疑問への解答を考える時間は、ない。


「くっ……!」


―――疑問への解答を考える時間がないのなら、もちろん、迫ってくる無数の茨への対抗策を考える時間もないに等しい。

それに、最初の大量の茨の量で、アークゼウスが持つ最強の防御魔法、絶対防壁(アブソリュート・バリア)が破壊されたのだから、その数を軽々と超える、今の茨の量を防ぎ切るのは不可能であろう。

そして、(レゾナンス)との(・オブ)共鳴(・ライトニング)の効果を持ってしても、先程までの茨の群れから逃げることでかなり精一杯で、長距離戦に持ち込まないといけないほどだったので、さらに量が増えた今だと、逃げることも不可能。

無論、ルガイドに近づくことも不可能。


「……不可能ばかり、であるな。」


―――対抗策を考える時間がない今、もう茨はアークゼウスが逃れることのできないほど、近づいてきている。

それを見て、アークゼウスは最後の意地で可能性を考えるが、思いつく策の全てが不可能。

そんな不可能ばかりの自分に、『勇者パーティ』として生き続けてきたのに不可能ばかりの自分に、『禁忌の賢者』の二つ名を―――


「っ……!?」


―――と、続きを考えようとしたところで、アークゼウスの脳が――これ以上考えるなと、今は忘れていろと、頭痛を起こした。


「な、にが……っ」


―――その頭痛の理由なんて、自分ですらわからない。

それに、先程まで何を考えていたのかすら、覚えていない。


「かっ……」


―――突如起きたものすごい頭痛に、アークゼウスは、地に膝をついてしまった。

そのできた隙に、今もアークゼウスを貫かんと迫ってくる茨は、そのまま串刺しに―――


「……?」


―――することはせず、アークゼウスの周りを囲むだけで終わる。

壁のように、城壁(トラウマ)のように周りを囲み、家のように、(トラウマ)を建てるかのように壁を作り、閉じるかのように、(トラウマ)の刑務所かのように上を閉じる。

そしてそこにできたのは、茨により囲まれた、密室空間であった。


「……はっ。」


―――このまま窒息死させるのか、はたまた、少しずつ壁や天井を狭くしていって潰すのか、それとも、茨の中に何か爆発物かなんやらを入れて殺すのか、わからない。

だが、アークゼウスは――今の情けない状況に、自嘲気味に笑いを溢した。

それは、微笑みや微笑などの細やかで温かい笑いではなく、大笑いや満面の笑み、腹を抱えて笑うなどの大きな楽しい笑いでもなく―――


「……愚か、だな。」


―――『勇者パーティ』の一員にも関わらず、敵の力にも速さにも頭脳にも策略にも敵わず、今の圧倒的な敗北を作るような自分の存在に、笑みが出た――否、諦めたのである。


「……醜い、な。」


―――この後、どうなるかは、先程も考察した通り、どうなるかわからない。

だが、殺されても殺されなくても、拷問されても拷問されなくても、敵に敗北した自分の存在に、笑みが出た――否、不愉快を感じているのである。


「……惨め、だな。」


―――そもそもの話、相手がステータスを偽装しているから規格外だと思ったとか、防御も速さも通じなかったとか、それは、ただただ今まで自分が努力していなかったから、そうなろうとしていなかったから、上を目指そうとしていなかったから、起きた結果だけの話。


「……怠惰、だな。」


―――もしも、今の『勇者パーティ』に満足せず、もっと上を目指していたのなら、アークゼウスはどうなっていたのだろうか。

『勇者パーティ』をやめて他のパーティに移住していた可能性もあるし、『勇者パーティ』の諸々ともう会えない可能性もあったし、『勇者パーティ』から除け者にされていた可能性もある。

だが、それを恐れて、努力することを阻み、今の現状が保てないのなら――元も子も、ないではないか。


「……馬鹿、だな。」


―――賢者とはなんだ。

賢い者と書いて賢者なのだから、賢いのが最低限の条件のはずだ。

賢かったら、もっと状況は変わっていたはず。

―――なぜ、今追い詰められているのか。

―――なぜ、今諦めているのか。

―――なぜ、今不愉快を感じているのか。

―――なぜ、今自己嫌悪に至っているのか。

賢ければ、それもわかったのだろうか。


「……はっ。」


―――その賢者、自己嫌悪につき。





※万とも億ともってところあるじゃないですか。

それの垓と穣の間に、「じょ」っていう単位があるんですよね。

でもなんか環境依存文字?的なので使えないらしいっす。

はい、ただそれだけ。

ということで、今回も読んでくれてありがとうございます!

次回もお楽しみに!



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