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『涙の甲子園、笑う監督』

作者: 唐揚げ

 20XX年、夏の甲子園球場は熱気に満ち満ちていた。

 蓮羽是体高校れんぱぜったいこうこうは、五年連続の春夏秋冬の甲子園大会の連覇を目指していた。特にキャプテンを務め、エースで四番の逆転焔必須内男ぎゃくてんほーむらんかならずうつおは、燃えていた。後攻の蓮羽是体高校はピンチを迎えていたからだ。

 先行の夕章学院必勝高校は苛烈な打者を持ち、今大会において、ホームランを5000本と信じられない打数記録を誇っていた。

 しかし、この内男の猛烈な守備はこの猛烈な打線を封じ、なんと、八回表まで無失点という好成績で迎えていた。

 が、ついに、その無敵の防衛線を打ち破り、夕章学院必勝高校は一点を得て、最終回の裏、蓮羽是体高校の攻撃の番を迎えたのである。


「ストライクっバッターアウッ!!」


 審判アンパイアの高らかな宣言が、聞こえ、ベンチの内男は目を開けた。

 九回裏ツーアウト、言ってしまえば、かなりのピンチ。

 幸いな事は二塁そして三塁に走者がおり、次の打者が自分である。

 仲間が繋いだ奇跡、この二人を返せれば、逆転だ。


「四番、逆転焔必須内男ぎゃくてんほーむらんかならずうつおくん」


 ウグイス嬢がそう宣言し、ぱちりと内男は目を開けた。


「いくか」

「に、代わりまして、空振凡打必須からぶりぼんだぼんだひっす高校生活必図汚点残男こうこうせいかつかならずおてんのこすおくん」


 膝から力が抜ける。

 まさか、そんな。


「か、監督!」


 ベンチに控える鳥羽嵐に内男は駆け寄る。


「ど、どうして、あいつを。あの一年を」


 鳥羽嵐は、腕を組み、じっとベンチの床を見つめていた。

 右バッターボックスに、空振凡打必須からぶりぼんだひっす高校生活必図汚点残男こうこうせいかつかならずおてんのこすおが入り、左手を上に、右手を下にバットを握った。


「あいつは! 一年で! 未経験! 野球のバットの握り方も、ボールも投げ方も知らないような、レギュラーにもなれない奴なんですよ!」


「お前も、あいつとの間に思い出があるだろう」


「監督……」


 内男は監督に顔を近づけた。


「今は、夏の甲子園です! まだ、三ヶ月の付き合いですよ!」


 ぱしっ、とキャッチャーミットに、バットが吸い込まれた。


「ストライクッ!」


 審判アンパイアの無常な宣言が響く。


「そもそも、入部が昨日ですよ、あいつ!」

「そういう奴が」

「ストライクッ!」


 みればバッターボックスで、キャッチャーの方を向いた空振凡打必須からぶりぼんだひっす高校生活必図汚点残男こうこうせいかつかならずおてんのこすおが、不思議そうに首を振った。

 監督が目を開け、顔を上げた。


「そういう奴が、打ったら、めっちゃ脳汁でんねん」

「俺の高校生活、俺の高校生活、俺の高校生活、俺の甲子園、監督の脳汁ギャンブルにされてる」


 走馬灯のように三年間の野球部としての部活動が、脳裏を駆け巡った。


「ストライクっバッターアウッ! ゲームセット! 甲子園終わり! 」


ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 これは、サイレンなのか、悲鳴なのか。


「お前ら、明日、オフないから」


 鳥羽嵐は、無常に、跪き泣き崩れる逆転焔必須内男ぎゃくてんほーむらんかならずうつおに告げた。

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