噂と報告
第9章
ふたりが最初の街リガーネントに到着したのは、通常よりも1時間遅れの6時前だった。馬車では半日以上かかる大きな街で、人口も多いが、宿屋は大勢の足止めされていた客が出た後らしく順調に宿泊する事が出来た。
「まずは、食事に出かけるか?」
「ああ、腹が減って死にそうだよ」
王都まで仕事をしに行くのを装いながら宿屋を後にし、街の飲み屋に入った。
二人は息を殺し、周りの人々の会話に聞き耳を立てる。
「しかし、雪ってものはすごいな、一面を真っ白な世界に変えるんだ」
「ああ、最初の3日は明日は止むだろうと思いながら過ごしたが、なかなか止まなかったからな」
「国王陛下から貧しい平民たちは、教会に向かうようにと指示が出されなければ今頃多くの人々は…」
「ーー本当に、パール王妃の呪いなのか?」
「シッ!それを打ち消す為に、今回、陛下は光のステッキを使ったらしいではないか、例え、王宮から届く範囲が限られていても、ぎりぎり、リガーネントが入ったのは有難かったが、外れた領土からは不満が出ているらしいぞ」
「だいたい、お二人はご結婚なさってから、仲良く暮らしていらしたのを、あの皇后が子供ができないからと、フラグメール国に帰したんだろう?その後、事故で亡くなったなんて、ホント、お気の毒だ」
「恨みたくもなるよな・・」
「しかし、今回2度の光のステックの使用で、魔力塔の魔力はかなり減ったらしいな」
「それはそうだろう、その後、雪雲消滅までさせたって噂だぞ」
「それじゃ、魔力塔の魔力残量はどうなってるのだ?」
「かなり乏しいはずだ」
「王都から戻って来た商人が言っていたが、雪が残っている地域には役人たちが、視察に向かうようだな?」
「王都の話が伝わると不満がでるのでは?」
「それもあるが、きっと、研究目的だろう。陛下の周りには、いつも変な研究者が大勢いるらしいぞ」
「しかし、ここは5日で止んだが、他は半月以上も降り続いたらしい、大勢の犠牲者が出てなければいいのだがな・・」
「ああ、今回の大雪によって、領主たちの能力が試されただろうと新聞に書いてあった」
「王都の気温は戻ったのか?」
「ここと同じくらいの気温らしい、王都は魔力で雪を溶かしたが、少し行けば雪が深々と降っていたんだ、そりゃ寒いだろう・・」
「薄着のお貴族様たちは大変だな・・」
◇◇◇◇◇◇
あの日、ナナミリとマルマンはリガーネントの通行門が見えた丘から雪がない事に驚いた。
「どういう事だ!まったく雪がないぞ!」
「我々は別の国から来たようだ」
「まぁ、実際そうだがな・・、メゾンドオリザボシ国を知らな過ぎだ・・わけがわからない」
「とにかく、街に入ろう」
平民が許されている通用門に到着すると、いつもは厳しい兵士たちも同情した目で見て、
「大変だったな、雪は大丈夫だったか?」と質問して来た。
「はい、食料や薪を備蓄していたので、どうにかしのぎました」
「王都まで行くのか?」
「はい、食料や衣服も購入したいと思って、この寒さですから・・」
「王都でもまだ気温は戻っていないらしいが、雪が残っている地方から来たことを言えば融通してくれるだろう・・、よし!確認が取れた通行を許可する」
リガーネントは城壁に囲まれた街であり、この街に入るに通用門で身分証明書の確認が必ずあり、酷い時は、数時間も待たされる事もあったが、アードレ―領からの買い出しだとわかると兵士たちが親切に対応してくれた。
「馬留めや宿舎でもアードレ―領から来たと言った方がいいぞ、みんな親切にしてくれるはずだ」
ナナミリとマルマンは彼らの行動を不思議に思いながら、その助言を聞き入れ順調に諜報活動に出る事が出来たのだ。
「新聞を探すか・・?」
「そうだな、カメールからはいくらでも買って来いと言われてるしな」
リガーネントは雪の残っている所は見当たらず、人々は厚着をしているが往来もあり、店も営業している。
「本当にここは雪が降らなかったようだ・・」
ただ、王都はやはり混乱している様で、王都からの新聞は少なく、ただの平民が手にできる新聞はなかった。
「少し、食料を購入しながら探すか・・」
ブルーたちの街では手に入らないベビー用品や調味料を購入しながら探したが見当たらなかった。
「宿屋には置いてあるだろう、それを見せてもらおう」
その後、宿屋でどうにか借りられた古い新聞には、メゾンドオリザボシ国の危機を一面に掲載していた。
『パール王妃がメゾンドオリザボシ帝国を離れてから、この国の結界が少しずつ薄らぎ、ブルーアイパール領を切り離した時にフラグメールとの高低差が広がり、気候の変動が起こったのではないか憶測が飛び交い、あまりにひどい高低差だど属国としての価値が下がり、今後の動向に注意が必要とされる』
『今回の災害は、独裁的な皇后がもたらした物で、仲の良かったお二人を別れさせるべきではなかった。王妃の死因にも疑惑が残り、皇后の指示だったのではないかと噂が流れ始めた』
『パール王妃がいなくなってメゾンドオリザボシ王の魔力は弱くなり、今回の魔力塔の魔力減少に歯止めがかからなくなり、このまま、気温が戻らなければ作物や家畜、色々な物への影響が懸念される』
『リゾット皇后は、国王陛下の再婚を強引に進めようとしていたが、メゾンドオリザボシ国王は、国民への不安要素になるからと断固拒否し、今回の調査結果が出るまでは、再婚拒否を発表した』
『国王陛下は、深刻な魔力低下の為、外戚の身分の人間を役職から外すと発表した』
メゾンドオリザボシは、魔力持ちだけが貴族でもなく貴族は血統から成り立ち、役人や騎士は、魔力があっても無くてもなれる。
平民の中にも魔力持ちは大勢存在していて、功績があれば準男爵、男爵になることができ、または戦場での功績や魔物を多く倒し、人々を守り抜けば子爵まで爵位があたえられる。
現在、リゾット皇后の血統には魔力持ちが存在しない、それでも、前国王陛下亡き後、5第公爵の家柄である皇后は最高位の権力者に君臨し、宰相は皇后の兄、どの部署にも皇后の外戚が存在し大きな権力を持っていた。
『リゾット皇后の終焉、魔力のない貴族たちの行方に注目が集まる』
ナナミリとマルマンは宿屋の部屋で2、3社の新聞を読んだだけで茫然となった。
「俺たちが、雪の中にいた間に、世の中は大きく変わっているな・・」
「どうする?いったん戻るか?それとも王都に向かうか?」
「明日、俺だけ王都に向かうか?」とナナミリは相談する。
「一人で大丈夫か、常に行動は二人でする様に言われてるだろ!それに、新聞は、持ち帰る事が出来ないんだぞ、内容だけなら、いつもみたく、お嬢様に魔法紙で送ればいいのでは?」
「しかし、ポータルを使って大丈夫なのか?」
「魔力塔の魔力がないなら大丈夫じゃないか?」
「・・・・・・」
「魔法紙持って来たか?」
「マジック収納に入ってる」
二人は丁寧に記事の内容を魔法紙に書き込み恐る恐るポータルを使い魔法紙を送信した。
◇◇◇◇◇◇
ブルーは執務室で送られて来た魔法紙を読み、カメールと頭を抱える。
「これって、リネガーケント国王がクーデターを起こしたと考えていいのかしら?」
「私が王都に向かえないのが何ともやりきれないですね…」
「本当に、ポータルを使って大丈夫ならわたくし自身も出向きたいくらいです」
「今回は、非常事態と見なして返事を出しますが、どうしましょう・・、こんなことになるなんて・・なんて指示したらいいの・・」
「二人にはそのまま王都に向かってもらうしかない。内容が何日も前の出来事で、今現在がわからなければ意味がない」
「そうよね、それしかないわね」