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押し寄せる街の人々

 第7章


 「大勢の街の人たちがこちらに向かってきます・・・」


 屋敷の執務室は一瞬固まり、窓越しにその様子を伺う。

 「お嬢様とカメールさんは、隠れて下さい。私が様子を見てから、ナナミリに対応させます」そう言うと、モンスールは急いで階段を降りて、3人と合流した。


 「どういう事だ?」

 「雪対策の相談かも?」

 「そんな事も男爵夫人の仕事なのか?」

 「でも、死人がでるとまずいらしいわよ。一応、統治している土地ですし・・平民からは税金を頂いているでしょ?」

 「無税にするか?」

 「バカ言っていないで、ナナミリが出て対応してよ。ホラ、門まで来てるわ」


 4人がオロオロしていると、門の鐘が屋敷に響きわたった。


 ナナミリは、除雪された土の上を慎重に歩きながら温和な顔で対応する。

 「どうしました?何か御用でしょうか?」

 「男爵夫人にご相談があるのですが・・」

 「ーー夫人はお会いになれないと思いますが…」


 一同はしばらく、押し黙る。  冷たい空気の中、勇気を振り絞って1人の男性が話し始める。


 「でも、我々はもう限界なのです。我々も生まれて初めての雪で、家から薪がもうすぐなくなります。人足たちからご夫人の建てた倉庫と言う建物には薪がたくさんあったと聞いて・・、我々の家はもうすく崩壊しそうで・・」

 「男爵様の住民だけでもあの倉庫に避難させて頂けないでしょうか?」

 「雪が止めばすぐに出て行きます。ご夫人の邪魔は決してしません。食料も持参しました」

 「寒さと雪は・・・、限界で、助けて下さい!」


 ナナミリは80~100人程の人々が私財をすべて持っている状況を見て、狼狽しながら

 「奥様に聞いてみます、少し待っていただけますか?」と答えた。


 この街の人たちは大人しい性格で、静かに頷いてナナミリの背中を切なそうに見送った。


 屋敷に戻りナナミリは住民の要望を説明する。

 「そうね・・、倉庫を貸すだけならいいわ。屋敷の方には絶対に入らないようにね。1階の内装は華美にしていないから不自然さはないけど、この屋敷の変化がわかる住民もいるかも知れないから…」

 「ストーブと薪は使っていいわ、キッチンも備え付けてあるのよね?」

 「はい、倉庫ですが、台所もトイレもあります」

 「お茶くらい飲めるならそれでいいでしょう」


 パールからブルーになった時、ブルーの夢は平凡な生涯を送る事だった。


 それは転生前からの夢なのか、今世の夢なのかわからないが、土地を開拓したり、新しい料理を広めたり、ふわふわパンを作りだしたりしたくない、ブルーは平凡がいい、それに今は、権力もないからね。


 しかし、折角のチート能力を生活の中に取り入れて、生活水準をあげる欲は人並みにあった。


 一例をあげると、ラップだ!

 

 湖に生えている昆布みたいな水草は、薄くて長く丈夫だったので、魔法を使ってラップに変えた。


 魔法はイメージで完成する。温かい料理をそのラップに包むと、温かいまま、冷たいものは冷たいままでマジック収納に収納できる。


 欲まみれのラップだが、成功したのだ。


 ナナミリ、マルマン、ガンターは単純仕事や肉体労働の方が好きな人間で、ラップを開発した時、説明すると丁寧にクルクル巻いてくれた。持ち運びが効くようになると、フラグメール国の市場で料理をテイクアウトするとそのラップに包んで収納した。


 そのテイクアウト料理が残りわずかになった時に、100人が押し寄せてきて戸惑いは隠せない。


 一人で頭を抱えて考えていると、

 「お嬢様、折角、出したお荷物を・・もう一度、収納して頂けますか?」とモンスールが尋ねた。

 「あぁ、そうね、今、行くわ、それまで彼らには待ってもらっていい?」

 「はい、説明してきます」


 魔力持ちは誰でもマジック収納を持っているが、ブルーのマジック収納は途轍もなくでかい!それに掃除機のようにどんどん吸い込むイメージで荷物を吸い込んでいく

 「折角、物流倉庫に近づけたのに、残念だわ・・、薪ストーブは5個くらい出しておくから、煙突につなげてね。中毒死してしまう事も説明して、安全に使ってもらって下さい」


 「はい、必ず、伝えます」

 

 しばらくすると、大勢の人たちは倉庫に静かに入って行った。音も立てずに、雪を踏むのもはばかるように・・

 

◇◇◇◇◇◇


 ナナミリ達3人は煙突付きの薪ストーブの説明やキッチンの使い方、トイレの使用方法などを住民に説明して、清潔を保つ努力も要請した。ゴミは、外の穴の中に必ず捨てる事も約束させて屋敷に戻った。


 「とにかく、お嬢様とカメールさんは2階でお過ごしください」

 「そうね、そうするしかないわね。丁度、行き詰ったところだったから、しばらくは2階でのんびりするわ」


 カメールが、

 「100人近くも人がいるのだったら、メゾンドオリザボシ帝国の事、王都の様子、フラグメール国の噂等を知っている人間も存在するのではないでしょうか?」


 「新聞の購入前に雪が降り始めて、足跡が残るのを懸念して大きな街まで行けませんでしたので、新聞を持っていそうな人はいないか情報を集めてくれないか」


 「それなら、今回、モンスールを出しましょう。おしゃべりは女性が一番ですから」

 「モンスール、できる?」

 「はい、お嬢様、場数を踏んでいますので、それは得意です」

 「それでは、何日も滞在するのなら、お風呂も解放しましょう。ところで、平民はお風呂は入るの?」


 「入らない・・?たらいのような物で済ませます。フラグメール国でもあのようなお風呂はありません、王宮でも魔石のお風呂はありませんでしたよね?」


 従業員用のお風呂は日本式のお風呂の1.5倍くらいにした。2、3人入っても困らないくらいだ。

 当然、2階の自分用のお風呂はもっと豪華なお風呂で円形のゆったり風呂にしてある。


 「そうなの・・では、希望があったら許可してね」

 「はい、多分、大丈夫でしょう。きっと2、3日で晴れるでしょう」


 2、3日と思われた避難は、すでに5日目に入った。モンスールはメイドとして、キッチンに入りおしゃべりで親睦を深め、ナナミリは薪割りで住民から情報を集め、ガンターはおば様たちに育児指導を受けながら話を聞き、マルマンは日々、日曜大工とゴミ処理の為の穴を掘って男たちとの交流を深めた。


 「お嬢様、遂にメゾンドオリザボシ国の新聞が手に入りました」

 「いつの?」

 「6日前のです。雪の中、家族が心配でこの街に戻って来た男性が持っていました」

 

 モンスールの話では、日中の暖かい時間に自宅の確認に向かう人達が出て来て雪下ろしを始めたようだが、夜を過ごすには寒すぎて、また、戻って来るらしい。


 マルマンたちは道の除雪に男たちを連れて出かけている。ガンターはオムツのやり方を一から習ったり、離乳食も始めた。


 「新聞にはなんて?」

 二人は少し汚れた新聞を広げ、隅々まで読み始める。

 「王都でも雪が降り始めたようね・・」

 「メゾンドオリザボシ帝国は大国だから全国で降っているわけではないけど、なぜか雪雲はこの辺りに集中している様ね」


 「四季がなく1年中気温が安定しているから王都にしたと聞いたことがあるけど・・」

 「やはり、異常気象なのよね?」


 「はい、新聞によりますと、雪が降り始めた前日に国王陛下は光のステックを使いブルーアイパール領をフラグメール国から切り離したようです…」


 「え!!」


 「メゾンドオリザボシ国の魔力塔は、ブルーアイパール領がその瞬間から上昇を始めたのを感じ取ったと記事には書いてありますね」


 「そうすると、ブルーアイパール領のせいでこの大雪が起きている事になるよね?」

 「はい…、パール王妃の呪いとまで書いてあります」(呪ってないし)

 「でも、今までもリネガーケント国王は、光のステックを使って色々してきたはずなのに、今回だけブルーアイパール領のせいにされるのはいかがでしょうか?」


 「リネガーケント国王が光のステックを使い始めたのは、パール王妃とご結婚なされてからですし、ブルーアイパール国のマリージョン様は、ポータル成功の常に領土に魔力を送っていましたので、切り離されて一気に上昇したならば、この世界の気流は乱れる事もあるのではないでしょうか?」


 「メゾンドオリザボシ国の王都が雪で埋もれたなら、フラグメール国の私の銀行は大丈夫だと思う?」

 

 「もう少し様子を見ましょう。まだ3週間あります」

 「そうね」こうなると益々動けなくなったと、二人は考え始めた。


 

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