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1ヶ月の休業

 第6章


 営業許可証が発行されるまで、ブルーとカメールは出勤停止、アイイロは自宅待機だが、市場調査と没落貴族の情報収集をすることにして、フルール銀行は閉鎖した。


 「頭取は、この建物も閉鎖して、どちらに向かわれるのですか?」

 「身内が居りませんので、カメールとフラグメール内でも回って、知識の仕入れをしようと思います。何か商売に繋がればいいのですが、お客様のご要望に応える為にも私見を広げるのは大切ですから…」

 

 「頭取・・お小さいのに勉強熱心ですね…」


 (普通の貴族のお嬢さんだったら、アカデミーの試験準備をする時期だが、お可哀想に・・・)

 

  3人は、一通りの騙し合いをした後、ブルーは、メゾンドオリザボシ国の屋敷に向かった。


◇◇◇◇◇◇


 屋敷に戻って歓迎されたのは、当然カメールで3人からの報告を真剣に聞き、細かく指示を出していく。


 「ナナミリ、ブルー様のご要望の倉庫は出来上がったのか?」

 「はい、倉庫は、街の人たちに任せてから順調に仕上がりました。珍しい建築様式だとは言われましたが、後は、ブルー様のマジック収納から品物を出して頂ければこちらで積み上げていくだけです」


 「この屋敷にも大型の氷室を設置しましたけど、これから1ヶ月間、3食の食事となると材料、燃料は足りるでしょうか?」


 「ランチタイムの買い物も1ヶ月お休みですし、お茶屋に注文している弁当や料理も取りに行けないとなると、材料の調達が急務ですね」


 「材料は1ヶ月分くらいは大丈夫よ。でも、毎回、料理をするのは気が重いわ・・」


 4人は普通の孤児で子供の頃から食事は出されたものを食べていたので、初めから料理はできない。

 

 カメールは、頭がよくなんでもできそうだが、料理はもちろんできない。


 後の3人も読み書き、計算、乗馬、武道などの護身術は前のパールに習っていたが、料理はできない。


 お金や材料、薪や水、便利な料理器具があっても、結局、料理はできない。


 これは大きな悩みの事だった。


 とにかく料理はできない4人と前世の記憶頼りのブルーで、この1ヶ月を乗り切るしか無いのだ。


 「大丈夫よ、市場でハムとパンは購入できるのでしょう?」


 「パンや瓶詰などの加工品などは3ヶ月分は用意してあります。その他、肉や魚、野菜も氷室に入ってますし、薪、魔石も半年は大丈夫です」


 「ミルクは?」

 「ミルクはそれこそ1年分に購入済みです」


 「マルマン、買い出し大変だったでしょう。ご苦労様です」

 「お嬢様、私たちも大変でしたよ・・」


 「わかってます。みんなには本当に感謝してます。ガンターもブロウのお世話ありがとうね」

 「それですが・・あのぅ、街で聞かれたのですが、赤子はミルク以外に何か食べるのですか?」

 「街で女の人に離乳食は何を食べているのと聞かれましたので・・」


 「離乳食か・・、聞いたことあるけど、どこかに売っているの?」

 「勉強不足で申し訳ありません」と、4人は頭を下げる。

 「育児は私たちの予定には無かったことだから、仕方がないわね、これから勉強していきましょう。忙しくて聞いてなかったのだけど、この子の出生証明書ってある?今何ヵ月目なのかしら、月齢によって食べられる物が違うような気がするわ・・」


 モンスールが急いで探しにいき出征証明書を持って来て、みんだで覗き込んで見ると、9月15日と記入されていた。


 9月15日、その2ヶ月後に男爵夫人は事故で亡くなった。


 事故の後処理の仕事をしていたガンターは偶然、

 「子供はいなかったのか?」と言う役人の言葉をひろい急いで男爵家を訪ねた。


 ガンターの予感は当たり、赤子は屋敷の中で大泣き状態だった。生前のパールに聞かされていた未来の光景がその部屋の中には存在していた。


 ガンターは赤子を抱いたまましばらく一緒に泣いた事を忘れる事は出来ない。


 その後の処理は、カメール達と連携して最速で行われブロウは男爵の嫡男として、今も存在している。


 「今は1月の半ばですから4ヶ月ですね」

 「まだミルクだけでいいのでは?何かアレルギーでもあったら大変よ。そういえば医師の派遣は決まった?」


 「はい、来月には薬師が薬局に滞在してくれそうです」とカメールは答えた。

 「薬師だけでは心許ないけど、街の人のためには良かったわね」


 モンスールが窓を見ながら、

 「お嬢さま、雪が降り始めました」

 「え?この国で初めて見る景色だわ・・・不思議ね…」


 なんとか男爵の屋敷での生活が始まる時に、メゾンドオリザボシ国では滅多に降らない雪がハラハラと舞い始めた。


◇◇◇◇◇◇


 雪が降り始めても男爵家はそんなに寒くない。ここに残っていた3人はこの4ヶ月屋敷の改修と買い出しに勤めていた。それは、貴族生活しか知らないブルーの為である。


 「お嬢様のおかげで雪でもそんなに寒くありませんね」

 「3人で基礎からの改修は大変でしたが、倉庫を建設する時には的確に指示を出せました」

 「周りに気づかれないように屋敷の床を開けて湖の水を引き入れ、小石と砂などで丁寧に固め基礎工事と言うのは本当に大変でしたが、勉強にもなりました」


 「土を掘って、掘っての繰り返しは、いい運動で僕は好きでしたね・・」とナナミリは言う。

 「魔石で出来ているバスタブをお嬢様がご用意されたのは驚きましたが・・」3人は頷く。


 「フラグメール邸では、クズの魔石が山のようにあった、ポータルに使うのは上質な物と決めたいたみたいで、幼いころからクズ魔石を集めていたから、バスタブやトイレに創造しただけよ」


 4人は魔石でバスタブやトイレを作る感覚がわからなかった。クズ魔石でも値段は張ると知っているからだが・・


 「メゾンドオリザボシ国では魔石によって水道は発達しているでしょ、それの応用よ、お湯が出て、魔石が温かいのは・・」


 魔石のバスタブはお湯が保温状態でどんどん湧き出る、トイレは洋式の便座にして暖かい、ウオシュレットは流石に出来なかったが、食事以外の日常生活にはおおむね満足している。


 それでも雪が降り始めて1週間、お茶屋のスープや料理があるからそのような事も言っていられる。


 「明日からは、5人で少しずつ料理を始めましょう。このまま外に出られない状態だと覚悟を決めたほうがいいわね」


 「この国は雪に弱すぎますよ。フラグメール国では除雪隊がすぐ出て除雪したのに・・」

 「雪の降らない国には除雪隊はないでしょう」

 「ここでは、あなた達が除雪隊でしょ?」3人は頷く。

 「この辺は我々が毎日除雪していますからいいですが、街中はだれも除雪していないようで真っ白でした。男爵家として何かした方がいいのでしょうか?」とカメールは問う。


 「男爵夫人がすると思う?」

 「・・・・・・」


 男爵夫人は世捨て人、それはこの辺りでは有名で最近では姿を見かける人もいない。

 「ここの領主は誰なのでしょう?男爵はこの湖とこの屋敷、そして小さい街、市場を治める役人のような立場でしょ?役人の上には上司が存在するはずよね?」


 「アードレ―領主です」とカメールが答える。

 「アードレ―伯爵って、あのお年を召した方」

 「はい、嫡男は健在ですが、ここよりずっと辺境の地を守っていますので、アードレ―伯爵領土に戻られたかは今はわかりません」


 「領主はお年寄り、男爵は死亡、男爵夫人は引きこもり、わたくし達には都合がいいけど、領民にとっては心もとないでしょうね」


 「雪の自然災害で多数の死者が発生した場合は、国の調査が入ると思われますが、いかがなさいますか?」

 

 「雪の状況を見極めるしかないわ…、今は没落貴族の集計・調査が最優先でしょ?」

 「はい、どちらも難しいですね。アイイロ支店長と連絡が取れればいいのですが、今は静かにしている方が得策なので、お嬢様のフラグメール国の貴族年鑑だけで整理している状況です」


 「う~~ん、もう、のんびりしたいのに・・、ねぇ、そんなに元貴族は押し寄せないわよね・・?」

 「フラグメール家の養女の銀行で、メゾンドオリザボシ国王も立ち寄った銀行ですよ。現在、王族は一人も残っていませんし、貴族の階級が崩壊していますからね・・・なんとも言えません。その為に、我々は、今、身を隠しているのですから」


 「没落貴族の後始末に加え、自然災害の支援策まで考えるのは無理、絶対に無理よ。男爵夫人は何もしなくてもこの街は上手くまわっているのでしょ?」


 パールとカメールは終わりの見えない問題を話し合っていると、モンスールがお茶を入れながら窓の外見て、「大勢の街の人たちがこちらに向かってきます・・・」と呟いた。


 「??????」


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