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フラグメール邸

 第4章


 フラグメール邸の広いホールで、リネガーケントが発した言葉の意味を、その後、知る事となる。


 小さいブルー、モンスール、カメールはリネガーケントを地下のポータルに案内した。

 

 「ポータルは、ここだけか?」

 「はい、ポータルを維持するにも大きな魔力が必要ですし、動かすにもこのガラスの容器いっぱいの液状魔力が必要で、ここ意外は存在しません」


 同行を許された研究者たちは、食い入るようにポータルの装置や色々な魔法陣を見始め、リネガーケントは、直接、ブルーにたずねる。


 「なぜ?養母と一緒に行かなかった?」

 「こちらで始めた事業がありますし、今後も母上とは助け合いっていくと思ってましたので・・その・・」


 メゾンドオリザボシ国王リネガーケントは、不機嫌そうに言う。

 「研究者たちが、ポータルの仕組みを資料に残したらこの屋敷ごと消滅させるし、ブルーアイパール領とは、一切のやり取りを禁止するが、どうする?あちらに行くか?」


 「それとも、君ではポータルは作動させる事は無理なのか?」


 室内は静まり、研究者たちは、唾をのみ込みブルーを一斉に見つめる。


 「はい、わたくしの魔力では無理ですし、養女ですので・・」

 (周りのみんなのガッカリ感は半端ないが・・絶対に無理・・嫌だ)


 「・・・今後、ここの土地はメゾンドオリザボシ国が所有し、管理するが、必要な物があれば今晩の内に持ち出しなさい」

 「ありがとうございます。あの・・、こちらにお茶の用意をさせましょうか?」

 「イヤ、パール王妃が使っていた部屋はあるか?」

 「はい、ご案内いたします」


 ポータルの部屋を出て、広い邸内を歩き、温室を抜け、国王一行とブルーたちはパールが使っていた私室にたどり着いた。


 そこは、別邸と言ってもいい建物で、寝室、リビング、浴室、化粧部屋、サンルーム、研究部屋、図書室、訓練所、必要な物はすべてフラグメール邸の西側に備えられていた。


 「随分と広い部屋ですね」と文官のブレイクは呟く。

 「パール様が必要とされていた部屋です・・」

 

 周りの騒音を常に無視しているリネガーケントは、すべての部屋を周り、最後にパールのベットで横になり眠りについた。


 その状況に、すべての人は誰も言葉を発する事はなく、静寂に包まれた部屋は、睡魔を呼び寄せる。


 小さなブルーはすでに体力の限界で、黒王と同時に、その場で眠りについていた。


 

 朝、目が覚めると、モンスールはすでに軽い朝食を運んでいる所だった。

 「お嬢様、お目覚めですか、皆さんお待ちです!急いで朝食を召し上がって下さい」

 「え?わたくしあのまま眠ってしまったの?」

 「はい、メゾンドオリザボシ国王が眠りにつくと、お嬢様も立ったままお眠りになったので、お部屋にお運びしました。朝食は、各々の使用人が厨房の残り物でご用意しています」


 「あちらからは、お嬢様のお支度が済みましたら、ご連絡するように命ぜられました」

 「そう、では、急ぎましょう」


 貴族令嬢なのにモンスールしか使用人がいないブルーは、支度が終わるのが遅くなり、メゾンドオリザボシ国側に連絡を入れると、ポータルの部屋まで来るように指示された。


 「メゾンドオリザボシ国王、昨夜は、大変失礼しました」ブルーは深く頭を下げて謝罪する。


 リネガーケントはブルーを、チラっと見て、

 「今から、ポータルを消す、今後、通信、物資輸送など、ブルーアイパール領とは、一切、行き来が出来なくなるが、いいか?」


 少し辛そうな表情を装いながら 「はい、国王陛下のご意向に従います」と返事をする。

 (リネガーケントが破壊しなくても、自分で細工しようと思っていしラッキーである)


 また、リネガーケントはチラっと、見て、一気に魔力を放出し、ポータルを消し去った。その後、すべての人間を敷地内から退出させ、大きな結界を張り、フラグメール邸のすべてを消し去った。


 一瞬の出来事だったが、塀しか残らなかったその荒地の有様、国王の圧倒的魔力を見せつけられた多くの人々は、今後、絶対に、彼に逆らう事を止めるだろうと確信する。


 「さて、小さなブルー嬢は、これからどうする?」

 「はい、王都の一角に建物を所有していますのでそちらに移り住みます」


 リネガーケントは少し考えて、

 「では、行くか」

 「へ?どこに?」

 (御一行様は、あなたの気まぐれに慣れているから能面のような顔で対応できますが、こっちは子供ですよ。察して下さいと思う)


 (王宮に向かうのかしら?それとも昼食?帰るの?あぁぁ!まったく、どこに行くの?)


 困惑しながら大きな男を見上げていると、カメールが、

 「ブルー様はご出勤なさるのですよね?」と問いかけてくれた。


 ブルーは急いでその話に乗り、ドレスの裾を持ち上げ優雅に挨拶をする。

 「はい、メゾンドオリザボシ国王、わたくしはこれにて、失礼させていただきます。ごきげんよう」


 「いや、こちらにも用事があるし、身寄りのいない未成年者を送り届け、今後の安全を確認した方がいいだろう」


 「身元保証人はこちらのカメール様にお願いしていますが・・」(少しケンカ腰になってしまった)

 「残念な知らせだ、先日の調印式でカメールと君は、すでに庶民で、この国での貴族特権は使えなくなったのだ」


 「・・・・・・」

 「貸金業は貴族のみ、信用第一な業種だ、小さくて優秀なお嬢さんわかるかい?」


 「・・・・・・」

 さすがのブルーも言葉を失いながら、また、リネガーケントの顔を見上げる。


 「君が行う事業計画を聞いて優良(AAA)であれば特別に許可してもいいが?どうする・・」

 「・・・・・・」


 リネガーケントが感情を表す時、必ず、彼の体から離れようとするもう一人の彼が見える。


 幽霊なのか、幽体離脱なのかわからないが、確実に2重に見えるのは、夜のあの時だ!結婚生活の2年間、毎晩のように見ていたもう一人のリネガーケント!


 本人は気づいているかわからないが、今、この状況で周りの誰も騒いていないと言う事は、ブルーにしか認識できない2重のリネガーケント(久しぶりに見たよ、ホント・・)がそこにいる。


 「う~~」


 頭の中では、慰謝料はある、男爵業でも彼らを養う事は可能だが、流石に彼の国での貴族家業は不安定、少しの間、一生懸命考えていると、リネガーケントは馬車に乗り込み、彼の従者によってヒョイと押し込められていた。


 釈然としないと言う顔でリネガーケントを見上げると、すでにその幽体離脱は終わっていて馬車は何も言わなくても銀行の前に止まった。


 「・・・・・・」

 「着いたようだな、さぁ、降りるぞ!」


 自分はさっさと降りて、本来ならば、優雅エスコートされ降りるはずだが、こどもの為に従者に抱かれて降ろされる。(屈辱)


 ここは王都でも端っこの商業地域、王室御用達の馬車でこれまた噂のメゾンドオリザボシ国王のご降臨に街中の人々の視線が集まった。


 「ここか?」

 「はい、5階建ての建物すべてをお母様が購入して下さいました。1階と2階でフルール銀行を開業しました」


 「なぜ、商会にしなかったのだ?」

 「いくら王妃様の七光りがあっても子供がつくる品物を、人々が購入して下さるとは思えません」

 「金貸しでしたら、利息の計算や事業計画の書類整理等でどうにかなるかと・・」

 「それだったらもっと大きな銀行の方が有利では?」


 「・・そうでしょうけど、わたくしが信用できる人物を採用するには時間がかかります」


 大きな影は、何も答えずに、そのまま銀行の扉をくぐる。


 アイイロ支店長は1m程飛び上がったが、平常心を取り戻し、こちらに近づき挨拶をする。


 「メゾンドオリザボシ国の太陽、リネガーケント国王にご挨拶申し上げます」


 「これから、国王陛下に事業計画をご説明しますので、アイイロ支店長、カメール様も席について下さい。モンスールはお茶の用意をお願い。メゾンドオリザボシ帝国のお茶をお出ししてね」


 「ーー用意がいいな、それで、アイイロは信用に値する人間か?」

 「アイイロ支店長は、わたくしのやり方を否定しませんし、銀行業務にも長けています」

 「そうか、住まいもここに移すのか?」

 「はい、すでに移してありますので、昨夜は何も持ち出す必要はありませんでした」

 「屋敷に欲しい物はなかったのか?」

 「はい、ありません、母上の出立が決まってからは、私物はすべてこちらに移しました」


 後ろでは、カメールはアイイロ支店長にフラグメール邸の消滅を説明している。


 「パール王妃の使用人達もブルーアイパール領に行ったのか?」

 「はい、パール王妃の周りの者たちは全員お母様の使用人でしたから・・・」


 二人は黙ったまま、パール王妃の好きだったメゾンドオリザボシ国のお茶を飲んだ。  



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