地下水道
第35章
離宮のパールの執務室には、モモホラチームが集まり、今日の出来事を話し合う。夕食はキナグリ公爵家がいつも用意してくれているので、席に着けばいいだけだ。
「しかし、スペイン様は個性的でしたね?」
「僕も初めて話したけど、彼は、魔力がないから、その分大変なのだと思う」
「メゾンドオリザボシ帝国の皇室は、魔力がなくてもよろしいのですか?」
「その為に魔力塔があるのだから、必要ない。何かあれば魔力塔が協力するはずだ」
「そうなのですね。帝国はやはり素晴らしいです」
「所で、あの動く荷台・・、地下の荷台だよね。だから作り易かったけど…」
「そうです、わたくしたちは魔力持ちですから、稼働できますが、公園内でも、存在すればいいかな~位に考え発案しました。学生たちの支持が、思いのほか多くて驚きましたけど」
「僕は、あの高低差に驚いたよ。実際にあの高さから滑り落ちたら恐怖だろう?」
「あの設計は現実的ではありません!インパクトを与えたくてお願いしてのですから・・」
「でも、僕は欲しいと思ったけど・・」
「ご自分の敷地内でお願いします」
夕食が終わり、いつものドアを開けると、緩やかな道が出現し、地下に続いている。8人を乗せてトロッコ仕様の荷台は、パールの魔力で動く、パールは荷台を動かしながら、マジック収納を管理し、モモホラと一緒に、どんどんトンネルを作っていく。
水道管を進むにあたって、所々に休憩所も併設し、パールの映像とリンクさせていく。
「お茶にしましょう」
パールの体力がない為に、休憩は必要で、その間、カメールとイチトスは灯りを常設している。
「地下の水道管はもうすぐ終わりますね」
「ええ、モモホラ様のおかげです。ありがとうございます」
「この荷台のおかげですよ。徒歩は大変でしたからね」
「それが運動ですけどね」
「それでも、パール様は体力がなさすぎです」
「ハハハハハハ!!」
「これからです。まだまだ成長しますから、所で、モモホラ様は卒業許可書はお持ちでないのですか?」
「イヤ、もらってますよ。今年、世界学の単位を頂いてからもらいました。パール様のおかげです」
「え?でも、試験はまだですよね?」
「これから忙しくなるので、個別に試験を受ける許可を頂いてもらったのです」
「なんと!この短時間に、すべて暗記したのですか?」
「ああ、世界学を履修したのは3回目だからね・・」
「では、先程のお話は・・、」
「えぇ、嘘です。優しい嘘と思って下さい。彼を見ていると僕の様で気の毒になりました」
「僕は、去年、アカデミーから、後3単位で卒業許可書が下りると教えられたのです。僕が卒業しない事を国王は知っていたのではないでしょうか?」
「それと・・、ミリンダ嬢の卒業を、待っていた可能性もありますよね?」パールは呟く。
「陛下が、いつから卒業許可書の制度を、考えていたかは、僕には、わかりません」
「モモホラ様は、本当に、優秀ですね?」
「パール様ほどではありません。パール様はこの帝国に必要な方だと思います。一緒に研究する事で他の公爵家にも伝わるでしょう。発想も実に面白いですから・・」
「発想が面白くても、世界学の暗記は至難の業です」
「3回履修を繰り返すと、暗記できますよ」
「それは、嫌ですね」本当に嫌だと思い、その日からテスト勉強に励んだパールだった。
テスト週間の1ケ月前には研究所は閉鎖になる。閉鎖になる前の1か月間が非常に大変だったので、研究所の閉鎖をカメールから聞いた時は、飛び上がって喜んだ。
「お嬢様、テスト勉強もありますが、今年の夜会の準備もございますよ」
「そうね、地下の水道管が完成したら、準備を始めないといけないわね」
「今年もルリーシャ様とご一緒する予定ですか?」
「それが、未定なのよ。同じ研究所に在籍すると言っても、ルリーシャ様は、伯爵家ですから、なかなか騒がしいスペイン様たちのには近づけないようで、最近は、世界学の時しかお話が出来ていないの・・」
「ルリーシャ様に、ドレスのお色はお伝え出来ましたか?」
「ええ、国王陛下より、ドレスが送られて来た翌日に、伝えました」
「では、明日から、ドレスに合わせた装飾品などを選び始めましょう」
「そうね、今日、地下水道に水が入れば、モモホラチームもこちらに現われなくなって、ノムシルたちに色々な物を頼める。今年も完全武装で臨むつもりよ」
テスト勉強のないモモホラ様は、昼間でも作業する事が出来るが、パールは違う。それでも、一般教養は、すべて合格しているので、世界学だけが残っている。忙しい割に、頑張っているように思えた。
◇◇◇◇◇◇
モモホラ様は、地下水道を手伝いながらも、遺跡にも仮部屋を建設したらしく、水が必要らしく、パールを急がせる。
「この水道は、湖の水を利用する事は理解できたが、下水はどうするのだ?」
「下水は、街中の下水管を利用します。街の排水が、どのようになっているかは、存じませんが、モモホラ様はご存じですか?」
「イヤ、まったく知らない」
「ですよね。そこはご実家に相談して下さい」
「パール様は、どのようにするのか?」
「カメールに頼みます・・・」
「そうか、そうだな・・」モモホラチームは、物凄く納得した表情でカメールを見た。
実は、これは秘密で、魔石で固めた汚水タンクに、汚水を集めてから、処理する予定だ。汚水は汚水で利用価値があるからだ。貴族は知らない方がいいと思ってる。
この日、モモホラと一緒に、湖に穴をあける。
設計上は上手く行く予定だが、危険を伴う放水作業の為、今日は、モモホラ、パール、カメール、イチトスだけが荷台に乗っている。
湖は湧き水の為に、汲みすぎると涸れてしまう。そこの調整が難しいが、パールは水魔法が使えるので、足りなくなったら、足せばいいくらいに思っている。この水道管は、魔力塔から魔力を拝借する為のモノだからね。
「モモホラ様、本当に大丈夫なのですか?水圧に負けると言う事はありませんか?」
「大丈夫だ!徐々にすすめる予定~~~~!!きゃー!ぎゃ~~!流される~~」
最後の最後で、計算が狂い、4人は荷台から投げ出され、荷台は大破し、カメールはパールを助ける為に手を伸ばすが、水の勢いは止まらずに、いくつもの休憩所を通り過ぎた。
もう水に身を任せるしかないと、思い流されて行くと、水道管内に作っていた舗道にたどり着いた。
「死ぬかと思った・・・・」
パールが打ち上げられた手前で、カメールが、水中にはモモホラが、既に舗道を走って、モモホラを追いかけているイチトスが確認されて、一安心した。
「パール様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、でも、ここまで押し流されるとは思ってなかった。急ぎましょう、水は気まぐれよ」
「モモホラ様!!いつまでも遊んでいないで、舗道に上がって下さい!」
「すごかったね。このような経験ができるなんて、すごいよ!パール様!!」
「それは良かったです…、ケガはありませんか?」
4人は互いの無事を確認し合い、頭のヘルメットを取った。今回、パールは魔石布を開発し、救命胴衣を作り、ヘルメットの着用も命じて放水に望んだ。モモホラの、僕の土魔法は水圧にも耐える事が出来ると、言う言葉を信じていなかったからだ。いざとなったら水魔法を使う予定だったが、それは、最終手段で、避けたかった。
モモホラは、まだ、プカプカ浮かんでいたいのか、イチトスの説得になかなか応じない。
「モモホラ様、わたくしは、風邪を引きそうなので先にもどりますよ」
「・・・ああ、待って、僕も行くよ」
離宮に戻った時のモンスールの悲鳴は、結構、響いたのではないか?と、パールは思った。
長い、長い、水道工事はこれで終了した。お疲れ様でした。




