文系官僚と理系集団①
第33章
フラグメールの小屋に、一泊して早朝に離宮に戻ると、モンスールが慌ててやって来た。
「モンスール、おはよう、休暇は楽しめた?はい、これ3人からの手紙よ」
モンスールは嬉しそうに手紙を受け取り、直ぐにでも読みたそうな気持を抑えて、パールに報告する。
「昨日、緊急にブレイク文官から、面会の申し出がありました」
「休日ですよね?おまけに学生の休日・・」
「ブレイク文官は、大変、急いでいらしたのですが、お嬢様が熱を出していると告げると諦めて帰りました」
「仮病は、誰でも使う上等手段ですからね…、まぁ、嘘だと見抜いているでしょうね」
「---今朝も、一番に面会の申し込みが来ています」
「まだ、朝食前ですよ」
「はい、出勤前にパール様の承諾が欲しいようでした」
「貴族の調整は彼の仕事ですよ、全権を任せてあるのに何の承諾が必要なのでしょう?」
パールは、モンスールの用意したお茶を飲みながら考える。
「まずは入浴します。その後、面会すると、ブレイク文官に伝えて下さい」
「畏まりました」
◇◇◇◇◇◇
事態は予想通りで、キナグリ公爵家が大事業を得た事が伝わると、貴族内では大騒ぎになった。
どの国でも談合、入札、賄賂等は存在する。ポリアンナ公爵家は道路工事の他にも頼む予定だし、キナグリ公爵家が警備の仕事を得て、後継者も承認されたのだ。ルリーシャ嬢のブックス伯爵家にも魔石の粉砕をお願いしている。
遺跡の発見後、王都でこれ程の公共事業は、この後、ないかも知れないと誰もが気づき始めた。
執務室にカメールはすでに出勤していて、ブレイク文官は、気持ち悪い笑顔で立ち上がり、パールを迎える。
「おはようございます。早いですね、ブレイク文官、何かありました?」
「おはようございます。お体の具合はいかがですか?」
「ええ、疲れが出たのでしょう。最近の出来事は、子供の体には負担が大きすぎます」
「はい・・、私もそう思います。何かお手伝いする事があれば、手伝うように陛下より言われてます」
「・・・・・・」
「今は、特にありません、モモホラ様が研究所で頑張って下さってますので・・」
「その研究所ですが、欠員が出ているそうですね?」
「定員はわかりませんが、ルリーシャ嬢は、欠員が出て、入れるようになったと言ってました」
「後、数名、その研究所に入れて頂く事はできますか?」
「それは、わたくしの承諾が必要な事でしょうか?主任研究員は頼めばいいのでは?」
「多少、面倒な生徒でして……」
ーー沈黙ーー
「え~と、はっきり言いましょう!ポリアンナ公爵家のスペイン公子と、ヨロピン7公爵家のソーラー嬢です。お二人には従者もつきます」
「断ります!!!」即答する!
「それが断れないのです。国王陛下のご命令ですので・・・」
「そちらの家門のお二人は、どこかの研究所に所属した事はおありですか?あそこは研究所ですよ?文系の人間には理解できないと思いますが?繁華街のような騒ぎですよ」
その意見にはブレイク文官は反論する。
「文系には文系の研究所がありますし、お二人には従者もつきますから・・」
「パール様の従者も研究所に出入りしていますよね?そして、モモホラ様の従者もです。本来でしたらアカデミーでは禁じされている事です」
「しかし、彼らは、物凄く役に立つのですよ」
「では、残りの公爵家は役に立たないと?そう言えますか?」
「しかし、ポリアンナ公爵家は、ミリンダ様の方が優秀ではないですか?彼女の方がまだいいです」
「ミリンダ様は、ポリアンナ公爵家の後継者ではありませんし、ご卒業なさってます」
「国王陛下が、彼女を後継者と認めなければ、公爵家を継ぐことは難しいでしょう。陛下は能力主義者ですが、ポリアンナ公爵家は許可しないでしょう。今回、棚ぼたのモモホラ様が、キナグリ公爵家の後継者と認められた事は、大きな衝撃でした」
「でも、モモホラ様・・・、彼は別に望んでませんでしたけど?」
「しかし、周りは望んでました。モモホラ様は、大事業を一族にもたらし、一族からも認められたのです。研究所に軽食を運ぶ事など彼らにとって小さな事です。キナグリ公爵家は勝組みに乗ったのです!では、周りはどうでしょうか?その流れに乗りたいと思うのは当然ではありませんか?」
「国王陛下が、気まぐれでパール様に差し上げたプレゼントは、今では、栄光の架け橋になってしまいました。しがない文官の私の力では、どうにもならない所まで来ています」
「ヨロピン7公爵のソーラー様は、陛下の首席政務官ですから、簡単に認められるのでは?」
「なんの功績もなく認められたと、モモホラ様と比べられて?その後の陰口はどうでしょう・・か」
「ーーブレイク文官は、パール研究所を訪れた事はありますか?資料、ゴミ、砂、食べかす、酷い状態ですが、そのお二人は大丈夫なのでしょうか?」
「わかりかねます。私の仕事は、陛下より承諾を取って来るように言われた事と、二人の参加を認めると、国から多めの予算がパール研究所に入ります。3公爵家が参入する事で予算が増える為に、会計を明確にする必要が出てきましたので、エスカーション公爵家のドクンド首席監査官が当面の間、監査役に就きます」
「そんな・・、カメールが死にます」
「もうすぐ、ご子息が入学されますので、それまでの繫ぎと足固めと思って下さい」
「伯爵家以下は、これまでと同じで、気に入った貴族を使って構わないそうです」
「ブレイク文官、本気ですか?これは酷すぎます」
「パール様、これでも調整したのです。公爵家が参入すれば、伯爵家以下は自然に黙ります。遺跡発見後から宮殿には、陳情に来る貴族が列をなしてました。王都の貴族だけでなく、地方からも参入の要請が多く寄せられたのです」
「地方もですか」
「そうです。遺跡の発掘は、地方から職を求めてやって来る口実になります。金脈と一緒です」
「・・こうなる事を陛下はご存じでしたよね?それなのになぜ?発掘を急いだのでしょう?」
ブレイク文官は、パールの質問に、笑顔で、
「今年も、フラグメール国に帰省しない口実にでもして下さい。そのくらいの考えです。はい・・」
「嬉しくないとお伝えください!」
◇◇◇◇◇◇
その日の午後、重い足取りで研究所に向かう。モンスールとカメールからも緊張が伝わってくる。
「行きたくないけど・・、行くしかない。そうよね?」
「そうです。行くしかないのです」モンスールは鼻を膨らませて言う。
研究所にはすでに、エスカーション公爵家のドクンド首席監査官が立ったまま待っていた。
「主席監査官、お待たせしました。よろしくお願いします」とパールが頭を下げる。
「この度、リネガーケント国王陛下より、こちらの研究所に多くの予算が送られる事になりましたので、指導と管理、監査を担当する事になりました、エスカーション公爵家のドクンド首席監査官です」
「はい、ブレイク文官より伺っています」
「今までも、元帳に、入金と出金は、帳簿はつけていましたけどご覧になりましたか?」
「はい、既に、頭の中に入っています」
「しかし、大雑把で、パール様の私財が多く使われているように思えますが?」
「研究は好きでやっていますので、趣味のような物です。研究者はあまりお金の事にこだわらずに研究に没頭した方が、良い時もありますので・・・」
「しかし、今後はそのような事ではなりません。この事業は国家の事業に変わって行くのですから」
「あら?では公園事業は国王陛下にお返しした方がよろしいかしら?」
「どう思われます?エスカーション公爵家のドクンド首席監査官・・」
パールとドクンド首席監査官の激しいやり取りを見て、空気を読まないポリアンナ公爵家のスペインは発言する。
「予算や帳簿より、僕たちの紹介を先にしてくれ、長い時間待っているんだ!」
随分とご立腹のスペインが仁王立ちでパールを睨む。




