土魔法①
第30章
モモホラ様は土の魔法紙を気に入ったが、それ以上の要求をしてきた。
「家が欲しいのですか?」
「はい、遺跡のある膨大な敷地内に管理人の建物が必要です」
「なんの為に?」
「僕の自由の為です。通勤が楽で、親の干渉もなくとことん土魔法の研究ができます」
「遺跡の土で家を作るのですか?面白そうですが、わたくしはあなたの為に粉砕した魔石砂をご用意するつもりはありません」
「え?なぜ?このような大発見をなさったのに?王妃になるお方が国の為に貢献しないのですか?」
「私はまだフラグメール国の皇女ですし、こちらの国からお給金を頂いているわけでもありませんし、それに魔石の砂は、必ず調合が必要でそんなに簡単ではありませんよ・・」
「そんな・・」
「モモホラ様、思いつきだけ交渉されても困りますので、一度、落ち着いてからいらして下さい」
その後、モモホラは、土の魔法紙に魔法陣を移す単純作業を、黙々とパールの執務室で一晩中かけて行い、夜中にはモンスールが用意した軽食も食べ、朝食はノムシルが持参したチャリチャリ停のモーニングも食べ、ソファで眠り、パールがアカデミーから戻ってきてもその場に留まっていた。
パールが午後の授業を終えて執務室に戻ると、疲れ切ったカメールと笑顔のモモボラが待っていた。
「モモホラ様、まだいらっしゃったのですか?」
「パール様に納得していただきたく設計図を書いてました。ネッ!そこの文官」
パールは、カメールに少し同情しながらモモホラに言う。
「モモホラ様、公共機関である遺跡に、研究所を建てられるのでしたらメイドは雇えませんよ。食事、洗濯、掃除等はどうするのですか?そうなると、国からも職員は派遣されると思いますし、それに、灯りも水のない場所ですけどどのように生きていくのですか?」
モモホラは生粋の貴族だ。生まれた時から何人ものメイドに面倒を見てもらい、両親からも嫡男でもあるために甘やかされたに違いない、独立したいと言っても、面倒になれば屋敷に戻り暮らすことは目に見えてる。
「砂は十分ありますが、粉砕した魔石は公園事業に使う予定なので、わたくしの一存で、モモホラ様の為にご用意は出来かねます」
モモホラはまた大きな壁にぶち当たった。
「では、どうすれば・・・」
「それを考えるのはわたくしの仕事ではありません!この国の事を決済できる人は1人しかいません。それと、もしも、わたくしの研究成果を陛下に漏らした場合・・、管理人の職は解きますけど・・」
パールは今日のファイルの決済を確認して部屋を出ていく。
その日の夜、モモホラはキナグリ公爵家に連絡を入れたようで、キナグリ公爵家からメイド3人とモモホラについている執事のような中年男性が執務室で待っていた。
「フラグメール国、皇女パール様にご挨拶申し上げます。わたくしモモホラ様の政務官のイチトスと申します。この度は、モモホラ様が、大変、ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
深々と頭を下げるモモホラと4人の使用人たち(何、このチームプレイ?)
カメールとモモホラは、この執務室で2晩も過ごしているのは知っているが、今朝はやけに清潔が保たれている。
「今朝は、二人とも身ぎれいですね・・・」
「パール様・・・、あの・・、執務室の浴室を使わせて頂きました」カメールが申し訳なさそうに言う。
カメールが公爵家の要望を止める事が出来るわけがなく、モモホラチームに押し切られたのだと簡単にわかった。
「別にいいのよ、執務室の浴室はカメールたちに用意したものですから・・」
モモホラが、
「それにしても見た事もない浴室で、すごく綺麗だったよ」パールはモモホラを見て
「モモホラ様、今日のご用件は何でしょう?わたくし、これから授業を受けに行かなくてはならないのですが?」
「遺跡の研究所の事だけど、僕たち5人は、僕が生まれてから一緒で、彼ら4人を新しい家に迎え入れないと言う選択肢は僕にはないんだ。結婚して屋敷を賜っても、彼らはついて来てくれると信じてる」
「だから、僕たち5人はパール様と契約魔法を結ぶよ。パール様が行うすべてを秘匿とし、王妃になっても必ずあなたに尽くす・・・どう?」
「先日も申し上げたのですが、許可を取るのはわたくしではなく国王陛下です。陛下やその周りの方が契約魔法を持ち出したらどうするのですか?すでにわたくしと契約したと申し上げるのですか?」
「それは・・、二重契約?」
「モモホラ様・・、陛下の周りの魔術師、文官たちを舐めてます?」(呆れて何も言えない)
「陛下とは十分に話し合って下さい。今日はこの執務室を閉めますのでカメールも解放してあげて下さい。このままでは過労死してしまいます」
パールはそのままアカデミーに向かい、モモホラたちは午前中に国王陛下に面会の予約を取り、5人は対応策を練って、午後、国王陛下の宮殿に向かったと夕方カメールから報告が上がった。
◇◇◇◇◇◇
パールは自室の寝室でゆっくりお茶を飲んでいる。
「お嬢様、離宮の管理室に、ブレイク文官より明日の朝の予約が入りました」
「意外に早いですね?二重契約は上手く行ったのかしら?」
「カメールは明日も大変そうですね・・・」
翌日、実直を絵に描いたようなブレイク文官とカメールは、朝食前から待っていたようでモンスールが用意したサンドイッチを食べながら、すでに事務官同士の打ち合わせは終わっていた。
カメールとブレイク文官が、要点を報告する。
「国王陛下とキナグリ公爵家のモモホラ様が、先日、会談を持たれまして、へいかはモモホラ様に遺跡の門の建設を任せました」
「門ですか?どのような?」
「パール様は遺跡が変化する事はご存じですか?」
「いいえ・・、遺跡などの考古学には疎くて、自国にも遺跡があるのかもわかりません」
「今回、発掘された遺跡は王都にあり、パール様のつくられる公園の中に存在しています。そうなると王都にも危険がないとは言えません。メゾンドオリザボシ帝国の他の3つの遺跡にも管理者が存在して、研究、保全等を行っていますが、結界は張っていません。なぜならこの国でもそこから魔石がとれるからです」
「公園の近くの狩場は、これからも軍兵士が見回りをしますが、遺跡はキナグリ公爵家のモモホラ様にお任せする事になりました」
「???」
「パール様は、軍と近衛団の違いはご理解できますか?」
「軍は国王陛下のご命令で戦争に向かい、災害等が発生した場合は救助にも向かいます。それこそ、命を投げ出してこの国を守ります」
「近衛兵は主に王都で皇族、宮殿をお守りします。国の行事等の警備も参加し、今回、公園の警備にも当たる事になるでしょう」
ブレイク文官は子供でも分かるように説明してくれた。
「陛下は、公園の警備を、キナグリ公爵家のモモホラ様に任命されましたので、ご報告に参りました」
「その~、門を作ると遺跡が守られるのですか?」
「そうです。その砂で出来た門に、魔法陣が設置できるとモモホラ様が陛下に報告されました」
「ごめんなさい、子供なので、もう一度、確認させて下さい。モモホラ様は門を作るのですよね、研究所ではなくて?その門を作ると、今後、変化する遺跡にも対応が出来て、ついでに、公園の警備は近衛兵が守って下さるで、よろしいのでしょうか?」
「はい、そうです」
「あの~~、どうして、キナグリ公爵家が全面的に協力して下さるのですか?」
「わたくしからは、政治的なしがらみとしか答えられません」
(そんな事、子供に言っていいの?ダメでしょ!)
「モモホラ様は門でよろしいのですか?ついでに公園警備の仕事もありますけど・・」
「はい、門でいいです。門はどのような形でもいいと国王陛下はおっしゃって、その門は自由に使っていいそうです。それに、彼ら4人も自由に使えると許可を頂きました」
(この人、どんな門にするのかしら?陛下はモモホラの美的感覚をご存じなの・・・?)




