フラグメール国消滅
第3章
銀行に出勤したが、この小さい銀行には誰もいない。元々、アイイロと二人の銀行なのだ。
本日、休日出勤してまでもここに来たのは、新聞を読む為、鼻歌交じりで新聞を開き、
「さて、彼はどのような爆弾をこのフラグメール国に投下したのかしら?」
ワクワクしながら、各社の新聞を読み始める。
『メゾンドオリザボシ国王、我が国を属国とすることを発表』
記事の内容はメゾンドオリザボシ国王は、既にフラグメール家に多額の慰謝料を支払っており、その権利は本来ならば離婚したパール王妃の為の財産である。だが、彼女は不慮の事故で亡くなっている為に、その母親に賠償する為、彼女の故郷の建国を許可する旨と説明されていた。
そして、建国されたブルーアイパール領は、今後、属国となったフラグメール国への入国を禁止する。
最後に、パール王妃が、フラグメール国の貴族から受けていた虐待的仕打ちを見逃す事が出来ない為、今後、このフラグメール国はすべてメゾンドオリザボシ国が支配し、王室は消滅、パール王妃を蔑ろにしていた貴族たちも爵位を取り上げられた。
ある新聞社は、「これが不可侵条約なのか・・」と疑問を投げかけ、他の新聞社は「この国の行方」次の新聞社は「貴族の惨事」と色々な記事に没頭していると、ある一社の記事に目が留まった。
「もしかしたら、メゾンドオリザボシ国王は、パール王妃を愛していたのでは?」と言う小さい社説を見つけ、新聞をそっと引き出しにしまう。
「リネガーケントは知的で優しいく頭が切れる国王よ。記者さん・・考えが甘いわ・・」
二人の会話は殆どが寝室のベットの中だったが、彼は、まったく、すべての国を一纏めにする事を考えていないように思えた。その大事業は、遠い未来の世代にでも任せればいいとも感じられた。
無意味で現実的ではないらしい・・・
実際の彼は、意外にめんどくさがり屋なのに合理主義者、サイコパスになっている皇后の言いなりのように振舞っているが、実は、彼にとって価値のない国には目も向けない。
例えば、亜人国、小人国、魔獣が多くいる国、ゴーレム国等は不可侵を保ちたく、それなのに、暑さ寒さは嫌悪している・・・、だから、この寒さ厳しいフラグメールを属国として残した事は不思議でならない、この国には何か価値があるの?パールに知らない価値があったのか不思議でならない・・
パールの魔力持ちの部下たちは、色々な場所に出向き情報収集を行い、ランク付けもし、精査した内容を報告していた。パール自身も毎日、聴力を強化して探っていても、メゾンドオリザボシ帝国内では、まったく、フラグメール国のいい所は聞こえてこなかったのに・・・?
「国王の執務室は、やはり、スーパー防魔力壁の部屋だったのかしら?」と、疑問は浮かぶが、その後の夜会についての記事に思考は流れる。
『その夜の歓迎パーティーは、阿鼻叫喚の嵐』
記事の内容は、貴族の序列が完全に壊れた夜会は下剋上の嵐で、身分の為に今まで我慢していた令嬢たちは勇敢に立ち上がり、公爵令嬢、侯爵子息を囲み今までの悪事を暴露し始めた。
その中には当然のように皇子達も存在し、一種の暴露ショーはメゾンドオリザボシ国王の前で行われ、その場で多くの貴族たちは逮捕され、きびしい取り調べを受けるだろうと書かれていた。
彼、そうゆう断罪ショーみたいの見るの大好きな人間だったから、部下たちが扇動して下級貴族を煽って行われたとしか思えない。
見事な悪魔っぷりだ。
「さて、そろそろ戻ろうかしら、夕方になると明かりを灯さなけばならないから、王都中が混乱の中、誰に見張られているかわからない。明日の朝、アイイロ支店長が出社したら一番に新聞を読むだろうから、新聞は置いて行くしかないけど、リネガーケントの行動がわかっただけでも来て良かった」
◇◇◇◇◇◇
メゾンドオリザボシ国の屋敷に戻り、食事をしながら、それぞれの部下たちに現況を説明すると、
「パール様、カメールはいつこちらに戻りますか?」
「あっ!忘れてた、彼、貴族の爵位与えてたよね?どうなるのかしら?子爵だし、パール王妃の従者だったから大丈夫だと思うけど・・、明日、連絡を取ってみます」
「どちらの国にも精通しているカメールがいると助かるのよね?」
「はい、こちらでも、男爵さまの仕事が溜まっていて、町の人達から不満も出てます。本当の未亡人は悲しみに暮れていて(恋愛中で)この町の事は何もしていなかったようで、住人から色々聞かれます」
「え?主に何を?」
「細かい事です。医師の派遣は国に頼んであるのか?川の魚はいつから食べていいのか?木の伐採は始めていいのか、穀物の収穫についての指示はあるのか、税はいつ集めるとか・・・諸々です)
「それは・・・、わたくしにはわかりませんね・・」
「我々も普通の生活を知らないですし、役所関係も苦手です。カメールに、一度こっちに来て欲しいと聞いてくれますか?」
「私たちの食料は足りてますか?」
「食料は大丈夫です。頂いたお金で市場で買えますし・・、でも、その市場も問題で、市場の借地料も男爵様に収めるみたいで、お店の人達はビクビクしながら過ごしています」
「男爵の仕事ってそんなに多岐にわたっているの?」
「亡くなった男爵様はきっと優秀な方だったのではないでしょうか?ご自分の土地の管理もしっかり行い、出陣もなさっていて、今回の出陣次第では子爵も夢ではなかったらしいですよと、町の人が言ってました」
「その代わり、奥さまはいつも一人で町の人達にも滅多に会わなかったようです」
「まるで世捨て人のような奥様で、雇っていたメイドもいつの間にかいなくなっていて、この屋敷に一人で住んでいたらしく、私達使用人も、まだ周りに疑われている状況です」
「貴族の結婚なんてそんなものでしょう。好きな人がいても親の言う通りに結婚して、結婚しても旦那様は直ぐに出陣、知らないメイドは信用できない、孤独を埋める友達もいない、ましてや知らない土地で初めての妊娠、ひとりでの出産、子育て、逃げたくなっても仕方ないよね・・」
「男爵の事は、カメールが調べた以上に複雑みたいね」
「はい、だから、しっかり指示を仰ぎたいです」
みんなで今後の事を話し合っていると、丁度、カメールから連絡が入った。
「メゾンドオリザボシ国王が、これから直々にフラグメール邸に視察に訪れます。こちらに戻る事は可能でしょうか?」
慌てて立ちあがり、臨戦体制に入る。
「今、出発します」
「モンスール、行きましょう」
「はい、着替え等は、あちらに準備してあります」
「さすがです。あなた達はこちらの屋敷に残って下さい。国王の部下たちはあなた達3人を知っている可能性もあります。用心は必要です」
「しかし、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。きっと、ポータルの存在を知ったのでしょう。彼は抜かりがないから・・・」
3人は何とも言えない顔でパールとモンスールを見送った。
フラグメール邸に着くと大急ぎで着替え、髪を整え、靴を履き、来客用の茶器を出したりして体裁を整え、その時を待った。
玄関のベルが鳴り、メゾンドオリザボシ国王の部下により大きな門が開けられた。門が開くと同時に屋敷内の街灯は輝きだし、寂しい豪邸は一気に大貴族の豪邸に戻った。
馬車が止まり、リネガーケントが大勢の取り巻きと共にブルーの前に現われた。1年ぶりの再会だ。
「メゾンドオリザボシ帝国の太陽、リネガーケント国王にご挨拶申し上げます」
「流石に小さいな10歳か?」
「はい、もうすぐ11歳になります」
「いきなり訪ねて悪かった、聴いたところ、この屋敷内にポータルが存在するらしいね?」
「はい、母上とビルナツメ教授が開発したものでしたらございます」
周りの護衛達は「おお~~!」と静かに声をあげる。
メゾンドオリザボシ帝国でもポータルの研究は盛んだが、まだ、未完成で実験段階に入っていない。
「見せてもらおう」
ブルーは手に汗をかきながら返事をする。
「ご案内いたします」
その時、カメールが出てメゾンドオリザボシ国王に呟く。
「彼女とメイドしか出迎えがないのは、既に側妃は出国なさったのではないでしょうか?」
「そうか?それなら好都合だ」