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カメール

 第29章


 「カメール、今までありがとう。これから少しの間は大変になるでしょうけど、わたくしの首席政務官として頑張って下さい」と言ってパール様はメゾンドオリザボシ帝国を旅立った。面倒な3人を残して・・・


◇◇◇◇◇◇

 

 平民で店舗が借りられるのは15歳以上、手持ちの金はすべて伯父たちに奪われ、残った物は大量の服の山と後に支給された名誉孤児への見舞い金だけだった。


 どこかの商会に見習いに入るには年を取り過ぎているし、父親は騎士団に努める下級騎士で母親はすでに亡くなっていた。騎士には向いていなかったが、伯父たちが商売をしているので、帳簿の整理や在庫管理、商談などをして生きて行くと思っていた。


 だが変化は突然やってくる、父が戦死して孤児になったのだ。当時、伯父たちと父は良い関係で、まさかすべての財産を持ち逃げされるとは微塵も思っていなかった。


 そう・・あの日、道端でうずくまっているノムシルを保護し戻って来たら、自分の家が消滅していた。


 父の遺体が戻らないと聞いた時も、こんなに泣かなかったのに、汚れた小さいノムシルに抱きつき泣いた事は今でも覚えてる。自分があまりにも泣くのでノムシルに、


 「兄ちゃん、泣かないで・・」と慰められた。あの時、ノムシルがいなかったら死を選んでいただろうと、今でも思っている。ノムシルがいたから自分が生きて来れた。


 家の中は荒らされた上に、もぬけの殻で、すでに売り払われていたが、帳簿をつけていた事で、倉庫を手に入れる事が出来た。倉庫は父の名義で父親の財産だった。家に残っている父との思い出の品はすべて薄暗い倉庫にノムシルと運んだ。


 しばらくの間はノムシルと倉庫で慎ましく暮らしていたが、ある日、教会の人間が来て、ノムシルを孤児院で保護したいと言う、カメールは成人として認められたが、ノムシルはまだ7、8歳だ。メゾンドオリザボシ帝国にはストリートチルドレンは存在せず、貧困の子供たちは教会の孤児院で暮らさなければならない法律が存在していた。


 「誰かが通報したのですか?」

 「いや、この子の事は前から保護対象でね、彼の親は罪を犯して投獄されたからね・・・」


 「君も15歳になっていなければ保護対象者だったのだが・・、教会は15歳以上は対象外ですまいないね。・・伯父たちを国に通報するかい?名誉孤児の遺産を横取りする事は、極悪非道な犯罪で、許される事ではない!」


 「・・・、通報はしませんが王都入門禁止と接近禁止命令を望みます」

 「う~ん、君はしっかりしているね。ご尊父がご健在ならいい教育も受けられただろうに残念でしかたない・・な」


 優しそうな牧師様が僕たち親子を認めてくれたのが嬉しかったのか、ノムシルとの別れが辛かったのか、涙が止まらなった。


 「父は、立派な人間でした。だから・・、道で寝ていたノムシルを・・、僕は‥、僕は・・父の教え通りに保護して・・、すいません、すいません、教会に連絡するべきでした・・・」


 立派な牧師はノムシルを孤児院に連れて行き、カメールには見舞金の請求の仕方や、伯父たちへの告訴、魔力持ちの優位性などを教えてくださった。


◇◇◇◇◇◇


 ノムシルが孤児院に入ってからは、月に1回しか会う事は出来ない。沢山のお土産を持参しても、甘えさせてもノムシルは段々明るさを失って行き、カメールは心配でならなかった。


 孤児院の孤児たちは、見習いの仕事を探さなくてはならなくて、ノムシルの精神状態も危なくなってきた。牧師さんは、孤児院の生活に慣れる事を一番に考えてくれているが心配は尽きない。


 「兄さん・・、僕は役立たずだね。どうしたらいいのかなぁ・・、僕だけ見習いになれないよ」


 「役立たず」と言う言葉は、良く伯父たちに言われた。帳簿の計算も出来ず、仕入れの管理もできない伯父たちは売り上げだけが誇らしく、良く数字を出して説明するカメールに文句を言っていた。


 「ノムシル、僕はお店を始めるつもりだ。だから、そのお店で働かないかい?」

 「え?本当?兄さんがお店を始めるの?どんな店?本採用になれなくて、孤児院を出た人間が働けるお店って・・食べ物屋くらいだと皆は言っていたけど・・・」


 「そうなのか?」

 「うん、見習に行っている子が、全員が孤児院出身で、レストランを始めたけど潰れそうだって言っていたよ。経営?が上手くなくて、料理は上手いって嘆いてたけど・・わかる?」


 「兄さん・・、お店は嫌いでしょ?どうしてお店を始めるの?僕のせい?」

 「違うよ、兄さんは在庫が嫌いなんだよ。あの倉庫に今でも住んでいるんだわかるだろう?」


 「レストランって、在庫はないの?」

 「在庫になりそうなら食べてなくしてしまえばいい!」

 「本当だね。みんなお腹空かしているから在庫にならないね!ハハハハ!」


 この時、久しぶりにノムシルの笑顔をみた。ノムシルが見習いになれないのは、親が原因だろうとカメールは思った。王都での採用条件は地方よりも厳しい。孤児院出身にはもっとだ。


 その後、カメールはチャリチャリ亭の経営に乗り出したが、カメールとノムシル、料理が苦手な子供たちは、ガイドの人材派遣につく事になる。人材だけなら在庫にはならない。


 レストラン部門は、ビックリするほどのどんぶり勘定で、従業員は何人いるのかもわからない、1日働くと賃金を渡しているようで、条件は料理ができる孤児だけだった。


 「ノムシル・・、ノムシルは料理が嫌いなのか?」

 「ぼ、ぼ、ぼく・・包丁が苦手で・・無理なんだ」下を向いて本音を話すノムシル


 ノムシルの父親は暴力的でノムシルの目の前で母を包丁で刺し投獄された。母親は死に、ノムシルは孤児になった。生まれた時から親を知らない孤児は多く、ノムシルの環境は特別だった。


 「そっか、ノムシルは料理が苦手なのか、僕と一緒だ。兄弟みたいだな?」


 「兄さん・・、僕たち兄弟・・」下を向いて嬉しそうにするノムシル


 「ノムシル、嬉しい時は上を向いて僕の顔を見て!大丈夫だ二人でチャリチャリ亭を大きくしていこう!」


 「うん、僕も一生懸命働くよ。兄さんの役に立ちたい」


◇◇◇◇◇◇


 16歳になった頃にはチャリチャリ亭の運営も上手く行きはじめ、併設するガイドの仕事にも多くの孤児を雇えるようになっていた。父親の家に残っていた家具や植物、食器、鍋、飾り棚を店の一角に入れて自分の居場所も作った。


 そんなある日、ノムシルが大きな案件を持って来た。


 「兄さん・・、どう思う?」

 「どう思うって、相手は貴族様なんだろう?こんな大金をノムシルに預けて・・」

 「兄さん、僕、字も読めないし、計算も出来ないから、どうしたらいいか教えてくれる?」

 「ノムシルはこの仕事をやりたいのか?」

 「やりたいよ。ぼ、僕を信じて下さって、その・・、仕事を下さったのだから・・それに・・」

 「それに、お茶の煎れ方を教えてくれたんだ。すごく丁寧で美味しくていい香りで、お茶ってメゾンドオリザボシ帝国のが一番美味しいって、言ってくれたんだよ」

 「茶器って言う物が必要だから、この店にも揃えなくていけなくて、お茶も1種類では駄目でお店ごとに違うから最低でも10店舗のものが必要で、それから、家具も氷室も必要でそれも注文して、それから料理も届けなくては行けなくて、美味しいお菓子も・・」


 「だから、僕一人では無理なんだ」


 「その貴族の令嬢はお前に頼んだのか?」

 「皇族留学生の離宮と言う所に届けるのだけど、お店の名前と店主の登録が必要で、だから・・」

 「チャリチャリ亭と僕の名前を記入したのか?」

 「兄さんの名前だけ僕が書けたから・・・」


 カメール人生の起点にはいつもノムシルがいる。絶望の時、店を始める時、そして今度もだ。


 ノムシルが関わった事はすべていい方向に向かっている。今度も大丈夫だろう!っと、その時は、軽い気持ちで引き受けた。


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