暗記ピースと誕生日
第25章
もうすぐ12歳の誕生日、転生してから2年が過ぎ、十分に濃い2年間だった。
「明後日は、チャリチャリ亭でお誕生会をするのですか?」
「そうよ、表向きはチャリチャリギルドの設立だけど、ノムシルが張り切っているので、楽しみです」
「王宮や国王陛下よりご連絡はないのですか?」
「プレゼントは届いているでしょ?」
「しかし、今までのプレゼントに比べると、ちょっと、質素ですよね?」
「莫大な土地と離宮をもらっておきながら、もっと、豪華なものを求めるのは強欲ではないかしら?」
「しかし・・、お花とケーキと暗記セットですよ?宝石もないなんて……」
このプレゼント、パールも意外だと感じている。暗記セットはまるでジグソーパズルのようで、その国のカタチに切り取られている。表面はアースカラーで裏には国名が刻印されている。
丈夫な素材で出来ていて、高価な物とは思うが、国王陛下の意図が見えにくい。モンスールと一緒に数えたら、156国ある。世界学で並ぶ国は96国で、フラグメール国は存在していない。
「なぞなぞなのかしら?」
「お嬢様、なぞなぞとは?」
「う~ん、このピースの謎をを解けって暗示なのかと・・・」
「カメールがお嬢様の履修内容を報告した時には、すでに、この箱が陛下の机の上にあったらしいですよ」
「カメールの能力もすごいですが、陛下にも迅速で正確な情報が届いていて、少し、怖いですね」
「そこが帝国と弱小国との組織の違いよね。フラグメール国にはない国力・・すごい!」
パールは月灯りが美しい夜、マジックボックスからお気に入りの机を取り出し、そのピースをすべてぶちまけた。1枚、1枚、暗記しながら並べて行く、ふと見ると本当にジグソーパズルのように、カチッとはまる国があった。
同盟国、属国、友好国、帝国の一部の国、それぞれに特徴があり、模様も繋がっているように見えた。
(浮き国は…、元は1つの大陸だったりして?考えすぎかしら?まぁ、その為の二つの魂だけどね)
◇◇◇◇◇◇
チャリチャリ亭での誕生会は誕生日の夜に密やかに行われた。ギルドの立ち上げがメインだったが、心からのお祝いの料理とオモテナシに涙が出そうになった。
「チャリチャリギルドはこれから表向きは、パール王妃からの公共事業の窓口や相談、働き方の改革、裏では情報収集がメインになります。チャリチャリ亭としてレストランは通常営業ですが、並行して御用聞きも継続して下さい。その中でも色々な事が聞けるでしょう、後は、公園内にできるレストランにも力を入れてメニューの開発を頼みます」
「パール様、メインレストランは季節ごとに経営者が変わるのですか?それは、なぜですか?」
「わたくしは、チャリチャリ亭の料理が好きですが、他の貴族たちの食事を味わった事はありますか?」
「これから始める貴族間の争いの中、身分の高い貴族にも通用する料理が、こらからの2年間で、あなた達に作れるようになるまで待てません、それに、他国から色々な食材が入って来るのに、誰も味や材料をオープンにしていないのよ。勿体ないとおもいませんか?」
「この国には、私達やあなた達、貴族や平民、移民、亜人達も食べた事のない料理があるのに、そう、メゾンドオリザボシ帝国は多国籍料理が食べられるのにそのチャンスがないの、勿体ないでしょ?」
「・・・・・・」
「離宮での料理はチャリチャリ亭の人間を雇いますが、多国籍のレストランで勉強して、建設予定の離宮で、美味し料理を作って下さい」
その場にいた従業員たちは、一斉に「はい」と返事を返した。気持ちは多国籍料理に向かっているようにみえたが、それでもパールは嬉しいと思えた。
(これで、料理の心配はなくなった)
「ギルドで調整する仕事内容は、なるべく五大公爵家の顔を立てる様にして下さいね」
「なぜですか?」
「カメールが苦労するからです」
ノムシルが真剣に頷き、「わかりました」と答えた。
「パール様はアカデミーでの勉強もありますし、公園事業の監修もこなしながら、ご自分の研究も始まります。新人のカメール文官が調整するにも部下がいません。カメール文官は、気の毒なくらい大変です。皆さん協力してあげて下さい」とモンスールが鼓舞する。
「そう言えば、今日はどうして欠席なのですか?」
「ええ、明日の準備で欠席です」
「???」
「明日、元ポリアンナ公爵家の土地の発掘が、国王陛下の指示で始まります」
ザワザワした会場が一気に引き締まった。
「明日ですか?そのような仕事の依頼は来ていませんが?」
パールは少し遠い目をしながら答える。
「当然です。軍部に命令したのですから、数か月で終わるでしょう。カメールは軍部の人達からの砂の確保に翻弄している最中です。わたくしに大きなプレゼントを持って来てくれる事を祈りましょう」
「砂の置き場は魔力塔の近くです。その確約さえ取れれば、直ぐにチャリチャリギルドへの依頼がくるでしょう。ノムシルたちも準備して置いて下さいね」
また、大きな声で「はい」と返事が返ってきて、誕生会と言うよりも決起集会のような雰囲気になってしまったが、それでも温かいお料理と気軽な会話の中で心が軽くなった。
◇◇◇◇◇◇
次期王妃の質素な誕生会の翌日、王都は軍を率いた国王陛下の話題で持ち切りになった。
パールは通常授業を受けながら、ルリーシャと共に教室を移動する為に廊下を歩いている。
「今朝、びっくりしましたよね?」
「ええ・・・、本当に・・」
「パール様はご存じでしたか?」
「まさか、昨晩は小さなパーティーに出席していましたから、夢にも思いませんでした。地鳴りがする程の軍隊の移動…」
「最近は他国との戦争もありませんし、国王陛下のご命令とあれば軍部は総力を挙げて動きますものね・・」
「ついでに狩場の総点検も行われるようで、魔物も一掃されるでしょうね」
「では、王室で狩りをする場合は、どうするのかしら?」とパールが尋ねると、
「狩場の職員が魔物を放つのですよ。小物ですが‥‥、今回、国王陛下が一掃して下さると、今後、魔獣を放つ数と狩る数が同数でしたら安全ですよね?」
「それでも、一般市民も公園内に立ち入りますから、やはり、狩場は国の管理下に置きたいですね」
しばらく歩いていると、キナグリ公爵家のモモホラ令息が声をかけて来た。キナグリ公爵は近衛団長で、主に国王陛下や王宮の警備をしている。近衛団は、軍とは一線を引いているとカメールの報告が上がってますが、なんでしょうね?
「ごきげんよう、モモホラ様」
「こんにちは、パール嬢、歩きながら少しだけ話す事ができますか?」
「ええ、もちろん」
「今朝の軍部の移動はすごかったですね?」
「ええ、地響きで目が覚めました」
「お父様も陛下と共に敷地内に入ったのですか?」
「勿論、陛下の周りは近衛の部隊が守っています・・」
「しかし、現場を指揮しているのは軍部の司令官でもなく、ラオネル大魔導士のようなのです」
「それは、キナグリ公爵でもないと言う事ですか?」
「そうです」
パールは面倒な・・と、思いながらも予想外だとも感じ、足を止めてしばらく考える。
キナグリ公爵と話した事はないが、パールは、必ず王妃になると理解しているようなモモホラの様子を見て、ふたつの魂の事も知っているのではないかと思いながら、パールは答えた。
「モモホラ様は、あの場所に何かがあるとお考えですか?」
「はい、朝、報告を受け、その様に考えています」
「しかし、わたくしは、こちらに来てまだ2年ですし、詳しい事はわかりませんが、上層部がそのように判断したのではないでしょうか?」
「では、パール様はあの場所に、何が埋まっているかご存じないのですか?」
「ええ、当然です。掘り起こさなければ誰にもわからないのではないでしょうか?」
モモホラは不可解な顔をしてパールを見ている。その様子は二人が廊下の隅で対峙しているようで、離れた場所にいるモンスールはハラハラドキドキで様子をうかがっている。
「お嬢様・・」




