プレゼンテーション③
第22章
「体調が悪く1ケ月は研究所に行けませんと伝えてくれるかしら、その後の指示はカメールが、直接、研究所のみんなに出してくれると助かります」
「自国でない為、大きな結界は張れないし、考える時間や準備することも多くなるから体調不良が理由で静養期間は必要ね?」
「国王陛下には1ケ月の静養期間を申請します」
「かしこまりました」とカメールは頭を下げ、出て行った。きっと、パールの事は国王陛下かブレイク文官にしか報告しないと思っている。
パールは本当に体調が戻るまでじっくり休み、その後は貰った本を読み始め、標本と資料を頭に叩き込み、半月が過ぎた頃にカメールを呼んで一つの指示をだした。
「この設計書通りに粉砕機を作って、集まったクズの魔石を少しずつ、すべて粉砕するように伝えて下さい」
「粉砕が終わったら、バケツ1杯くらい、クズ魔石の粉砕と元ポリアンナ公爵家の砂と普通の土地をこの部屋に運んできてくれる?」
「かしこまりました」とカメールは返事をして出て行った。
「お嬢様、カメールはいつも何も言わずに立ち去りますね?」
「それだけ、緊張して生きているのでしょう。カメールには、本当に申し訳ない事をしたと思っているのよ。宮殿での立ち位置が決まらないまま配属されて、きっと針の筵でしょ?」
「もし、誰かがカメールに盗聴の魔法陣をつけていても、彼はわからないし、わかっても破棄してもいいのかもわからないでしょう。どの国でもスパイだらけなのに、今は見習い文官ですもの・・」
「胃がもちませんね・・」
「大丈夫、プレゼンテーションが終わればそれなりの地位が確保されるはず・・多分・・」
◇◇◇◇◇◇
映像の編集は地道な作業で、本当なら学生たちにやらせる予定だったが、研究所に行けないので、魔石と土と砂を混ぜた粘土で公園全体の模型を作らせている。パールが見本を作ってから、学生たちはその模型を、正確に拡大していく作業に没頭していた。
「そろそろ研究所にいきますか?」
「そうね、静養期間は終了しますと、カメールに伝えてくれる?」
「はい、お嬢様」
授業を終えて長い道を進み、緑が生い茂った研究所に久しぶりに姿を表すと、メルグレス主任の姿はなく、学生たちはメルグレス主任の位置がカメールに移っている事に慣れていた。
古参の研究員たちはすっかり消えていて、その代わりにチャリチャリ亭の息のかかった職人たちが学生に交じって参加していた。
「カメール、これは、どういう事?」
「はい、パール様からの指示通りに進むには民間の力を借りる必要がありました。学生たちだけでは不可能で、ノムシルと話し合って、チャリチャリ亭の従業員にも手伝ってもらう事になりました」
「ここの研究員たちはどうしたの?」
「彼らは成分分析結果の不正疑惑で解雇されました」
その場にいる学生とチャリチャリ亭の従業員は物凄く疲れた顔で、パールに資料を渡した。
「パール様がメルグレス主任に渡した報告書が燃えてから、ブレイク文官とカメール文官の指示の元、もう一度、見直しがなされました。それも・・・、集計のやり直しからです……」
「そして、パール様の独自の集計結果を分析して、その間に不正者を割り出しました。現在、研究所に残っている者はこのままプレゼンテーションの仕事を任せても大丈夫な者たちです」
「そう、まぁいいわ、では、この先に進みます。まずは、カーテンを下ろして下さい」
畳一畳分の模型に現在の公園予定地の映像が映し出される。そしてその後、キラキラと虹などで加工された未来の公園の姿が映し出された。
研究員の解雇にも動じずに、学生が作った模型も確認せずに、さっさと重苦しい雰囲気の研究所内を一気に明るい話題に変化させたパールに、ルリーシャは感激してパールの近くにやって来た。
「パール様、素晴らしいです。感動しました」
「ルリーシャさん?どうして・・」
「はい、大量の処分者が出ましたので研究所に空きがでまして、カメール文官に志願しました」
ほとんど抱きつきそうなルリーシャを目の前に、パールはチラッとカメールを見ると頷いたのでカメールの審査を通ったと確認した。
「映像だけでもかなりのインパクトですが、映像に音楽や説明文も加えたと思いますのでもう少し皆さんに協力して欲しいのですが、可能でしょうか?」
新しものが好きそうな学生たちは大きく頷き、パールの要求はより大きなものになった。
それから、モンスールも自然に研究所内に入れるようになり、遂に、プレゼンテーションの日がやって来た。
◇◇◇◇◇◇
カメールには座席などの指示を出し、畳一畳の模型もチャリチャリ亭の従業員たちによって搬入され、細かい照明や音響などもチャリチャリ亭の従業員に任せた。
(彼らはレストランの従業員だったはず?)
宮殿からは皇后が出席、5大公爵、大勢の貴族、官僚たちが勢ぞろいで待ち構えている大広間に小さなパールが登場する。
最初は挨拶から始まる。
婚約者の立場だが、他国の皇室出身者であり未来の王妃でもあるパールは謙った挨拶はしない。
その辺はさらりと流し、公園事業の説明に入る。室内の証明が落とされ、少しざわついたが小さい音での音楽にざわつきは消されて行き、パールの説明が始まった。
「今回、色々な調査をしましたが、この場所が公園に変わる事は素晴らしいと心より感心いたしました。国王陛下にも大変感謝致します。では、皆様、ご質問がございますでしょうが、まずは現在のこちらの土地をご覧ください。
パールは、現在の土地の状況をそのまま映像で映し出した。それだけでも「おおぉぉ!!」と歓声が上がり、その後は魔獣の痕跡や、魔石の分布図や解析結果も模型に映し出し、説明して行く、最後に、公園完成予想をまた模型に映し出し、説明していった。
初めての試みで、大勢の貴族たちは度肝を抜かれたのか、しばらくは質問も出てこない状態まで追い込む事がでした。
「いかがでしょうか?まだ、空論ですので、細かい事はこれからですが、最初に手をつけるのは狩場の切り離しと広場の近くのレストランから始めるつもりです」
「レストランは、1社だけでなく何社も期間を決めて目先を変える予定ですので、皆様のお抱えの料理人がいらっしゃる場合はどうか名乗り出て下さい」
「なぜ、レストランからなのですか?」
「簡単な理由です。毎回、テントを張る事が面倒だからです」
クスクスと笑い声が聞こえてくる中、ポリアンナ公爵家からは、旧ポリアンナ公爵家の跡地について質問があった。
「あの場所は砂の発掘とありますが、砂をどのように利用するのですか?」
「はい、皆様はこの土地の模型はどのように作られているとお思いですか?」
「・・・・・・」
「・・・、この模型はあの場所の砂に工夫をすると水で固める事が出来るのです」
「・・・、その工夫とは?」
「それは、今回の説明会では発表できる段階ではありませんので申し上げませんが、とても魅力的な砂と場所なので、掘り進めようと考えています」
掘ると言う言葉に少し顔を歪めたポリアンナ公爵だったが、それ以上の質問はなかった。
薄暗い室内がゆっくりと明るくなりにつれ、大勢の貴族たちはじっくり考える様になってきたので、カメールはさっさと終了の宣言し、これ以上の質問を打ち切り、その場を後にした。
それぞれの貴族は得意分野が違うので、内容を国王や王妃が知る必要はないはずだ。その為に多くの役人がいるのだから、皇族に陳情する輩はこの会場にはいない。
パールがカメールを従えて退出すると、皇后陛下の文官に呼び止められた。
「パール様、皇后陛下がお呼びです」




