プレゼンテーション①
第20章
メゾンドオリザボシ帝国の貴族についてはある程度の情報を得ているが、信頼性、協調性、人格、仕事に対しての考えなどは、現段階ではまったくわからない状況だ。
「ブレイク文官、わたくしはまだ11歳の子供だと、何度も言いました。社交界へのデビューもしていませんし、お友達も先日できたばかりで、貴族の方々との接近も許されていませんけど?」
「はい、パール様の信頼を得ているのは、街の平民たちだけと理解しています。しかし、ルリーシャ嬢のように、アカデミーに在学中のご子息、ご息女をお持ちでない貴族たちから多くの苦情が寄せられていまして・・、いかがでしょう?一度、会合を持たれませんか?」
パールは能面のような顔でブレイク文官を見て、静かに顔を歪めて考える。
「わかりました。いいでしょう、会合では、わたくしが一方的に事業内容をプレゼンして、多少の質問には答えますが、その後はそちらの文官に任せます」
ブレイク文官は黙ったまま考えているようで、返事をしない。
「あなたは、貴族や官僚についている大人たちの調整をわたくしが出来ると思いますか?」
「しかし……」
「これが、国王陛下からの課題でしたら、不合格で結構です。わたくしはこの国の政に手を出すつもりはありません、私は弱小国出身の政略結婚で、多くを求められても困ります」
「パール様は・・」
その後の言葉をどうにか飲み込んで、ブレイク文官はパールの執務室を後にした。
どのように答えても正解はないと理解している。国王陛下のお考えがわかる程、パールは彼を知らないし、ただ一つの正解は二つの魂を持つ子供を産む事だけで、公園事業は王妃になるまでの暇つぶしだと思っている。
「お嬢様、よろしいのですか?あのようにお返事なさっても・・」
「いいのよ、わたくしにはどうしようもない問題ですから、個別に面会を求められた方が厄介でしょ?」
「はい、個別に訪ねられた場合、メイドがわたくし一人ではどうしたら良いかわかりません・・」
「本当に人手不足よね!カメールはまだなのかしら?」
パールはなかなか姿を表さないカメールに不満をぶつけた。
「カメールがお嬢様の近くに配属されるには、まだまだ時間がかかるでしょう。それまでの間、いかがなさいますか?」
「仕方がないから、どっぷりと研究所の人を使うしかないわね・・・」
◇◇◇◇◇◇
研究所に出向くと、そこにいるすべての人がパールに注目している。
「メルグレス主任、集計は終わっていますか?」
「はい、成分分析の集計は終わっています。面白い結果もでました」
「では、結果報告を見る前に、皆さんに作って欲しい物がありますので説明させてください」
ザワザワした室内に研究者として好奇心を隠せない学生たちが一堂に注目する。
「この公園事業のプレゼンをすることになりました。未確定の状態での発表になりますので文書で残したくはありません。しかし、口頭での説明だけですとその場で理解できない人・・いいえ、誤差も生じますので、映像を使ってプレゼンしたいと考えました」
「・・・・・・」
誰も何を言っているのか理解できないでいるのがその場の空気でわかった。
「皆さんは、ビルナツメ教授のポータルは到着地を映し出して目的地を決める事が出来ます。ここまでは理解できますか?」
「はい・・」
「その目的地を映し出した物を映像と呼びます。映像を理解できるでしょうか?」
一部の学生は理解できたように思えるが、一度ざわついた室内はなかなかおさまらない。
「見本があるのでお見せします。これは、我が国でビルナツメ教授が使っていた物ですが、こちらを改造して、公園予定地を映し出し、未来の建設映像を付け加えようと考えています」
白い壁に移りだされたテレビのような映像を見た事がないのか、説明が耳に入っていないように視覚だけの世界にみんなが入っている状態だ。仕方がないのでパチリと映像を消した。
「この装置を改良してもっと大きく映像を映し出し、未来の公園の姿も不透明ですが加えたいのです。できるでしょうか?」
「この映像装置があるとポータルにも近づけるのですか?」
「どうでしょう?ビルナツメ教授が残したものですから、何かのヒントになるとは思いますが・・」
(ごめんなさい、映像装置は私が勝手に作りました。やる事が多くてプレゼンの資料を一人で作るのが面倒なので巻き込みました)とは言えない。
「実際の映像を空から撮影する為にグリフォンを使う予定ですが、未来予想図を書き加える事が出来なくなりますので、グリフォンで撮影された物から模型を作りたいと考えます。模型から未来映像を1から作っていきますので、大変な仕事になりますが協力して下さると助かります」
いつの時代も若者は新しい物に興味を抱き、少し年を取ると拒否反応がでる‥
メルグレス主任は、
「映像の件は、学生たちに任せましょう。彼らならできるでしょう。僕たちは、土地の成分分析の話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、部屋で聞きます」
パールは、ビルナツメ教授の使っていた研究室をそのまま譲り受けたので自由にその部屋を使っている。最初の頃は不満顔で不快感を表していた助手たちも、日々、研究所が潤って行くのを感じたのか、今ではパール研究室と表札まで掛けられていた。
助手の一人がお茶を入れてくれたので、一口飲むと、メルグレス主任は話し始めた。
「パール様のお考えがわかりました。あの土地には多くの魔石の反応が見られます」
「魔石は偏って存在してましたか?」
「いいえ、そうとも言えませんが、一部、狩場のある森の近くは反応が多くあり、魔物が存在しているのかも知れません」
「そうなると狩場は別区域に指定した方がいいですね」
「魔力塔の付近はどうでしたか?」
「はい、予想通りでした。多くの魔石が混在して、粉砕された魔石も多く発見されました」
「不思議ですが、湖付近では、魔石の発見がまったくありません。あの湖は貯水目的でもあるので自然水なのでしょうか?美しい湖というイメージでした」
「ポリアンナ公爵家の土地だった場所はどうでしか?」
「まったく、問題はありませんでした。しかし、あそこは砂が多いですね」
「砂ですか?」
「サラサラした砂が広がっていました。まるで遺跡があったような砂の世界に思えました」
「この国には遺跡があるのですか?」
「はい、発見された遺跡は3ヶ所あります」
「王都にもありますか?」
「王都にはありませんが、地方には残ってます」
「そうですか、残念です。王都にあれば見てみたいと思いました」
「後、魔石の濃度はどうでしたか?」
「クズ魔石ばかりですが、あの辺りの魔石をすべて集めたらものすごい量になると思いました」
「ありがとうございます。良い話を聞きました」
「パール様は何か予定はありますか?」
「はい、この後の研究課題にしたいと思います」
「グリフォンの用意ができましたら撮影しますので研究員をお借りしてもよろしいですか?」
「パール様が撮影するのですか?」
「ええ、わたくし以外にはできせん。魔力不足で撮れないと困りますから、当日は、前回のようにテントを張ってくださると助かります」
「わかりました。学生達と相談してお手伝いを出しましょう」
◇◇◇◇◇◇
それから10日が過ぎ、公園予定地の大まかな地図が出来上がり、飛行ルートも決まり、区分けされた場所の確認作業の責任者も選出されたりして、大がかりな撮影会が始まった。
「お嬢様、晴天ですね、絶対、気をつけくださいね」
「大丈夫よ、ちょっと空を飛ぶだけです」
「それでも、心配です」




