ビルナツメ研究室
第18章
土地を知らなければ設計は出来ず、設計が出来なければ施工も出来ない。
リネガーケント国王の文官であるブレイクは、筆頭政務官である為に、皇族留学生の為の離宮にも簡単に出入りできる様で、夜会の次の日には候補地の概要の書かれた資料をどっさり持って来た。
その資料内容は素晴らしくパールは「時間を下さい」としか返事が出来なかった。(子供だからね…)
パールが資料内容を頭に入れるまで、官僚たちとの面会の予定を入れてなかったのに、1ケ月後にまたブレイクは訪ねてきた。
「先日、陛下が議会でパール様の運動場の計画の発表をなさいました。草案がございましたら頂けませんでしょうか?」
「ブレイク文官、わたくしはまだ11歳の子供です。見てわかりませんか?」
「しかし、陛下はパール様の頭の中にはすでに草案があるのでは?と、おっしゃっていましたが…」
「買い被りです。あの土地は、本当に素晴らしい場所で、広大で、森も丘もあり、湖までもあるのですよ。先ずは地質調査をして、安全の確認が一番と考えていますので、簡単な草案は出せません!」
それから、しばらくすると、新聞に大きく地質調査開始と大きく発表されていた。
「お嬢様、大変です。街では地質調査の仕事の件で騒動になっているそうです。仕事の無い平民がその仕事を心待ちにしている様です。教会の方からも発表があったそうです」
「う~~ん、頭が痛い・・ねぇ、カメールは次の上席公務員試験は受かりそう?」
「最近は、チャリチャリ亭にも顔を出さずに勉強しているようですが・・、どうでしょう」
「メゾンドオリザボシ帝国で、ちょっと、わたくしが呟くと大事になるのはなぜかしら?もうすぐ新学期なのに・・とにかくカメールが欲しい、このままでは、わたくしが消滅しそうだと・・何が何でも受かるように伝えて!」
離宮に新しく出来たパール専用の執務室で、パールはぶつぶつ考える。
国王陛下は、きっと、最近の平民の不平不満を減らす目的で公共事業を計画したのだ。私への豪華プレゼントとポリアンナ公爵家への意趣返しもできて、しかし、名案だと思うなよ。結婚するまでこの公園は出来上がらないのだから・・私も十分に利用させて頂くつもりだ。
そして、似たもの同士の戦いは長期戦へ
アカデミーが始まり、また、新しい1年のスタートだ。このアカデミーは2ケ月の休暇以外は、自由に学校へ通う事が出来、10か月の間に履修する事が学校生活。その為、卒業の時期を自分で選択する事が出来、クラスも無ければ担任もいない。だから、友達もできない・・・
授業を受けながらも公園の事を考える事が多くなったパールは、気分転換に魔法塔のビルナツメ研究室に向かった。
母親から聞かされていた研究棟が集中している場所は都市レベルに広い。
ここで誰にも邪魔されずに研究できたらあのポータルが複製できるかも知れない。元祖パールは1つだけを完成させていたので、他の人を連れて行く事ができない。
現パールはポータルを携帯ポータルに改造して、ナナミリ達にも与えて通話やメール、転送も可能にする予定だ。
「ここでしっかり研究出来れば、きっと可能だろう」と少し浮かれている。
総合案内の女の子はパールの事を知らない様で「どの様なご用ですか?」と尋ねた。
「ビルナツメ教授の研究室を引き継いだので、研究室の使用は可能でしょうか?」
「はい、可能ですが、教授の研究は現在も多くの学生研究者が使用しています。ご案内致しますね」
いくつもの研究棟を過ぎて、やっと辿り着いた研究室は、何故か母親の研究室に似ていて思わずクスッと笑ってしまった。
「こちらがビルメイツ研究室でございます」
「ありがとうございます」
中に入ると大勢の研究者に、一斉に注目された。
「皆さんこんにちは、どうぞ、そのまま研究を続けて下さい」と宣言して、研究室の中を見て回った。
小さい女の子がこの素晴らしい研究室の責任者と聞いて、ザワザワした後に、30歳くらいの研究員がパールに話しかけた。
「お嬢さんはこの研究室の責任者になるのですか?」
「そうです。しかし、皆さんの研究を邪魔するつもりはありませんが、自己紹介だけはさせて下さい」
「ビルナツメ教授はこの国の出身ですが、長年、フラグメール国と共同研究を続けてきました。フラグメール国では、教授の研究は大きな成果を上げ表彰されました。わたくしは、ビルナツメ教教授と親交がありこの研究室を譲り受けました。フラグメール国皇女、パール・フラグメールでございます」
ビルナツメ教授がフラグメール国にのめり込んでいた事は周知の事実で、パールの言葉を疑う学生は存在しなかった。
「フラグメール国の皇女様と言うと・・、もしかして、国王陛下の婚約者様でしょうか?」
「そうなります」
大勢の学生たちは一斉に静かになった。
「それでは、パール様がここで研究なさるのは、あの土地の地質ですか?」
「今はそれが最優先でしょう」
パールの返答を聞いて一斉に喝采があがった。
「補助金もでますよね?」
「これで、研究費の節約をしなくてもいいんだ」
「やった、これからこの研究室は脚光を浴びますよ」
大喜びの学生たちを横目に、話かけていた職員が自己紹介を始める。
「私は、ここの主任でメルグレスと申します。先程は失礼いたしました」
「なぜ、ここの学生たちはこんなに喜んでいるのですか?」
「説明させて下さい。ビルナツメ教授の研究はポータルが主流ですが、教授がお亡くなりになってからその研究も行き詰まり、大きく予算を削られています。ポータルを研究している研究室は多く、成果があるとそちらにお金が流れて行ってしまって、今年は大変厳しい状況でした」
「彼らは、他の研究室には移れないの?」
「移れないのではなく、移らないのです。ここにはたくさんの資料、論文、実験結果が残されていまして、学ぶことも多く、研究するにはいい多い場所です」
「そう、では、地質調査の研究は出来そうもないですね?」
「いえ、いえ、いえ、できます。やらせて下さい。お願いします」
ポータルの研究はしたいが、今後の就職活動の為に実績を残したい学生は多く、殆んどの学生はパールの公園事業に興味があるように感じられた。
「地質調査と言っても地下の水の流れや固さ、それに土の成分、生えている植物も記録したいのです。地味な作業が多いと思いますが出来ますか?」
「はい、できます!」と元気のよい声が返ってきて、パールは一安心する。
「では、これから地質調査の研究に取り掛かります。先ずは何を調べるかですが、あの土地の成分です」
「成分ですか?」
「はい、あそこは王宮や教会にも近くて誰もが欲しい土地でした。元ポリアンナ公爵家の土地も含まれていましたが、ほんの一部でしかありませんでした。森は狩場として使用していましたが、皇族の土地だった為に、空き地でも不思議に思う人がいませんでしたよね?」
「はい、ただ空き地と認識していました」
「でも、大通りを渡ると、ここの魔法塔にも結構近いと思いませんか?」
「確かに・・、パール様は土に魔力が含まれているのでは、と、お考えですか?」
「それか、地下に何か埋まっているか?と想像しています」
「何かとは、何でしょう?」
「わかりませんが、平民たちが作業に入る前に調査できる成分分析装置が欲しいと考えています」




